ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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少し短めです


フェアゲッチュ

「さてさて……取り敢えず朝になった訳だけど。やっぱりファーストインプレッションは大事よね。ここは……やはり私が妖精である事を最大限に生かすべき」

 

 朝になってあの子供がいる家を再び監視する。昨日は日を跨ぐ少し前に帰っていたから、もう少し寝てると思ったけど……。

 

『おーい、起きろ。朝飯だぞ』

 

『おはよ……加藤? 元気無いの?』

 

『あんまり……』

 

 妖精は耳だけは良い。建物越しでも話し声が聞こえるので、今だけは妖精でよかった。

 

「朝早いわね。まぁ別に良いけど。家を出て少しした辺りで遭遇すれば良いかしら。今日も遊びに出るでしょ多分」

 

『あ、ちょっと外出てくる』

 

『あん? ……ああ、なるほどな。早くしろよ』

 

『おう。すぐ戻ってくる』

 

 お、これは好都合。チンピラの方が外出するらしい。あの男、普通に目付き悪いから怖い。よくもまぁあんな奴に子供が懐くものだ、私だったら近づきたくない。

 

「よし、もう少し近づいて──「ゲッチュゥゥゥゥゥゥ!!!」転そぉぉぉぉぉ!?」

 

 気付いた時には既に私はチンピラの持った網に捕えられていた。網が絡まって動けない……!

 

「え!? 何何!? 何で!?」

 

「何だ、妖精じゃないか。猿かと思った」

 

「誰がサルゲッチュのピポサルよ! てか何でバレてるの!?」

 

「いやお前昨日からずっと家の近く飛んでたろ。朝になっても居たから流石に怪しいから捕まえようと思って」

 

「昨日の敵が居るかもしれないって言ってたの私の事だったの!?」

 

「聞いてたのか、そうだよ。セラフィナ……同居人も普通に気付いてたぞ。目的分からないから取り敢えず様子見してたけど」

 

 チンピラはそう言いながら私を網で捕まえたまま家に入っていく。完全に虫扱いだ。

 

「戻ったぞー。捕まえたわ」

 

「ああ、……何だその網。虫取り網か? よくそんなの用意してたな」

 

「いやこれ虫取り網じゃなくて釣り用のタモ網な? この前高木が『加藤! 夜釣りしようぜ! やらなきゃこれから毎日過剰なストーカーするぞ!』って脅して来てしゃーなし釣りに行った時に使ったやつ」

 

「あぁ、お前がボウズで高木が爆釣れだった時のか」

 

「ボウズは高木なのにな」

 

「通りで生臭いと思った! 臭い染み付くから早く離してぇ!?」

 

 私の声をガン無視して赤髪ロリと話すチンピラ。服にどんどん魚の生臭さが移っていくのを感じる。

 

「マスター、その妖精はどうするのですか?」

 

「虫かごってあったっけ。無ければクーラーボックスだな」

 

「ふざけないで! 虫扱いも魚扱いもやめてよ! はーなーせー!」

 

「何の目的で俺らを張ってたんだ? 言わない限り解放するつもりはないぞ」

 

「そ、それは……」

 

「? 加藤? どうしたの? ……妖精だ」

 

 何と言うか考えていると目的の子供が出て来た。不味い、ここで変な事を言えば何をされるか──。

 

「ルロ、少しリビングで待ってろ。コイツに近付くな」

 

「どうして?」

 

「顔に【碌でもない事企んでいますぜイェーイ!】って書いてるからな。何されるか分からないぞ」

 

「何故分かるのですか?」

 

「身内に特級詐欺師が居るから」

 

 しかもなんかバレてるし。終わった。これは終わった。このまま私は標本にされるんだ……。

 

『フェアリル、フェアリル……』

 

 こ、この声は……死んだお父さん!? ピンチの私が生み出した幻覚お父さん!?

