ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
追記 沈黙じゃなくて脱力でした。連鎖ミスが止まらない……。
「ひ、卑怯者……」ガク
「勝てば官軍って言葉をお前にくれてやるさ……」
「加藤さん攻撃下がって1点ずつしかダメージ出てませんでしたけど何であんなにドヤ顔なんですか?」
「ストレス溜まってたんだろ」
無事フェアリルのライフを(俺以外のカードが)削り切って勝つ事が出来た。敗北者が何か言っているが、勝ちゃ良いのである。
「ルロ、いけるか?」
「うん。行くよ……【
ルロは倒れたフェアリルの頬に手を当て、聞き慣れない魔法を呟く。するとフェアリルの体から魔力の気配がどんどん溢れてきた。
「これが魔王の一族しか使えない魔法2つ目か……」
「うん。【負けた相手から欲しい物を1つだけ貰える】って言う魔法。ちゃんと相手も勝負を受け入れないと出来ない。お父さんに出来るだけ使うなって言われてる。よくないから」
「欲しい物を1つだけ……あ、あの、それって何でも良いんですか?」
「うん。その人の持ってる魔法とか特別な能力とか……何でも」
「勝負を受けなきゃ良いとは言え滅茶苦茶な魔法じゃねぇか。培ってきたモンぶん取られるとかゾッとするぜ」
「うぼぼ……」
「意地悪言ってごめんねフェアリル……でもこの魔法なら、同化中でも安全に魔力剥がせるから……。進化は戻っちゃうと思うけど」
ルロの策とは『フェアリルを挑発してカードゲームで勝敗を付けて【報酬】で安全に魔力を奪う』だ。明らかに慣れない挑発をしてたから何だと思ったが、まさかこんな隠し札があるとは……。
「でもこれで街中の偽探索者も大丈夫なんですよね?」
「あれは全部フェアリルが作った魔力の人形。見えない糸みたいな物で魔力を供給され続けてたから動いてただけ。フェアリルを止めればみんな消えるよ」
「そうなんですね……良かったー……。街中大変な事になってましたから……」
「半分くらいはマジモンの探索者のせいだけどな」
「もうちょっと【勇者の集い】とかに憧れて真っ当な探索者になろうって人居ないんですか!? 荒くれ者多過ぎますよ!」
「そう言う真っ当な人はダンジョンで繰り返し死ぬのに慣れなくて辞めますからね」
「負のループ過ぎる……。何とかならないんですか……」
「何とかなってたら治安もう少し良いんですけどねぇ」
フェアリルの対処を見守りながらスマホで鶴岡にメッセージを送る。『クォーツ抜け出して俺らの所に居るぞ。さっさと迎えに来い。商業ビルの屋上な』っと……。1秒で返信が来た。『いmaいhます』……焦り過ぎだろ。
「(クォーツ、今鶴岡来るから大人しくな? 透明のままな?)」
「♪」
気絶してるとは言え、目の前にフェアリルが居るので小声で釘を刺しておく。遊んで満足したのか、ご機嫌な様子で頷いている。大丈夫そうだ。
「そういやゴレット達は?」
「気絶したゴレットさん病院に連れていくって言って行っちゃいました。怪我はしてなかったから大丈夫だと思いますよ」
「そうですか。何にせよ一件落着っすね」
後はルロ待ちだ。一瞬で終わるものかと思ったが結構時間が掛かっている。やはりあれだけの魔力、奪うのも一苦労なのかもしれない。
「……」
「……ルロ? どうした?」
「減らない」
「何?」
「奪っても奪ってもフェアリルの魔力が減らない……奪い切れない……」
「……それはどう言う──」
事だと声を掛ける前に猛烈に嫌な予感がした。咄嗟にルロと加奈子さんを抱き抱え、後ろに下がる。突如としてフェアリルの周囲からあり得ないほどの魔力の渦が巻き起こり始めた。
