ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
ルロ様が帰ってから1ヶ月。幸い大きな騒ぎは無く日常が過ぎていった。ここの所何かしら問題が起きていたので身構えていたけど……やっぱり穏やかな日常が1番だよね。
『そこの探索者! 街中での抜刀は緊急時以外禁止されています! 今すぐ納刀しなさい!』
『……チッ』
『舌打ちしましたね!? 言う事聞かないなら逮捕しますよ!』
最近、街中での探索者に対しての目が厳しくなった。今まで強く出られなかった警察の人達も積極的に取り締まるようになってきている。やっぱりダンジョン運営の会長が降ろされたのと、探索者が暴れて問題を起こしたのが大きいのかも。
「(……でも、ちょっと心配だな……)」
最近また高レアアイテムの相場が上がってきているのもあって、あまり探索者を締め上げたらまた前みたいな高騰が始まっちゃうんじゃと思ってしまう。今回は単に一気に物が無くなっただけらしいので、すぐに収まりそうだけど。
「加藤さん達が流すアイテムだって限界あるし……また必要な人にエリクサーが届かないとかなったらなぁ」
加藤さんと出会わなかったらきっとお母さんは助からなかった。自分は運が良かっただけ。そうでない人の事を考えると……探索者の人達には頑張って欲しい。
「高木さんが上手くやるとは言ってたけど……どうなるんだろ」
悪さをする探索者が居るのも事実だし、規制をすれば探索者をやる人も減るのも事実。これからどうなるんだろうと思いながらも、私にできる事は何も無い。
「いや! 綺麗に清掃して、探索者の人達が潜れるようダンジョンを整備する事なら出来るよね!」
間接的過ぎると自分でも思うけど、何もしないよりずっとマシな筈。何でもネガティブに考えたらダメだ、きっと良くなる。そう信じよう。
「今日も仕事頑張ろう! 遅番で加藤さんともズレてるから、気を引き締めないと! ……あれ?」
気合を入れて職場に向かっている途中、1人の女性が前方から歩いて来るのが見える。大きな刀を帯刀しているから探索者なんだろうけど……。
「(うわ、すっごい美人……)」
長い銀髪をたなびかせて歩くその姿は、まるで絵画のようだった。白い着物の所々が赤く染まっているのも、アクセントになっていて非常に映えていた。
「(……何処かで見たような……気の所為?)」
知らない人の筈なのに既視感を覚える顔に首を傾げながらも、女性とすれ違う。憂いた表情の彼女は私を横切った瞬間──。
「あ、もう我慢出来ん」
「へ?」
「うごおおおおおおお!!!」
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 切腹ゥゥゥゥゥ!」
徐に刀で自分の腹を引き裂いた。当然噴き出る大量の血液がコンクリートの地面を濡らす。その血溜まりの中に着物の女性はそのまま倒れ込んだ。
「ひ、ひぃ……! あ、いや、き、救急車! 救急車!!!」
突然のスプラッター劇場に震えが抑えられないけど、このままだとこの人が死んじゃう……!
