ようこそ、■■黒い教室へ。   作:ekaterina

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主人公の名前は藤原 静乃(ふじわら しの)です。
特に深い意味はありません。

それではどうぞ。


①:櫛田桔梗の親友

 

私が藤原静乃――静乃ちゃんと初めて会ったのは、入学して間もない頃のスーパーでのことだった。

 

珍しく一人で夕飯を買いに出かけたその日、会計のレジ前で学生証を片手に困っていた女の子に目に止まる。

 

綺麗な黒の長髪にドキリとして、一瞬「同じクラスの一番嫌いなヤツか」と警戒したけれど、雰囲気はまるで違った。

すらりとした身長、長い足、綺麗な姿勢。腰のラインもシュッとしていて、胸は私よりも…いや、同じくらいかな? うん、間違いない。

顔も私と同じくらい可愛くて、濃い碧色のたれ目が優しそうな印象を受ける。うん…堀北みたいなキツい感じとは全然違う。

 

そんな静乃ちゃんがほんの少しだけ困った顔で、でも誰かに助けを求めるように周囲を見渡している。きっと私だけが、そのSOSに気がつくことができた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「え?…あ、その……」

 

「学生証?って、あれ……」

 

覗き込んだ学生証は、本来なら名前や学生番号、ロック認証が表示されるはずなのに真っ黒なまま。ちょっと頼んで借りてみると、どうやら電源が切れているみたいだ。

 

少し電源のボタンを押し続けても、反応はない。故障かな?のんて思い「最後に充電したのはいつ?」と聞くと、静乃ちゃんも同じ「?」な顔で首をかしげる。…くそう、可愛いなコイツ。私も負けじと首を傾げて返す。

 

「充電…?」

 

「そう、充電。この前もらった時に先生から『2、3日に一度は必ず充電するように』って言われていたと思うけど……」

 

「あ、そういえば確かにそう言ってたような……」

 

「もしかして忘れた?」

 

「……そうかもしれません」

 

かあっと顔を赤くする静乃ちゃん。あざとさ…ううん、なんだか母性本能をくすぐられる感じの可愛さだ。

お互い自己紹介して同級生だと分かったときは驚きだった。

さっきのうっかりがあっても、どこか頼りない雰囲気と、お嬢様学校の「お姉様」みたいな品の良さが綺麗に両立…混ざっていて、私にはない魅力にじんわりと嫉妬を感じた。

 

それでもみんなと友達になりたい私としては、関係を切るのも勿体ない。レジで払えないから帰ろうとした彼女に「立て替えようか?」と提案すると、すごく感謝された。

手まで握られて、同性なのに、なんだか自尊心が満たされていく。

 

ぜひお礼に、と夕飯に誘われて、さすがに断る。いきなりぐいぐいきてびっくりしたけど相手もいきなり過ぎると気がついたのか、すぐ納得してくれる。

お礼もそこそこにその日は別れ、再会は翌朝だった。

 

 


 

 

「失礼します。……櫛田さん、おはようございます」

 

「え?……藤原さん?どうしたの?」

 

「誰?」

 

「上級生の人?」

 

HRが終わって、茶柱先生と入れ替わるように教室に現れた静乃ちゃん。

友達と話している私のもとに、堂々と歩み寄ってきた。

『ザ・大和撫子』みたいな美少女が教室に現れたことで、みんながざわつくのが分かる。

静乃ちゃんは昨日立て替えたポイントを返しにきたようだ。律儀というか、真面目というか……急がなくても良いのに。

 

「櫛田ちゃん、えっと……知り合い?」

 

「うんっ、昨日ちょっとあって……紹介するね?こちら、Bクラスの藤原静乃さん。同じ一年生だよ?」

 

おそるおそる声をかけてくる池くん。……男子らしい男子というか、視線が静乃ちゃんの顔や胸ばかりに向いているのがちょっとイラッとする。でも、同級生だとクラスのみんなに改めて伝えると、驚きが広がった。

 

「ご紹介いただきました、藤原です。……昨日、困っている私を櫛田さんが助けて下さって……」

 

「「おぉ……」」

 

静乃ちゃんは端正なお辞儀をして、昨日スーパーで助けてもらったことを話す。

周囲から尊敬の眼差し、熱っぽい視線が集まる。~っ、これ、気分いい!