「ッぶね!」
「ちょぉぉぉぉ!? 何ですかぁぁぁ!?」
「加奈子さん、ルロ! 怪我無いか!」
「大丈夫……でも、そんな……どうして……?」
俺やセラフィナでも巻き込まれればタダでは済まないと勘が言っている。それ程今のフェアリルの様子はおかしい。本人はずっと項垂れたまま動かない。死んでは無さそうだが……このままだと間違いなく命を落とすだろう。
「どうなってんだ姫さん! アタシらはどうすれば良い!」
「わ、分からない……知らない……ど、どうすれば……」
「元々ルロ様の魔力なんですよね!? 進化したと言っても、どうにかなりませんか!?」
「う、うん……でも、もう違う……。変わってる……私の魔力じゃない、別の魔力みたいなものに……!」
「別だと……?」
正直な話、違和感はずっとあった。ルロが加奈子さんにプレゼントした魔宝玉。使えばそこら辺のドラゴンくらいに強くなれるとか言っていたが……その程度の物を使ったくらいで、これだけの騒ぎを起こせるとは思えなかった。妖精特有の進化をするキッカケに過ぎないと言われればそれまでだが……にしたって余りにも飛躍している。使っていた能力だって無理やり外付けされたようなちぐはぐさで──。
「おい加藤!!! 何が起きてんだ!」
「高木……!」
ビルの下から大声が聞こえてきたと思ったら高木が飛んで隣に降り立った。偽探索者の方は終わったのだろうか。
「ある程度カタ付いたからお前が走ってった方に向かってたらこれだ! 明らかヤバいだろ!」
「分かってんだよ! 原因分からねぇから困ってんだ!」
「分かんねぇなら分かんねぇなりにやるしかねぇ! このままだと周囲全部巻き込んでぶっ飛ぶぞ!」
「ハァ!? 嘘だろ!?」
「マジだよ! 魔力の流れ的に内側に集約していってる! 恐らくあの女妖精に集まってんだろうが、キャパ限界がある筈だ! 超えた瞬間、あの妖精ごと大爆発起こすぞ!!!」
「「「「!!!」」」」
俺も含めて高木以外が絶句する。無事に終わると思っていた所でのこれだから落差が酷い。
「そ、そうだ! ルロ様の【消失】で消しちゃえば……」
「ダメです! それ使ったらフェアリル諸共消し飛ぶ!」
「じゃ、じゃあフェアリルさんだけ助け出して……!」
「今アイツは魔力と同化しかけてるって話だろ。それが簡単に出来ねぇからわざわざ紙しばいてたんじゃねぇのか」
「ならどうすれば良いんですか!?」
「「「…………」」」
魔力の渦が轟音を鳴らす中、俺達の間でだけ静寂が流れる。頭の中では分かっている。この場合どうするべきか。だが口に出すのは憚られる。
「……上空にぶっ飛ばすしかねぇな」
「え……?」
「こんな所で爆発されたら被害が尋常じゃない。だが上に飛ばしちまえばそれなりに被害を抑えられるだろ」
「ま、待ってください高木さん! それってつまり──あの人を見捨てるって事ですか!?」
「そうっすね。ダメすか?」
「ダメに決まって───「じゃあこのまま爆発します? この規模だと半径20キロは木っ端微塵っすよ。何人死ぬんすかね、分かんねーや。この辺人口多いし」──そ、そんな……」
高木は決して間違った事は言っていない。何だったら1番マシな選択肢を選んでいるくらいだ。コイツはわざと憎まれ役を被っているだけだ。時間が無いから。
「加藤、さっさと決めろ。時間が無い。どうするか決めねぇならもう俺が魔法で空にぶっ飛ばすぞ。つっても爆破の衝撃を全部は抑えられねぇ。加奈子さんとルロ様をちゃんと守れよ」
「……」
「どの道俺くらいしかこっから手出し出来ねぇだろ。後々やっぱり〜とか怠いんだわ。早く決めろ」