「だ、大丈夫ですか! しっかりしてください!」
「う、うう……」
「ごめんなさい、私魔法使えなくて……ポーションも無いし……。今救急車呼びますから! 意識をしっかり持って! 頑張って!!!」
「き……」
「き!? きってなんですか!? どうしました!?」
「きもちいい……」
私は全力で着物の女性から離れて駆け出した。怖かったのだ。勇気ある者よ、希望に満ちた者よ、どうかあの人をよろしくお願いします。私は嫌です。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいぃぃぃ!!!」
加藤さんを始めとして変な人とはそれなりに知り合ってきた。でもあの人はやばい。関わりたく無い。自傷して光悦してる人なんてどう考えても異常だ。
「ごめんなさいごめんなさい! 救急車は呼ぶので許してくだ──」
ガシッ
動けない。前に進めない。まるで大岩に縛り付けられたかのような感覚に陥りながらも、ゆっくりと後ろを向く。
「ああ、すまぬ。ちょっと救急車呼ぶのは勘弁してくれんか……? わっち困る……」
大量出血しながら平然と、そして見惚れる笑顔で笑う銀髪着物美人が、私を捕まえて離さなかった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
◇ ◇ ◇
「も〜最悪〜。この前の騒動のせいで私家なき子よ? 家なき子! 可哀想だと思わない?」
「そもそも公園の水飲み場を棲家にするなよな〜」
「だって私戸籍無いから部屋なんて借りれないのよ! だからあそこに住んでたのに! 騒ぎで撤去って酷くない!?」
「そもそもお前のじゃ無いし。後、親御さん方から変なスライムが居るんだがって通報が警察にあったらしいからお前公園永久出禁な?」
「そんなぁぁぁ! 何とかしなさいよ高木! こう言う時に役に立たないと好感度稼げないわよ! ずっと底辺よ!?」
「お前の好感度稼いだ所でな〜。ゲルしかポイント交換出来ないだろ? 意味無くね?」
「仲間の好感度稼ぎたくないとか言う奴アンタくらいよ! 加藤〜、なんか言ってやってよ!」
「好感度云々で変わるようなら仲間じゃねぇだろ。なぁ、加藤?」
「どうでも良いから出てけや。人が飯食ってるのに邪魔してきやがって」
昼休憩、1人で昼飯を食べていたら高木とゲルダリアが入ってきてさっきからずっと騒いでいる。貴重な休み時間をコイツらに消費されているのが不快で仕方ない。
「何よ! 私この前の騒ぎで活躍したでしょ!? 扱い悪過ぎるわよ!」
「知らねーよ、半分くらい邪魔してただろ」
「アンタが私を呼んだから駆けつけたのよ!?」
「別に名前は読んでない。だから俺じゃない」
「ムキー! 口寄せしといてよくもまぁそんなこと言えるわね! アンタの全身私塗れにするわよ!」
「そんな事したらお前をサハラ砂漠に不法投棄するからな」
残りの休憩時間は30分。それまでには弁当を食べ切らないといけない。残すと言う選択肢は無いのでコイツらの邪魔が本当に邪魔。もう15分くらいは妨害を受けている。
「にしても……加藤、アンタのお弁当豪華過ぎない? 運動会?」
「ゲルダリア、これが運動会だとしたら最近の加藤は毎日運動会だぞ」
「は? 毎日これ? この3段お弁当? やば、食い過ぎでしょ。アンタいつから大食いキャラにジョブチェンジした訳?」
「うるせぇな。俺に聞くなよ」
「アンタ以外に誰に聞くって言うのよ。……あ、そっか。アンタん家、セラが家事やってんだっけ。じゃあ作ってるのセラか」
「そうだよ。だから俺は知らん。渡された物食うだけだ。やってもらってんのに口出すのなんざあり得ないからな」
「いや量が多いのくらいは言っても良いだろ。シンプル作業量減るんだし、セラフィナとしても歓迎だろ?」
「……うるせぇ黙れ」