 

「そ、そうなんだ! 流石櫛田ちゃん!」

 

「優しいなあ!」

 

「あはは、そんなことないよ。困ってたらお互い様っていうでしょ?」

 

「私はとても助かりました。……もしご都合よろしければ、本日のお昼、ご一緒したく思いまして。いかがでしょう?」

 

「えっと、それは……全然いいんだけど……」

 

なんでわざわざクラスまで来たんだろ? 昨日連絡先も交換したし、メール送れば良いのに……。

そんなことを考えていたら、それが表情に出たみたいで、静乃ちゃんはまた恥ずかしそうにスマホをそっと差し出してきた。

 

「実は昨日もらった連絡先?というのが、よく分からなくて……」

 

「あっ……もしかして静乃ちゃん、メールとか……その、使ったことない?」

 

「……お恥ずかしい限りです」

 

マジか……この子、機械オンチなんだ。

また困った顔になっちゃって、周囲のみんなも頬を赤くして呆けてる。

本当に美人って、注目を集めるのに便利だなって思う。池くんや他男子たちが下心丸見えで親しくなろうとしてるのも笑える。

そんな美人の女の子が私を頼りにしてくれるのは、なんだか気分が良い。

 

私はOKすると昨日みたいに花が咲くような笑顔。それに両手で包むように握りしめて感謝されて、周りのみんなにも朝から来てしまったことを詫びて教室を去っていった。

最後まで綺麗にお辞儀していって、本当にこう、お嬢様って感じだった。

 

「ねぇねぇ、櫛田ちゃん、さっきの子って……」

 

「凄い美人だったね~」「可愛かったな……」

 

その後、予鈴が鳴っても、周囲のみんなから静乃ちゃんのことについて質問攻めにされ続けてしまった。

…普段だったら嫉妬してたけど、その日はどこか誇らしさを感じてたのを、よく覚えている。

 


 

そうして、私と静乃ちゃんは時々連絡を取り合ったり(メールが不慣れで、ひらがな混じりになっているのが微笑ましかった)、一緒にご飯を食べたりして、他クラスの友達として親しく過ごしていた。

一之瀬さんのような同じクラスの子や、こちらのクラスの女の子とも時々一緒になることはあったけれど、静乃ちゃんはやっぱり私を一番頼りにしてくれているって、分かる瞬間が多かった。

 

ご飯を選ぶときも「外で食べたい?それとも作ろうか?」と私の気持ちを聞いてくれたり、何か困ったことがあると一番に相談してくれる。

静乃ちゃんの嬉しいところは、私がしてほしいことを自然に察してくれたり、みんなが見ている場面でも特別扱いしてくれるところだ。

 

そんな4月の終わり頃。

付き合いを断ると後々面倒だからと、軽井沢たちとケヤキモールのカフェに入った。

テラス席だったので、春の風が気持ちよくて開放感があった。

 

女子同士の集まりは、褒めてるようで実はマウントを取っていたり、微妙な空気が漂うのが当たり前の世界。

 

「実は平田くんから付き合ってほしいって告白されちゃって~」

 

「ええっ、本当?」「それで返事は?」

 

「うん……ちょっと迷ったけど、結局OKしちゃった!」

 

軽井沢が、平田くんと付き合い始めたことを周囲に自慢げに話し始める。私は内心「やっぱりアピールか」と思いながら、おめでとうとだけ言っておいた。

 

クラス内で存在感が大きい軽井沢は、女子の間では反感を持たれがちだけど、それでも強い影響力がある。

私は男女問わず幅広く友達を作って人気者でいたいけど、敵対すると厄介になるのは避けたいところ。

 

女子の人間関係は時に陰湿で、ちょっとしたことで親友が絶交になることも珍しくない。

 

平田くんは別に悪くはないけど、付き合いたいとはあまり思わない。

私は「みんなの一番」でいたいだけ。誰か一人の特別になってしまうと、他の人に嫌われたりしそうで怖い。何となく、アイドルみたいな立ち位置になりたいのかもしれない。

 

「櫛田さんも、彼氏早く作った方が良いよ~?」

 

「…え?私にはまだ早いかなって」

 

「あっという間に夏になっちゃうよ~?」

 

