ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
直ってよかった。
「今日は〜♪ ダンジョン〜♪ アタックの日〜♪」
「失礼します、確認して頂きたい資料がうわきっしょ」
「罵倒までの間隔シームレス過ぎん?」
「申し訳ありません。わざとです」
「その面の皮の厚さ、流石俺の秘書だ」
高木支部長の部屋に入るとそこには鼻歌を歌いながら杖を磨いてるハゲが居た。
こいつ仕事しろよ。
「支部長、お仕事の時間です。働け」
「昨日働いたし良くね?」
「じゃあ支部長も昨日生きたしもう良いな」
「ウス、働くッス。すんませんッス」
「ここ最近遊び過ぎなんですよ、仕事全部こっちにぶん投げて何してるんですか」
「いやぁ聞いてよ! 加藤がさぁ! 漸く探索者に戻ったんだよ! まぁギアススクロールで無理やりだけど」
「あぁ……あの人ですか。またダンジョン周回しまくって、そこのダンジョンの職員を絶望の底に叩き落とす日々が始まるんですね」
「そこはほら、仕事だし?」
「クソ上司がよ」
尻尾でその頭しばいたろか。
木魚みたいにツルツルしてるし、良い音なりそう。
「と言うかまさかとは思いますけど、今日ダンジョン潜るんじゃないでしょうね」
「そうだけど?」
「よっしゃ、支部長の頭と杖と私の尻尾で小粋なビート刻みます。取り敢えずそこに寝転んでください」
「俺の頭で音楽奏でないで? 多分血とか沢山出てビチャビチャ鳴ると思うよ?」
「頭の中どうせメロンパンしか入ってないんだから良いでしょ。やられたくなかったら仕事して下さい。ダンジョンはまた今度にして下さい」
「やじゃ! ギアススクロールの契約もあるし、今日行くんだい!」
「マジウゼェなこのハゲ(マジウゼェなこのハゲ)」
マジウゼェなこのハゲ。
「地の文でも同じ罵倒するなよ。三重の極み?」
「頭叩き割ったら京都行きますね」
「自認が相良左之助の女初めて見たけど」
文句を垂れまくる支部長の机に資料を叩きつける。
それと、もう一つ。
「どうぞ」
「何これ、ラブレター?」
「国からのです。良いお返事返したらどうですか?」
「マジかよ、どうせまた『お金無いから融資ちて〜』とか言うんだろ。既に俺らダンジョン運営のが金も権力もあるしな」
「完全に入れ替わってしまいましたね。国からしたら目の上のタンコブ過ぎます。こんなのが居るなんて」
「おいおい支部長の俺が大した影響力あるわけ無いだろ。ナイスジョーク」
「動きやすい所で好き勝手してるだけでしょ。本部の方なんて貴方のスケープゴートですよ殆ど。弱み握り過ぎでしょ」
「隙が多過ぎるんだよなぁ皆。まぁ加藤程じゃないけど……ん? 違うわ、何だこれ」
「なんて書いてるんですか?」
ずっと椅子にもたれ掛かっていた支部長が体を起こして食い入る様に手紙を読み出す。
視線が手紙を往復する度に、スキンヘッドに冷や汗が出始めている。
……こんな焦ってんの初めて見たかも。
数分後、手紙を読み終わって机の上に置いた後、支部長は頭を抱えた。
「あの、本当に何が書いてたんですか? 支部長がそんなになるなんて相当だと思うんですが」
「……やばい。国の連中、地雷投げ込んできた」
「地雷?」
「読んでみ」
手紙を手渡されたので、言われた通り読み始める。
長々と書いているが、要約すると──。
『今度お前らのとこに魔族の王とその娘が視察に行くから対応よろ』
「すいません、有給取ります。1ヶ月くらい」
「ウチ有給制度なんて無いんだよね」
「クソブラックだから退職しますね」
「1週間後来るからもう遅いぞ」
「……どうするんですか、もし何かやらかしたら……」
「もしかして俺いつの間にかギャラルホルン持たされた?」
「ラグナロクだけは起こさないでくださいね、マジで」
「……やっべ詰んだくさい」
2人で頭を抱える。
マジでどうすんの、てか何で来るの?