「てか最近セラフィナの様子おかしいんだよな。この前お前の家行った時もやったら機嫌良かっただろ。鼻歌歌ってたし。初めて見たぞ鼻歌で聖飢魔IIの曲歌ってる奴」
「……分かったわ。そう言う事ね」
「は? 何が?」
「かーっ! こんなにヒントあって分からないとかダメねぇ高木。そんなんだから女心も髪の生やし方も分からないのよ」
「生やし方も何もほっときゃ生えるんだよ俺は。毛根全然生存中なんだよ俺は。つーかお前が1番生やし方分からないだろ、毛が存在しないんだから」
「怪我存在しないわよ私には」
「あーおもろいおもろい。で? 何が分かったって?」
「ふっふっふ……。やたらと豪華なお弁当! やたらと機嫌の良い女! 言い淀む男! そして私は魔王の娘が帰った日、加藤とセラが喧嘩したのを加奈子から聞いたわ! つまり!」
「つまり?」
「コイツら仲直りッ──クシャルダオラッ!!!」
バカゲルが碌でも無い事を口走りそうになったので拳で龍風圧を巻き起こす。豪風で吹っ飛んだゲルダリアは休憩室の壁にベチャッっと叩きつけられた。ザマァ。
「お前の減らず口、完全にゼロにしてやったって良いんだぞ」
「はー? 減・ら・ず・口? ざぁんねぇん! いくらでも増やせます〜。ねぇ右の私」
『そうね左の私。何だったら口だけ増やす事だって出来るものね』
「おいおい、分裂は何度も見てきたが1つの体から首複数出すのは初めて見たぞ」
「何だったら八岐の大蛇も出来るわよ!」
『チ○チ○8本生やして八岐の大蛇○チ○にもなれるわ! 新たな変形の力が目覚めたのよ!』
「よりにもよって目覚めたのそれかよ」
「ずっと寝てた方いいんじゃ無いか?」
コイツらには言ってないが弁当だけじゃ無くて家でもやたらと豪勢な料理が出てくる。顔に出てないと本人は思っているんだろうが、全部食い切ると嬉しそうな顔をするので残す選択肢は無い。いい加減デブりそうだ。
「沢山あるしちょっと分けなさいよ。唐揚げ寄越せ!」
「ざけんな。お前にくれてやる食い物なんて無いんだよ。床の埃でも食ってろ」
「高木聞いた? 『俺の女が作ってくれた料理は全部俺のモンだ。死んでもやらねぇ』だって」
「はえー、随分とお熱いようで。愛妻弁当でダンジョンの通路挟まるまで肥えないようにな〜」
「お前らの耳全部不良品か? それとも脳みそか? 俺が取り替えてやろうか? 勝手に変換して都合の良いように話しやがって」
箸を砕きそうになるが必死に堪える。付けっぱなしにしているテレビの音が妙に耳に触る程イライラが止まらない。
「そもそも何でいつも俺ばっかおちょくるんだよ! たまには他いけ! セラフィナとか行けよ!」
「いや私達がアンタを中心におちょくるのは楽しいからに決まってるでしょ? ちょーっと突けば過剰反応気味に構ってくれるもの」
「セラフィナはダメだ。お前は音が鳴るおもちゃだけどアイツの場合鳴るのは俺らの鎮魂歌だけだからな。アイツ冗談分からないんだよ」
「お前らが伝説級のかまちょ馬鹿って事は分かったよ」
「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!」
休憩室の外から加奈子さんの声が聞こえてきた。椅子から立ち上がった辺りで扉が開け放たれて加奈子さんが泡食って入ってくる。
「加奈子さん! 大丈夫ですか!」
「た、たすけて……」
「ゲルダリア! 入り口固めろ! 高木は【障壁】で加奈子さん守れ!」
「おいおい一体なんだってんだ!? 最近多いぞこんなん!」
「安心しなさい加奈子! 私が守ってあげるわよ!」
ダンジョン内で休憩中に襲撃なんて日常茶飯事だ。そのおかげかチーム全員戦闘への切り替えが爆速なのは頼もしい。……だが今俺は武器を持っていない。モップも休憩室に持ち込んで無いし、完全に無手だ。素手で何処までできるか……!
