ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「で? 進化ってどうすんの? 魔力吸えれば良いのか? それだったら1人でも出来るんじゃ無いのか?」
「無理よ。私達妖精は空間にある魔力を吸収出来るけど、そう言う魔力に進化出来るほどの力は無いもの」
「要は質の問題か……。質のいい魔力ってなんだ? さっぱり分からないぞ」
「魔力は人とか魔族の持ってる物の方が良いよ。体って言う入れ物のお陰で、魔力が濃いから……」
「く、詳しいなルロ」
「えへへ、勉強沢山してるから……」
やばい。知識の差で完全に負けてる。そりゃ英才教育受けてるであろう魔王の娘と大学中退フリーターでは比べ物にはならないだろうけど。
「でもルロの魔力はダメなんだろ? 強すぎて暴走するから。じゃあ俺か?」
「加藤もダメ。魔力は多く無いけど、強い人の魔力は基本的にダメ」
「強さと魔力に関係あるのか?」
「強い人の魔力は普通の人の魔力と比べて変質してる。その人に適応した形になってるから他の人が受け取っても上手く使えないよ。妖精は人から魔力吸い取れるけど、加藤の吸い取ったら多分気絶する。気持ち悪くなって」
「要するに私からしたらアンタは悪酒って事ね」
「羽毟るぞお前。じゃあどうするんだ?」
「まずは弱い魔力の人から吸い取って、少しずつ強い魔力を吸っていけば……多分進化出来るよ」
「弱い魔力か……」
◇ ◇ ◇
「と言う事で魔力くれ」
「帰れ冷やかし野郎」
「じゃあ……これ買うわ。このカッケェ短剣」
「使いもしない奴に魂乗せた武器売る訳ねぇだろ。帰れ」
「使うかもしれないだろ!」
「お前そのエヴァルテインだけで何とでもなるだろうが! 黙ってそれ使え! その短剣はもっと相応しい所有者がきっと居る!」
「閑古鳥鳴いてるから居たとしてもここに来ないだろ」
「クソッ! 俺の店に人が来ないのは世間が悪い!」
「半分くらいはそうだと思う」
ゴレットの腕は確かだ。この辺の鍛治士でもトップクラスだと思う。まぁ俺らが贔屓にし過ぎたせいで『あそこはヤバい』みたいな噂が広まっていた事もあるが、この件とは無関係だ。
「で? その妖精に俺の魔力分け与えろと? アホか、俺如きの魔力貰ってその進化とやら出来る訳無いだろ」
「やってみないと分からないだろ。もしかしたらワープ進化くらいするかもしれない」
「俺の魔力に何の期待してるんだよ」
「ほらあれだよ。いきなりそれなりの魔力注ぎ込んだら慣れなくて暴走するかもしれないらしいから順番にな? わらしべ長者みたいなもんだよ。最初はレベル上げだ」
「最初の街付近の経験値扱いか! ざけんな!」
「そう言うなって。おいフェアリル、お前も頼めよ。当事者なんだから」
「ねぇ、迷惑みたいだからやめとかない? ここはルロの魔力貰って一気に進化した方良くない?」
「楽な方に逃げちゃダメ……!」
隙あらば魔力乞食するフェアリルを見てゴレットは渋過ぎる顔をしている。どう説得しようかと思っていると、店の奥から足音が聞こえてきた。
「戦友、見てくれ。このベルクカイザーのビジュアル……む? 客か、すまん」
「ライラ、お前なんで今日も居るんだ。まさか毎日来てるのか?」
「いや、普通に泊まりだ。急な休みだったからな、宿が取れなくて困っていたのだが戦友が寝床を貸してくれたのだ。感謝しかない」
「ああそう言う……良かったなゴレット、慕われてるぞ」
「正直一緒にベイブレードしただけなんだが……まぁいいか。取り敢えず魔力をくれてやれば帰るんだな?」
「帰る帰る。また今度来るけど」
「お前は出禁な」
「102回目だな。ここまで来たら200の大台目指すか」
「ログインボーナス感覚なの腹立つぅ〜……」
何だかんだ了承してもらったので早速魔力譲渡をする事になった。妖精は他者から直接魔力を吸い取れるらしい。たまに勝手に他人から魔力を吸い取って捕まる妖精も居るとか。
「じゃあ始めよ。えっと、ゴレットは手を出して? フェアリルが触って吸い取るから。取りすぎたらダメだよ? 気絶しちゃう」
「流石に本人は加減の仕方分かるだろ。な?」
「……え? あぁ、うん。まぁ」
「すまんゴレット。多少の気絶は我慢してくれ」
