ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】   作:1パチより4パチ派

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是正された憧憬

 

 勇者──過去に何人もの勇者が存在したが、やはり世間一般的には初代勇者がメジャーになる。初代勇者の時代は戦争末期とは比べ物にもならない程の強さを持った者達が命のやり取りを続けていた。その中でも初代魔王……今の魔王とは似ても似つかないそれは、まさに厄災。同族である魔族すら使い捨ての駒にして人族を殺し続けた最悪の存在。物語の魔王そのものと言っても良い。

 

 初代勇者は仲間と共に戦い、相打ちとなった。その瞬間だけは、魔族すら喜んだとの事。どれだけ初代魔王に虐げられていたのだろう。それ程までに初代魔王は強過ぎた。恐らく今代の魔王も勝てないだろう。当然その戦いは、勇者の人生は物語として語り継がれていた。──私が人生で初めて手に取った本が、それだ。

 

「私が何故勧誘したのか、理由を話しても良いでしょうか?」

 

「え? あぁ……良いですけど……」

 

 突然こんな話をし始めて申し訳ないと思っている。だがやはり、彼はこのままではいけない。

 

「まず謝罪を。ウォルタリアの件での名声を横取りするような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

「あー、いや別に気にしなくても。リファルさん達が悪い訳じゃ無いし。ウォルタリアに行った動機も不純だったし……」

 

「不純……ですか?」

 

「いやその、仲間がウォルタリアでやらかして罰受けてたんすけど、それの尻拭いする事になって。そしたらウォルタリアが国難とかで、それ解決したら評判良くなるかなーって……」

 

「……そうだったのですね。やはり、加藤様は自分の風評を改善したいと」

 

「そりゃしたいですよ。さっきも一般人に引かれたし……社会復帰が遠のく……普通が……」

 

「であるのなら! 尚更私達【勇者の集い】に加入するべきです!」

 

「あの、近いんですけど」

 

「加藤様のお仲間を悪く言うつもりは微塵もありません。ですが今日の出来事を見るに、加藤様はだいぶお仲間に振り回されて居るのでは?」

 

「悪く言われても反論出来ないんですよね、事実だから。……そうですね。滅茶苦茶振り回されてます」

 

「このままでは加藤様の風評は下がるばかり! ですが【勇者の集い】に加入すれば──」

 

「リファルさん達が仲間に入れるくらいだからある程度は信用される……ですか?」

 

「その様に見える行いを日頃から心がけていると自負しています!」

 

 実際、私達の社会的信用は高いと言える。自惚れでは無く、今までの積み重ねによる物だ。

 

「勿論【自我中心】から抜ける必要はありません! 探索者が複数のチームに入るのは何も問題ありませんから!」

 

「まぁ……そうですけど」

 

「私も加藤様の印象が良くなる様お力添えします! 私達はよく様々な国から力を貸して欲しいと言われ、依頼として対処しています。加藤様もこの依頼を共にこなせば間違いなく社会的信用は上がります!」

 

「ちょ、ちょっとストップ──」

 

「丁度今は依頼がありませんが、加藤様の実力があればどんな依頼でも問題ありません! 災害派遣でも犯罪者逮捕でも! 是非【勇者の集い】に──」

 

「リファルさん」

 

 加藤様に名を呼ばれた。特に圧を感じた訳では無い。だがそれでも一度、沈黙しなければならない気がした。

 

「俺は良いっす。すいません」

 

「……」

 

「リファルさんが俺の為を思って言ってるのは分かってます。実際【勇者の集い】に入れば今よりはずっと風評は良くなるって」

 

「……では、何故ですか? 何故今を許容しているのですか? 理解出来ません……理解出来ません!」

 

 誤魔化そうとしていた感情が溢れてくる。身勝手な怒り。なんて愚かなんだろうか。

 

