ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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パシれ〜パシれ〜カイチョウオー

 

騒動が終わって翌日。俺とルロはフェアリルが担ぎ込まれた病院に来ていた。

 

「まさかここに突っ込まれるとはな……」

 

「? 加藤、ここの病院に来たことあるの?」

 

「定期的に通ってるよ」

 

「何か病気? ちょっとしたのなら治せるよ?」

 

「無理かなぁ……頭の病気だから」

 

 回復魔法で治るんだったらこんなに人生の調子は悪くなってない。ここ1週間程、ダンジョンに潜れていないせいで手の震えがピークだ。薬の消費も洒落にならない。どうせだ、追加の薬をもらおう。

 

「あら? 加藤さん。予約の日じゃないですけど……」

 

「どうも。えーっと昨日運ばれてきた患者の妖精に会いたいんですけど……」

 

「あぁ、あの急患! お知り合いなんですか?」

 

「友達なの。いっぱい遊んだ」

 

「成程……分かりました。こっちですよ」

 

 奥に案内され、綺麗な病室に入る。そこには足を組んでスマホを弄ってる高木とベットに上体を起こして寝ているフェアリルが居た。

 

「お前行儀悪いぞ。病室でソシャゲやめろよ」

 

「ソシャゲなんてやらねぇよ。これ仕事中な? 各所に連絡し続けてるんだからな?」

 

「お前が……仕事……? 仕事……???」

 

「俺が常にサボってると思ってるだろ」

 

「ドラツさんの眉間の皺的にそりゃそうだろ」

 

「ひどい言われようだな、まぁ事実だからしょうがないけど」

 

「皺多すぎてバーコードみたいにワンチャン読み取れるだろ」

 

「今度やってみるか。キレられたらお前が言い出しっぺって言っとくわ」

 

「記憶障害になってもここ病院だし丁度いいな」

 

「あの骸骨医師も患者の地産地消とか不名誉過ぎるだろ」

 

 軽口を叩きつつもフェアリルの様子を伺う。見た目は暴れてた時のままなので妖精要素が羽くらいしか無い。だがずっと俯いているので表情は分からない。

 

「よぉ。だいぶやらかしたな」

 

「……どうして来たの」

 

「会いたかったの。元気かなって」

 

「……」

 

「一応命に別状は無いらしいぞ。体の負荷ヤバすぎた反動で暫くはベットの上確定だがな」

 

「まぁ生きてるだけめっけもんだな。感謝しろよ、俺に」

 

「…………」

 

「うーん……重症」

 

 重い空気を何とかしようと軽く冗談を言ったが外してしまった。想像の5倍は落ち込んでいる。暴れていた時のハイテンションからの落差が酷すぎるな。

 

「……ごめんなさい」

 

「フェアリル?」

 

「私、とんでもない事を……」

 

「まぁとんでもなかったな。探索者の評判もとんでもなく落ちるんじゃないか?」

 

「安心しろ加藤! 元から底辺だから大して変わらないぞ!」

 

「何を安心しろって言うんだよそれ!」

 

「赤信号はみんなで渡れば怖くないだろ?」

 

「目の前から大型トラック来てたら怖いだろ」

 

「チャンスじゃん。やり直しの」

 

「転生トラックは既にフェアリルがやってるからネタ被りだ。別のにしろ」

 

「いや転生してないし……お願いだから真面目に聞いて?」

 

 フェアリルは軽いため息をついた後、ポツポツと話し始める。

 

「私……諦めようと思ってたの。本当よ? 貴方達と遊んで、だいぶ気が楽になってた」

 

「「「……」」」

 

「でも、あの宝珠を見たら()()()()()()。変だと思ったけど、もう目が離せなくて。気付いたら……奪い取ってた」

 

 ポロポロと泣き始める彼女にかける言葉が思い付かない。魔が刺したのは事実だから。

 

「そこから抑えられなくて……やりたい放題出来る力手に入って、これなら仕返し出来ると思って……もう依頼主の狙いをぐちゃぐちゃに出来れば、死んでもいいって……。バ、バカよね。ほんとバカよね。何考えてたんだろう私……大勢に迷惑かけて、傷つけて。頭おかしいわよね……」

 

