超人JUNO:最強の女ヒーロー   作:祐。

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『超人JUNO』の誕生

 全裸の女性がひとり、ホテルのベッドルームに佇んでいた。

 

 179cmの身長である彼女は、滑らかな色白の肌を持つ絶世の美女だ。腰辺りまで伸ばした乳白色の長髪を分厚く束ねたポニーテールにしている。黄金比のプロポーションは人類が思い描く理想そのものであり、恵まれた肉体美は天から眺める神をも魅了する。その神々しい佇まいから、彼女は『神話の絵画に登場する女神』が如き存在感を放っていた。

 

 夜を迎えたベッドルームに照明はなく、大きな窓から降り注ぐ月光が部屋を仄かに照らしていた。女性は全裸であるにも関わらずカーテンを開けっ払っており、6階の高さから大都市の夜景と向かい合っている。

 

 ベッドの上に置かれたランジェリーの上下とスマートフォン。ランジェリーは、紅い薔薇の刺繍が施された黒色レースのブラジャーとショーツで、脱ぎ散らかされている。その隣でスマートフォンも無機質に鎮座していたが、直にも振動と共に着信を知らせ始めた。

 

 女性が端末へと歩み寄り、右手で持って応答する。耳にあてがい、羞恥を感じさせない堂々たる佇立の女性は、次にも陽気な男性と会話を交わした。

 

『よーぅ、ユノちゃん! 本日は残り僅かながらお日柄も良く、麗しい月夜の下、ご機嫌は如何なものかな?』

 

「余計な口上による野暮な口説きは不要よ。用件のみを伝えてちょうだい」

 

『あちゃー、今回のアプローチもダメか~! オレちゃんという魅力あふれるモテ男に迫られながらも動揺すら見せねェで華麗にいなし切るその裁量、さすがはユノちゃんだぜ』

 

「駄弁を披露するだけの通話なら、他をあたりなさい。それじゃあ私はこれで」

 

『あァ待て待て!! 冗談!! 冗談だって!! 半分は!! ちゃんと用事があって連絡したモンだからよ、どうか切らないでくれ!!』

 

「…………」

 

 ユノと呼ばれる女性は、呆れたように首を傾げながら会話を続けていく。

 

「それで、用事とは何かしら」

 

『“仕事”の話さ。送った座標の場所に“百鬼(ひゃっき)”の群れが現れた。ヒーロー連中も手を焼く程の強力な個体だ。ユノちゃんの力が要る』

 

 ユノは通話をスピーカーに切り替え、ベッドの上にスマートフォンを置いた。それからランジェリーのショーツを手に取り、脚に通して履きながら返答する。

 

「その案件、直ちに引き受けましょう」

 

『恩に着るぜ。今回は政府直々からのお達しだ、報酬も期待できる』

 

 ベッドの上に乗っていたブラジャーも拾い上げ、身に着けていく。

 

「貴方の組織からも有力な人材を派遣できたでしょう?」

 

『ユノちゃんとしても、そろそろ稼ぎたい頃合いだったろ?』

 

「気を利かせてくれたの? 優しいのね」

 

『へへっ、そのお礼としちゃァなんだが、この後オレちゃんと食事にでも』

 

「今日は美容の都合で予定が埋まっているの。ごめんなさいね」

 

『なんてこった、またフラれちまった……。でも、今夜のケアでユノちゃんがもっと美しくなれるんなら、オレちゃんとしても嬉しい限りだぜ……っ』

 

 ランジェリーを着用したユノはスマートフォンを手に持って、耳にあてがっていく。

 

「これから現場に急行するわ」

 

『おう! 今回の仕事も頼んだぜ』

 

「えぇ、それじゃあ」

 

『ユノちゃん』

 

「?」

 

『無茶だけはすんじゃねェぞ』

 

「ありがとう」

 

 ユノの穏やかな返答を最後に、通話は途切れた。

 

 

 

 

 

 文明化が進んだ異世界。地平線まで続く陸地には無尽蔵の建物が立ち並び、照明による光の群れを成して地上を覆っている。

 

 大都市『龍明(りゅうめい)』。街を上空から眺めた際、地上の照明が(ドラゴン)のように連なる光景から名付けられた地域だ。西洋風の建築物に極東の文明が合わさった様式が特徴的であり、その景色が12,000㎢の広範囲にも及ぶ。