「過去に問題を起こしていたのは知っています! それで悪く言われるのは仕方ありません! ですが加藤様はそれを帳消しにする程の善行をしているではないですか! ウォルタリアの時、イージスアーマーを装備した竜人族! あの者を倒せなければ間違いなく街中にモンスターが雪崩れ込んでいました! いくらゲルダリア様とてあの数は無理でしょう! 貴方は! 首都アクアスの人々の命を救ったのです! なのに、なのに何の名声も得られない! あれだけの功績を成したのに! 貴方を悪く言う者達ばかり! 悪い所しか見ない者達ばかり! 良い所を見ようともしない!」

 

「……」

 

「そんなの、そんなの認められない! そんな理不尽あり得ない! だって、だって貴方は素晴らしい人なのだから! 人の為に泥を被れる人だから! 誰かの為に剣を握れる人だから!」

 

 私が会合で責め立てられた時。ウォルタリアの時。彼は決して世間が言う様な傍若無人が人型になったような人では無い。確かに己の欲望に弱いかもしれない。でもそれは誰だってそうだ。人や魔族であるのなら誰だって弱さを持っている。誰もが誰かしらに迷惑を掛けて生きている。決して彼だけの話じゃない。

 

「どれだけ言おうと誰も貴方の良さを分かってくれない! ウォルタリアの件は私達だけでは成し得なかったと何度も訂正したけれど誰も信じてはくれなかった! 結局王妃様から止められて、もう覆せなくなった! ……もう、嫌なのです。私が憧れて、羨んで、尊敬した人が悪く言われるのは。貴方の善行だけ蓋をされ続けるのは!」

 

 他者に迷惑を掛けたと言うのが事実ならば、誰かを助けたと言うのも事実の筈。同じ事実なのに、片方の面だけで人を評価する。そんなのは──間違っている。

 

「一時だけでも良いのです! 貴方が正しく評価されるようになるまでで良い! 間違いなく貴方は初代勇者の様に讃えられるようになる! お願いです、どうか加入を──!」

 

 頭を下げる。今日の様子を見るに、仲間の起こしたあれこれで加藤様が困っているのは明白。彼の仲間と関係を切れなんて微塵も思わない。ただ少しだけ、彼が正しい評価を受けるまで──。

 

「……リファルさん、ありがとうございます」

 

「え……」

 

 顔を上げる。加藤様の表情は初めて……いや、一度だけ、見たことがある。ウォルタリアから去る際に、セラフィナ様に向けていた様な穏やかな笑顔だ。

 

「俺が悪く言われてるって事でそこまで気にしてくれるのリファルさんだけですよ。セラフィナとかは気にすんなって感じなんで」

 

「……では」

 

「でもすいません。やっぱり無理です。確かに入れば俺の評判が良くなるかもしれないけど、逆にリファルさん達があーだこーだ言われかねませんよ。流石にそれは」

 

「わ、私達の事を気にしているのであれば杞憂です!」

 

「何でリファルさんが俺の事をそこまで評価してるかは分からないですけど……正直、妥当な評価だと思いますよ」

 

「ど、何処がですか! 昼に見ました! 加藤様の事を腫れ物みたいに──」

 

「腫れ物っすよ、そりゃ。一般の人からはまだそんなに知名度無いですけど、俺の事知ってる連中からしたら……ねぇ。散々やらかしてきたし。乱闘とか店出禁とか。敵増やしすぎたなぁ、はは」

 

「し、しかし! それは以前の事ではありませんか!」

 

「俺らに迷惑かけられた人達からすりゃ、そんなの関係無いですよ」

 

「──ッ」

 

「散々好き勝手やって、心入れ替えましたーなんて誰も信じない。俺だって多分信じない。だから仕方ない。受け入れなきゃならない物なんです、俺が真っ当になりたいって思うなら。……有言実行出来てるかは、少し怪しいですけど」

 

 確かに数年前、加藤様達の全盛期は凄かった。毎日の様にダンジョンに潜り、他探索者と揉め事を起こしていた。探索者全体が荒くれ者だらけと言うことを加味しても、問題のあるチームと言われていた。

 

「それに俺は他所の人達と組むつもりは無いんで。前みたいに一度だけとかなら構わないですけど」

 

「……どうしてですか? 今のお仲間の方々は今までも何度も問題を起こしていますよね……? 一時でも離れないと、いつまで経っても──」

 