暇なのか? 魔族の王。
◇ ◇ ◇
「おい加藤、もうそろそろ時間だぞ」
「うーん……後5分……」
「………………オラァ!!!」
「脱がすなぁぁぁぁぁ!!!」
微睡の中に居た次の瞬間、全裸にされる俺。
即座に布団で体全体を隠す。
「よし、じゃあヤるか」
「やらんわ!!! つーかお前横になってる成人男性の服を何で一瞬で脱がせれるんだよ! しかも服に傷一つ無いし!」
「サキュバスは全員出来る技だぞ」
「嘘付くな! どんな匠の技だ!」
「そもそもお前がこの時間に起こしてくれって言うから起こしたのに、まだ寝たいとか言うってことはそれって誘い受けだろ?」
「お前どんな摂理で生きてきたんだ!? てか脱ぐなバカ!」
「着たまま!? 汚れるぞ」
「ぶっ飛ばしてぇ……」
軽く殺意を覚えたが、顔が良過ぎるせいでキレきれない。
「良いから服返せ、遅刻するから」
「分かったよ、ほら」
「全裸靴下をご所望で???」
「昔高木と『全裸に靴下って良いよな〜』って言ってたろ」
「男がそれやってどこに需要あるんだよ! ……いやお前にやれと言ってる訳じゃ無いから。履かんで良い履かんで良い」
芋虫の様に移動して、服をひったくる。
時計を見ると今のやり取りだけで5分無駄にした。
急いで着替えて家を出る準備をする。
「全く……ギアススクロールの契約が無ければこんな朝早く出る必要無いのに……」
「夜ダンジョン潜るからシフト変えてもらったんだったな」
「まぁ高木の管轄してるダンジョンだから融通効くのは良いけど……はぁ」
今日の夜は遂に3人でダンジョンアタックする日なのだ。
と言うのもギアススクロールの契約で1週間に一度ダンジョンに潜らなければならないのだが、これを放置してると自身の意思とは関係なく、体が動いて契約を履行してしまう。
その時の都合など関係無しに。
「変に大事な用とか潰されたら溜まったもんじゃ無いからな、早めにこなしとく方がいいか……」
「宿題みたいだな、キャバ時代お前に出されたやつ思い出したわ」
「なっつ、お前が読み書き出来ねぇって言うから俺がキャバ行く度に採点してたやつな。まさか年上に平仮名教える事になるとは思わなかったけど」
「探索者になってからは無くなったけどな」
「ほぼ四六時中一緒に居たからな、他のメンバーも含めて」
昔話をしながら身支度を終える。
家を出ようと玄関で靴を履いてる時に、後ろから肩を叩かれた。
「ほら」
「……何これ」
「弁当以外に見えてんなら眼科行けな」
「……セラフィナ、前にも言ったけど別に俺お前に家事やれとか飯作れとか言ってないからな? あくまで自分の分は自分でやれよって言っただけだぞ」
「お前が食わねぇなら捨てるだけだ、アタシこんなに食えねぇし」
「……分かったよ、さんきゅ」
「おう、じゃあ夜な」
「あいよ」
家を出る直前まで、セラフィナからの視線を感じた。
「て事が朝からあったんですよ、酷くないすか? 初手いきなり服全部脱がされるの。家主に対しての行いじゃないですよね?」
「なんで私、休憩時間に三十路も間近の男女の惚気を聞かされながらご飯食べないといけないんですか?」
「まだ26なんすけど!?」
仕事中の中休み、同じシフトだった加奈子さんと昼食を取っていたのだが、まさか三十路扱いされるとは思わなかった。
……まぁ四捨五入すれば三十路か。
「絶対服ひん剥かれたのは惚気じゃないと思うし、そもそも付き合ってない!」
「何でそれで付き合ってないんですか、頭おかしいんです?」
「すいません、なんか今日言葉強くないすか? ふしぎなアメ使いました?」
「独り身にそんな話してくる時点で喧嘩売ってるのはそっちです」
「ええ……この話辞めますわ」
「そうして下さい、私の怒りを収めるために」
触らぬ神に祟りなし、今までに無いレベルでキレてる加奈子さんをこれ以上怒らせてはいけない。
「と言うかもう付き合えばいいじゃないですか、何で嫌なんですか?」