 半分くらいは短気な探索者達が好き勝手暴れた所為だとは思うが……。実際フェアリルは生み出した偽探索者達に直接人を攻撃するような事はさせなかった。恐らく最後の理性だったのだろう。何だったら被害に関しては暴れた探索者達がぶっ壊した建物の方がずっと多い。俺が見かけただけでも魔法撃ちまくる馬鹿居たし。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ご、ごめ──」

 

 言い切る前にルロがフェアリルの手を握った。決して強くなく、でも離れる気配もない。

 

「生きてて良かった」

 

「え……」

 

「私、蘇生魔法使えないから……もし死んじゃったらと思ったら怖くて。怪我もあまり無くて本当に良かった」 

 

「……良かったって……あ、貴女分かってる? 私貴女との約束破って、貴女が人にプレゼントしたもの奪って暴れたのよ? 何も良くなんか──」

 

「……友達だから」

 

「私が? 貴女の?」

 

「うん。居なくなったら嫌だったから。悪い事したのは……ダメだけど……でも大丈夫。謝ろう? 私も一緒に謝るから」

 

「そこまでの価値なんて、私に無いわよ……。ただの30超えた妖精に、自分より一回り以上したの子との約束すら守れない私に……」

 

「あるよ、価値」

 

 微笑みながらフェアリルの涙をハンカチで拭く彼女の声に迷いは無かった。

 

「私の側に居てくれて、私と遊んでくれる人はみんな……私にとってのURだもん……」

 

「ッ!」

 

「辛かったよね、頑張って作った物変えられて。でも大丈夫、フェアリルの作ったDMC(ダンジョンメーカーカード)楽しいよ。作ってくれて……ありがとう」

 

 自分より小さくなったルロの手に、空いていた手を重ねてフェアリルは泣き続ける。もう、大丈夫そうだ。

 

「なぁ、フェアリルって退院したらどうなる?」

 

「んー、このまんまだと普通に逮捕だろうな。ぶっちゃけほぼテロと変わらんし……」

 

「何とかは?」

 

「なるぞ。まるっきり無実は無理だけど」

 

「「え」」

 

「根回しは終わった。後は表に出すだけ……ヒヒヒ……まさかこんなチャンスが来るとは思わなかったぜ。サンキュー妖精さん」

 

「お前何言ってんだ?」

 

 椅子から立ち上がって部屋から出ようとする高木。ドアに手をかける直前にこちらに振り向いてこう言った。

 

「スケープゴートって……良い言葉だよな!」

 

 歯茎を見せながら邪悪な顔でそう言った高木は頼もしさと気持ち悪さと疎ましさで溢れていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 騒ぎがあった翌日の夕方。珍しくこちらに足を運んできた会長は、怒りに震えていた。

 

「な、な、な」

 

──────────────────

『昨日の午後19時、〇〇市で探索者の偽物が大量発生する事件がありました。偽物は魔力で作られて、迷惑行為を繰り返していたようです。犯人は会社員で妖精女性(30歳)との事です。調べによると、ダンジョン運営会長にカードゲームを作るよう依頼されていた所、碌な連絡も取れない中何とか作り上げた成果品に文句を言い勝手に内容を変更した事を許せなかった…との事です。いやーどうですかトレントのキボシさん』

 

『やっぱりねぇ! 良くないよぉ! 恨みを買うような事はさぁ! うぅん! 可哀想だよ! 犯人もさぁ! これもう被害者だよ! うぅん!』

 

『確かに……。警察によると妖精の女性も非常に深く後悔し、反省しているそうで。勤めている会社などでも勤務態度は真面目だったそうです』

 

『やっぱりねぇ! そう言う人を追い詰めるの良くないよぉ! 散々追い詰めて追い詰めて、いざ爆発したら知りませんでした〜は通用しないよぉ! 導火線に火ぃ付けたの貴方でしょってねぇ! トレント的に火とかあり得ないからねぇ! うぅん!」

 

『つまりキボシさんとしては仕事を依頼していたダンジョン運営の会長が悪いと』

 

『その暴れてしまったのも事故のような物だったらしいからさぁ! うぅん! と言うか被害の殆どが途中で暴れ出した本物の探索者がやったやつが殆どらしいからさぁ! じゃあ悪いの探索者じゃんねぇ!』

 

『国内の探索者達の治安が悪過ぎると言うのは前から問題になっていた話ですが……運営側は何も対策を取らなかったのでしょうか』

 

『怠慢ってさぁ! こう言う事を言うんだよねぇ! 良くないねぇ! ダンジョン運営には国もあまり口を出せてないけど、ここらでしっかり詰めて欲しいねぇ!』

 

『そうですね。真面目にやっている探索者の方達も迷惑でしょうし、締め付けは行った方が良いと私も思います。以上ニュースでした』

 

───────────────────

 

「何よこれぇぇぇぇぇ!!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて。はい煮干し」

 

「要らんわぁぁぁ!!!」パァン!

