ようこそ、■■黒い教室へ。   作:ekaterina

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お待たせ。
ストーリー的にはあんまり進んでなくて申し訳ない。
 
今回は原作主人公への機械化手術回だ。

ぎゅいーん、
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり。


⑤:綾小路清隆の■■

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

快晴に強い日差し、見渡す限りの海と砂浜。夏休みが始まって期待に胸を膨らませる俺たち生徒へ告げられたのは、それを裏切る真嶋先生の宣言だった。

 

困惑する生徒達の中には、不平不満を口にして正論により撃沈させられるクラスメイトの姿もあった。『自由』をテーマと口にしたと思えば、残ったポイントを報酬として得られると『欲望』をくすぐる内容に相変わらずこの学校へのいやらしさを覚えてしまう。

 

目の前にぶら下げられた報酬に、池たちがやる気を口にしている最中でルールの補足だろうか、真嶋先生が再び拡声器を手に取った。

 

「それからこの後、担任の先生から追加ルールの説明があるはずだが、各クラスにはリーダーの他にひとり、『自由枠』を選択して貰う」

 

「自由枠…?って、なんですか?」

 

思わずというように口にした生徒へ頷きで返し、その説明を続ける。

 

「自由枠はその名の通り、この試験中に受ける『全てのペナルティによるポイントの減少を受けない』自由な役割だ。点呼やリタイアといった、試験中にポイントが減少する行為から守られることになる」

 

その説明にざわりと周囲が色めき立つ。…無理もないだろうな。女子はもちろん、男子としてもいきなり無人島で自給自足だなんて御免被るだろう。

 

「そ、それって好きな時に船に帰れるってことですか!?」

 

「…その解釈で間違いない。ただし、環境汚染や暴力、物資の略奪などクラスの連帯責任となる行為については別だ。減点や失格は通常の処理となる。…対象となる生徒は。その旨を理解した上で慎重に選ぶことだ」

 

そんな冷や水をかけるような言葉を最後に、真嶋先生は自分のクラスへと向かう。…聞き耳を立てていると、ひとり生徒が不参加らしくその生徒に自由枠を使うかどうか検討しているようだ。

議論もそこそこに、リーダー格のような男子生徒の号令で彼らは島へと歩みを進める。他のクラスも荷物を担いでいく。俺たちもとりあえず日陰を目指そうとなり、ぞろぞろと島へと足を踏み入れいる。

 

「………」

 

「………」

 

チラリと感じた視線に気付かない振りをして、俺はみんなの後を追うのだった。

 


 

俺にとってアイツは、そこまで親しい生徒ではなかった。

クラスの人気者…アイドルのような存在と親しい、他のクラスの女子。そんな程度だ。

そんな彼女は俺たちのクラスでも噂になるくらいには美人で、

 

「桔梗さん」

 

「あっ静乃ちゃん!…じゃあみんな、また明日ね!」

 

「お、おう」

 

「またね、櫛田ちゃん…ふ、藤原ちゃんも!」

 

「はい、さようなら」

 

「……へ、へへ…俺、藤原ちゃんに返事してもらったぜ!」

 

「おい、抜け駆けすんなよな!あれは俺にしてくれたんだよ!」

 

たまに一言が返ってくるだけで一喜一憂。池や山内なんかはだらしない顔で、不毛な争いをしていた。

勉強道具を片付けてながら、堀北はため息をぼそりと吐く。

 

「…彼女、他のクラスって自覚が足りないんじゃないかしら」

 

「意外だな。堀北はもっとこう、…「何かしら?」…なんでもありません」

 

キラリと光るコンパスを手にされて、すぐに降参を示す。すると俺にもため息を吐いて、その意外の理由を話してくれた。

 

「…はあ。いくら私でも、少なくともこの期末試験の()()を蔑ろにする気はないわ」

 

「……そうか」

 

恩人。堀北の言う通り、彼女は期末試験の範囲が変わった日にそれをスッと教えてくれていた。偶然か櫛田を迎えに来た時に、教えていたテストの範囲が違うことを指摘したのだ。

 

「ほかのクラスということなんて、信じられると思う?」

 

「堀北さんっ」「?」

 

「事実よ。敵対するクラスに、わさわざ無償で情報を提供するなんて、不自然よ」

 

当然、それに噛みついたのは堀北。自分のクラスと違う生徒の言う事を信じられないと正面切って言い放つ胆力は流石だったが、軍配はあちらに傾いた。なんと彼女はその足で櫛田の手を引いて、職員室でDクラスの担任の茶柱へと直談判をしたらしい。