「気絶に多少もクソも無いだろ! おい待てやめろふざけん──あばばばばばばば!」
「せ、戦友ぅぅぅ! おいフェアリルとやら! 今すぐ吸うのをやめろ! おい!」
「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす……真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす……真っ直ぐ行って……」
「おいコイツ他人から魔力吸った事なくて加減全然分かってねぇぞ!」
「ダメ! 加藤、離して! ゴレット干からびちゃう!」
「真っ直ぐ──ぐぴゃあ!」
バカ妖精をデコピンで吹っ飛ばしてゴレットを救出する。気を失うまではいかない物の、若干白目を剥いている。治癒が意味あるか分からないが気休め程度に回復してやろう。
「お前やり方分からないならちゃんと言えや!」
「だ、だって自分から進化したいとか言い出してその実経験ナシなんてバレたら恥ずかしいじゃない!」
「何童貞みたいな事言ってんだ! 変な見栄張るな!」
「でもそんなに吸ったつもりないんだけど……」
「きっとゴレットの魔力が少な過ぎてちょっと取っただけで限界来ちゃったんだと思う……ごめんねゴレット……」
「け、結局俺が雑魚なのが露呈しただけじゃねぇか……」
「大丈夫だ戦友よ! ベイブレードの腕なら上位層では無いか!」
「フォロー下手くそ過ぎるだろ……」
何はともあれ尊い犠牲を経て魔力を取る事は出来た。少しくらいは進化が進むのでは無いだろうか。
「あ、来た。キタキタキタ! 何か体の奥底から湧き出るような感覚が!」
「マジか。本当にするのか進化」
「うおおおおおおおお! これで私は奴に──」
「……ツノ生えたな」
「1本生えた……」
「額に小さいのが生えたな」
「それだけ……なのかな……」
「これ進化じゃないでしょ! 殆ど吹き出物と変わらないじゃない!」
「人の魔力吸っといて吹き出物しか出ないとかやる気あるのかお前! もうちょっと頑張ってくれよ! 俺の尊厳の為に!」
「んな事言ったってこれしか出ないのよ! 我ながら変化乏し過ぎるでしょ!」
「序盤の動物番長程度の見た目の変化しかねぇな」
「ふむ、だが少し愛らしいかもしれんな。この小さいツノがその進化とやらの結果で──」
ライラが興味津々と言った様子でフェアリルの額に生えたツノに触る。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「あああああ! す、すまない! 軽く触ったつもりが!」
触れただけでツノが折れた。根本から行った為、フェアリルの額から鮮血が噴き出る。
「ラムになる! ラムになるぅぅぅ!!!」
「ツノ折れたからってならねぇしなれねぇよ」
「じゃあだっちゃの方になるぅぅぅ!」
「発電出来ないだろお前」
「弱点増えてるだけなんだけど! ねぇ本当にこれで合ってるの!?」
「おいルロに当たるな。まだ1人しか試してないんだ。諦めるには早過ぎるぞ」
「もうゴレットは限界だから……ライラも強い方だし……他の人探そう?」
「うう……分かった……」
「じゃあ出るか。ゴレット、ゆっくり休んでくれ。仕事は休んだ方いいぞ」
「営業妨害で訴えても良いか?」
「フェアリルだけ訴えてくれ」
取り敢えず俺の少ない知り合いを探して頼む事にしよう。上手くいけば楽なんだが……。
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「魔力? 良いわよ〜。手を出せば良いのよね?」
「女将さん、わざわざすいません」
「困ったらお互い様よ。どうぞ妖精さん?」
「じゃあ……うぉぉぉぉぉ! こ、これはぁ!」モッサァ……
「もじゃもじゃになっちゃった……」
「あら、私の魔力って育毛剤だった?」
「んむぅむむむっゆんむんはふ」
「口も毛で塞がって何言ってるか分からないぞ」
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「魔力ですか? 分かりました! 私のなんかでよければいくらでも!」
「おお! なんか指先から何か出そう! 新たな力出る!」ドロッ!
