ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「待ってくれ! 待っておくれ! 本当に待って欲しい! わっちの善性を信じてくれ! 逃げたりせん! な? だから一旦待とう! 石の上にも三年と言う諺がある! 3年くらい待ってても支障は無いとは思わんか!?」
「クソッ! 何と言う力だ! まるで動かん!」
「ダメだ! コンクリートに張り付いている! 足の指の力だけで! やはり探索者は化け物か!」
「あ、居た居た」
少しパトカーを追いかけてみると1キロ程進んだ辺りで篠目が抜け出したのか、警官と熱い攻防を繰り広げていた。靴を脱ぎ捨てて裸足でコンクリートにへばりついている。あれは一般人の警官には剥がせないだろう。
「篠目。ホントに何もやってないのか?」
「加藤ぉぉぉ!!! 信じておった! わっち信じておったぞ! お主がわっちを見捨てるような真似はせんよな! 長い付き合いじゃもんな! I love you。早く助けてくれ!」
「質問に答えろよ」
「お主もわっちの信頼に応えんか!」
「だから来たんだろうが」
「うわホントに居るじゃん。よくもまぁ脱出出来たな」
「相変わらずの身体能力ね」
「ハァ……ハァ……あ、あの……は、早いです……皆さん……」
俺の後を追って高木達が追いついて来た。人が増える度に表情が明るくなる篠目は非常にガキっぽい。実際仲間の中では最年少だが。
「皆〜〜〜! 良かった、わっち嫌われて無かった! お主らにまで嫌われたら、わっち本当に三途の川にシンクロナイズドスイミングしに行っておった!」
「俺ら道連れにする前提なんだけどコイツ」
「持ってくの分身だけにしてくれないかしら」
「関係無いけど今は名称変わってアーティスティックスイミングになってるぞ。高木の豆知識な?」
「ホントに関係無いじゃないですか、何そのミニコーナー」
「ちょ! なんか増えたぞ! 危ないから下がってて!」
咄嗟に通報してしまった以上、この警官達は職務を全うするしか無い。だがこのまま連行されれば篠目は留置所の中だろう。そうなればそう簡単には話も出来ない。だからと言って暴れるのは論外だ。若干手遅れな気もするが……暴力は振るってないのでセーフだと思う。
「どうすっかなー、やらかしたなぁー」
「コイツならやりかねん! って感じで気付いたら通報してたよな」
「だってあのニュースが本当ならバリクソ犯罪者だもの。そりゃ通報するわよ、誰だって」
「仲間って何でしたっけ」
「道を外れた時に正してやる、それが仲間です」
「全然かっこよくないです」
どうにかこの場を切り抜けられないかと頭を悩ませていると、一台のリムジンがこちらに近付いてきて止まった。
「やぁ、職務ご苦労」
「「!!! こ、これは【篠夜】様!」」
「【篠夜】……?」
リムジンから出てきたのは長い銀髪の男。腹立つくらいに顔整いだ。女の美形は好ましいが男の美形とか全然好きじゃ無い。何だったら腹立つ。そんなスカした男が髪を靡かせながら近づいて来た。
「やぁ、篠目。元気そうだな」
「……兄様」
「「「「兄?」」」」
篠目は死ぬ程嫌そうな顔をして、男を兄と呼んだ。確かに男の銀髪や顔立ちは篠目に似ているかもしれない。
「確保してくれたんだね、ありがとう。後は私が引き受けよう」
「え……」
「いやですが確かこの者は指名手配だった筈……」
「私が言っているんだぞ?」
「「も、申し訳ありません……」」
そう言って警官は篠目から離れて行き、パトカーで去っていった。銀髪男は投げ出されていた篠目の靴を拾って側に持ってくる。
