ニャースとゲンジュウロウ   作:じゃくてんほけん

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ニャース  ばけねこポケモン

ひるまは ねてばかりいる。 よるになると めが かがやき なわばりを あるきまわる。

〜ポケットモンスター赤・緑 図鑑説明より〜


第一話 出会い

 カントー地方クチバシティ輸送用倉庫、ここには港町であるクチバシティから様々な場所に向けて航路を使って運送する荷物を保管する倉庫である。

 

「…にゃ」

 

 この倉庫にやつれた野生の小さなニャースが忍び込んでいた。このニャースはまだ生まれてからそれほど日数が経っていないのだが…生まれた時に他の兄弟と違っていた点があった。それは私たちが知る『色違い』というものである。

 この『色違い』、どのような原理で起こるのか、解明が研究者たちの間で議論が分かれるが、人々はその珍しさという点から欲する者も多い。

 が、それはあくまで人間側の話である。野生でその現象が起こった場合、そのまま親が育てるケースももちろん存在するが、中には色合いが違うということで仲間意識が持てず迫害されてしまう、といったケースもある…このニャースもそのケースに当てはまる。

 

 守ってくれるはずの親からは威嚇され、追い出され。訳も分からず放浪し、空腹から食事にありつこうにも生まれたばかりの子の身体には狩るための知識や技量など存在していない。

 どれほど歩いただろうか。途中オニスズメに襲われながらも命からがらに何とか逃げ出し、ふらふらになりながら辿り着いたのがこのクチバシティの倉庫だった。

 

「にゃ…?」

 

 クンクンと匂いを嗅げばほのかに香る甘い香りが漂い、ニャースの口からはよだれがダバリと垂れてくる。

 

「にゃぁ…!にゃにゃ!」

 

 残る最後の力を振り絞り、その香りの元へと駆け寄ると、大きな大きな木箱に辿り着く。

最後の力を振り絞るがごとく木箱に爪を立ててよじ登ると、そのに広がっていたのは箱一杯に広がるモモンの実の海であった。

 

「にゃあぁ…!にゃん!」

 

 抑えきれない食への衝動に身を任せ、モモンの海へとダイブして実にかぶりつく。甘く濃厚な味が口いっぱいに広がって幸せな気持ちになる。一つ食べてはもう一つと繰り返して食べているその時だった。

 

「おぉーい!アローラ行きの荷物早く積み込めよー!もうすぐ出航だぞー!」

「いっけね!忘れてた…!荷物の中身の確認は…!あぁ時間がない!ラベル確認だけでいいか!ええい!蓋しちゃえ!ポチッとな」

 

 直後、ニャースのいる木箱の上にゴウンゴウンと蓋のついたクレーンが移動してきてそのまま被せてしまう。

 

「にゃ???」

 

 少し暗くなった箱の中でニャースはキョロキョロとあたりを見渡す。幸いなことに木箱の蓋には通気用の穴が開いているし、ニャースは暗い場所でも目が見えるからそれほど怖くは感じなかった。それどころか、ほぼ初めてと言える満腹からの満足感に眠気を覚え、そのまま大量のモモンの実の上で眠ってしまうのだった。

 

 そして、積み荷は船へと乗せられてアローラ地方へ向けて出航するのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 4日後、メレメレ島のハウオリシティの少しはずれ。ここには木々の奥にある一軒家が建っていて、白髪に白いひげを蓄えた男が一人で住んでいる。

 

「…今日は…墓参りか」

 

 名前はゲンジュウロウ。72歳。カントー地方の出身であったが幼いころに両親の仕事の関係でアローラの地に移住し以降はこの地方、特にメレメレ島で生活してきた。

 

 アローラ地方と言えば、伝統の「島巡り」だが、自分ではせずに後に妻となった幼馴染に付き添って(強引に連れ出され)見届けたが、ゲンジュウロウ自身は子供の頃からの頑固な性格も相まって自身のポケモンというものが今まで一度もいたことがない。

 

 そして、今日は妻のサラシャの命日である。彼女が好きだったモモンの実を持ってハウオリ霊園へと向かい、墓に備えて手を合わせる。

 

「…俺もトシをとった…もうすぐそっちに行くさ」

 

 墓参りを終えた後、最近できた規則で供えたモモンの実を持ち帰り、帰路に付こうとしていたところ…

 

「はい!ということで今回はハウオリ霊園でね、ゴーストポケモンと本物の幽霊がいるかってことでやっていきたいんですけどもー」

 

