ブルーアーカイブ×アークナイツ  調月リオと星外の預言者   作:バトクロス

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閑話休題です。ケイと会う前に書けることは書いておこうかなって。
それと誤字脱字有るかもしれません。
今回は色々なキャラが出てきます。コユキとユウカとヒマリ、それとエンジニア部です。ノアは……ごめんなさい。それと今回は後書きの解説は無しです。


消失せし脚本

 私、早瀬ユウカにとってここ最近はストレスが軽減されていた。会長と先生が話し合った結果確執は薄れたからだ。前は正直先生と会長は相性が悪く、正直どうしようも無いかと思っていたが、どうやら先生が大人として譲歩したようだ。

 実際先生はよく会長に連絡をしている。最近はゲーム開発部とセミナー……と言うかリオ会長との板挟みの様だ。

 私は個人的にゲーム開発部に目をかけているものの、リオ会長は彼女達を先生に廃墟探索を行わせる為の使いにくい駒としか思っていないのだろう。

 そんな状況なので、苦悩しながらゲーム開発部のサポートをする先生、明らかにゲーム開発部を疎ましく思いながらも利用しつつ先生を抑えようとする会長の中間の立ち位置で私は何方も影からサポートしている。

 

 ある日、リオ会長からセミナーの人間として会いたいと連絡が来た。

 

 

 

 会長が指定したのは、珍しくミレニアムのビルの片隅に在る会議室だった。大抵個人的な用事の場合、会長はエリドゥで話し合いを行うのだが……

「久し振りね、ユウカ。5日ぶりかしら。」

 扉を開けるとそこには会長……とノ(・)ア(・)と(・)コ(・)ユ(・)キ(・)が居た。

 

「あれ?セミナー勢ぞろいですか?それにコユキも……」

 空席の椅子に一先ず座りながら疑問を呈す。コユキはまだ反省部屋に居るはずだったが?と考えてると

 

「一応とは言え、彼女は元セミナーだから。彼女は色々と情報を握っているし、今日は立ち会いだけ行ってもらうことにしたの。勿論ここの後はまた反省部屋に叩き込むつもりだけど。まぁ彼女の事はオ(・)ラ(・)ク(・)ル(・)に(・)任(・)せ(・)る(・)か(・)ら(・)気(・)に(・)し(・)な(・)い(・)で(・)。」

 納得した。会長は此処まで形式を重んじる人間だっただろうか……とは思ったが。

 

「それで今回何故私は呼ばれたのですか?」

 そう聞くと会長は一度目を閉じ、

 

 

「今回のゲーム開発部の件が終わったら、貴女を次(・)期(・)セ(・)ミ(・)ナ(・)ー(・)会(・)長(・)に(・)す(・)る(・)為の準備を始めたい。勿論今年一杯は私も責務は全うするつもりよ。だけど今のうちに引き継ぎを進めておきたい。」

 急な話だった。

 

「……まず何故私なのですか?ノアも居るではないですか。」

 動揺を押し殺し、まずは何故私なのかを聞く。

 

「私が会長から相談されたんですよ。」

 回答は会長からでは無く、ノアからやって来た。

 

「この仕事が終わったら少しずつユウカちゃんに会長の権限を移行させたいって。『ノアから見てもユウカは会長としてやっていけると思う?』と聞かれて、私は『問題ないと思います』と答えました!」

 笑顔でそう言われて思わず渋面を作る。

 

「会長、先に私に言ってくれませんか?」

 

「貴女の場合、先に外堀を埋めておけばなし崩し的に了承せざるを得ないでしょう?」

 自分の形だけの抵抗を、悪びれなく封殺され思わずため息が出る。

 

「やりますよ!まったく……」

 

「ありがとう、急な話でごめんなさいね。」

 自分に対して真正面から感謝と謝罪の言葉を向けられて思わず顔をそらす。

 

「では採決を取ります。次期セミナー会長として早瀬ユウカを任命する事に賛成のもの、起立。」

 全員が起立した。

 