「セラフィナ程じゃないが格闘は出来る。来いやぁ!!!」
何かが部屋に入ってくる。ゲルダリアが前に立っているおかげでまずコチラから仕掛けられるだろう。全員が身構えていると──。
「ま、待ってくれぇ! 救急車呼ぶのだけは堪忍してくれ! わっちの話を聞いてく──ボベェ!?」
「何してんだお前はよぉ!!!」
血まみれ着物の特大バカが入って来たのでかかと落としを頭頂部に叩き込む。ゲルダリアが抑えていたからクリーンヒットだ。バカは床に沈み込む。
「あ、逝きそう……良い感じに逝きそう……」
「最悪だ。最悪最強のバカが来やがった。来なくて良いのに」
「篠目……アンタ何してんのよ」
「む? おお、久方ぶりだなゲルダよ! このヌメリは間違いなくお主だ!」
「全然会話になってないけど。アンタ相変わらずイカれてるわね」
「イカ? イカは持ってないぞ?」
「頭悪」
「取り敢えず休憩室血だらけにすんのやめてくんない? 俺の管轄施設汚すなよ」
「ああすまぬ。腹切ってそれっきりだから血が止まらなくてな。治してくれんか?」
「お前また道端で切腹しやがったな? いい加減卒業しろよ。いつまでやってんだよ」
「え、えぇ……? お、お知り合いなんですか……?」
「はい……残念ながら……。篠目、俺の仲間です」
息を切らしている加奈子さんに水を渡しながら認めたくない現実を受け入れる。とうとう来てしまった。死にたがり馬鹿が。
「加藤、久しぶりだなぁ。お主が探索者復帰すると聞いた時は嬉しかったぞ。ギアススクロールに判を押すくらいはな。例え出番が50万字投稿されてからだったとしても許せるくらいには嬉しかったぞぉ」
「全然許せて無いだろ。不満タラタラだろお前」
「出番もクソもお前全然連絡取れなかったじゃねぇかよ。俺何回も電話やらメールやら飛ばしたんだぞ? 血判押してもらった時から何してんだ今まで」
「結構前に発作切腹した時に一緒に切ってしまってな……それから電話は持っておらんのじゃ」
「買えよそれは」
このまま血を撒き散らされても困るので高木に回復させる。と言っても部屋は既に篠目の血でベタベタだ。血を落とすの怠いなぁ……。
「つーか何で加奈子さん追いかけ回してんだよ。内容によってはお前の前歯全部折るぞ」
「え、いやそれは……」
「わ、私が篠目さんとすれ違った時に切腹して……早く救急車呼ばなきゃって思ったらやめてくれーって追いかけて来て……」
「いくら腹切ってるとは言え篠目からよくここまで逃げてこれたわね。アンタ凄いわよ」
「全然嬉しくない……! ホントに嬉しくない……!」
「救急車……何で嫌なんだ? 普通に乗れば良いだろ」
「……」
高木の質問に目を閉じたまま神妙な顔をする篠目。何か理由がありそうだ。正座して意を決したように目を開く。
「加藤よ、皆よ、わっちの事を信じてほしい」
「何だよ急に……」
「わっちは確かに死ぬのが大好きだ。全力で戦って命尽きる時の感覚は気持ち良すぎて馬鹿になる。死ぬのを我慢してると切腹やら自爆やらを発作的にやってしまう。己でも分かっている。わっちって、ほんとバカなのじゃ……」
「「「知ってる」」」
「だがそれでも! わっちはお主の事を、お主らの事を仲間だと思っておる! お主らとなら幸せを分け合っても良い!」
「その分け合いの精神で俺ら道連れにすんのやめてくんない?」
「お前のトラップ特攻で何回全滅したと思ってんだよ」
「誰も死のお裾分け求めてないのよ」
「だが死は救済とよく言うではないか」
「独りよがりの救済ほど迷惑なものは無いんだよ」
「鶴岡のインチキ宗教のが100倍マシよ」
「兎に角! 何があろうとわっちを信じておくれ! わっちは何もしていない!」
「は? 何を──」
その時、付けっぱなしのテレビからこんな事が聞こえてきた。
『次のニュースです。二ヶ月ほどまえからダンジョン内で強奪を行った探索者が逃亡中です。名前は篠目。銀髪、白い着物、刀を持った女。先に入っていた探索者を背後から襲い、途中で切腹して血液を撒き散らしながらアイテムを奪ったとして警察が行方を追っています。見かけた方はすぐに警察に連絡を──』
「「「「「………………」」」」」
全員の視線が篠目に集まる。澄んだ瞳に負目は全く感じられない。心の底から俺らを信じている目だ。それに応える為俺達は──。
「「「もしもし? ポリスメン?」」」
◇ ◇ ◇
「通報ありがとうございます!」
「いえ……」
「やめろー! わっちは無罪じゃ! 何もしとらん! ちょっと血撒き散らした程度で何故こんな目にぃぃぃ!!!」
「こら! 大人しくしろ! 罪を重ねるな!」
警察官に捕まってパトカーに乗せられる篠目。そのまま連行されるのを眺める俺達。
「よし、仕事戻るか」
「そうだな」
「新しい棲家さーがそ」
「いや信じてあげて下さいよ!!!」
「信じてますよ。信じてるから出てくるまで待つつもりです」
「刑期真っ当してるじゃないですか!」