 

「危ね。食べ物粗末にしたらダメっすよ〜会長」ポリポリ

 

 ヘラヘラ笑いながら会長を宥める支部長。殆ど煽りにしか見えない。

 

「んな事よりこれどう言う事よ!? さっきから無限にクレームの電話来るし取引先から手引かれるし! アンタ何をしたぁ! 何やらかしたぁ!」

 

「え? やらかしたのは会長じゃないですか。あ、探索者もか。アッハッハ!」

 

「笑ってる場合か! 意味分からない! 何で私が悪い風になってんの! 私何にも悪くないでしょ!!!」

 

「いやいやいやいや、それは通らないっすよ。テレビでも言ってたじゃないすか。追い詰めといて知らないは通らないって」

 

「ただ依頼しただけでしょぉぉぉ!? 何が悪いって言うの! そもそも言わなくても客の欲しい物作るのが仕事なんだから、出来なかった奴が悪いじゃない! 文句言って何が悪いのよ!」

 

「おーテンプレみたいなクレーマー。最早感動すらあるな。──ちいとばかし調子に乗りましたね、会長」

 

 邪悪な笑顔に切り替わった支部長は会長にゆっくりと歩み寄る。異様な雰囲気に会長は怯んで後退りし始めた。

 

「国や市民から突かれてストレス溜めてたんでしょうが……焦り過ぎましたね。だから隙を生むんですよ」

 

「な、何が……」

 

「今世間はダンジョン運営やら探索者やらにヘイトが溜まっている。流石にこのままじゃ不味いんですよ。分かりますね? 責任取らないといけないんですよ」

 

「……あ、あ、あ、アンタまさかぁぁぁ!!!」

 

「そう! 責任! ケジメ! こう言うのは組織のトップが受けるのが筋! 会長! 会見の準備は出来てますので……あ・た・ま♪ 下げて会長の席開けてちょ❤️」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!! 嵌められたぁぁぁぁぁ!!!」

 

「安心してください! 上層部の殆どは既に抱き込んでます! 俺が会長となり、これから日本のダンジョン運営全体をしっかり引っ張って行きますんで! 任せてくださいよぉ!」

 

「何が任せられるって言うのよ! アンタなんかに任せたらこの国終わるわ! アンタの頭みたいに焼け野原になるわ!」

 

「いやねぇ、マジ上層部が動き悪過ぎるんですよ。ちんたらちんたら何一つ改善しない。そんでもって漸く始めたのがカードゲームって……バカにしてます? 無いわ流石に。こんなの一部の若者と転売ヤーしか喜びませんよ」

 

「し、仕方ないでしょ!? 少しでも探索者に不利になるような事やり始めれば人が減るって文句が……」

 

「確かに人減るのは事実ですけど態度悪いのって正直雑魚が殆どなんすよ。ソイツらがどれだけダンジョンに潜ってアイテム手に入れてると? はっきり言って大した事ないんすわ。逆に探索者特権だけ貪る寄生虫な訳で。要らん要らんそんな連中」

 

「そんな簡単な話じゃないのよ! 組織ってのは色んなしがらみがあって! それを縫って漸く取り組めたのがDMCなのよ!」

 

「まぁ別にそれ自体は良いっすよ。でももどかしさを感じてたのも事実なんで。じゃあどうする? ──そうだ、乗っ取りしよう」

 

「京都行くノリで乗っ取るなぁぁぁ!!!」

 

「俺がトップに立って文句言う奴らを弱み握って従わせて! 勢力広げて俺の好きなようにダンジョン運営を広げてやるのさ! 探索者もダンジョン運営もまだまだ伸び続ける! なのにこんなとこで足踏みなんか勿体無ぇ! その為には会長! 貴方が邪魔なんだよなぁ!」

 