「え~、好きな人とかいないの?」

 

「あはは……」

 

篠原さんは煽るように、佐藤さんは好奇心で、松下さんは曖昧に笑いながら、私への興味をぶつけてくる。

私はなんとかその場をかわしていたけど、心のどこかで「早く話題が変わればいいのに」と感じていた。

 

そんな時、ちょうどカフェの外側――ケヤキモールの通路――を歩いていた静乃ちゃんが、私たちに気付いて立ち寄ってきてくれた。

 

「桔梗さん?今日はお友達と一緒ですか?」

 

「あ……静乃ちゃん、うん。今、ちょうど友達と話してたんだ」

 

静乃ちゃんはその日、一人でモールを歩いていたようだった。みんなの様子をちらっと見て、状況を察してくれたのか、私にだけ向けてそっと声をかけてくれた。

 

「このあと、良かったら上級生の方たちと一緒に遊びに行きませんか?」と控えめに誘ってくれる。

 

私が返事に迷っていると、篠原や軽井沢が気まずそうにそれぞれ反対してくる。

 

「え、今から?」

 

「ええ。…ダメでしょうか?」

 

「ダメって言うか…。こ、今度でもいいんじゃ…?」

 

「そうそう!今、櫛田さんに好きな人いるか聞いてる途中なんだし」

 

「お世話になっている先輩たちに、仲の良い桔梗さんのことを紹介したかったの」

 

「先輩って…」

 

普段からムカつくの軽井沢たちも、突然現れた他のクラスの静乃ちゃんには強気になれないみたい。佐藤さんとか篠原は断ってほしいんだろうけど、軽井沢は静乃ちゃんの雰囲気に呑まれてタジタジだ。

 

どうしようかと思っていると、ケヤキモール内の通り沿いから上級生のグループがぞろぞろと現れた。 この人たち?

その中心には、金髪で目立つ雰囲気の先輩ーー南雲先輩がいた。

 

「おい、静乃。どうしたんだ?お友達には断られたのか?」

 

「南雲先輩…。すみません、お待たせしました」

 

「気にするな。……お前らは、Dクラスだな?」

 

「え?あの…先輩ですよね?なんで」

 

なんでこの先輩は私たちのクラスを知っているのか。佐藤さんが疑問を口にすると、小馬鹿にしたような視線――すぐに笑顔でごまかしたけど――を向けてきた。

 

「ああ、2年Aクラス。南雲雅だ。生徒会の副会長をしている」

 

「生徒会の人…?」「しかも副会長って…」

 

「洋介…平田から聞いてる。サッカー部にも顔を出しててな。どうだ?お前らも一緒に来るか?」

 

「えっと、その…」

 

南雲先輩たちが現れるや否や、篠原や軽井沢は一気に静かになった。

南雲先輩は私たちの雰囲気を察したのか、大袈裟に笑いながらこう言った。

 

「はは、俺たちが邪魔しちゃったなみたいだな。ここは俺が払わせてもらうよ」

 

「いえ、そんな……」

 

「代わりにそこの…桔梗ちゃん?をちょっと借りてもいいかな?」

 

「わ、私ですか?」

 

「ああ。うちのお嬢様が、君がいないといやって言うからさ」

 

「お嬢様」という言葉に、静乃ちゃんが私の方を見て小さく微笑む。

軽井沢たちはこの空気から解放されたいのか、一転して私の背中を押すように。

 

そのまま外まで出ると、少し歩いたところで静乃ちゃんが南雲先輩に丁寧にお礼をした。

 

「先輩、ありがとうございます」

 

「気にするな。未来の俺の部下候補だ。このくらいの茶番、いつでも付き合ってやるさ」

 

「え……?」

 

「じゃあな、静乃」

 

南雲先輩たちは手を振って去っていった。

 

「静乃ちゃん、先輩たちと…あれ?」

 

「ちょっと近くにいたので、お手伝いしてもらいました。…その、余計なお世話でしたか?」

 

「いや…そんなこと…ないけど、えっと…?」

 

つまり……えっと、私が困っているのを見て…静乃ちゃんが助け舟を出してくれたんだ。顔が赤くなる。思わず彼女にぎゅっと抱きつくと、静乃ちゃんは優しく頭をぽんぽんと撫でてくれた。

