ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「あ、居た居た」
「加奈子!」
「わわっ! ルロ様、落ち着いて……」
待ち合わせ場所の広場に着くと待っていた加奈子さんに引っ付くルロ。どうやらローブの効果は親しい相手には発動しないようになっているらしい。便利な物だ。
「加奈子さん、すいません。仕事押し付ける形になっちゃって」
「ああ、大丈夫ですよ。高木さんが応援の人寄越してくれたので!」
「アイツなんでそう言う事には気が回るんだ? 俺にも回せよ」
完全に舐められている。加奈子さんには常識的な対応しているだけマシか。どうしてこれを俺やドラツさんに分けてやれなかったんだ!
「加奈子、お土産あげるね」
「良いんですか? ありがとうございます! 開けても?」
「うん。加奈子にピッタリなんだって」
「そうなんですか? うわ何だろう、楽しみだな……」
加奈子さんが開いた箱の中にはとんでもない魔力が込められた透き通る小さい球体が入っていた。この魔力は……ルロのだろうか?
「あのね、お母さんの夢を見たの。そしたら夢のお母さんがね」
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『ルロ、お土産を悩んでいるのね』
『うん。加奈子のだけ決まってないの……』
『加奈子って言うのは、あの普通の人間の事ね。そうねぇ……じゃああの人間を強くしてあげましょ!』
『強く?』
『加藤だったかしら? あの人間やその仲間は既に強いから大丈夫だけど、加奈子は違うでしょう? 何かあった時、戦う力が無いのは不味いわよ。怪我するわ』
『それは……やだ……』
『そうよね! だからちょーーーっとだけ強くしてあげるのよ! 体弄って寿命伸ばすのは人間的にはアウトらしいから、あくまで戦闘力上げる方向で! これなら大丈夫でしょ! うん!』
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「て言う夢見た。それでお母さんに教わって作ったの。魔宝珠って言うんだって。食べれば強くなれるよ。大体その辺のドラゴンくらいに抑えてるから大丈夫だって」
「そうなんですね、ありがとうございます」
「マスター、あの方ゴーレムでも無いのに感情がありません」
「あそこまでの営業スマイル初めて見た……」
ハイライトの消えた瞳のまま笑う加奈子さんはめちゃくちゃ怖い。もし夜に会ったら泣いてしまいそうだ。
「でも私、加奈子とお揃いのヘアピン付けたくて……ペアで買ったから、こっちもあげるね」
「そうなんですか!? わぁ……ありがとうございます!!!」
「良かった。喜びの感情を取り戻したみたいだ」
「次は希望の面ですねマスター」
「いやここ幻想郷じゃねぇし。心綺楼起きて無いからな?」
「何の話してんだよ。姫さん、次はどうする?」
確かにセラフィナの言う通りだ。土産を渡すにしても高木は仕事中だ。ドラツさんの胃を考えれば終わってからにした方いいだろう。となれば鶴岡だが、連絡が取れない以上……。
「あ、そうだ! 皆さん夕ご飯ってもう決まってますか?」
「夕飯ですか? まだですけど……それが?」
「ふっふっふ……ならお土産のお礼や日頃の感謝も込めて、私が皆さんのご飯奢っちゃいますよ!」
「え? どうして急に……」
「どうしても何も! 今日は給料日なんですよ! 前の件で2倍になったんですよ2倍!」
「あー……そう言えばそんな事もありましたね」
確かルロを迎える時に高木が加奈子さんを引き留めるために言ってた筈だ。本当に2倍になったのか。
「こんな額のお給料初めてですよ! 今まで幾つかバイトやりましたけど……新記録樹立です!」
「良かったですね。まぁ加奈子さんいつも頑張ってるし、2倍くらい貰ってちょうど良いかもしれませんね」
「まぁ前に高木さんに『胃薬代込みっす』って言われたんですけどね」
「……すいません」
「あ、いえ! 飲んだ事無いんで大丈夫です! ほ、ホントですよ!?」
「どの程度貰ったんだ?」
「なんと……! 30万円です!!!」
「「「「……30万」」」」
「凄くないですか!? 週5の1日5時間勤務で30万ですよ!? バイトで! 時給で言ったら3000円ですよ!? 年収で言ったら360万ですよ!? もう感動しちゃって! お母さんの入院費とかでマトモにお金残らなかったのにもうこんなに手に入っちゃって! うふふ! これも加藤さんと出会えたからですかね! さぁ皆さん、焼肉でもお寿司でも何でも言ってください! 全部払っちゃいますよぉぉぉ!」