「ダメじゃないか篠目、警官から逃げ出したら。折角指名手配して貰ったのに」
「……あ? おいお前、今何つった」
「……やはり兄様じゃったか……」
「うん。僕だ。大丈夫、もうお前を追い出すような知恵遅れは居ない。既に家は掌握した。家に帰ろう篠目、お前の居場所はここじゃないよ」
「おい無視すんな。指名手配したってどう言う事だ。実の妹に冤罪擦ったのかお前」
「わっちの居場所はわっちが決める。決められる通りは無いぞ」
「いいや? お前の居場所は僕の側だ。その異常な性癖も必ず修正して見せよう。これ以上低俗な連中と絡むな。変な探索者チームに入ったりな」
「もしもし? その耳は飾りか? 後低俗って言ったけど俺らの事か? 何だよお前の居場所は私の側って。妹手元に置いときたいとかシスコンか? いい歳してシスコンか?」
「このような人に話しかける際にチンピラのような話し方しか出来ん奴のチームになんぞ何の価値があると言うのだ!」
「聞こえてんじゃねぇかよぉ! 無視しやがって、ぶっ飛ばすぞお前!」
「加藤さん落ち着いて! 怒るのは分かりますけど! なんか偉そうな人だから!」
確かに先程の警官を下がらせる辺り、だいぶ権力を持ってそうだ。流石にそんな相手を本当にぶっ飛ばす訳にはいかない。今後に関わる。
「貴様、加藤とか言うイカれだな? 貴様のような低俗な男が探索者の中でも上位層だと思うと、この国の未来は暗いな」
「俺如きで国の未来左右される訳無いだろ。頭良さそうな面してそうでも無いな。後探索者は俺達以外もロクデナシは沢山居るぞ。学べてよかったな」
「ハッ! 言うでは無いか。……だが、お前の本性は既に把握済みだ」
男が指を鳴らすと突然、目の前に宝箱が現れた。……宝箱!?
「うおおおおお! 宝箱ォォォォォ! オープンセサミストリィィィィィト!!!」
「ちょっ! 加藤さんダメですよ! どう考えても偽物でしょ! 罠ですよ!」
「罠でもいい! 罠でもいいんです!!!」
脳内ドーパミンが稼働し始める。俺は宝箱を開いて演出を見るべく、瞬足で宝箱に引っ付いた。ウキウキワクワクのまま開いてみると──。
【ばか はずれです……】
「見ろ、人間としての尊厳すら捨て去ったような行動! こんな者の元に居たらお前の人生──ドグハァ!?」
「これ罠じゃねぇかぁぁぁ!!!」
「理不尽過ぎぃぃぃぃぃ!!!」
怒りが頂点に達して我慢出来なくなり、篠目の兄貴とやらの後頭部に飛び蹴りをキメる。地面とキスした奴の胸ぐらを掴んで持ち上げる。絶対に許さない。
「ふざけんな! お前分かってないわ! ユーザーの気持ち分かってないわ! ハズレだとしてもさぁ! もう少しさぁ! あるだろ! お前パチンコもソシャゲもした事無いだろ! ガチャとか回した事無いだろ! 有り得んわ! 騙すなら騙すでクオリティ上げろやゴラァァァ!!!」
「や、やめぇおぶろべホブホォ!」
「速い! 揺さぶるの速すぎます! 残像見えてますよ!? 落ち着いてくださいよ!」
「不味い! ゲルダリア、行くぞ!」
「ええ、勿論よ!」
「高木さん、ゲルダリアさん! 止めてくれるんですね!」
「しゃあ! 便乗追撃ィィィ! くらえモンスター相手に使い道が無いクソ魔法【
「顔面の穴という穴に私のゲル流し込んでやるわ! スカしたイケメンは嫌いなのよ私は! 苦しみもがけバーカ!」
「おごぉぉぉぉぉ!!!」
「当然のように参加するなぁぁぁぁぁ!!!」
「今のうち! 今のうち!」 ズガン!ズガン!