 

『フェアリル、それは嘘を付いて乗り切ろうとするからだよ。逆に考えるんだ、正直に言えば良いと考えるんだ』

 

 そ、そうか! 変に考え過ぎていたんだ! 正直に魔力をくださいと言えば、仕方ないなぁと渡してくれるかもしれない。どうも周りの連中と違ってこの子供は純粋無垢っぽいし。頼めばいけるかも! 流石お父さん!

 

「おい、おーい。反応しろー。このままだと出さないぞー」

 

「そこの子! 頼みがあるの!」

 

「私に頼み?」

 

 正直に! 自分の欲する物を! 伝えるんだ!

 

「貴女の魔力、私にちょうだぁぁぁぁぁい!!!」

 

「「「「………………」」」」

 

◇ ◇ ◇

 

「じゃあ警察に持ってくから」

 

「おう。早めに帰ってこいよ」

 

「お気を付けて、マスター」

 

 不審妖精をタモ網に入れたまま家を出る。家から最寄りの交番はそれなりに距離がある。そりゃ全力で走ればすぐ着くが、捕まえてる妖精が耐えられない可能性があるので徒歩で行くしかない。妖精は非常に貧弱で有名なのだ。

 

「交番まで時間かかるけど、なんか言う事あるか?」

 

「正直者が馬鹿を見るって本当だったのね」

 

「安心しろ。お前は正直者じゃなくてただの馬鹿だ」

 

 魔王の娘の魔力を寄越せとか碌でもない事に使うと宣言しているようなものだ。ルロを預かっている以上、変なのを近付けさせる訳にはいかない。変質者としてさっさと引き渡してしまおう。

 

「あんな子供に迫るとか恥ずかしく無いのか。俺の仲間にもショタに執着してる馬鹿が居るけど同じ類いか?」

 

「いや別にそういう意味で近づいた訳じゃなくて……」

 

「まぁ何でも良いけど。大人しくしてろよ? 俺手加減とか苦手なんだよ」

 

「うぅ……どうしてこんなに上手くいかないの……」

 

 網に入ったまま項垂れる妖精。何故かこちらが悪い事をしているように思えてくる。ストーキングしてたコイツが悪い筈なのに。

 

「待って加藤……!」

 

「ん? ルロ、家で待っててくれって頼んだろ?」

 

 少し歩いた辺りでルロが走って追いかけて来た。あまりこの妖精に近付けたく無いんだが……。

 

「聞きたい事あって。どうして私の魔力欲しいのかなって」

 

「どうせ子供の魔力サイコーとかそんなんだろ。俺は詳しいんだ」

 

「だからそういうのじゃ無いってば!」

 

「じゃあ何だよ。大蛇丸みたいなセリフ吐くくらい魔力欲しい理由は?」

 

「えーっと……し、進化! 私進化したいのよ!」

 

「さて、交番行くか」

 

「待って待って待ってぇぇぇ!!! ほ、本当なのぉぉぉ!」

 

「どう見ても嘘です。本当にありがとうございました」

 

「ううん。加藤、妖精は進化できるよ」

 

「え?」

 

 今思いついた出鱈目だと思ってたが、まさかのルロから出来ると言われて流石に足を止める。

 

「嘘だろ? 妖精が進化なんて聞いた事無いぞ。と言うかゲームじゃ無いんだぞ? 経験値稼いだら進化出来るとかそんなノリ?」

 

「えっとね、妖精は魔力の影響受けやすいの。魔力が濃い場所で生まれた妖精は強い力を持ちやすくて、他の場所に生まれた妖精も強い魔力を取り込めば強くなる……って本に書いてたよ」

 

「初耳だ……要するに強くなりたいって事なのか」

 

「そう! そうなの! その通り! だから頂戴な! 貴女のクソ強魔力!」

 

「ごめんね。渡せない……」

 

「どうしてぇ〜!?」

 

「私の魔力、お父さんのと近いから……。妖精は確かに魔力を取り込むと強くなれるけど、限界があるの。限界も個人差があるし、それを超えちゃったら……体の方が耐えれないよ……?」

 