「俺、アイツらの事好きなんですよ」

 

「……え?」

 

「この前医者に行った時、探索者休止してた時より元気になったって言われたんですよ。てっきりダンジョンに潜って宝箱開ける様になったからって思ってたんですけど……なんか、違くて。今思えば多分……高木やセラフィナと再会したから、なんじゃ無いかなって」

 

「……」

 

「性格ゴミのハゲ魔法使いも、暴力短気サキュバスも、インチキ詐欺共産神父も、産業廃棄物錬成バジリスクも、ショタコンスライムも死にたがり腹切りバカも。全員、俺の仲間で、俺の……大事な奴ら。俺が自分勝手に離れても寄ってくる様な大馬鹿連中だ。……何だかんだ、アイツら居ないと調子出ないんすよね」

 

 貶す様な呼び方でありながら、まるで大事な宝物を紹介する様な声色で。照れ臭そうに笑う彼を見て、私は凄まじい勘違いをしていた事に気付いた。

 

「(あぁ……貴方は例え仲間に妨害されようと、仲間と共に居たいのですね)」

 

 自分の側に居てくれたから。理由なんてそれだけでいい。……少し、分かる気がする。私もエネロマ達が居てくれるから今の私がある。離れるなんて考え、全く浮かばないほど。

 

「アイツらにはアイツらの考えとかやりたい事があるんだろうし、それをどうこう言うつもりは無いです。高木以外は俺の邪魔してるなんて自覚無いでしょうしね。まぁそれはそれとしてやらかしたらしばくけど」

 

「……お仲間の事、大切にしているのですね」

 

「大切にしないでほっぽいてから漸く気付いたって感じですけどね。篠目の件も本当は変な条件付けないで助けるつもりだったけど……アイツ加奈子さん怖がらせたからなぁ」

 

 彼は軽く笑った後、私に頭を下げてくる。

 

「と言う訳ですいません。お断りします。俺にはここがお似合いなんで」

 

「そ、そんな。私が謝らなければならないのに。勝手な事を言って申し訳ありませんでした。このお詫びは必ず……」

 

「いや要らない要らない。と言うか篠目の裁判に協力してくれてる時点でもう十分過ぎるんで……若干無理矢理感あったけど、まぁ、うん」

 

「お時間取らせて申し訳ありませんでした。失礼します」

 

「あー……じゃあ、また明日。お願いします」

 

「はい! それでは!」

 

 駆け足で彼から離れて、誰も居ない道を進む。私は彼を誰もが認める勇者であるべきだと思っていた。それこそ、初代勇者の様に。……でも違う。誰もが認める勇者では無い。本人もなりたいとも思っていない。だが彼を見て、彼と接して、彼に惹かれた者からは、勇者……いや、それ以上の存在になる。そう言う魅力があると、そう思った。

 

「リファル、満足した?」

 

「エネロマ」

 

 彼を勧誘したいと言う我儘を聞いてくれた彼女だが、どうやら私を待っていてくれたようだ。

 

「断られました。加藤様は……勇者では無かったようです」

 

「!!! そ、そうよ! その通りよ! 良かった〜漸く気付いてくれて! 彼にも迷惑だしね! そろそろね!」

 

「はい。勇者ではありませんでした。ですが……」

 

「ん?」

 

 私が憧れた人は、幼い頃に憧れた勇者の様に輝かしい人では無いのかもしれない。でも、それでも──自分を信じてくれる者を見捨てない彼への憧れは微塵も曇らなかった。

 

「加藤様はやはり──かっこいい人です!

 

「……ぬーん……」

 

 エネロマ。その可哀想な物を見る様な目をするのはどうしてですか?

 

◇ ◇ ◇

 

「……加藤さん」

 

 チームメンバーの人達をそんな風に思ってたとは思わなかった。……でも当然なのかもしれない。今の加藤さんが居るのは間違いなく彼等が居たから。

 

「ほんと、加藤さんって「素直じゃないっすよね〜〜〜」ヒャァァァァァ!!!