 

「ーーーっていうことで、本当に試験範囲が変わっていたみたいなのっ!」

 

「ま、マジ?」「櫛田ちゃん、本当?」

 

「………っ」

 

そこでどんな会話があったのかは知らないが、事実としてその日の内に櫛田からクラス中に範囲の変更は周知されたし、次の日の朝に茶柱から変更の旨は周知された。…これが遅れていれば、一夜漬けを前提にしていた目の前の須藤たちは本気で退学の危機だったと思う。…まあ結局、須藤は部活と勉強を両立できず、1点足りなくてポイントで救済したんだが。

 

「…なにか、気になることがあるの?」

 

「いや、別に。…ただ仲が良いなと、そう思っただけだ」

 

「櫛田さんと?……そう。そうね…」

 

堀北に適当に感想を伝えると、どこか納得したように頷いている。…意外と素直な様子に、物珍しさを覚えるもその時は特に、深く考えることも無かった。

 


 

――その考えが覆されたのは、バカンスの…いや、違うな。俺の()()()の夏休みを迎えようとしていた終業式の後から、その予兆はあったのだと思う。

 

終業式の日。茶柱から――まるで良い思い出のない――生徒指導室に呼び出されると、開口一番に告げられる。

 

「ある人物から連絡があった。『綾小路清隆を退学させろ』とな」

 

「………」

 

「お前の事情は坂柳理事長から聞いている。…なんとも難儀なことだな」

 

そういって言葉とは裏腹に、愉悦の色を宿して俺を睨め付けてくる。意図を探るため、無言でいると痺れを切らしたように茶柱は口を開く。

 

「綾小路。次の夏休みに、特別試験が行われる」

 

「…バカンスというのは?」

 

「嘘も方便、というやつだ。…そんなことより、お前にはそこでDクラスを勝利に導いて貰う」

 

「拒否権は――」「退学したいのか?」

 

「…いや、そもそも俺は退学するつもりはないですよ」

 

「ふん。そんなもの()()()()()()()。カンニング、イジメ、不純異性交遊。厳しい親元から初めて離れた高校生にはよくある話だ」

 

「………」

 

やはりというか、5月の初めの時の焼き増しだ。…いや、あの時よりもえらく直接的というかなんというか…。

その後、口を開こうとすると、着信音。どこかから電話を受けた茶柱に追い立てられるように、生徒指導室を追い出される。…せめて勝てというなら、試験内容なりなんなり協力のひとつでもして欲しいものだ。

 

そんな憂鬱な思いと共に寮へと戻り、自分の部屋のドアにカギを指してひねり――ひたりと、その手を止める。()()()()()

間違いなく施錠して部屋を出ている。池や須藤か?…いや、アイツらは放課後にケヤキモールに繰り出すと言っていたから違う。

 

音を立てない様に玄関に入り、土足で中へ進む。警戒したまま廊下を進み、息をひそめて周囲を伺う。

パッと見ても朝と変わらない部屋だが、どこか違和感を感じる。誰か潜んでいないか、ひとつずつ確かめる。クローゼット、バスルーム、窓の外、ベッドの下-―?

 

「…これは」

 

ベッドに下には無地の茶封筒が見つかる。当然、俺には覚えがない。裏返してみるとそこにはイニシャルだろうか、こう書いてあった。

 

「……W・R……」

 

すぐに連想したのは――ホワイトルーム(White Room)。俺が生まれ育った場所。

そこからの手紙なんて、ロクなものの筈はない。剃刀や針でも入っていないかと警戒してひっくり返すと、中身が床に落ちる。

 

折りたたまれた便箋?と、正方形の写真。

目についた写真を手に取ってみると、そこにはある女子生徒――藤原静乃が写っている。綺麗な黒い長髪に、優しそうな碧い瞳。学生証に登録する時の写真なのか、制服姿に真面目な表情。

ただそれでも、思わず目を引き付けるほどの美少女然としている。

 

ジッとみてしまうが、我に返ると改めて疑問が頭を過る。

 

「………(送り主の目的はなんだ?)」

 

意図が読めない。次に便箋を手に取るとそこには英語で、なにかの商品の郵送伝票が入っている。一見なにかのミスで届いた()()()()()()

文章の末には下線が引いて

 

返品をご希望の場合は、(For returns, please )下記の番号へご連絡ください。(contact the number below.)