「篠目さん!? お兄さんなんですよね!? 鞘で殴りまくるのやめてあげて!?」
篠目の兄貴を振り回していると段々顔色が悪くなってくる。吐かれても困るので一旦ステイ。高木達にも止めるよう合図を出す。
「今のうち! 今のうち!!!」 ガスッガスッ
「落ち着け」
「ハッ! ついうっかり!」
「うっかりでリンチする事なんて有りませんよ! 皆さん落ち着いて! 暴力は不味いですって!」
「うぐぐ……き、気狂い共め……! だがそこの不細工な女は話が分かるようだな。この汚らしい手を離し──」
「シャオラァ!」
「ぼぺろっと!」
目にも止まらない速さのビンタが炸裂した。今の一撃は例え来ると分かってても避けられない、そう言う一撃だ。
「ハッ! す、すいません、つい……」
「いや全然良いわよ。コイツの目が腐ってるのが悪いんだわ」
「し、篠目以外の女なんぞゴリラと変わらん……」
「ゴリラアンチかー? 森の賢者の端正な顔見た事ねぇのかよ。そこら辺の人間よか顔整いだぞ。あの澄んだ瞳を見て同じ事が言えるかな?」
「知るか! ゴリラの回し者の話など聞きたく無いわ!」
「はー……ダメだ。お前ほんとダメだわ。あったま来た。仕方ねぇから1から教えてやる。まず、ダンジョンとは……何か(ネットリ)」
「や、やめろ! 至近距離でダンジョンへの愛を語るなぁぁぁ!」
「出た! 加藤のクソ長説教モードだ!」
「あれが始まると長いのよなぁ……。わっち少しダンジョン行って死んできて良いか!?」
「それで良いんですか冤罪被害者さん!?」
ダンジョンとは、そして宝箱とは、演出とは。俺の知識と経験を篠目の兄貴に叩き込む。きっと終わる頃にはコイツは立派なパチスロメーカー勤務にしてなるだろう。楽しみだ。
◇ ◇ ◇
──大体同時刻、加藤の自宅にて。
「……何やってんだあの自殺バカ」
洗濯物を畳んでいたらテレビで篠目の指名手配のニュースが流れた。内容は中々に極悪。加藤が引退する前でもここまではやらなかったぞアタシ達。
「指名手配されている方を知っているのですか?」
「あ? あー……仲間だよ。チームの1人だ。篠目って言う死にたがりバカ」
「死にたがり……?」
「全力で戦って力尽きる瞬間が気持ちいいんだとよ。んでそれが満たされない日が続くと咄嗟に腹を切って辺りを血まみれにする奴だ」
「それはもう最初から切腹だけしてれば良いのでは無いですか?」
「やわい快感しか得られないから満足出来ないんだとよ」
「成程、変態の方ですか。マスターのチームの中でも抜けていますね」
「まぁ変態なのは確かだけどな。……ただ」
「ただ?」
「アイツは本当に強い。正直アタシがタイマンしたら100回やって100回負ける。そんくらいのレベルだ。もう才能のレベルで違うんだろうな」
「マスターだったらどうなんですか?」
「加藤なら……3割くらいで勝てるんじゃねぇのか?」
「マスターで3割となると……相当ですね」
「まあな……」
今でも鮮明に思い出せる。初めてアイツの姿を見た時、正直身構えた。当時の篠目は15だったってのに……。
「(イカれ具合で言ったら加藤より……)」
アタシらは全員が全員頭のネジがどっか外れていると言う自覚がある。外れ具合だったら加藤が1番外れてんだろうが……篠目は生まれつきネジが無い。そんな感じだ。
「でもすぐ切腹するのですよね?」
「戦ってる最中でも限界が来ればそうなる。大体2割くらいで」
「じゃあ3割+2割で大体トントンじゃないでしょうか?」
「……そうかもな」
金髪ゴーレムと他愛の無い話をしながら家主の帰りを待つ昼下がりだった。