「中毒に苦しんでる奴に追い打ちかけて沼に落とす様な恋人、俺はいらない」
「じゃあ探索者関連のが無ければ?」
「弁当なんだろな〜」
「チキンがよ」
渡された弁当を広げ始める。
元々俺が買っておいた弁当箱だが、ここ最近使ってなかったから変に新鮮だ。
「そう言えばセラフィナさんって料理出来るんですね」
「ダンジョン内で飯作る時あるんですけど持ち回り制なんすよね、だから俺含めてメンバー全員出来ますよ」
「へー、中身見せて欲しいです、気になる!」
「まぁ朝早かったし普通に冷食入ってるだけで有難い……」
開くとそこには綺麗に詰められたおかずの数々。
唐揚げ、アスパラベーコン、卵焼き、その他色々含めて全部が──。
「何で俺の好物全部知ってるんだよ……」
セラフィナどころか仲間の誰にも言った記憶が無い。
酒の席で言ってたか? でも酔っ払っても記憶はあるタイプだから違うと思う。
マジでどっから情報仕入れたし。
「……あの、これってもう殆ど愛妻──」
「クソッ! この外堀を埋められている感じ嫌すぎる!」
「どちらかと言うと堀はもう埋まってて代わりに塀を築いてるように見えますけど……他の女が来ないように」
ちなみに弁当は美味かった。
味付けまで俺好みとか最早ホラーだった。
◇ ◇ ◇
仕事が終わって夕方、今回潜る予定のダンジョンまで移動する。
受付前まで行くと、そこには既にセラフィナが待っていた。
「ん、来たか」
「早くね? まだ30分前だぞ」
「遅刻するよかいいだろ」
「それはそう」
いつもの薄着はどこに行ったのか、軽鎧を見に纏ったセラフィナから愛剣を投げ渡される。
「すまん、重かったろ」
「大した事ねぇよ、まぁ途中職質受けたけど」
「デカいからな……目付けられるのも分かるわ」
流石に職場に装備を持って来るわけにも行かなかったのでセラフィナに持ってきてもらった。
軽鎧を身に付けつつ、高木を待つ事になった。
しかし──。
「……来ないな」
「チッ、何やってんだよ高木の奴。時計見てねぇのか?」
約束の時間になっても高木は来なかった。
アイツは時間は守るタイプだったので割と意外ではある。
「仕方ない、電話するか」
「入場料は全部アイツ持ちにしようぜ」
「うーん採用」
適当な会話をしながら高木に電話を掛ける。
しかしコールが続いても出る気配が無い。
「馬鹿な、ワンコールの間に出ないだと……!?」
「そんなに早く出るわけ無いだろ」
「いやこの前までアイツ俺の電話出待ちしてるからワンコール切れる前に出てた」
「キメェなあのハゲ」
待てど暮らせど出る気配無し。
刻々と予定していた時間が近づいてきた。
「どうする? 2人で行くか?」
「アタシは良いけど加藤が大丈夫か? 回復全部お前頼りだぞ」
「その辺は何とかするわ、幸い狂い始めても戦闘に関しては冷静だし。何故か」
「まぁじゃないと死ぬしな」
「変なとこで理性残ってんの何なんだマジでよ」
来ないのなら仕方ない、アイツに構ってギアススクロールのノルマを終わらせれない方が困る。
前衛2人と言う中々に尖った構成になってしまったが……まぁ何とかなるだろ。
「じゃあ行くか……行きたくねぇ……でも行かないと……」
「諦めろよ、アタシはお前と潜れて嬉しいぞ?」
「でしょうね!」
ギアススクロールに書くくらいだもんな!
恐らく今日最後の理性で投げやりに突っ込んだ後、俺達は受付に──。
「あああああああああああ!!!!!」
高い女性の声が周囲に木霊する。
耳を劈く勢いの声に驚きながらも、声がした方向を見るとそこには恐らくハイエルフの女性が驚きの表情を浮かべていた。
「ま、まさか……まさか!」
「え、何? 俺達?」
「アイツこっち来るぞ」
ハイエルフの女性はこちらに駆け寄ってきて、いきなり俺の手を取ってきた。
「お戻りになられたのですね! 勇者様!」
「人違いだぁ!」
宝箱狂いの勇者なんざいてたまるか!