 心配そうな顔をしながらそう言うルロに、妖精は言葉を返さない。言葉に詰まっていると言うよりは──そんな事は百も承知と言わんばかりの顔だ。

 

「……どうしても進化しないとダメ?」

 

「……ダメ。どうしても進化したいの。進化さえすれば……」

 

「……そっか。でも私の魔力はダメ、暴走しちゃう……。だから他の方法探そ?」

 

「ルロ、まさかお前──」

 

 コイツに協力する気かと尋ねる前に、ルロは俺に笑顔を向ける。とても優しい笑顔だ。

 

「困ってるなら、手伝ってあげたい。加藤、ダメ?」

 

「……ハー……まぁ、分かった」

 

 この子の善意を邪魔する権利は俺には無い。何か無いように俺が警戒してればいい話だ。

 

「ほら、さっさと出ろ。その進化とやらをしたら満足するんだな?」

 

「……いいの? 私が言うのも何だけど」

 

「別にお前の事を嫌ってる訳じゃ無いしな。まぁなんかやらかしそうだったら即警察だが」

 

「仮に突き出されたら私何で捕まるの?」

 

「迷惑行為だろ普通に」

 

「そう言えば名前聞いてない。教えて? 私ルロ」

 

「フェアリルよ……。よろしくね、ルロとピラ」

 

「ぐりとぐらみたいに言うなよ。てかピラって何だ、もしかしてチンピラか!?」

 

 何の因果かフェアリルを進化させる事になった。一体何をすれば進化するのだろう、飴でも食わせればいいのかな。

 

◇ ◇ ◇

 

「♪」

 

「おやおやクォーツ、新しいトランプに見向きもしないでDMCに夢中ですか」

 

「?」

 

「『この遊び方であっているのか?』ですか? ふむ確かに。ルールブックがこれだけの厚さなのに最終的にメンコに落ち着くのは不思議ではありますね。途中まではちゃんとルールや裁定が書いていますし……」

 

「!」

 

「そうですね、恐らく制作者の意図とは違う物になっていると思いますよ。……『やってみたい』ですか。うーむ……分かりました。試しにプレイしてみましょうか」

 

「 」

 

「と言ってもカードが足りませんし……そうですね、加藤さん達に声をかけてみましょうか。少し待っていてくださいね?」

 

 部屋を出て歩きながら加藤さんに電話を掛ける。3コール程した辺りで出たのは、加藤さんでは無かった。

 

『あ? 鶴岡か。何だ』

 

「はて? セラフィナさんですか? 間違えてかけてしまったようです。申し訳ありません」

 

『ちげーよ。加藤ので合ってる。家にスマホ置いて出かけちまったんだよ』

 

「ああ成程。しかし困りました、加藤さんに頼み事があったのですが……」

 

『加藤なら姫さんと交番に行ったぞ。すぐ会いてぇなら行けばいいんじゃねぇの?』

 

「今まで何だかんだで揉み消した乱闘騒ぎを自首しに行ったというのですか!?」

 

『な訳ねーだろ、なんか変な妖精が家張ってたから捕まえて引き渡しに行ったんだよ』

 

「そうでしたか。もし加藤さんが捕まったなんてなったら、警察内の信者に釈放するよう命じなければなりませんからね。良かった良かった」

 

『アタシは最近、お前の宗教をぶっ潰した方いい気がしてるぞ』

 

「そうなったらスクラップ・アンド・ビルドの精神で作り直すだけですよ。諦めなければ夢は叶うので」

 

『お前のその無駄に強すぎる精神は何なんだよ』

 

 呆れたセラフィナさんとの通話が終わり、教会を出て入り口で掃除をしている信者に軽く声をかける。

 

「少し出てきます。留守の間、よろしくお願いしますね?」

 

「! は、はい神父様! お任せください!」

 

 掃除効率が3倍程になった女性信者の隣を通り抜け、加藤さん家の最寄りの交番への道を行く。……一応、警察の信者に根回しだけしておきますか。

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