ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】 作:1パチより4パチ派
「要するにお仲間のお兄さんが権力振り回して冤罪ふっかけてくるから名誉毀損で訴えて辞めさせようって事?」
「そうですね。取り敢えず無期懲役くらいに出来ませんか? あのイケメン腹立つんですよ」
「出来る訳無いでしょそんなの! 取り敢えずで出すには重過ぎるわ! ……でも事情は分かったわ」
「え、冤罪……許せません! 濡れ衣を着せて腹して欲しくば従えと言うのですか!? 自身の支配下に置こうとするなんて、いくら兄と言えども度が過ぎています!」
「まぁ……そうね。弁護士としての活動は最近はやってなかったんだけど、それ言われると見過ごせないわ」
「じゃあ引き受けてくれるんですか!?」
「貴方達には偶然とは言え助けられたもの。ウォルタリアの件は私達だけじゃどうにもならなかったし……それに貴方達の功績を奪う形になっちゃってたしね。これでお返しって事で良い? 報酬とかも要らないから」
「い、良い人過ぎる……これが勇者か……!」
何と言う善良さだろう。そりゃ世間から持て囃されるしファンも付く。俺もなんかファンになりそうだ。
「……悪いけど私達はやらないから」
「やらないってかやれないだな! 悪いが俺ら2人はこう言うの苦手なんだわ! すまん! 許せ! 復興中は断酒してたから限界だ!」
「……飲酒の許可を所望する」
「良いわよ別に。実際必要なの私だけだし……まぁリファルには雑用手伝ってもらうわ。それで良い?」
「勿論ですエネロマ! 今から私はエネロマの助手ですね!」
「あ、あの私は……」
「セーリスはそこの2人見といて? あの2人酔っ払うと面倒だから、監視役お願いね。じゃあ取り敢えず書類とか色々あるから……その、篠目? って言う人に会わせてくれる?」
「了解です! じゃあ高木、俺エネロマさん鶴岡んとこ連れてくから」
「ほーい。んじゃ後は任せた。俺実は忙しくてな。篠目の方は任せたぜー」
「? 何故忙しいんですか会長」
「え? 仕事するから」
「すいません。幻聴が聞こえたので早退します」
「現実だっちゅーねん。おい待て待て帰るな我が秘書よ」
「今までどんだけサボってたのよアンタ……」
◇ ◇ ◇
エネロマ先生に頼ってから3日ほど経った。あれから篠目の兄貴は何もアクションを起こしていない。いつの間にか指名手配も無くなって居たし、もしかしたら諦めたのかもしれない。
「もう来ないからねーってなったんかな。だとしたら楽で良いんだけど」
「どうだろうか。兄上のしつこさはネネちゃんのママの料理レベルじゃからな……。諦めるとは思えん」
「どちらにせよもう手続き始めちゃってるからやる事はやるわね? さて、あとは証拠集めを……」
「エネロマ! 大変です!」
鶴岡の教会の一室。俺、篠目、エネロマ先生の3人で訴訟に向けて話し合っていると突然リファルさんが慌てふためいて入って来た。
「ど、どうしたのよリファル。落ち着きなさいな」
「いいえ! 落ち着いては要られません! これが届いたのです!」
リファルさんが持っている封筒。その封筒には特別速達の文字が──って……。
「ハァ!? これ裁判所からのだぞ!?」
「ま、まさか! 鶴岡! やらかしおったか!」
「いや私宛ではありませんよ? 失礼ですね」
リファルさんに着いてくる形で入って来た鶴岡宛てでは無かった。考えてもみればコイツは詐欺を詐欺だと気付かせない才能がある。そんなヘマはしないか……。
「ガッツリ篠目さん宛てです。開けてみては?」
「う、うむ……これは……!」
篠目は封筒の中身を机に出す。中に入っていた書類を読んでみると──。
「えろしってるか……!」
「平仮名しか読んでないだろ」
「平仮名どころかマトモに読んでないでしょ! ……この名前って、貴方のお兄さんよね?」
