つまりは衝動のままにキーボード叩きまくったってだけ。プロット? 知らない子ですね
夜。それは人間にとって恐れるべき時間帯である。
未だ人間の生活圏が安定しなかった時代においては、夜行性の獣たちは恐怖の対象だったであろう。街灯が並び獣による被害が消えて幾久しく経った現在においても、人目を避けるならず者たちが活動を開始する夜間は、そう人々が軽々しく出歩けるものではないままだ。
ではその認識は海上においてはどうだろうか? 様々な想像がされるだろが、実際の所、夜が恐怖される時間であるというのは海の上であっても変わらない。
意外と思う者もいるだろう。世はまさしく大海賊時代。ゴールド・ロジャーの処刑からこちら、航海に乗り出す若者は後を絶たず、海にて名を上げる海賊の数も増えるばかり。海はならず者の住処であり、夜こそが彼らの本領と捉えられているのかもしれない。
しかしそれは間違いである。視界を遮る夜の暗闇は、容易く岩礁や暗礁を船員の目から隠してしまう。船やクルーにどれほどの信頼を置いていたとしても、海難事故を避けるためならば夜間の航海は慎むべきであろう。
また、大海賊時代と称される時勢も問題だ。広大な海とはいえ他船との出会いが皆無というわけではない。海賊と海軍が出会えばもちろんのこと、海賊同士の出会いであったとしても戦闘に突入することは少なくないのだ。
夜間の戦闘。視界が限定されたそれは混乱を発生させ、時に同士討ちを引き起こす。クルーを無闇に失う羽目になりかねない。
結論、夜とは自由の象徴ともされる海賊であったとしても、不自由を強いられる時間であるといえるだろう。
そんな、月も中天に輝く夜間のことである。場所は世界の中心を走る偉大なる航路、グランドライン。その海の上で戦闘の音が鳴り響いていた。
音の出所はあるガレオン船。ドクロのマークを帆に掲げた海賊船である。
怒号が轟く。悲鳴が響く。鉄を打ち合う剣戟の音、火薬の爆ぜる炸裂音。裂帛の気合いが、断末魔の絶叫が、暗い夜空に鳴り響いていた。
「チクショウ、ふざけた真似を!」
そう悪態をついたのは巨漢の男。懸賞金額七千六百万ベリーの賞金首でもあるガジアスが傷ついた部下を背後に庇い、巨大な西洋剣を油断なく構えていた。
「ふざけた真似、ねぇ? こんなもの、ただの掃除だろ? 海のクズども」
対峙するのは黒のスーツに海軍のコートを羽織る、未だ少年といっていいような年齢の男。倒れ伏した海賊たちの中心で、雨も降っていないというのに真っ赤な傘を差していた。
しかしその赤は染められたものではない。青年が傘を畳みクルリと軽く振るえば、傘から甲板へと赤が飛んだ。
「血の雨降らせて己は濡れず。やっぱりふざけた真似だなぁ、『血傘』のグノー。たしか階級は海軍本部の中佐だったか?」
「へえ? 俺の名前まで知ってるとは、クズにしては中々に博識じゃないか。ただし中佐じゃなく大佐だ。つい先日昇進したんでな」
「そいつはめでてぇな。祝いにさらに二階級特進させてやるよッ!」
気合と共に一閃。ガジアスの持つ大剣が奔るが、
「億にも届かねえクズの首じゃあ、特進どころか昇進すら無理だわなぁ」
小馬鹿にしたように笑うグノーの傘に阻まれた。
二度、三度と剣と傘がぶつかり合う。月明かりを受けた剣が銀色の線をつくり、闇色の傘とぶつかりあうたびに火花を散らせていた。
押しているのはガジアスだった。両手で振り回す身の丈ほどもありそうな大剣と、見るからに軽そうな傘。ぶつかり合えば当然大剣が押し勝ち、傘で受けるグノーは時に体勢を崩すこともあるほど。
しかし決め手にはならない。その武器の重量からガジアスの手数はどうしても少なくなる。グノーの体勢を崩し隙を作ったとしても、その隙につけ込むための次の一撃が間に合わないのだ。
故にガジアスは次の一手へと移る。
「ウ、ォオオオオオオオオオオオ!」
大剣を振り回していた子供の胴体ほどもある両腕がさらに膨張する。メキリ、ビキリと音を立てて筋肉が肥大化していくとともに、次第に金色の体毛がガジアスの全身を覆いだした。
「
