信じられる君のために、俺は仲間さえ支配する   作:雨風 時雨

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今回は世界観の説明が主になってきます
短めです


血と盟約の世界 

 この世界は、精霊の吐息によって形作られている。

 光と闇、火と水、風と土――万物に宿る超常的な存在。それが精霊。彼らは世界の理そのものであり、本来、定まった形も意思も持たない、純粋なエネルギーの流れに過ぎない。

 

 人間の中には、ごく稀に、その流れに干渉し、奇跡の一端を汲み出す「魔法」の才能を持って生まれる者がいる。だが、それもまた希少な才能であり、彼らは国家にとって重要な資産となる。

 

 そして、その魔法使いたちの中に、ごく一握り、奇跡的とも言える確率で、精霊そのものと魂を共鳴させ、相互依存の契約を交わす者が現れる。

 

 精霊は、人間が持つ「魔力」を器とすることで、この世界に確かな形と個を得る。人間は、精霊の根源的な力を直接借り受けることで、単なる魔法とは一線を画す、概念さえも捻じ曲げるほどの絶大な力を顕現させる。

 その伝説級の存在こそが、「精霊使い」。

 

 一人の精霊使いの力は、時に一軍に匹敵し、戦局を覆し、国家の運命さえも左右する。故に、この大陸の歴史は、常に精霊使いたちの血によって彩られてきた。

 

 かつて、この大陸は「悲嘆の大戦」と呼ばれる、百年に渡る戦乱の時代にあった。

 

 各国が、自国の精霊使いたちを絶対的な兵器として戦場へ送り込み、その力は凄惨を極めた。天を焦がす劫火、大地を裂く地震、全てを呑み込む大津波。都市は消滅し、文化は失われ、数えきれない命が憎しみの連鎖の中で散っていった。

 

 大陸全土が、回復不能なまでに疲弊し、共倒れの未来を悟った時、諸国の王たちはようやく重い腰を上げた。

 

 終わりなき消耗戦を断ち切るための苦肉の策――それが、四年に一度開催される若き精霊使いたちによる代理戦争《天覧精霊戦(アストラル・ウォー)》の制定であった。

 

 これは、全面戦争の代替行為。国家の威信と未来、そして領土や資源といった実利を賭けた、世界最大の「祭典」にして「戦争」。

 

 なぜ、血気盛んな若者たち、それも十八歳に満たない少年少女がその担い手に選ばれたのか。それには、いくつかの理由があった。

 

 1つは、魔法的な要因。若く、純粋な魂ほど、世界の理たる精霊と深く共鳴しやすい。特に、感情が豊かで多感な時期は、精霊の力を爆発的に増大させる可能性を秘めているからだ。

 

 そしてもう1つは、政治的な理由。「悲嘆の大戦」の反省から、凝り固まった思想や根深い憎悪を持つ大人たちよりも、まだ何色にも染まっていない若者たちの方が、「代理戦争」という厳格なルールの下で戦いを遂行できると判断されたためである。彼らは、未来を担う希望であると同時に、国家の思惑通りに動かしやすい、都合の良い駒でもあったのだ。

 

 この盟約に参加する、大陸の覇権を争う6つの大国は、それぞれが全く異なる文化と理念、そして精霊に対する価値観を持っていた。

 

 1つは、月城辰也が所属する**《神聖アインヘリアル皇国》**。

 皇帝を絶対君主とする、大陸随一の軍事国家。伝統や血統よりも「結果」と「効率」を重んじる徹底した実力主義を国是とする。彼らにとって精霊使いとは、国家を勝利に導くための「兵器」であり「戦略資源」。その育成過程は冷徹を極め、最も効率的に敵を殲滅できる能力が至上とされる。

 

 1つは、皇国の宿敵である**《アルビオン王権連合》**。

 古き血統を持つ王侯貴族たちが治める連合国家。騎士道精神を重んじ、精霊との契約は「血統」によって受け継がれる神聖な義務と考える。彼らにとって精霊使いとは、国を守護する「騎士」であり、その力は高貴な血の証。正々堂々とした一対一の決闘を是とする、良くも悪も古風な気質を持つ。

 

 1つは、新興の**《シッラ共和国》**。

 王政を廃し、民による議会政治を行う唯一の共和国。歴史が浅い分、旧来の価値観に囚われない柔軟な思考を持つ。彼らにとって精霊使いとは、国家の発展に貢献する「才能」であり、その力は個人の能力として最大限尊重される。情報戦や心理戦を得意とし、勝利のためならいかなる奇策も厭わない合理主義者たち。