「カレー出てきた……」
「ごめんなさい! 昨日試食し過ぎたから……」
「だからってこうはならんだろ」
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「魔力? へー、妖精を進化! 面白そうな事してますね! 自分で良ければ良いっすよ!」
「助かる。ありがとう」
「いやそこはありがとうじゃないだろ!?」
「ごめん、だね」
「謝るくらいなら来るな! 何でウチの事務所来るんだよ! 私とお前別に親しい関係じゃないし何だったら敵一歩手前だろ!?」
「落ち着けよカネゴン。別に敵なんて思ってないぞ。性格悪いカス程度にしか思ってない」
「じゃあ尚更来る意味分からんが!?」
「仕方ないだろ。俺知り合い少ないんだから。いや俺のこと知ってる人はそれなりに居るけど悪い意味だからな。無理矢理押しかける訳にもいかないだろ」
「そこまで考えれてココには来るとかどう言う脳内構造しとるんだ!」
「ちょっとリーダー! 何してんすか! 子供のお客さんが来てるんすよ? お菓子の一つも出さない程ケチになったんすか? 早く出してハリーハリー!」
「え!? この状況で私が責められるのか!?」
「あ、ルロはコーヒー飲めないからよろしく」
「苦くて飲めない……」
「え!? あぁそうか……し、仕方ない。えーっと来客用のやつは……」
「すいませんねぇ気の利かないリーダーで。それで魔力っすね。どうぞーほれほれ」
「じゃ、じゃあ失礼して……こ、これはぁ!」
「全くどうして私がコイツらを持て成すハメに……おい、そこの妖精は何が良いのだ」
「ミルクでも貰おうか」
「メ蟹ックになっちゃったっす!」
「髪型変わっただけでは無いかぁぁぁ!!! 進化じゃないだろ! 只のイメチェンだろ!」
「アクセルシンクロォォォォォ!!!」
「あ! おい待てフェアリル! ルロ、追いかけるぞ!」
「分かった……!」
「あ、行っちゃうんすか? じゃあせめてお土産としてこの虎屋の羊羹を! それ!」ポーイ
「悪いな! ありがたく!」パシッ
「それ私のだろぉぉぉ! いつの間にくすねた!? 待て! 置いてけ! 羊羹だけしっかり持って行くなぁぁぁ!!!」
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「上手くいかないね……」
「進化って難しいんだな」
「なんか……半分くらいオモチャになってた気がするんだけど……」
3人で公園で羊羹を食べながら休憩する。フェアリルはかなりグロッキーだ。何度も慣れない魔力吸収をして限界が近いんだろう。
「さーて、どうするか……。てっきり弱い魔力を順に吸えば吸うだけ強くなると思ってたんだが……」
「魔力にも相性があるみたい……フェアリルに合った魔力じゃ無いと、さっきみたいな変な進化しちゃう。勉強、足りなかったのかな……」
「まぁ教科書や参考書で読んだだけじゃ分からないことはあるからな。あんま気にすんな」
しかし実際どうするか。グロッキーなのは確かだがフェアリルの目は死んでいない。ほっとけば勝手にどっかに行って他人から魔力を吸いそうだ。流石にそれはまずいので見張りも込めて、こうして付き合ってる訳だが……。何にも進展が無いのはなぁ。
「お、ここに居ましたか。探しましたよ」
「あん? 鶴岡。何だこんな所で」
「加藤さんに頼み事があったので。スマホ、家に置いてきていますよ」
「え? ……うわマジじゃん、気付かなかったわ」
「現代人でスマホ依存症になってないのは珍しい話ですね」
「他の物に依存しちまってるからな」
「幸せな事ですね」
「他人の不幸で飯食えてそう」
「私はいつでも他人の幸せ(弱者限定)を考えていますよ」
「はいはい。それで何の用だよ」
『クォーツとDMCを遊んで欲しかったのですが事情を知らない方が居ますので口にするのは辞めておきます』
差し出されたスマホにはそんな文が書いてあった。確かにここでは言えない話だ。
「さて、そこの方は初めましてですね。鶴岡と申します。どうぞ宜しく」
「はぁ……フェアリルよ。宜しく……」
「元気が無いようですが……何かありましたか? 何か力になれるかもしれません。私に相談してみては如何でしょう?」
「え、じゃ、じゃあ……」