 

 今、その大都市『龍明』で事件が起きていた。人類の敵であり、忌まわしき生物“百鬼”の群れが大都市の一部に脅威をもたらしている。

 

 レンガ舗装の開けた広場。襲撃を受け阿鼻叫喚が展開されるその空間にて、1人の女性が躓いた。洒落たサンダルが足からすっぽ抜け、地面に転がる。体勢を崩した女性が膝を着くと、背後からは(しわ)のある生白い人型の生物が接近してきた。その生物の身体は絡まった(つる)のような形状を部分的に成しており、器用に人型を象りながら二足歩行で女性に駆け寄ってくる。

 

 迫る異形“百鬼”に、女性は悲鳴を上げながらその場で(すく)んだ。絶体絶命を直感で悟り、萎縮したまま涙を流す。だが、間もなく降り掛かる致命的な暴力に怯えていると、ふと百鬼が立ち止まって見上げていることに気が付いた。女性は顔を上げて視線を後方へと投げ掛けると、そこには煌々と輝きを放つ満月を背に、時計塔に佇む1つの人影を目撃した。

 

 乳白色の分厚く束ねたポニーテールを揺らし、両手に力を滾らせた佇まいで逆光のシルエットを映し出す存在。深紅のコートを(なび)かせて、女性的な胸の曲線を描いた黒色のシャツと、長い脚を一層と強調する黒色のボトムスが黄金比のプロポーションを浮き上がらせていた。膝丈まである黒色のブーツを履き、両腕には漆黒と鮮紅のガントレットを装着し、顔面にはジャック・オー・ランタンを想起させる黒色の仮面が嵌められている。仮面の目と口は不気味に赤く光っており、“それ”は異質な存在感を放ちながら地上を眺めていた。

 

 今も同様の姿をした無数の百鬼が広場で暴虐を尽くす中、“それ”は天高く跳躍して飛び出した。着地地点は躓いた女性の近く。降り立つと同時に砲弾が着弾したかのような衝撃を伴い、その轟音は周囲の百鬼を引き付ける。着地の衝撃を受けて女性が地面を転がるものの、彼女が顔を上げて状況を確認した瞬間には、“それ”による百鬼との戦闘が始まっていた。

 

 立ち尽くす百鬼へと、瞬時に距離を詰めた“それ”。懐に潜り込み、装着したガントレットの右腕で高速のボディブローを繰り出す。拳を食らった百鬼は理解よりも先に破滅を迎えた。ボディブローは振り抜かれて百鬼の身体が僅かに浮かび上がり、そこに左のストレートが腹部に叩き込まれたことで百鬼は一直線に後方へと吹き飛ぶ。

 

 広場の中央にあった噴水を貫通し、落ちることのない速度と高度のまま向かいの建物を突き破った。目にした光景に周囲の百鬼は(たちま)ち戦闘態勢へと入り、“それ”へと襲い掛かる。

 

 ゆらりと動く、仮面を着けた“それ”。数歩と進んで不敵に姿勢を下げるや否や、地面を蹴り出すと同時にして深紅の残像を空間に描きながら飛び出していく。

 

 百鬼の眼前に現れ、拳を主体とした体術で百鬼を打ち倒す。常人の視覚では捉えることのできない音速の移動と攻撃。その速度から繰り出される無数の拳と破壊的な威力の応酬。襲い来る百鬼が攻撃を繰り出そうとも、“それ”は回避して反撃の一撃を食らわせてしまう。地上を滑るような残像と驚異的な跳躍が織り成す機動力は縦横無尽の言葉に相応しく、正面、背後、頭上、真下、ありとあらゆる角度、方向から不気味な仮面の“それ”が現れては、破壊的な殴打を繰り出して破滅をもたらすという様相を展開していた。

 

 1体、また1体と百鬼は“それ”の拳に討ち破られた。ある者は後方へと飛ばされて建物に埋め込まれ、ある者は粉々に砕けて肉片へと姿を変えていく。ある者は上半身を吹き飛ばされて無残に散り、ある者は地面を引き摺り回され、竜巻が如く振り回され、叩き付けられて地面に突き刺さる。

 