 

 1つは、隔絶された東の**《天山諸国連合》**。

 険しい山脈地帯に点在する、尚武を尊ぶ戦闘部族たちの連合体。自然との共存を重んじ、精霊との契約は過酷な自然環境を生き抜くための「生存術」と捉える。彼らにとって精霊使いとは、部族を率いる「戦士長」であり、その力は個の強さの象徴。洗練された戦術よりも、荒々しく、本能的な個の戦闘力を信奉する。

 

 1つは、南方の砂漠を支配する**《ヘリオポリス首長国》**。

 莫大な富を背景に、強大な王が君臨する砂漠の王国。灼熱の太陽や砂嵐といった、他に類を見ない過酷な環境に適応した、独自の精霊文化を持つ。彼らにとって精霊使いとは、王家に仕える「魔術師」であり、その力は一族の繁栄を約束する秘術。閉鎖的で、その力の詳細は厚いヴェールに包まれている。

 

 そして最後の1つが、大陸の信仰を束ねる**《聖法庁ヴィンランド》**。

 唯一神への信仰を教義とする、大陸最大の宗教国家。彼らにとって精霊とは、神が遣わした「天使」あるいは「悪魔」であり、契約者は「聖人」か「異端者」のいずれか。その力は、神の威光を示すための「奇跡」であり、狂信的とも言える結束力と、殉教さえ厭わない精神的な強さを持つ。

 

 これら6つの大国は、来る《天覧精霊戦》のために、国内最高の才能を持つ少年少女たちを幼い頃から見つけ出し、特別な教育機関へと送り込む。

 それは「学園」という名の、代表の座を巡る熾烈な国内選抜予選会場であった。

 学園に集められるのは、いずれも魔法の才能を認められたエリートたち。しかし、その中でも明確な階級が存在する。大多数は、精霊と未契約のまま、己の魔力だけで戦う「一般生徒」。そして、ほんの一握り、すでに精霊と契約を済ませた、選ばれし者たち――「契約者」。

 学園は三年制。毎年、厳しい選抜を潜り抜けた新入生が門を叩き、三年間の過酷な競争を経て、一握りの卒業生が「国家代表候補」としての資格を得る。

 そして各国は、四年に一度の《天覧精霊戦》の開催年に合わせ、直近の卒業生の中から最強のチームを選抜し、戦場へと送り込むのだ。

 

 

 

 月城辰也が、皇国霊術院管理局の影山に拾われたのは、十二歳の冬だった。

 血と絶望に染まった故郷を捨て、全てを失ったあの日から、彼は学院の門をくぐるまでの三年間、影山の用意した隠れ家で、特別な予備教育を施されてきた。それは、教育という名の「調教」に近かった。

 

 過去の戦闘記録の分析、心理学、人心掌握術、そして、自らの感情を殺し、目的達成のためだけに思考を最適化する訓練。彼は、この三年間で、か弱い少年から、冷徹な戦略家へと、その魂の在り方そのものを変質させていた。

 

 そして、十五歳になった春。

 

 辰也たちの世代が卒業する三年後に、奇しくも次回の《天覧精霊戦》が開催される。つまり、彼らは最も注目され、最も過酷な競争を強いられる「当たり年」の世代として、学院の門をくぐることになったのだ。

 彼がこれから足を踏み入れる**《皇国霊術学院》**もまた、その過酷な代表選抜を行う、アインヘリアル皇国が擁する機関の1つ。

 

 ほとんどの生徒が、国家への忠誠と、栄誉のために戦う中、精霊使いであることを隠している辰也は、ただ一人、冷徹な瞳で頂点だけを見据えている。

 彼の目的は、祖国の勝利ではない。

 この狂ったシステムの中で最強の駒となり、誰にも脅かされない絶対的な権利を勝ち取ること。

 

 それは、この血と盟約で塗り固められた世界で、唯一信じられる存在――ルミナを守り抜くための、彼だけの歪んだ聖戦であった。




次回から学園編になっていきます
明日にでも投稿したいな 
ってことでまた!
ここまで読んで頂きありがとうこざいます
引き続き投稿の方頑張って行きますのでよろしくお願いします!
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