 

「ありがとう、静乃ちゃんっ!」

 

「お安い御用です」

普段はどこか抜けてるのに、こういう時にスマートに動けるのは、本当にずるいと思う。

 

 


 

 

そうして、入学から月をまたいで5月。その最初の日。

この学校が実力至上主義で、私たちが最も落ちこぼれのDクラスだと明言された日だった。

私はみんなの人気者としての地位を確保していたから、目立って見下されたり虐げられたりはされなかった。

 

だけどクラスのみんなの心は重く沈んでいて、平田くんと一緒に励ます毎日。

クラスポイントもなく、赤点を取れば即退学になると告げられた。

いまさら必死に授業を聞いても、クラスポイントは簡単には増えないとも聞いた。今までの贅沢な生活から突き落とされて、教室の空気はいつも以上にピリピリしていた。

 

「く、櫛田ちゃん…ここなんだけど」

 

「おい!ズリいぞ!抜け駆けするなよ!」

 

「ふ、ふたりとも順番に教えるから。ねっ?」

 

私は嫌でも(池とか山内とか、本当に気持ち悪かった)赤点候補のメンバーと勉強会に参加した。クラスのみんなの為に、仕方ないって頑張った。バカな須藤とか、相変わらずの堀北が私をイラつかせたりしたけど、なんとか我慢できる。何故なら、

 

「あっ、静乃ちゃん!」

 

「桔梗さん、お待たせしました」

 

だって、静乃ちゃんからの態度は全然変わらなかったからだ。

私に向ける尊敬とか、親愛?そういった態度も視線も、ささくれだった私の心をいつも癒やしてくれてる。毎日かかさず、勉強会の終盤に、静乃ちゃんはいつも私を迎えにまで来てくれる。

 

「じゃあみんな、また明日ねっ!」

 

「な、なあ!たまには俺たちも一緒に「失礼します」うっ…」

 

ついてこようとした山内を、普段より冷たく無視する静乃ちゃん。ぴしゃりと私を守ってくれてて、(それでも顔が可愛いから怖くはないんだけど)ますます気分がいいっ。

 

まあこの送迎には理由がある。なにせ私たちDクラスのポイントはゼロ。遊びだけでなく、今までと違い満足(贅沢な?かな?)な食事すらままならないほどに節約を余儀なくされている。

それでも例外はある。軽井沢たちは相変わらず無理矢理気弱な子にポイントを借りてまわり(もちろん私にも寄ってきた)、他にも私を狙う男子たちは捻出したポイントを使って「一緒に食事に行かない?」と誘ってきた。

 

何度かは参加したが、退屈以外の何ものでもなかった。

いつも繰り返される似たような話題、いやらしい視線、露骨な下心。面倒くささが募る日々。

そんな最中、私は悲しそうな顔で夕食の時に零した。

「嬉しいけど、みんなに無理してほしくない」「でも、断ることで傷つけたら、もう勉強会に来なくなるかもしれない……」と。

それを聞いた静乃ちゃんは気を利かせてくれたのか、私を迎えに来るようになった。

 

「桔梗さん、夜は私が作ってもいい?」

 

「うんっ! じゃあ次は私が作る!」

 

静乃ちゃんが男子だったら、こんな距離だもん。デキてるって男子から興味が薄れたり嫌われるかもしれない。女子からも、思わせぶりな態度で貢がせているなんて噂が立つだろう。

 

「(男子(それ)でも良かったかもしれないけどっ)♪」

 

「今日もお疲れ様。頑張ったわね」

 

「ん~ふふっ、そうっ!頑張ったよぉ~。もっと褒めて!」

 

でも静乃ちゃんは、学年トップクラスの美少女(男でも絶対カッコいいけど!)だ。今も頭を撫でられる私と、微笑んでいる静乃ちゃんを見て嫌な視線を向けて来る人は居ない。腕組みをして買い物をして、お風呂に入った後に静乃ちゃんの部屋に行く。

ここのところの習慣になってきた。合鍵も作ってドアを開ければ、お味噌汁の良い匂いが漂ってきた。まだ制服姿の静乃ちゃんを見れば、私を待たせない為に先に料理をしてくれていたみたい。

 