高木の目はいつものふざけ切った物では無い。そんだけ緊急時でも俺の意思を確認してくれるのは……有り難かった。
「……分かった。俺も一緒にやったって事にしとけよ」
「たりめぇだ。道連れは確定事項だよ」
「本気なんですか加藤さん!!!」
「爆発を止める事が出来ない以上、被害は最小限にするしか無いんです」
「そんな……どうしようも……無いんですか……?」
「私の……せいだ……」
「ルロ……」
「わ、私……こんな事になるなんて……分からなくて……そんなつもりなくて……魔宝珠も……加奈子が喜んでくれるかなって……思って……フェアリルと遊んだのも……一緒に遊べば仲良くなれると思って……悲しい気持ちが減ると思って……ずっと加藤の家に居れば、外に出なきゃ良かったのに……」
「姫さん……姫さんが悪い訳じゃ……」
「ごめんなさい……ごめんなさぁい……」
過度に自分を責めて泣き出してしまった。自分が悪いと。キッカケを作った自分が悪いと。ずっと大人しくしてればこんな事にはならないと。良かれと思ってやった事が裏目に出る。よくある話だ。本当によくある話だ。
ルロが何をした。何でコイツが泣かなきゃならない。フェアリルが何で死ななきゃならない。酷い目にあって、ほんの少し魔がさしただけで。騒動の原因だから? 盗みを働いたから? この終わりは正しい? そんな事はあり得ない。あって良いはずがない。認める訳にはいかない。神とやらがもし居るのなら一言だけくれてやる──舐めやがって。
「きゃぁぁぁ!」
「おわぁ! おい加藤! 何だそれ!」
加奈子さんとセラフィナの声と視線の先に目をやる。それは俺の手。愛剣を持っている右手だ。そしてその愛剣からは真っ赤な炎が尋常じゃない量迸っている。
「んだよこれ……ウォルタリアの時みたいな……」
その時、噴き出る炎の一部がフェアリルが巻き起こしている魔力渦の1つに触れそうになる。掻き消されるかと思ったそれは消える事は無かった。と言うより──渦が炎から逃げるように避けた。
「……!!!」
理由は分からない。どうしてそうなるのか。何がどうなっているのか。だがこの瞬間は興味すら無かった。使えるんだったら、何だって良い!!!
「おおおおおおお!!!」
全力で剣を振るう。炎を纏ったエヴァルテインは周囲に増え続けていた渦に当たり、跡形もなく消えた。焼き尽くしたと言っても良い。魔法を使った後のように使用した魔力が空間に溶けていく訳でもなく、この世界から消滅した気がした。
「え、えぇ!? なんでぇ!?」
「イケる! おい高木ィ!!! さっきの話全部無しだ!!! フェアリル助けんぞ!!!」
「は、はぁ!? いや今の何だよ! てか何だよその炎! お前いつのまに煉獄さんになったんだ!?」
「俺が知る訳ねぇだろ! どうでも良いわそんなん! 援護しろ援護! 俺がフェアリルに近づくまでにくたばったらヤバいからな! 何とかしろよ!!!」
「お前が知らなかったら誰が分かるんだよ! ──おい待て! 突っ込むなって!!! だぁぁぁぁぁ!!! マジでお前話聞かねぇなぁぁぁ!!!」
荒れ狂う魔力渦に突っ込む俺を【
「近付くほど数がヤバいな……!」
しかもなんかこっちに向けて弾みたいなのも出てきてるし。幸い炎は出続けているので問題無いが、渦の直撃を喰らったら多分死ぬだろう。高木が【障壁】を減るたびに重ねがけしてくれているのでまだ大丈夫だが……。
「皆さん、一体何が……」
「鶴岡ァ! 床硬くしろぉ!!!」
「──【硬化】」
クォーツを迎えに来た鶴岡に、セラフィナが指示を出す。即座に魔法が発動してビルの屋上の床をアホみたいな防御力になった。
「フンッッッ!!!」
ズガガガガガガガガ!!! べキャァァァ!!!