 

…そう書いてある。

 

この場合のFor returns,は返品という意味だが、人に対してなら()()となる。

つまりこの伝票を送った相手の意図は、

 

「…はぁ」

 

くしゃりと手紙を握りつぶすと、ゴミ箱に投げ入れる。ベッドに腰を掛けて、写真に目を向ける。

 

茶柱の目的は何だ。この手紙主は?何故、藤原の写真が入っている?この件に関係しているのか?

…いずれにしろ、俺がこの学校に居ることを望むなら再びアプローチがあるだろう。

 

捨てた手紙や写真をコンロで焼却処分して、灰を排水溝へ流す。

全て俺の勘違いや気のせいであって欲しい。

そんな儚い希望が裏切られたのは、夏休みのバカンスへと向かう直前のことだ。

 

いよいよ始まった夏休み。数日をダラダラ過ごしたり、連絡が来た池や須藤たちに着いて適当な買い物に付き合う日々。…どこか教師や警備員が多くうろついている様子が気になったが、寮に帰ると入口で呼び止められる。

管理人から荷物を預かっているとの言葉に、嫌な予感は確信に近づきつつあった。

 

受け取ったのは、小さな段ボールが一つ。部屋に戻り、鍵をかけ、カーテンを閉じる。隙間から刺す夕日と、遮られた暗闇が俺の心情を表しているようで妙に胸が騒めいた。

 

中を開ける。そこにはクリップで留めた十数枚のA4用紙、旧式の折りたたみの携帯電話、最後に透明な袋に入った錠剤。PTP包装され、中には10錠入っている。

 

「………」

 

冊子を手に取る。表紙にはなにもなく、何気なしにペラリと表紙を捲る。書いてあるのはどうやらある女性――おそらく、前回の件から藤原のことだろう――の来歴だった。

どこで生まれ、どう育ち、誰と出会いどこに通った、そんな内容がびっしりと書いてある。読み進めていくと彼女には妹がいることや、優しい両親に育てられたこと。小中とお嬢様学校に通っていて共学はこの学校が始めてということも書いてある。

一枚ごとに成長の様子や家族写真、入学・卒業式をバックに撮影したのか、そんな写真が添付されている。

 

彼女の歩みを追って行くこと数枚、半分ぐらいまで用紙を捲って…いよいよ高校入学、現在まで追いついてしまう中、どこかその内容に違和感を覚えた。

 

「…入学式、授業風景、…水泳?って、これ…」

 

()()()()()()()()()。すなわち、本人が意図しない中で盗撮(さつえい)されたものだろう。

窓側の席に座る彼女、プールサイドに座る彼女、…自室で着替えている彼女。

 

明らかな犯罪の証拠だ。こんなものを持っているだけでアウトだ。今にでも誰かが踏み込んで来るんじゃないかと、玄関のドアに意識を向けていると、タイミング()く携帯電話が鳴りだした。

 

「………、もしもし?」

 

『………』

 

一瞬考えたが、電話に出る。相手の声は無く、しかし微かな息遣いからこちらの反応を伺っているのだと確信する。なにを答えるべきか。…いや、先ず聞くべきことはひとつだ。

 

「この前の手紙の送り主はアンタか?」

 

『………はい』

 

「…個性的な声だな」

 

機械によって編集された声。男か女か分からないソレに皮肉を飛ばすも、相手からの反応はない。仕方なく、俺は受け取ったヒントから答えに繋がる様に言葉を続ける。

 

「俺に()()の意志はない」

 

『…そうですか』

 

「俺はいずれあの部屋に戻るつもりだが、それは今じゃない」

 

『………』

 

そうだ。卒業か、または俺がこの学校に、自由に価値を見出せなくなれば自ずとあの部屋に戻ることになるだろう。どうせこのモラトリアムに意味は――

 

『資料は、全て、見ましたか?』

 

「なに?」

 

『最後まで、見ましたか?』

 

「………」

 

そう繰り返す相手に、俺は手元の紙束――資料を再び捲っていく。

昼食をクラスメイトと食べている藤原、放課後に買い物をしている藤原、図書館で読書をしている藤原。

 

彼女の成績、何を買い、何を作ったか、何の本を読み、どの本を借りたか。本人の経歴や趣味趣向、親しい友人たちのことにも触れられている。

そして最後の一枚を捲ると、そこには――

 

「これは…」

 

虚ろな目をした、藤原の■■■■■■姿が写っていた。

 

資料には彼女の身になにがあったかが無感情に書き連ねてあった。

 

最後には【72時間以内に服用を推奨】と書かれた一文と共に、同封してあった錠剤の説明があった。

絶句する俺に、何を思ったのか電話の相手は口を開いた。

 