 この近辺では見ない若者が手持ちのカメラを持って何やら騒いでいた。周囲には他の墓参りに来た人たちが驚いたような、引いたような様子で避けるようにしていた。

 

「すごいっすねーもう見渡す限り墓!って感じで!絶対幽霊いると思うんで…」

「おい」

「へ?な、なんですかおじいさん…カメラ回ってるんですよやめてくださいよ」

 

 ゲンジュウロウは若者の肩を掴みぎろりと睨んでやる。若者は最初こそびっくりして縮こまったが、徐々に態度を軟化させていく。

 

「じいさん、俺配信者なんスよ…撮影の邪魔なんで放してもらっていいスか?」

「ここは人やポケモンが安らかに眠る場所だ…お前みたいにギャーギャー騒ぐガキが来るところじゃねぇ」

「偉そうに…!ッチ!!ジジイ!ポケモンバトルだ!」

「…なぜそうなる」

「うるせぇ!さっさとポケモンを出しやがれ!!」

 

 すると近くにいた別の墓参りに訪れていた男性がゲンジュウロウに話しかける。

 

「お、おいゲンさんやめときなよ…確かに迷惑だが…その…あんまりかかわるとこういう奴って何してくるか…」

「…そういうお前は市場のナナさんとこの息子のハチだな?ナナさんから聞いてないか?悪いが俺は曲がったことが大嫌いなんだ」

「…っ、だ、だとしても…アンタはポケモンをもってないんだろう…?」

「あぁそうだな」

 

 それを聞いた若者は「ハァ!?」と驚いた後、笑い転げた。

 

「何だよそれ!ポケモンも持ってねぇくせにグチグチ言ってやがったのかよ!」

「………」

「ゲ、ゲンさん…よそう、何かあったらたまったもんじゃないよ…!」

 

 笑う若者にゲンジュウロウは向かいなおり、自分のズボンのポケットに手を突っ込む。

 

「!?ゲ、ゲンさんまさか…ポケモンを!?」

「いいや、俺はポケモンは持ってないが…」

 

 ごそごそとポケットから取り出したのは、携帯電話だった。

 

「コネなら持っている」

「「は???」」

 

 若者と男性が困惑の声を上げる中、ゲンジュウロウは慣れた手つきで電話を掛ける。

 

「…もしもし、あぁ、そうだ。久しぶりだな…急ですまんが今観光課で一番偉いのは誰だ?うむ……ほう、あいつが課長になったか。繋いでくれるか?」 

「なに…やってんだ…?」

 

 ポカンとする若者を尻目にゲンジュウロウは通話を続ける。

 

「…おぉ坊主、久しぶりだな。今はお前さんが課長か。うむ、あぁいや今日は別件でな…ハウオリ霊園に配信者?とかいうのが来ておるが…規則第15条による取材やロケ等の許可は出ておるか?そうだ、3号様式の届け出のやつだ……今日の分は誰も出てない?間違いないな?うむ、ではお帰りいただいくよう言って構わんかな?ここには俺の妻も眠っとるもんでな…分かった。ハハッ、じゃあ今度そっちへ顔を出すよ、それじゃあな」

 

 ピッと携帯電話の通話ボタンを切ったゲンジュウロウは若者を再びぎろりと睨んでやる。

 

「…さて、配信者さんとやら、行政に確認したがアンタここの取材やロケの許可申請を出しとらんようだね?」

「な…そ、そんなの、皆出してるか分からないじゃないか!」

「…いいか?ここは墓地だ。もしそこで墓参り以外の目的でここをどこかに映すというなら土地所有者または管理者に許可を取るべきだ。今回であれば市営地だからハウオリ役所だな…そしてさっきも言ったようにここは人やポケモンが安らかに眠る場所だ。やっていいことと悪いことの分別が付かんかね?えぇ?」

「ぐっ…く…!お、覚えてろよ!」

 

 若者が掴まれていた手を振り払い、カメラを担いで立ち去った後、ハチが「はえー」と感嘆の声を漏らす。

 

「なるほど、あんな撃退方法があるんだねぇ…さすがは元役所で働いてたゲンさんだ…」

「あぁ、こうやってやれば大概の奴にはポケモンバトルよりも効くからな…野生のポケモンと違って、な」

「まぁ、違いないね…ありがとう、ゲンさん」

「構わん。それよりナナさんによろしく言っといてくれ。明日あたり市場へ買い物へ行くからな」

「分かった、お袋に言っとくよ」

 