「床がぁぁぁぁ!!!」
そんなバカ硬くなった床にセラフィナが指を突き立てる。削岩機のような音がし、そのまま床の大部分を引っぺがした。
「オラァァァァァァァァ!!!」
雄叫びと共に放り投げられた床は丁度俺の目の前に落ちてきた。使えと言う事だろう。
「ナイスだセラフィナ!」
そのまま床を前方に蹴り飛ばす。鶴岡のバフが掛かってるお陰で緊急の弾除けとして充分だ。後10数メートル。
「邪魔くせぇんだよぉぉぉ!!!」
床盾が限界を迎えて崩壊し、再び渦と弾が飛んできた。剣を振って、振って、斬り払う。後5メートル。
「(何故かは知らないが、この魔力の渦はこの炎から逃げていく! だったらフェアリルに近付ければ魔力だけ離せるはずだ!)」
至近距離になって最早暴風域と言って良いレベルの勢いに飲まれそうになる。高木の【障壁】が間に合わない。守り切れなかった左足がイカれた感覚がするが、まだ動ける。
「後少し……!」
目の前の魔力渦を切り飛ばしてフェアリルがちゃんと視認できた。だがその瞬間、フェアリルの体から直で魔力渦が噴き出てくる。避けるのは不可能。ならばと思い剣を突き立てるが、巨大過ぎて消し切れない。
「ダメ!!!」
その声が聞こえた途端、目の前の渦に魔力の塊が後方から飛んできて衝突する。渦は耐え切れず、対消滅した。
「加藤ォォォ!!!」
鼻声のルロが、聞いたことの無いレベルの大声で叫ぶ。その声色に先程までの悲しみは残っていなかった。
「頑張ってぇぇぇぇぇ!!!」
返答は行動で示す事にした。倒れ伏すフェアリルにエヴァルテインを押し当てる。火傷くらいは我慢してもらうつもりだったが、炎はフェアリルの身を焼く事はなく、暴れ狂う魔力だけ体から追い払う。
「消えろやァァァァァァァァ!!!」
追い出した魔力目掛けて全力で剣を振り下ろす。噴き出る炎が魔力を焼いていく。あっという間に魔力は燃え尽き、無くなった。辺りにいつも通りの夜が訪れた中、俺は倒れたフェアリルを抱えて漸く一息付くことができた。……今日一日色々あり過ぎだろ。
◇ ◇ ◇
誰も助けてくれなかった。城にいる時、お父さんが私を見てくれない時。ずっとずっと1人だった。ケルロスは私のお世話をしてくれたけど、それもあくまでお父さんの命令だから。私がお父さんの子供だから。それが悪い事な訳じゃ無いけど……悲しかった。
「加藤さぁぁぁぁぁん!!!」
「加奈子さん。大丈夫、フェアリルは無事ですよ。気絶してるだけ」
「違う違う違う! 足! 左足! ほ、骨出てます! ミンチ一歩手前です!」
「あーホントだ。悪りぃ、やっぱ痛ぇわ」
「そりゃ……痛いでしょうよ……。じゃなくて! 早く! 早く治療を!」
「いやそれが知らんうちに魔力すっからかんなんですよね。【治癒】1回すら使えなくて。高木ー、回復はよ」
「お前守る為に【障壁】バカみたいに使いまくったから俺も無ぇよ。鶴岡に治させろ馬鹿」
「だってよ鶴岡。治せ」
「回復は得意では無いのですがねぇ。ま、やってみましょうか」
「つーかよぉ、真正面から突っ込む必要なかったんじゃねぇのか? 人を未亡人にしかけるんじゃねぇよ」
「脳内ゼクシィ妄想女がなんか言ってるけど俺何も聞こえん。耳もやられたわ多分」
「今すぐ現実にしてやろうか?」
「ごめん嘘。許して」
加藤が褒められるような人じゃ無いのなんて、とっくに分かってる。ケルロスに散々言われたし、加藤達の資料みたいなのも全部見せられた。乱暴で、自分勝手で口が悪くて。そんな人。でも──助けてくれる。
「(前も、今日も……怒ってくれた。私の為に)」
前に撫でてもらった時の、あの大きな手を忘れられない。撫で慣れてない、ぎこちない動きが。困ったような笑顔が。
「……加藤」
「ルロ、援護ありがとうな。あれ無かったらヤバかった」
「ううん。お礼言うのこっち。ありがとう、フェアリル助けてくれて。加藤も危なかったのに……」
「ん? あぁ、まぁ、そりゃな。この馬鹿助ける為にやってた訳だし、助けられるなら……。それに」
「それに?」
「……お前の友達無くす訳にもいかねぇからな」
「……」
優しい笑顔で、当たり前のようにそう言う彼を見て、胸があったかくなる。私はこの笑顔が、大好きだ。
「やっぱり加藤は優しいね」
「だから違ぇって……。俺は碌でも無い──「違うよ」──お、おい」
加藤の腰辺りに抱きつく。フェアリル抱えてるからゆっくり目に。
「今度何かあったら私が助けるからね」
「そう何度もこんなの起きないと思うけどな……」
「絶対助けるからね!」
「あー分かった分かった。そん時は助けてくれよ俺の事を」
「うん!!!」
例え他の人達が悪く言っても、過去に何をしていても。私にとっては唯一の人。貴方は自分の事をダメだと思ってるみたいだけど……そんな事はない。だって泣いてる私に優しさをくれたのは貴方だから。──大好きな私の勇者様。
「あの、床どうします?」
「高木! 何とかしろ!!!」
「お前今日相当酷いぞ!?か