『清隆様が快適な学校生活を過ごせるように手配させて頂きました。…ご不快でしたら、すぐに処分いたします』

 

「…これはお前たちが?」

 

『はい。…ご安心ください。彼女には徹底的な処置をし、裏切れないように()を取ってあります』

 

「………」

 

『具体的にはこの件の画像や映像、彼女のクラスメイト、妹や家族。他にも「もういい」…っ失礼しました』

 

うんざりするような、それでいて合理的な内容に思わず口を挿む。

慌てたような相手から、既に彼女は警備の目につく場所へ解放したこと、この後のバカンスへ参加するように指示をしたこと、最後に、

()()を渡してきた相手に従え』と命令されていることを聞く。

 

『彼女は職員用フロアの客室に泊まる予定です。部屋番号は――』

 

「………」

 

つまりそこで、俺はこの薬を渡して藤原を――()()()()と、そういうことか。

 

電話の相手が望んでいるのは、結局そういう未来だ。そこに至るまでの段取りを、これでもかというほど丁寧に用意してきただけ。

 

「………」

 

いつの間にか電話は切れていて、部屋には静寂が戻っている。外からは夏休みを謳歌する生徒たちの賑やかな声が聞こえてくる。

 

彼女もそんな当たり前の日常を過ごすべきなのに

 

同級生である以上、藤原もこの学園のルールに、実力至上主義に従わされる一人に過ぎない。

力を持つ生徒が、弱者を利用し、踏み台にすることは珍しくもない。理屈としては、それで割り切ることも出来る。

 

だが、これは俺が望んだ結果じゃないだ。

 

俺がこの学校で自由を手にするために。

ホワイトルームから離れた日常を得るために。

そのためだけに、何も知らない同級生が巻き込まれた。

 

「………(身勝手もいいところだな)」

 

家族に愛され、妹を大切にし、普通に生きてきた少女の来歴を、紙の上でなぞる。

その終着点が、虚ろな目の■■■■■■姿と錠剤、そして「■■」として扱われる現実だ。

 

それを前にしてなお、俺は「利用するかどうか」を考えている。

彼女をどう使えば、自分の立場を守れるか。ホワイトルーム側の思惑から、ほんのわずかでも外れられるか。

 

「………(最低だな)」

 

嫌悪の矛先は、電話の相手でもホワイトルームでもなく、そんな計算をしている自分だ。

それでも、ここで全てを拒絶したところで、藤原にかけられた枷が消えるわけじゃない。

 

この電話も、薬も何もかもを見なかったことにして捨てたとしても、奴らが別の手を打つことぐらい簡単に想像できる。

藤原への締め付けを強めるか、別の生徒を新たな「■■」に選ぶか。どちらにせよ、引くという選択はない。…いや、そもそも彼女には()()()()()んだったな。この薬だけでも届けられないものか。

 

「選ばされているようで、実際にはほとんど選択肢がない、か」

 

その中で、あたかも自分で選んだように錯覚するような余地だけが残されている。これがお前の自由の代償だと、そう訴えているようだ。

俺が明日、藤原と実際に顔を合わせたとき、罪悪感を覚えながらも状況を測り、利用の度合いを決める姿まで、電話の相手は読んでいるのだろう。

 

「………」

 

椅子の背にもたれ、天井を見上げる。

さっきまで「夏休み」という言葉が運んできていた浮ついた空気は、もうどこにもない。

 

明日には出航だ。

クラスメイトたちは、非日常の船旅に胸を踊らせているはずだが、そこで俺一人だけが別のゲームを強いられている。

 

この後悔も、罪悪感も、もう誰にも打ち明けることは出来ないだろう。何故ならそれは、巻き込んでしまった彼女と、これから巻き込むだろう誰かへの、最低の侮辱なのだから。

 

それでも後戻りはしないと、選んだのは自分だ。

この学校で得た日常を、そう簡単に捨てる気はない。

 

その結果として、一人の同級生が巻き込まれた。

自分の自由の代償が、彼女の人生にまで及んでいることは、もう否定できない。

 

ーーーだから、あんなに待ち望んでいたバカンスが始まって欲しくないなんて、そんな気持ちを持つ権利は、俺にはもうない。




読了ありがとう。

イレギュラー(強制)への対応として、自由枠が新設されました。
点呼無視OK、リタイアOK、ただし暴力とかはNG!
AとBクラスは言わずもがな、Dクラスもほら、一番に合う生徒さんがいますので、はい。

次回は無人島編か■■視点か、悩む…。お楽しみに。
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