「「「「…………」」」」
「……あれ? 皆さん、どうかし──ハッ!」
「い、いや、凄いっすわ! 本当に! 流石加奈子さん!」←家買えるし預金にアホ程入っている
「まぁ……頑張ったんじゃねぇの? ちと少ない気もするが……」←キャバ嬢時代からもっと貰ってた
「日本人の平均で言ったらかなりの上澄だと思われます。少しばかりはしゃいでも目を瞑ってもらえるかと。ええ、良いんじゃ無いでしょうか。言う相手を選べば」←主人がクソ金持ち
「30万円って多いの? 日本のお金分からない……」←魔王の娘
「……………」
無言になった加奈子さんは徐に離れていき、人が通らないような雑草だらけの地面に座り込んだ。
「何やってるんだろう私。そりゃそうだよね、私なんかよりお金持ってる人達に30万って言ったところで意味無いよね。ジョブズにiPhoneあげますって言ってるようなものだよね。浮かれすぎでしょ、バカなんじゃ無いかな。誰が? 私か。貧乏人がいきなりお金持つとこうなるんだな。自慢するようなことでも無いのにイキリ散らしてはぁ明日隕石降らないかな」
「加奈子さん! 加奈子さん! しっかりしてください! そんな事ないですって! いやまぁ確かに言う相手はアレでしたけど本当に凄いですからね!?」
「両さんみたいな例えするんですねこの方」
「バカ! 今はとにかく慰める時だろ! ほらセラフィナも!」
「あぁ? えーっと……あ、ゴミ食ってた時のアタシより金あるから元気出せ!」
「極端過ぎんだろ! 浮浪者時代と比べられても困るんだよ!」
「加奈子、元気出して……?」
「ル、ルロ様……ごめんなさい。ちょっとオーバーでしたよね、大丈夫です。これくらい──」
「所で30万円ってどのくらいなの?」
「ルロのとこって確か……ゴールドだろ? 大体3000ゴールドくらいか?」
「えーっと……あれ?」
「どうなさいましたか?」
「私があげたヘアピンより安いから、本当に多いの? それ」
「ゴバァァァ!!!」
「加奈子さぁぁぁん!!!」
絶叫してぶっ倒れる加奈子さん。今のはダメだ。明らかにトドメだ。
「ふ、ふふふ……お金なんて……お金なんて……いっぱいのお金なんて……幻想だったんだ……」
「加奈子……? ごめんね、私何か酷い事言った……?」
「違うんです、違うんです。ただあまりにも住んでる世界が違いすぎてそのギャップが百烈拳してきたんです……」
「分かります、分かりますよ加奈子さん。自分とはまるで違う圧倒的な格差。それに苦しんでいるのですね」
「はい……この差はもう何があっても埋まらないんですよね……ずっとズレたままで同じ所に立てないんですよね……」
「そんな事はありません。これも全て一部の者が人々から搾取する資本主義が悪いのです。さぁ! この手をお取りください! 共に世界をひっくり返して──」
「人が弱ってる所に付け込むじゃねぇぇぇ!!!」
「どぼぉぉぉ!?」
いつの間にか忍び寄っていたアカ神父の鳩尾をぶん殴る。高木と違って回復魔法を常時使っている訳では無い為、いいダメージが入った。
「お前人の連絡ガン無視しといてやる事がコレかよ!」
「コ……コレとは失礼ですね。大義とは地道な努力を積み上げて為す物ですよ」
「物は言いようの極限ですね」
「人の極限に立つ事。これすなわち革命の炎です」
「何言ってんだお前。頭おかしいんじゃねぇのか?」
「ハハハ! セラフィナさん、それは私達
「テメェと一緒にすんなよ。タマ割るぞ」
「割るのは高木さんのアタマだけにしてもらうとして……連絡の方、反応出来ずに申し訳ありません。先程まで少々仕事をしてましたので」
「仕事? 鶴岡も仕事だったの?」
「これはこれはルロ様。ご機嫌麗しゅう。ええ、私達にしか出来ない仕事です。あちらをご覧ください」
鶴岡が指差す方向には人集りが出来ている。チラチラ見えるのはインチキ宗教の御神体1/8スケールのフィギュアだ。
『はーい、こちらに並んでくださーい! 押さないでー! 沢山ありますからー!』
『資産家以外なら誰でも歓迎! 希望者には食べた後、仕事の斡旋なども行っておりまーす!』
『どうぞ。あ、こっちのチラシも持っていって下さい。新聞もありますからね』
「どうですか? ホームレスや親が居ない子供達を中心に炊き出しをする我々は。社会復帰の手伝いも行い、決して見捨てるような事はしない。我らが世界に広まれば、優しさに溢れる社会が出来ると思いませんか?」
「でもあの炊き出しの材料って全部資産家騙くらかして信じ込ませた後巻き上げた金なんだろ?」