「ペーペーのアンタを支部長にしてあげたの私よ!? 『友達の為にダンジョン運営を良くしたいんです』とか言うから! 言うからぁ!」

 

「それに関しては感謝してるんで、会長辞めたら俺の部下になって貰います! それで禊って事で世間には言い訳する感じで! これからよろしくお願いしますね!」

 

 ふらふらとへたり込む会長(今だけ)。普段自信満々な姿しか見てなかったので、とても新鮮だ。そう思っていると哀れな羊は私の方に縋り付いてきた。

 

「ド、ドラツ? ドラツェルバ? ちょっとそこのハゲしばいて? 貴女なら出来るでしょ? よくコイツに根性焼きしてるものね? 常識人の貴女なら、私の味方になってくれるわよね?」

 

「……会長」

 

 ゆっくりと会長に手を伸ばす。表情が明るくなった会長は嬉しそうに手を差し出してきたので──。

 

 

 

チャリンチャリン

 

「マルボロ」

 

「え?」

 

 100円玉5枚をその手に落とす。銘柄ちゃんと言ったのに聞き返すなんて、困った人だ。

 

「足りない分は自分で払ってください」

 

「え? え? え???」

 

「あのですね、今回の騒動の後処理がこの後待ってるんですよ。大量に」

 

「ド、ドラツ?」

 

「しかも通常業務も残ってるし、事務所もいくつかぶっ飛ばされてるし」

 

「あ、あのー? ドラツさん?」

 

「どうせ私がやるんですよ。そこのハゲがマトモに仕事する訳無いんですよ。誰かがやらないといけないんですよ。私がやらないといけないんですよ。誰のせいで仕事増えたと思ってんですか? 会長ですよね? 元を辿れば会長ですよね? 私辞めといた方いいって何度も何度も言ってましたよね?」

 

「い、いやそれは──」

 

「で? 結果これですか。人の仕事増やして楽しそうですね。私も他人の仕事増やして生活したいですよ、舐めやがって。金払えばどんだけ委託先ぞんざいに扱っていい訳でも無いのなんて分かるでしょ普通。そんなんだから支部長に足元掬われるんですよ」

 

 タバコに火を付けて思いっきり吸う。紫煙が五臓六腑に染み渡り、ストレスが少しばかり減っていく。ラーメン食べた後が1番美味いのだが、吸わないとやってられない。

 

「分かりますか? こうなった以上そこの腐れ坊主が運営のトップに立つ事は避けられないんですよ。つまりこれから地獄みたいな日々が始まるんですよ。死ぬほどこき使われるんですよ。辞めたいですよ? 辞めたいけど親に『ダンジョン運営の秘書!? すげぇじゃねぇか! 流石は自慢の娘だぜ!』とか言われたら辞められないんですよ。腹括って頑張るしか無いんですよ。その為にはタバコが必要なんですよ。──もう一度言います」

 

 吸った煙を思い切り会長に吹き掛ける。煙が通り抜けた後の会長の顔は涙目だった。

 

「マルボロ、買ってこい」

 

「……はい」

 

 恐ろしく従順になった会長は、肩を落としながら部屋を出ていった。

 

◇ ◇ ◇

 

「……なんか大丈夫そうだな」

 

「うん。良かった……でもちょっと可哀想……」

 

「まぁ……自業自得って事で」

 

 外から高木達の様子を伺っていたが、何とかなりそうだ。高木がやった事は単純。『暴れた探索者と元凶の運営会長に擦りつけよう』だ。フェアリルに同情を集める形にし、ヘイトを他に押し付ける事で罪を軽くする作戦だ。あの後来た警察もやったら親切だったし、悪いようにはならないだろう。懸念があるとすれば高木の地位が上がってしまった事だが……あれ? もしかしてヤバい?