フェアリルは鶴岡に進化したいが上手くいかないと伝える。相槌を打ちながら話を聞き終わった鶴岡は自分の手を打つ。
「そう言う事であれば! 私にお任せ下さい!」
◇ ◇ ◇
「はい次。では次。そこ次。よこ次。一周回って正面次」
「うっぷ! おえっぷ! ぐわっぷ!」
「まだまだですよ。大丈夫、適合しない魔力は私が霧散させます。ひたすらに数をこなしましょう! さぁ皆さん、持たざる者のフェアリルさんに皆さんの魔力を分け与えましょう! 我らがメアリスー様もそうおっしゃいますとも!」
『はい! 神父様!』
「だ、大丈夫かな……」
「まぁ死にはしないだろうが……結局数の暴力だよなぁこれ」
鶴岡の取った手段は単純。自分の信者を集めて手当たり次第フェアリルに魔力を流し込むと言うもの。当然そのままだとフェアリルが限界を迎えるのだが──。
「【剥奪の手】。いやはや、久しぶりに使いましたが便利ですね相変わらず。私自身に取り込める訳ではありませんが、強制的に相手の魔力を剥がせますから。ダンジョン内だと殆ど使いませんからねぇ」
「まぁモンスターから多少魔力剥ぎ取っても気絶なんてしないからな。んな事やってる暇あったら叩っ斬った方早いし」
「対人だと非常に有用なんですが……あまり使う時が無いんですよね」
「そりゃ本来使ったらダメな奴だからな、それ。主に術者の負担がやば過ぎて」
「さっきから鶴岡の魔力が乱れてる……本当に大丈夫?」
「ご安心くださいルロ様。激痛と吐き気と悪寒と精神汚染が起きてるだけですので。この程度は何の影響もありませんとも」
鶴岡の使う禁術は自身の体に直接術式を刻み、それに魔力を流す事で発動する。初代勇者などが居た古代に使われていた魔法らしい。性能は高いし、現代でよく使われている魔法と違って汎用性がとんでも無く高いが反動で術者にアホみたいな負荷が掛かる。人族も魔族もこれを奴隷などに強制的に使わせて戦争をしていたとの事。今更ながらどっちも野蛮が過ぎる。獣以下だろ最早。
「さぁさぁさぁ! 次々行きましょう! きっと貴女に適合する魔力の持ち主がいます! 諦めないで! そして今更ながら総資産ってどのくらいお持ちですか?」
「結局それ目当てかよ」
「無いなら無いで良いのです。何故なら救われるべき人がまた見つかったと言う事ですから。富が沢山あるなら……ふふ」
「詐欺師がイキイキしてて嫌だなぁ……」
「ぶ、ぶぶえっぽ!」
魔力が増えたり減ったりを急激に繰り返すフェアリル。この大量の信者の中に、フェアリルに合った魔力の持ち主は居るのだろうかと思いながら2時間。ついにその時が訪れた。
「お、お? お? き、来たかも! 今までとは明らかに違うわ!」
「本当かい!? 良かった、真面目に働くようになって人の役にも立てて嬉しいよ!」
以前鶴岡の教会に行った時にセラフィナにぶっ飛ばされたおっさんの魔力がフェアリルに適合したのだ。どんな確率だ、あと人変わりすぎだろ。
「これはイケる! ありがとう! これで私の復讐は果たせる筈! 見てなさいあのドグサレ取引先がぁぁぁぁぁ!!!」
「は? 復讐? おいちょっと待て!」
フェアリルの全身が発光し始める。恐らく進化し始めているのだろうがそれどころでは無い。なんかとんでも無い事言い始めたので問いただそうと近づくが、その前に教会を出て行ってしまう。
「不味い! 追いかけるぞ!」
「う、うん!」
教会から出ると前方に爆速で移動するフェアリルが見える。凄まじいハイテンションだ。
「フェアリル進化ァァァァァ!!!」
「おい! そっちは──」
「モ"ッ!!!」
ヒュー……ン……ベチャッ! ポト……
意気揚々と道路に飛び出したフェアリルはトラックに轢かれて街路樹に叩きつけられてそのまま地面に落ちて行った。固まる俺たち。動かないフェアリル。発光はとっくに収まっていた。
「……ハッ! た、大変! フェアリル!」
ルロと共に駆け寄る。息はあるようだ。体重が軽いお陰で衝突のダメージが軽かったようだ。
「フェアリル! しっかりして! 大丈夫!?」
「おいどうだ。進化出来そうか?」
「転生……しそう……」
「トラック転生ですね」
「普通に輪廻に組み込まれるやつだろ、これ」
フェアリルを拾い上げて治癒をかけてやる。どうやら進化はキャンセルされたようだ。転生されては困るので一先ず教会に引き戻すか……。