はぁ〜、本当に居心地がいい。もう住もうかな?…前に断られちゃったけど、お泊りならダメかな?ふふっ。

 

「お待たせ、静乃ちゃん!今日は何?」

 

「いらっしゃい、桔梗。今日はハンバーグって、一緒にひき肉は買ったでしょう?」

 

「えへへ…様式美ってやつだよ」

 

二人きりの時、静乃ちゃんは私にさん付けせずに呼ぶ。

公の場でも良いっていったけれど、「恥ずかしいから二人きりのときだけ」と言えば仕方ないよねっ。…そうした私だけへの特別扱いが、胸に心地よく響く。

 

その後もなにかと私を目の敵にする堀北に絡まれた際には毅然と撃退してくれて、テスト範囲が変わったと知ればさっと教えてくれた。

…クラスへの周知を忘れていた茶柱を謝らせたのは驚いたけど。

本当に、私の護るナイト……いや、ナイトにしては可愛すぎるけど? そんな気持ち。

だから私の学校生活で、静乃ちゃんの存在はなくてはならないものになっていて

 

・・

 

ずっと一緒に過ごして、きっと私が困っているときに助けてくれるって、守ってくれると思っていたのに。

 

……なのに。

 

「なに…これ……」

 

思わず声が出た。

震える手に握られているスマホには、送り主も件名も何もないメール。添付には動画ファイルのみ。再生ボタンを押した瞬間、頭が拒絶反応を起こした。

 

『いやっ…離しっ!』『■れるなっ!』『おい!しっかり掴んでろっ!』

 

必死に口元を押さえ、唇はわなわな震え、頭は沸騰しそうに熱くなったり、一瞬で冷え切ったり。何が起きているのか理解できない。怒りか、悲しみか。ただただ胸がぐつぐつと熱く波打っている。

 

『止めてっ…むぐっ…』『へへっ、凄い上玉じゃねえか』『■■てるか?…良しっ』

 

ブレる映像は素人丸出しで、でもそれがいっそうリアル感を出していて。

女性が()()される様子が、淡々と長い時間映されている。

これは悪戯だ。嫌がらせだ。迷惑メールに違いない。

そう何度も思った。何度も、何度も。こんな女の人知らない。私の知っている人なんかじゃない。きっと違う。だから、だからこんなの見ていちゃダメなんだってーーー

 

『んっ!むー!!』『おい、■撮れっ!』『全部■がせろ!■っちまえっ』

 

−−−怖くて目をそらしたいのに、映像から目が離せない。

見覚えのある黒髪。■れた手に掴まれている。

透き通った碧い瞳には恐怖が溢れ、優しそうな瞳なのに目尻には涙が溢れてる。

 

ビリビリになった赤い■■。千切れた青い■■■。用をなしていない■■■。すべすべとした肌に真っ赤な■、しなやかで細い腰。見覚えのある下■。

 

そして――画面が切り替わった。

 

 

【Adlut only】

 

 

「なんで…どうして…?」

 

画面にはそれだけ。それでも音は絶えず流れ続ける。

 

くぐもった声。■と■がぶつかる音。獣みたいな唸り声。男たちの歓声。

■を引き裂く音。何かを殴る鈍い音。悲鳴。怒号。水音。■い音が響く。

 

ガチガチと歯がぶつかる音。自分の顔がスマホの画面に映り込み、これ以上ないほど真っ青なのがわかってしまう。

やがて音声は途切れ、画面の文字も消えて動画が終わる。そうして、再びのメールの着信音。

 

今度は画像ファイル。読み込み中のバーが進むのがすごく遅く感じる。その間もずっと、さっきまでのものが、悪い冗談だったと。自分の親友なわけがないと、必死に祈り続けていた。

 

「嘘…静乃ちゃんの訳ない。そんな訳ない。ない。きっと違う。違うっ…」

 

読み込みが終わる。ごくりと息を呑む。画像ファイルを開くボタンを押して、切り替わる。そこに映し出されたのは―――

 

「…っひっ…!!」

 

私の親友――静乃ちゃんの変わり果てた姿だった。

 

 




読了ありがとうございました。

感想、高評価お待ちしております。
たくさんつくと、頑張れます。

次は読書家か委員長視点の予定。
週末にはアップします。お楽しみに。
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