「うむ……わっちの兄様じゃな」
「どれどれ……ふむ、これは完全に──訴えられていますね。こちらが」
「先越されたぁぁぁぁぁ!!!」
普通に訴状だった。内容としては過去に行った器物損壊(切腹時に出た血)だ。篠目は酔っ払っても腹を切るのだが、そのせいで何度も居酒屋やらを出禁になっている。それを蒸し返された形だ。
「バカな!? 確かにわっちは何度も何度も店を血だらけにしてしまったが、あれらは全部払う物払って示談にした筈じゃ! 店主側も『もう良いから。来なければもう良いから……』と言っておったぞ!?」
「どうやら示談にした店全てを抱き込まれたようですね。あれは示談じゃないと言わせる事で無理やり問題化させたようです」
「ちょちょちょ! 日本の器物損壊罪って確か3年経ったら時効のはずよ! いや、そもそもやるなって話なんだけど……」
「時効になっていない事にされているようです。今までのやらかし全部は3年以内に行われたと……」
「と言うか! 訴状が届く事自体おかしいのよ! 親告罪なのに! 民事じゃないのよ!? ……あれ、何か身に覚えが……?」
「確かに。チグハグとしか……ん? 【精霊裁判】を行う為、出廷されたし……」
「【精霊裁判】? 何だそれ。エネロマ先生、何か知って──先生?」
聞き覚えの無い言葉を尋ねようとしたらエネロマ先生が天を仰いでいる。たっぷり3分ほど硬直した後、勢いよく椅子から立ち上がった。
「ふっざけんじゃないわよぉぉぉ! ここ日本よ!? 何でこんな所で祖国のクソ裁判やらなきゃならないのよぉぉぉ!」
「エネロマ! 落ち着いて下さい!」
「落ち着ける訳無いでしょう!? 舐めてるわ、私達の事舐めてるわ! これ送って来た奴1発殴らせて!?」
「【精霊裁判】とやらはそんなに酷い物なのか?」
「なんか良い感じの名前だけどな。ラノベっぽくて」
「ルビ振りますか? 【スピリットジャッジ】とか」
「無能術者の
「絶対石鹸枠じゃな」
「エネロマ、説明して下さい。【精霊裁判】とはどんな物なのですか?」
「……【精霊裁判】は私の祖国、殆どの精霊族が住んでるエレネースの裁判方法なんだけど……内容が酷すぎるのよ」
「どう酷いのですか?」
「精霊族ってね……滅茶苦茶、めっちゃくちゃ! 適当なのよ!!!」
「……はい?」
「兎に角適当! 普通の人族と違ってちゃんとした肉体が無い所為なのか大体の事が大雑把! 食事なんてしないから食文化なんて無いし別に睡眠もいらないからって家を持たないのが殆ど! その場限りの毎日送ってる奴しか居ないの! 何だったら法律なんて作るのめんどくさいからって他所の国の法律コピペしてるのよ!? しかもよく分からないからってそれすら守らない! 挙げ句の果てには【精霊裁判】! これね、名前だけはそれっぽいけど実情はタダのクソレスバ! 裁判長がお互いの主張聞いて『うーん、こっちの方が正しい気がする』って言って判決するとか言う司法に中指立ててるようなふざけた物なの!!!」
「種族そのものがふざけてる気がしますね」
「私はね、それが良くないからってわざわざ他の国に行って! 法律の勉強して! こっちでもちゃんとした物作ろうって言ったのよ! そしたら『今でも何とかなってるし良いでしょ。そんなマジにならなくても〜』って言われたのよ!? それから帰って無いわよ! 帰りたく無いしあんな国!」
「精霊族ってレアだから全然知らなかった……」
「祖国じゃ私が変わり者なのよ!? おかしくない!? 私がおかしい事にされてるの、おかしくない!? どっちかって言うと魔族寄りだったのにその場のテンションで人族側に付くくらい今しか生きてない連中に変な奴扱いされるのホント間違ってる! そうは思わない!?」
「乱心してますね」
「勿論そう思いますよ! 舐めてますねソイツら! 先生が正しいっす!」
「こちらは妄信してますね」
「エネロマ……大変だったのですね」