 百鬼からすれば、悪夢のような有様だった。次第と“それ”に恐れを抱いた百鬼が足を止めて様子を伺い始めた中、一回りと大きな百鬼が“それ”へと飛び掛かった。全長は3m、肉体も二回り、三回りと大きく巨漢のような百鬼だった。その拳が“それ”へと振り抜かれるが、巨漢の百鬼が繰り出す攻撃を“それ”は軽快な動作でくぐるように回避すると、次にも立ち止まって余裕の素振りを見せ始めた。

 

 腕を組んで、堂々とした佇まいで見下ろしてみせる。これに巨漢の百鬼が再び拳を振り抜くと、“それ”はまたしてもくぐり抜ける動作の後に余裕を見せた。今度は右手をうちわのように扇いで涼んでいく。これに巨漢の百鬼はどことなくムキになっていくと、次は無いと言わんばかりに広範囲に渡る両拳の殴打を繰り出してきた。

 

 横殴りの雨を思わせる、隙間の無い連撃。“それ”は攻撃と直面すると、直後にも音速の機動力で連撃を左右に避け始めた。針の穴に糸を通すかのような繊細な立ち回り。その中に余裕を醸し出す扇情的な回避は巨漢の百鬼に一層ものパワーを引き出させるが、そこから生じた大振りな一撃の僅かな隙を見た瞬間、“それ”は百鬼の拳を難なく弾き返してみせた。

 

 ガントレットに弾かれた百鬼は身体を大きく仰け反らせる。この時だけ、時間の流れが遅く感じられた。スローモーション中に垣間見た“それ”の姿は悠然であり、絶対的な格差を思い知らせてきた。

 

 無音の中、“それ”は一歩を踏み出す。その一歩は何気無く、力強かった。次にも“それ”の姿が消え、百鬼の懐に接近した。引き絞られた両腕から、コンマ1秒後に起こる出来事を容易く予想できた。

 

 先程の殴打を遥かに凌ぐ、絶望的な拳の連打。落下中に砕け散った隕石が一斉に降り掛かってきたかのような衝撃が百鬼を殴り付ける。

 

 大気は張り裂け、空間が歪み出す。無言のラッシュは数十もの拳の残像を打ち出して巨漢の百鬼を満遍なく殴り付け、トドメの右アッパーで“それ”が飛び上がると同時にして巨漢の百鬼は跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 “それ”が着地して、顔を上げる。視線の先には残党の百鬼がおり、彼らは間もなくしてその場から逃げ出した。

 

 周囲の建物からは人々が姿を見せ始める。再び取り戻した平和に一件落着の空気が漂う中、躓いたまま呆気に取られていた女性の下へと“それ”が歩み寄る。

 

 “それ”は、落ちていた洒落たサンダルを拾い上げ、女性へと手渡した。その際に右手を差し伸べて立ち上がる手伝いをし、左手を背中に添えるなどして女性を丁重に扱うと、次にも女性の方から言葉を投げ掛けてきた。

 

「あ、ありがとうございます……っ! 助けて頂いた……んですよね?」

 

 “それ”は無言で頷いていく。長身の“それ”に女性は圧倒されながらも、段々と戻ってきた平常心と共にして言葉を続けた。

 

「あの、ご活躍はニュースとかで拝見しているので、そのご本人と会えたことを嬉しく思います。ただ、名前をみんな知らないみたいで、周りは『紅の暴風』とか『破壊の化身』とか呼んでいますけど……よろしければ、お名前とか伺ってもいいでしょうか?」

 

 女性の問い掛けに対して、“それ”はしばらく悩み始めた。佇立する“それ”の存在感に、女性はまだ緊張混じりに対面していた。直にも“それ”は閃いたと言わんばかりに両手をポンッと打ち付けると、付近に落ちていた誰かのスマートフォンを拾い上げ、メモ帳を開いてガントレットの爪先で何かを入力しながら、その画面を女性に見せていく。

 

「……『JUNO(ジュノー)』、ですか?」

 

 こくこく。“それ”は頷いていく。肯定のジェスチャーを確認した女性は直にも表情を明るくすると、次にも両手でガントレットを握りしめながら納得したようにその返答を行った。

 

「……JUNO(ジュノー)さん、ありがとうございます! 救われた恩は一生忘れません! これからずっと推していきます! なので、これからも頑張ってください! 応援しています!」

 

 

 

 JUNO(ジュノー)という名は、後にも大都市『龍明』全体に知れ渡った。この瞬間により、『超人JUNO(ジュノー)』が誕生した。

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