 

 背後から粘ついた声色が聞こえ、つい声が出てしまった。尻もちをつかなかったのは奇跡かもしれない。

 

「び、びっくりした……」

 

「いやぁすいません。何か隠れてたから、つい」

 

「と言うかいつの間に居たんですか。道路の修繕の時は来なかったのに」

 

「面ど──仕事が忙しかったもんでねぇ、ヘッヘッヘ」

 

 高木さんの顔は誰が見ても笑顔だ。勿論邪悪なが付いてくるけど。加藤さんをギアススクロールで騙し討ちした時と同じ顔。

 

「……いつから居ました?」

 

「さ・い・しょ・か・ら❤️」

 

「その手に持っているボイスレコーダーは」

 

「これ凄いんすよ。多少離れててもちゃんと録音出来るし、必要ない音声は弾けるんですよ!」

 

「……録音したのって」

 

「勿論加藤の俺らへの想いですけど」

 

「消しましょう!!!」

 

 高木さんの持っているボイスレコーダーに飛びつく。だが私程度が奪い取れる訳もなく、ひらりと身を躱わされてしまった。

 

「おっとっと! 何すか加奈子さん! どうして消さなきゃならんとばい!?」

 

「いやダメですって! あれは茶化して良い物じゃ無いですよ!」

 

「加奈子さんも盗み聞きしてたじゃないですか〜。俺だけ怒られるの理不尽〜」

 

「盗み聞きで満足してください! 分かってるんですよ! どうせそれチームの皆さんにばら撒くんでしょう!」

 

「当たり前だァァァァァ!!! こんな面白い物を仲間に共有しない!? あり得ない話! 爆速編集してアイツらに送り付けて、今後一生ネタにして遊ぶんだァァァァァ!!!」

 

「最低なんですけど!? 今に始まった事じゃないにせよ最低なんですけど!?」

 

「忘れてもらっちゃあ困りますねぇ! 俺はアイツの狂う所が大好き卍! この音声で弄ればアイツは絶対悶え苦しむ! あまりの羞恥心に! そんなの……絶対面白い!!!」

 

「仲間じゃない! やっぱりこの人仲間じゃない!!!」

 

「加奈子さぁん……お優しいのも良いですが残念! 貴女じゃ俺は止められないんすわ! ダーハッハッハ!」

 

 

ドンッ

 

 止まった。走り出した高木さんは止まった。何故なら──。

 

「ば、馬鹿な……俺の【消音(サイレンス)】は完璧な筈……! 加奈子さん含めて完全に音は消えていた筈……!」

 

「俺がその程度の隠蔽見抜けないと思ってるのか? 悲しいなぁ、悲しいよ高木ぃ……」

 

 修羅の顔をした加藤さんが仁王立ちしていたからだ。高木さんが本気でビビっている。顔中汗まみれだ。

 

「そしてもう一つ悲しい事がある……。俺は今日、大事な親友兼仲間を失うんだからな……」

 

「ま、まぁ待ってくれよ薄細応援団長。俺を待ってる仲間達が居る訳だ。アイツらはこの音声を今か今かと待ってる訳だ! だから見逃せ貧相女大好きマン!!!」

 

「お前を待ってるのは三途の川の船頭だァァァァァ!!!」

 

 

ヒュヒュヒュヒュヒュン!

 

「あっぶねぇぇぇ! お前今マジだったろ! マジで首狩り族で世界デビューする所だったろ!」

 

「うるせぇ! 首置いてけ首ィ! いや命をここに置き配しろォォォ!」

 

「悪いがこれは俺の使命だ! 待ってろみんな! 今Uberするからなぁぁぁ!!!」

 

「逃すかァァァァァ!!!」

 

 嵐のように去っていった2人を眺めながら、誰に言う訳でもなく、私は呟いた。

 

「汚いトムとジェリー……」

 




結局聞かれた結果

セラフィナ…「ふーん……」と口では素っ気ないが普通にニヤケているのをロールに指摘されてキレる

鶴岡…変わらぬ笑顔で何度も頷く

オピス…自分用だけ音質改善して定期的に再生する

ゲルダリア…喜びながらも率先して加藤を煽りに行ってしばかれる

篠目…【自主規制】
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