ブシューと荒い鼻息を吐き出したガジアスに対しグノーは問いかけた。ただでさえ膂力の差で押し込まれていた相手が身の丈三メートルを超える巨大さになったというのに、焦るどころかどこか楽しげな声色を響かせて。
「おう! ウシウシの実・モデル『ラクダ』を食ったラクダ人間だ! パワーとスタミナにかけちゃ
ガジアスの繰り出す大剣の速度が増す。それまでは大剣の重量とそれによって生まれる遠心力で叩きつけられていたのが、今ではまるで小枝を振り回すかのように自由自在に振り回されている。
「
巨大な西洋剣から繰り出される剣技は最早暴風も同然だった。その速度は、大剣とは比較にならないほど軽いはずの傘を操るグノーを凌駕し、そしてついに、
「ぉあ?」
一閃。傘による防御をすり抜けて、ガジアスの大剣がグノーの上半身と下半身を分断した。
「バッハッハッハッハ!」
ゴトリと音を立てて崩れ落ちたグノーの上半身にガジアスの笑い声が降り注いだ。
ガジアスとしては勝利の余韻に浸りたいところでもあるのだろう。しかしガジアスは一剣士である前に船長でもあった。グノーによって殺されたクルーたちにどうしても意識を持っていかれる。
「チクショウ! クソガキめ、好き放題暴れやがって! テメエら、大砲の準備をしろ! コイツラへの手向けだ! 海軍の船を火だるまにして――」
しかし、ガジアスの言葉はそこで止まる。見れば金の体毛で覆われたガジアスの首に手のようなものが掴みかかっていた。
「いい腕だ。まさか真っ二つにされるとは思わなかったよ。だが、俺ごときを殺しきれないようじゃ『鷹の目』越えなんざ無理だなぁ」
真っ二つにされたままのグノーが倒れ伏したまま心底おかしそうにそう笑っていた。そしてグノーが笑うごとに、切断面がだんだんと霧へと変化し、立ったままだった下半身へと移動していっていた。
「テ、テメエも、悪魔の、実、の、まさか、
首を絞めつけられながらもガジアスが唸る。やがてグノーはガジアスの首を掴んでいる左腕が無い以外元通りとなっていた。
「前半は正解だ。俺もまた、悪魔の実の能力者。しかし後半は不正解。俺の食ったのは
そこでグノーはおもむろに頬を拭った。先ほど倒れ伏した時に付いたのだろう、甲板を染め上げた海賊たちの血液が指を赤く汚していた。
一瞬それを見つめたグノーだったが、次の瞬間指に付いた血を舐め上げた。レロリ、そんな音が声を失っていた海賊たちの耳に響く。
「俺が食ったのはヒトヒトの実。
グノーは落としていた傘を拾い上げる。昼間においては日光を遮り、戦闘においては戦艦の主砲を受けても穴ひとつ開かないとされるDr.ベガパンク製の傘を。
「ま、今さら知ったところでどうしようもないんだけどな。貴様らクズは、このアルカード・グノーへの恐怖だけを憶えて死んでいけ」
グノーが傘を構える。そして、
「指銃・槍破」
一撃。ただの一撃で全ては決まった。
傘がまるで槍のように突き出され、それがガジアスの胸を中心に穴をあけた。鍛え抜かれた海賊の胸筋も、悪魔の実によって得られた野生の鎧も、なすすべもなく貫かれていた。
涙交じりに船長の名を呼ぶ海賊たちの声をしり目に、グノーはガジアスを放り捨てる。
「さて、残りのゴミ掃除もやってしまうか。あぁ、めんどくせぇ」
そして、再びの蹂躙が始まった。
◆
海賊たちの討伐を終え、カンテラによる合図を仲間である海軍の軍艦へと送りながら、俺ことアルカード・グノーは内心溜息をついていた。
(こ、今回も生き残れてよかったー。ってか百人以上いなかったか? しかも船長は悪魔の実の能力者だったし。いくら俺の能力が夜戦特化だからって一人で突っ込ませられるような戦場じゃねえだろ。さすがに死ぬかと思った。なんかあいつの剣が十字架っぽかったせいか動きにくかったし)
思い返せば最近こんなことばかりの気がする。
そりゃ夜戦ってのは非常にハイリスクな戦いだ。目測しにくいから砲撃戦はしにくいし、同士討ちだって頻繁に起こる。船ぶち当てて総員戦闘なんて狂気の沙汰だ。だからどうしても夜に戦闘に入るってんなら俺みたいなのを少数投入するってのは正しいんだろうけど。
(だからって単騎突撃はねぇよなぁ。もしかして体のいい捨て駒扱いされてたりすんのか?)