「はい」
「あのテメェの宗教新聞も全部金持ちの金だろ?」
「はい」
「仕事先ってお前の宗教関連だろ? それの給料は?」
「勿論全て私の想いに感化してくれた方からの寄付で賄っております。ご安心ください! 私や教徒達は無賃で働いております! 富は貧しい方々に分け与える物ですからね。その行いで金銭を得るなどあってはありません」
「地味に気になってたんだが生活費とかどうしてんだお前。クォーツのアイテムの金も必要だろ?」
「バイトです。家庭教師とか塾講師とか色々やってますよ? これでも勉学は出来ますので」
「こんな奴が教祖で教師であって良い訳無いだろ」
「生徒が全員テメェみたいになると思ったらゾッとするな」
「寄付や献金に手を出すなんて愚かな真似をする訳にはいきませんからね。幸い高木さんが融通してくれているので買うのに困る事は無くなりました。有り難いですね」
「あっそ。クォーツが食えてるんならそれでいいや」
「と言うことで加奈子さん。どうですか? 私は貴女を歓迎しますよ? 何だったら加藤さん達もどうです? 入らないにしても寄付しません? 恵まれない子供達の為に是非とも慈悲を。くれなければ邪悪な資本家と見做します」
「マスター。この方、詐欺すらしないで恐喝し始めましたよ」
「来る所まで来ちまったな」
「恐喝なんてとんでも無い! 精々毎日ポストが勧誘チラシで溢れるくらいです!」
「水道管の修理チラシ並みに迷惑」
「そ、そうだ……私1人持ってたって仕方ないのかも……き、寄付を……」
「加奈子さん気をしっかり持って! ダメですよ! こんな詐欺師に金渡したら! 加奈子さんの金なんですから大事にしないと!」
「寄付に関しては詐欺は一切無いのですが」
「宗教の方はどうなのでしょうか」
「嘘からこそ真実って出ると思いません?」
「嘘は嘘に決まってんだろ」
クソ神父に取り込まれ、給料を手渡ししそうな加奈子さんを止めていると、炊き出しをしている信者の1人がこちらに駆け寄ってきた。
「教祖様! 応援の方々が来られました!」
「おっと、もうそんな時間でしたか。では共に炊き出しの方よろしくお願いします」
「承知しました!」
「応援? 炊き出しのか?」
「実は今日は此処だけでなく他の場所も回る予定なのですが、こう言う時に限って調理担当の信者が体調不良でして。無理をさせる訳にもいきませんので応援を頼みました。最近入信して、他の地でメアリスーを信じている方ですよ」
「最近入信って……なんかお前のとこどんどんデカくなってない? 気のせい?」
「我々がマイノリティになる時代も早そうですね」
「全く、お前のインチキに騙されるとかさぁ。もうちょっと自分ってのを持ってればこんな奴に流される事も──」
『では今日はよろしくお願いします! 共に人々に分け与えましょう!』
『勿論です! 散々ネットで叩かれて人間不信になってた俺達に手を伸ばしてくれたメアリスー様の為に!』
『『『『『メアリスー様の為にぃぃぃ!!!』』』
「(やっちまった……)」
あの連中は間違いない。料理ギルドの試験でボロクソにこき下ろして店の評判諸共台無しにしてやった連中だ。最悪だ、インチキ宗教の拡大に手を貸してしまった。
「いやはや、流石は加藤さんです。昨日連絡をもらった時にすぐに気づきましたよ。──マッチポンプで信者を増やせって言う事だと!」
「全っっっ然違う!!! そんな事は一言も言ってねぇ!!!」
「地味に炊き出しの人員足りてなかったので助かりました。全員プロの料理人ですからね。いやぁホント加藤さん様々です。よっ! 我らがリーダー!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 加奈子さんどうしましょう! 俺このままだとマッチポンプクソ野郎の名を欲しいがままにするぅぅぅ!!!」
「諭吉が1ま〜い、2ま〜い、3ま〜い……あ、これ渋沢栄一だった。あはは。これが後どのくらいあれば皆さんと同じになれるのかなぁ。そうだ! 変に持ってるからダメなんだ! DLsiteの売り上げランキング上から順に買いまくろう! それしか道は無い!」
「加藤も加奈子も壊れやがった。ネジどこに落ちた? 探すぞ。後アタシを頼れよ」
「マスターは私にとって神的な人ではありますが、最初から壊れては居ましたよ。なのでネジはありません。初期不良かと」
「ふふふ……みんな楽しそう……♪」
楽しくは無い。本当に。それだけは訂正させてくれ、ルロ。
花粉症なら苦しみながら書きました。俺は花粉を許さない。