誰にも理解されない狂人をしていたら、いつの間にか全く知らない神様を崇拝することになっていた 作:匿名希望
「 ……♪」
真っ暗闇に響く音色は、俺の
鼻歌ってのは良いもんだ。
不自由な状況でも自由にできる。
「〜……ん、〜♪」
……とは言えだ。
複数個の歌と言え何百回何千回と各歌を繰り返していれば飽きは来るもの。
うん、飽きた。
「いい加減うるっせぇぞイカレ野郎!」
「ん、悪いね」
外にいる看守から怒鳴られる。
「結構な数、看守の怒声を聞いて来たがあんたは気が短いねぇ」
「黙れって言ってんだろ! テメェと話してたら気が狂っちまうだろうが」
「はっはっは! そりゃあ何の迷信だよ新入りクン!」
俺と話したら気が狂う、か。
酷いねぇ、俺は至って常識人なんだが。
「邪教徒と話したら狂気が移る!」
「ふむ」
「ガキでも知ってることだよイカレクソ野郎!」
「イカレクソ野郎、か」
おうおう、何もしてないのにイカレ野郎からイカレクソ野郎にレベルアップしちまってるじゃあないかと。
「俺ぁ邪神なんざ信仰した覚えはないんだがねぇ」
「……」
「無視かい」
監獄の教育は徹底されてるってことで、今回は良しとしようか。
中には俺のシンパだとかで話したがる物好きも居たもんだが。
「……4年だぞ!」
「んん?」
「4年間ずっとここに居て、なぜテメェは正気を保っていられるんだ!?」
何を怒鳴るのかと思えば。
そんなにおかしいことかよ。
「何も見えず、何もできずに狂わせる大監獄! メルファン大監獄ってのはそう言う場所だ!」
「何がお前を正気に誘う!?」
「何って、そりゃあ」
確かに見えないし、手枷足枷首枷と何もさせて貰えないが。
「見えないもの、できないことに手を伸ばす。それが信仰ってもんだろう?」
「ッ……こ、の……イカレ狂信者がぁっ!!」
そう吐き捨てて、新入りクンとおぼしき荒い足跡が遠ざかって行く。
今度はイカレ狂信者と、イカレって単語外してくんない?
「しかし4年か、成程そりゃあ飽きもする」
つまり俺が現実逃避して自首したのも4年前の出来事ってことになる訳だ。
あの狂信者どもは元気にしてるのか否か、してるだろうなぁ。
「俺の立ち位置はやらかした幹部ってことになるが……さぁて、逃がしてもらえるかしらと」
何故俺がこんな大それた犯罪者扱いされているのか。
事の発端は
「う、ウヒアァァァァアッ!?」
……なんて思い返していると、静寂を絵に描いたような監獄に響く悲鳴の音。
新入りクンの声だ。
「おっ、おまお前ぇっ!? そそそれはぁっ!!」
声の響き方的に、走って行ったその先で厄介ごとに遭遇してしまったと見える。
ここの看守には暗闇でも作業ができるようにする、大変便利な魔道具が与えられている が、どうやら今回はそれの所為で大変なものを見てしまったらしい。
「ウン、君の同僚クン。要る?」
「ひ、ひいいいぃっ!?」
「げ」
久方ぶりに聞くカタコトの声。
……遂に来てしまったらしい、お迎えが。
「トニカク、邪魔だヨ」
「ふざけんな! このア 」
それまでBGMと化していた声がぷつりと途切れる。
さらばだびびりな新入りクン、短過ぎる間だったが暇つぶしにはなったよ。
あの世じゃ会えないだろうが達者でな。
「こっち、カナ」
それからすぐ、軽快で不規則な足跡があっちへこっちへと鳴り始めた。
「アいた」
……そして、壁にぶつかった。
「アッチかな」
おいあいつもしかしなくとも見えてないだろ。
はぁ……胡散臭さも実力も変わらないみたいで、そんな状態で監獄の看守を瞬殺とはやるじゃない。
「おーい、お前の目的は俺かぁ?」
「ア、居た居タ聞こえタこっちダッタ」
……4年か、短い逃避行だったな。
また信じたくない現実を受け止める日々が始まると思うと
「ま、仕方ないか」
身から出た鯖だ、しかと受け止めよう。
今更言ったって誰も信じちゃくれないんだから。
「あいた」
「何やってんだ」
扉……とおぼしき場所でまたもやぶつかった。
「見えないケド、壁?」
「扉だよ。監獄の、囚人の部屋に扉がない訳がないだろうって話だ」
「ん、邪魔ダね」
それを聞いた声の主が、すぐさまそれを
「……」
「ン、声聞こえナイ?」
「っててて……扉をぶっ飛ばしたら俺にぶつかるに決まってんだろ」
殴るか蹴るか、はたまたアレか。
おかげで俺はきつけになるいい一撃を貰ったよ。
「衰エタ、避けるの簡単」
「この監獄の囚人はだぁれも動けねぇように枷に繋がれてんの、避けらんねぇわ」
「千切れバ動ける?」
「この枷に繋がれてる限り無理」
魔力封印と延命適応。
それがこの枷に付いてる術式だ、文字通り付けられてる間は魔力使えないし何も食べずとも死ぬことがない。
「ソウ。回りクドイね人間タチは」
「それが人の罰ってもんだ」
俺の枷を千切りながら呆れたように呟くのは、人外。
人は神様みたいに、一瞬でわかる苦しみは与えちゃくれないものなのだろう。
「今更俺が必要なのかよお前らは」
「ん、人手が要ルから迎えに行けっテ」
「おつかい感覚で監獄に乗り込むなよ」
ここを作った奴ご愁傷様、可哀想だが俺には何ともならんよ。
「ねぇネ」
「ん」
「ワタシの名前、覚えてル?」
「リフだろ」
「……正解、ワタシ嬉しイ」
正式名称は確か……L-1F型、んで仲間内ではリフって呼んでる人造人間だ。
人間離れしたパワーと魔力、未だおぼつかない言語機能が特徴だったか。
「変わらないなお前。他の奴らも元気でやってるのか」
「みんナ元気に血のお祭リ」
「そりゃあ物騒、じゃなくて結構」
血祭りはまあつまり……殺し合いのこと。
この国とは常日頃殺し合いをする仲だからなぁ。
「最近ハお隣サンともやってル」
「……帝国と?」
クンガル帝国、通称帝国。
今俺がいる土地のお隣にある国の名前だ。
お隣と言っても国境はここからずっっっと向こうにあるからな、首都同士の距離ともなるととんでもなく遠いんじゃないか。
「いずれにせよ大きな国だ、それで俺を働かせようって魂胆か」
「多分」
王国と帝国に挟まれた異教徒ってのは世知辛いもんだねぇはっはっは!
……まあ俺、こいつらの崇拝する神様のことこれっぽっちも信じちゃいねぇんだけどね。
とは言え王国や帝国の国教のことも信じてはいない。
つまり異教徒からしても国からしても異端なのが俺。
……だってのに異教徒達の幹部やってるのも間違いなく俺という訳なのだが。
単刀直入に、どうしてこうなった?
「まあ一旦外に出るか、久しく太陽光を浴びてない」
「灰ニナりそう」
「吸血鬼じゃねぇんだから、冗談はやめてくれ」
俺は決して