思えば悪魔の実を食べてから全部がおかしくなったような気がする。
俺は元々孤児だった。今の時代、それはそう珍しいことでもない。なにせ大海賊時代なんて渾名されるようなイカレた時代だ。海賊の襲撃で破壊された村なんて山ほどあるし、俺みたいに海賊に家族を殺されたガキだって腐るほどいる。
そんな孤児の中じゃあ俺はまだマシな方だった。路頭に迷うことなく世界政府の直轄機関に拾われたのだから。
俺はそこで訓練を受けていた。世界政府直属の諜報機関、サイファーポール。そこの構成員育成所でだ。
自分で言うのもなんだが努力はした方だし才能もあったと思う。サイファーポールのメンバーでも一握りの者しか会得できないとされる超人的体術『六式』もマスター出来たのだし。同年代でマトモに俺と張り合えたのなんて同期のロブ・ルッチくらいなもんだった。
いずれはサイファーポールの中でも幻の九番目に配属か、なぁんてルッチと一緒に言われたもんだ。
(だっていうのに海軍だもんなぁ。しかも消耗品みたいな扱いされてるし)
道が外れたのはやっぱり悪魔の実を食ってからだろう。
ある時世界政府が入手した二つの悪魔の実。図鑑にも載っていなかったそれらは、将来性を見込まれてか俺とルッチの元へ来た。
『悪魔の実の能力者は海に嫌われる』『しかしそのデメリットを打ち消して余りある強さを手に入れる』 そう聞かされたから拒否することもなく食べたというのに。
(ロギアより珍しい幻獣種、それだけなら大当たりもいい所だっただろうけどな)
モデル『ヴァンパイア』。並みの
それは『ヴァンパイア』の伝承にもある弱点の数々。日光が弱点。ニンニクも弱点。十字架も弱点。挙句の果てには招かれないと他人の家に入れない。
能力を発動していない『人型』の時には大抵の弱点は弱まるんだが、それでも完全に消えてるというわけでもなく、日光を浴びれば火傷したみたいになるわ、ニンニクの匂いには鼻が曲がりそうになるわで。
(招かれないと家に入れないのなんて諜報員としては最悪だもんなぁ。そりゃCPにもお断りされるわ)
一緒に悪魔の実を食ったルッチの方はネコネコの実モデル『レオパルド』だったか。肉食系の
と、いろいろ考えてる間に海軍の軍艦の接舷が完了したようだ。続々と海兵が乗り込んできた。
そして、俺を海賊船へと突っ込ませた上司も。
「いや~ご苦労さん。やっぱり夜戦はグノー君の独壇場だねぇ~。今回はキミ一人にまかせっきりにするにはキツイかとも思ってたんだけどねぇ」
そう思ってんなら一人で行かせんなよ! なんて絶対に声には出せない。
「はっ。恐縮です。ボルサリーノ中将」
というのもこの上司、ボルサリーノ中将は俺の天敵だからだ。
ボルサリーノ中将。『黄猿』の異名で知られるこの中将はピカピカの実を食べた光人間。太陽光を弱点とするヴァンパイアにとっては天敵もいい所。近くでピカッとされるだけで勝手にダメージを喰らう俺だったりする。
そんな天敵の部下に押し込まれてる辺り、海軍が俺のことをどう思ってるかは察せるというものだ。
(俺、なんか悪いことしたかなぁ。CPには就職前にお断りされたんで世界政府の機密とか持ってるわけでもないし、口封じってことはないだろ? 一般市民や仲間の海兵から吸血したこともないし。献血用の輸血パックとかはたまに貰ってるけど、無断で拝借してるわけじゃないもんなぁ)
だというのにこの扱い。やはり吸血鬼のイメージが悪すぎるのだろうか?
「相変わらず硬いね~。ま、世界政府のお役人志望だったんだし、しょうがないのかもしれんけどねぇ~」
役人。まぁ表向きは役人、……か? 諜報機関の諜報員って。あれってなんなんだろ? 公務員?
「それにしても殺しも殺したりだねぇ。息のあるのが何人いるかねぇ~」
「はっ。生け捕りが望ましかったでしょうか?」
「いやいやぁ~。上が公開処刑をしたがってるなんて噂もあるけどねぇ。小粒な海賊だったしねぇ、どうせ生け捕りにした所でインペルダウンにぶち込んで終わりでしょ。わっしは殺しちまってもなんの文句も言われんと思うよぉ~」
そんな噂あんのかよ。俺聞いたことないんだけど。
……別に噂話するような友達がいないとかじゃないし! CP関係者なら仲良い奴だっているし!