 

「よし、考えない事にしよう」

 

「どうして?」

 

「未来の事を考えると嫌な気持ちになるからだ。俺は今を大切にしたいんだ」

 

「? 今は大事だよね!」

 

「そうだろ? そうだろー? だからもう帰ろう。考えたく無い。帰ってご飯を食べよう」

 

 面倒事が起きたら未来の俺に任せる事にした。頼んだぞ俺。お前なら何とか出来るから。

 

「今日ご飯何?」

 

「確かカツ丼だったかな」

 

「食べた事ない……でもセラフィナのご飯だから美味しいよね」

 

「アイツ料理上手いからなー」

 

 ルロと2人で帰路に着く。時間も時間だからか人通りは少ない。俺とルロの足音がやたら聞こえる。

 

「明日で帰る日だな」

 

「うん。お父さん、疲れてないかな」

 

「魔王がたかが1週間気張った所で問題無いだろ。……まぁお疲れ様くらい言ってやったら良いんじゃね?」

 

「分かった。お疲れ様言う!」

 

「そうか。あのおっさん喜ぶぞ?」

 

 他愛も無い話をしながら歩いていると、見覚えのある姿が見えた。

 

「あ、お前……あの時の占い師」

 

「おや、お久しぶりです」

 

 ゴレ娘の大会の朝、人の手を舐め回してきた変態占い師が居た。自分が座っていた椅子やテーブルを片している所を見るに、今日は店仕舞いらしい。

 

「どうでしたか? あの時の占いは」

 

「バッチリ当たったわ。凄いなお前」

 

「当たらなければ詐欺ですから」

 

「身内に詐欺師が居る事を思うと居心地悪いな」

 

「そちらのお方は……もしかしてですが、王女様でしょうか?」

 

「? 私の事知ってるの?」

 

「ええ勿論。私とて魔族の端くれ、我らが魔族を率いる魔王様やそのご子息を知らない程無知ではありませんので」

 

 深々と頭を下げる吸血鬼。その立ち振る舞いから育ちの良さを感じる。もしかしたら貴族やそれに近い奴なのかもしれない。変態なのに。

 

「お2人はお知り合いなのですね」

 

「うん。えっと……何だろ……大事な人なの」

 

「そうですか。まぁ血美味しいですもんね、分かります」

 

「……違う」

 

「大事って非常食的な意味じゃ無いんだよ」

 

 変な事をルロに教えないで欲しい。片付けが終わったのか、荷物を持って帰る準備を終えた吸血鬼は此方に頭を下げてくる。

 

「さて……それでは私は日本を去ろうと思います」

 

「え、そうなのか?」

 

「実は占いは副業でして……本業がひと段落したので他の国へと」

 

「本業ってどんなの?」

 

「守秘義務がありまして……お答え出来ません」

 

「そっか……占い、私もやって欲しかった」

 

「申し訳ありません。今度もし会う事があればその時に。……そう言えば名乗っていませんでしたね。シャロリーネと申します、以後お見知り置きを」

 

「ああ……加藤だ。こっちはルロ……知ってるか」

 

「ええ、お2人の名前は知っていますよ」

 

 まぁルロの名前は知ってるか。……何で俺の名前知ってるんだ? 前会った時に名乗ってたか? 覚えていないな。

 

「まぁ直近の占いは外してしまったので王女様に披露するにはまだまだかもしれません。精進が足りませんね」

 

「外したのか」

 

「はい……お恥ずかしい限りです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか『確定』させた未来が変えられるとは思いませんでした」

 

「……は?」

 

「流石はウォルタリアの影の英雄。日本に置いての最上位探索者。魔王と剣を交えて生きている者。規格外ですね」

 

 コイツは何を言っている……? 『確定』? 未来? 厨二病か? それより何でウォルタリアで俺が戦った事を知っている? あれは世間的には俺の名前は出てない筈だ。魔王とやり合ったのだって、表向きは隠されてる事だ。

 

「何だ、お前」

 

「暫く日本に来る事は無いので、次会うのがいつになるか分かりませんが……お元気で」

 

 会話が噛み合わない中、不意に手が引っ張られる。ルロが俺の手を握ってきたのだが、微かに震えていた。握り返そうかと思ったが、手を塞ぐ事はしたくない。それ程、目の前の吸血鬼が理解不能だった。

 

「……おい」

 

「何でしょうか」

 

「お前の占い……本当に『占い』か?」

 

 俺の問いにシャロリーネは答えなかった。その代わりに──。

 

 

 

 

ニコ……

 

 

 

 

 

 不気味な笑顔だけが返ってきたので睨み返す。特に反応も見せずに背中を見せて去っていくシャロリーネ。俺もルロも、シャロリーネの背中が見えなくなるまで動けなかった。夕焼けが去っていく影を伸ばして、伸ばして、細く消えていった。




次の話でDMC編は終わると思います
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