 その後一人帰路に付くゲンジュウロウだったが、途中手の甲にポツリと冷たい雫が落ちる。

 

「…予報では晴れのはずだが……いかんな、本降りになるか」

 

 言葉の通り雨はすぐに強くなり、老体に鞭を打ち足早に家に向かうゲンジュウロウだったが、家の前でもぞもぞと蠢く小さな黒い塊があった。

 

「……?む!ポケモンか…?おい、大丈夫か?」

 

 しゃがみこんでポンポンと優しく叩いてやるが、薄汚れたその塊は息を荒くして動く気配がなかった。

 

「……………」

 

 ゲンジュウロウはその塊を抱えて、家に入ると、墓参りの荷物を玄関に置き、洗面所でタオルを掴んで薄汚れた塊をくるんだ後、傘をわしづかみ、傘で防ぎきれないほどの大雨の中、片腕の中でタオルにくるんだ小さな命を守るようにゲンジュウロウはポケモンセンター目指し走りこんだ。 

 

「ゼェ…ゲホッ…おぉい!ジョーイさんよ、いるか!?」

「は、はい…!ってゲンジュウロウさん?どうしたんです!?キュワワー!タオルを持ってきて!」

「すまんな…コイツを…ゲホッ…コイツを診てやってくれ…!」

 

 そう言って駆け寄ってきたジョーイにくるんだタオルごと渡し、床に座り込む。老体でなければこんな無様もなかっただろうと思いながらも後を託し、雨に濡れた自身の身体をキュワワーから受け取ったタオルで拭う。

 

「この子は…!分かりました!キュワワー!治療室へ急ぐわよ!」

「キュワ!!」

 

 …………

 

 さて、一時間ほど時間が経ったであろうか。治療室からふわふわのブランケットに包まれた1匹のポケモンを抱えて出てきたジョーイは待合のソファーでうつらうつらと眠るゲンジュウロウに声を掛ける。

 

「ゲンジュウロウさん、治療、終わりましたよ」

「…ん、あ、あぁ…いつの間にか寝ていたか…うむ、すまんね…それで…」

「えぇ、もう大丈夫ですよ…ただちょっと…」

「ん…?む?コイツは…」

 

 ふわふわのブランケットの中には小さなニャースが丸くなって眠っていた…それも、アローラ地方で見られる灰色のニャースではなく、ガラル地方で見られるような毛足の長いニャースでもなかった。そして何より…

 

「…濃い色だな…足先や尻尾の先がほんのりと赤い……こいつは、色違い…か」

 

 濃いクリーム色にほんのり赤い足先と尻尾、それが他のニャースとの決定的な違いだった。

 じっとニャースを見つめるゲンジュウロウにジョーイがおずおずと尋ねる。

 

「どう…されますか?この子…その、明らかにアローラ地方の個体ではないですから野生に帰せなくて…それに…その…」

 

 引き取り手がなく、さらにその地方に根付いていない種類のポケモンが確認された場合、警察か役所に届け出て…言い方が悪くなるが、まずは公表して『持ち主』を探すことになる。とはいっても『持ち主』現れない場合も多く、その場合はそのポケモンが存在していてもおかしくはない地方に移送されて野生に帰される…のだが…

 

「…そうだな…」

 

 『幸運/不運』にも、このニャースは色違いという特別性がある。公表して『持ち主』を探せば不思議なことにズラリと手が上がるだろう。そのうちの誰かに引き取られた後は、必ずしも幸せになるとは限らない。コレクターに貰われるというのであればまだいいが、見世物として、果ては…『貴重なモノ』としての価値でしか見ない者も存在するのがこの世界である。現にポケモンハンターという者達がいるのがその証拠だ。

 

「………」

 

 少しの沈黙の後、ゲンジュウロウは「はぁ…」とため息をついた。

 

「俺が預かる…」

「ゲンジュウロウさん…それって!」

「勘違いせんでくれ。後はコイツの意思を尊重せねばならん…コイツがボールに入るというんならそれはそん時だ」

「…はい!」

 

 その後雨が止んだのを確認して、ゲンジュウロウはふわふわのブランケットに包まれて眠ったままのニャースを抱えて家路へと付いた。

 

「……ポケモン、か…」

 

 

 これがゲンジュウロウとニャースの出会いであった。

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