「ところでグノー君、『お食事』は済んだのかねぇ~?」
「はっ。いいえ、『食事』はしておりません」
「そうかい? そんじゃまあ、ちゃちゃっと済ませてしまうといいよぉ~。わっしらは息のあるのを連れて船に戻っとくかんねぇ~」
そう言うと中将は海兵とともに軍艦へと戻って行った。
『食事』 言うまでもなく『吸血鬼としての食事』である。つまり中将は殺した海賊たちの血液で好きなだけ腹を満たせと言ってくれたわけだ。
もしかしたらそれは厚意によるものなのかもしれない。ありがたいことなのかもしれない。だが、
(あぁヤダヤダ。飲みたくねぇなぁ)
この場合は有難迷惑という奴だ。
なにせ血を吸っていいと言われた相手は海賊である。海賊と聞いてどんな人種を想像するか。『乱暴者』だとか『肉ばかり食ってそう』だとか『ひたすら酒飲んでそう』とかだろう。少なくとも『清潔そう』だなんてイメージは絶対にないはずだ。
(風呂なんかとは無縁の海賊共に牙を突き立てるくらいなら飢えた方がマシなんだけどなぁ。『傘』があってホント良かった。マリンフォードに帰ったらベガパンクにお土産持ってかなきゃ)
もっていた傘の取っ手を外す。こいつは芯の部分を空洞にしてもらっているため、こうすれば鉄製ストローに早変わりという寸法だ。
(それでも野菜とか食わねえ奴の血ってドロドロしてるから飲みたくねえんだけど。腹を空かせてるとただでさえ俺にビビってる海兵の怯えが酷くなるしなぁ。ハァ、ホント嫌だなぁ)
傘を海賊の死体へと突き刺し、『食事』を開始した。やっぱクソマジイなぁなんて考えながら。
◆
海軍本部中将であるボルサリーノは自身の軍艦に戻るとともに、海兵たちに気づかれないよう小さくため息をついた。
(はぁ~。やっぱり怖い子だねぇ~)
あれだけの血の海を作り出しといて眉一つうごかさないとは。海兵の中には軍艦に戻るなり胃の中身を吐き出している者までいるというのに。
末恐ろしいものだ。そう素直に思う。CP9最強の殺し屋、ロブ・ルッチと同等の評価を与えられていたというのは伊達ではなかったということか。
(食べた悪魔の実の能力の特殊性に目を付けたセンゴク大将がサイファーポールから引っ張ってきたって話だけどさぁ~。まぁ海賊どもに対する『抑止力』としては確かに優秀なんだろうけどねぇ~)
難儀な話だ。そうボルサリーノは思った。
ボルサリーノはグノーを、海賊がその名を聞くだけで恐怖するような海兵に育て上げろとセンゴクからは指令を受けていた。それゆえの単騎による突撃命令の繰り返し。戦果は派手に喧伝されることになるだろう。『血傘』などという海兵にあるまじき二つ名がグノーについたのも、智将センゴクの策の一つか。
期待されている、とそういうことなのだろう。それがグノーにとって良いことなのかどうなのかはわからないが。
グノーがボルサリーノに預けられているのも期待の表れの一つなのだろう。サカズキの『徹底的な正義』やクザンの『だらけきった正義』に影響されない様にとの配慮もあるのかもしれないが。
(わっしの所なんかよりサウロの所にでも預けた方が良いような気も……って、サウロはオハラの学者の逃亡助けて逃げてるんだっけねぇ~)
と、ボルサリーノがそこまで考えたところでタンッと音が鳴った。月歩で軍艦まで戻ってきたのだろう、グノーがそこにいた。
「ただいま戻りました、ボルサリーノ中将。ご配慮いただき有難うございます」
「いいよぅ~。んじゃまぁ、あの船、沈めちまうよう指示出しといてねぇ~。任務の途中だから曳航するわけにもいかんしねぇ~」
「はっ。了解いたしました」
敬礼を終えるとキビキビとグノーは海兵たちに指示を出し始めた。そこだけ見れば有能な海軍士官だというのに、周囲に漂わせている血の匂いのせいでむしろ危うさを感じてしまう。
(任務が終わったらセンゴクさんとちょいと話してみるべきだろうねぇ。もう大佐なんだし、自分の部隊を持たせても早すぎってことはないだろうし。むしろ遅すぎなくらいかねぇ? あの子の出世スピードが速すぎるだけなんだけどねぇ~)
そこでボルサリーノは一旦思考を区切る。なにせこれから
そしてカームベルトを越えれば西の海。サイファーポールが先行しているオハラに向かい、おそらく発動することになるであろうバスターコールに参加しなくてはならない。
(アレもやれ、コレもやれって難儀な話だよねぇ~。目の前の海賊だけ倒してりゃよかった下っ端の頃が懐かしいよぅ~)
理解しにくい部下の教育やらバスターコールやら。クザンほどとは言わないが、少しは怠けても許されるんじゃないかと、そんなことを考えながらボルサリーノは大砲の砲撃で燃え上がる海賊船を眺めていた。
もはや吸血鬼としてはお馴染みなドラキュラの逆綴り。アルカードにアーカードにアルクェイド。今回はアルカードで
書いてから思った。アルカードをもじってアルカー・D・グノーとかにしてもよかったかもって
まあ海軍サイドで書いちまったしDのなんちゃらの一員にしてもなぁってことでそのままに
にしても弱点多いなコイツ