「……フゥー。ごめんなさい、脱線したわ。兎に角、それくらいふざけた裁判なの。他国でやる事例なんて聞いた事無いわ。それでも押し通せる辺り……イカれてるわね」
「おい篠目。お前の家どんだけ権力持ってんだよ。やりたい放題じゃねぇか」
「実家に居る時にやたらと国の重鎮がゴマを擦って来ると思っとったが、よもやそこまでとは……」
「しかし訴えて来たとして何がしたいのでしょうか。篠目さんを牢屋に入れたいのですかね」
「いや兎に角とっ捕まえたいんだろこれ。こんだけ好き勝手出来るんだ。懲役喰らった篠目を保護観察しますとか言って家に引き戻すとか考えてるんじゃねぇの?」
「成程。逃げ出したら罪増やして犯罪者にするぞと言う事ですか」
「むむむ……厄介な事になってしもうたな……」
「……貴方達なら追手なんて蹴散らせると思うのだけど」
「犯罪者落ちは絶対嫌です。社会復帰が絶望的になる」
「私の宗教は清く正しくをモットーとしていますので。邪悪な資本家はノーカンですが」
「嫌じゃ! 逃亡生活なんぞなりとう無い! 一生気ままにダンジョン潜って死んで酒飲んで仲間とグダグダしていたいんじゃ〜!」
「貴方の仲間ってダメ人間しか居ないの?」
「ダメな奴にはダメな奴が寄って来るんですよ」
「最早諦めの境地ね。目がアンデットだもの」
「それでどうするのですか? この精霊裁判とやらを受けないと言うのは……」
「受けないも何も強制よこれ。受けなきゃ全面降伏と同じ。多分相手側にも精霊族の弁護士が居るわね。ソイツが入れ知恵したと見て良いわ。親告罪なのに訴状送って来る適当さから見て間違い無いわ。……やるしか無いわね」
覚悟を決めた様子のエネロマ先生は立ち上がって拳を握る。まさに臨戦体制。今の彼女からは激しい怒りが見て取れる。
「こんなふざけた事してくる相手に負ける訳にはいかない! これで負けたら私は私を許せないわ! 篠目、安心して。絶対に勝たせてあげる!」
「な、何と頼もしい……! お主こそ勇者様じゃ!」
「流石先生! 俺何でもやるっす! 何でも言って下さい!」
こうして俺達は【精霊裁判】に向けて準備をする事になった。この裁判、俺らが勝つ!!!
「ど、どうしましょう。どんどんエネロマが加藤様と親しく……やはり私も精霊族になるしか……?」
「ふむ。やはり少し引っかかりますね……。篠夜さんとやらの事、少し調べてみますか」
「おらそこぉ! 輪に入れぇ! 作戦会議だぁ!」
◇ ◇ ◇
ジョッキに入ったビールを一気に流し込む。喉を突き抜ける炭酸と舌に転がる苦味がたまらない。
「カーッ! 美味ぇ!!! いい酒だなぁ! 2人も飲め飲め!」
「……ウマウマ」
「お2人を見とけと言われたので……」
「んだよぉ。付き合い悪ぃなぁ。なぁ女将! そう思うだろ!」
「ダメよ〜ゴランドちゃん! 最近はそう言うのアルハラって言って怒られるんだから! 無理矢理ダメ、絶対!」
「マジかぁ、世知辛い世の中だぜ……」
適当に入った裏路地の居酒屋だが居心地が良い。エネロマが雇われてから毎日来ているくらいだ。
「にしても……リファル様はどうしてあの人にあそこまで……」
「ん? 加藤の事か? そりゃ憧れだろ。止められなかったんだろ尊敬が」
「……ゴランドは分かっていない。本当に分かっていない」
「あん? 何が」
「そう、ですね……あれそう言うのじゃ無いですよね……はぁ……リファル様……」
「何だ何だ。教えろって」
「……わざわざ負け戦仕掛けさせたく無い。それだけ」
「ですよね……会合の時聞きましたけど……ウォルタリアで見ましたけど……無理ですよね……」
「「はぁ……」」
「なぁ女将。俺がダメなのかこれは」
「う〜ん。ゴランドちゃんにはちょっと難しいかもね〜」
そろそろ800歳を超えそうな俺にちゃん付けする獣人族の女将に尋ねてもボカされて終わった。男だの女だののアレコレはさっぱりだ。美味い料理を食って酒飲んで思考放棄しとくか……。