「ではこの後ユウカは此処に残って。コユキは反省部屋に行きなさい。後オ(・)ラ(・)ク(・)ル(・)が(・)貴(・)女(・)と(・)話(・)し(・)た(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)わよ。」

 そうリオ会長が言うと、ノアとコユキは部屋を出ていった。

 

 

 

 

「それでは早速引き継ぎの準備を始めさせて貰うわ。」

 そう言って彼女はタブレットを開き……待て、何(・)だ(・)そ(・)の(・)端(・)末(・)は(・)。

 

「会長、その端末は何ですか?見たことの無い物なんですけど。」

 

「ああ、これはオラクルが空いた時間に市販の端末をリバース・エンジニアリングして解析した上で、互換性を保持しつつセキュリティや計算速度を大幅に向上させたものよ。オラクルから一応設計図とコードは渡されているから量産しようと思えば出来るけど……」

 

「……因みに端末のセキュリティと計算速度は?」

 

「計算速度はミレニアムが保有しているスーパーコンピュータに一歩劣る程度、セキュリティは……コ(・)ユ(・)キ(・)が(・)解(・)く(・)の(・)に(・)時(・)間(・)が(・)か(・)か(・)っ(・)た(・)。」

 は!?どうやって?

 

「コユキ曰く、暗号はパズルの様に見えるものらしいのだけど……感覚的にパズルを解く前にパズルそのものが変わっているらしいわ。」

 意味が分からない。

 

「因みにオラクルでも生身では難しいらしいわよ。」

 

「生身とは?」

 

「彼女が保有していた計算機を使いながらなら解けるらしいわ。」

 オラクルの凄さを実感するとともに、コユキの規格外の才能を見せつけられている。

 

「何故そのようなものを?」

 

「オラクルが最初にコユキがあっさり暗号を解いたことを危険視したらしくて、時折改(・)良(・)版(・)を(・)コ(・)ユ(・)キ(・)に(・)送(・)り(・)つ(・)け(・)て(・)い(・)る(・)の(・)。これは第5段階。」

 そう言いながら、会長は端末を起動し、複数のファイルを見せた。

 

「トリニティ、ゲヘナのトップとの秘匿回線。カイザーグループの極秘情報の回収。エリドゥの管理プログラムに……色々あるからこれから頑張りなさい。」

 一部犯(・)罪(・)の(・)匂(・)い(・)し(・)か(・)しないものがあり、目眩を覚えている。

 

「それと貴女は会計の時から自分から進んで他の仕事も行っていたわよね?もう少し休みなさい。」

 

「……貴女がそれを言いますか。」

 提示された情報の前に思わずそうため息が漏れた。

 

 

 

 

 

 彼女、黒崎コユキは凄まじい能力を持っていたが、拡(・)張(・)性(・)は(・)無(・)い(・)。私は数度の接触と実験で暫定では有るがそう結論づけておた。

 キヴォトスで使われている 「共通鍵暗号方式」「公開鍵暗号方式」「ハイブリッド暗号方式」の3種類、「六軸多積関数」「複素数関数」等の計算量が膨大になる暗号、「平文変移関数」の様な暗号文の答え自体が変化していく暗号等様々なものを解かせたが全て時間はかかるものの解かれてしまった。

 だが彼女は確かに暗号は解けるものの、それを説明する、もしくはそれをわかりやすく解釈する事は出来なかった。全て『何となく分かる』だ。これでは暗号解読にしか使えない。

 また、これがキヴォトスの生徒達に複数存在する特性であり、再現性のあるものであるなら研究対象にでもなったのだろうが、現状調べた所、彼女以外にこの様な異常な能力を持つ人間は居なかった。強いて言うなら生塩ノアが完全記憶を持っていたが、彼女とは比(・)較(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 よって私は無駄であると察しながら惰性で彼女に対する実験を行っている。

 

 

 

 何時もはオンラインで彼女とは話しているが、今日は始めて彼女の反省部屋を訪れた。

 

「おや誰でしょう……『ドクター』!今日は珍しくこっちに来てくれたんですね!今日も解けたらトランプで勝負してくれるんですよね!?」

 彼女が椅子から飛び降りて、小走りでやって来た。

 

「あぁ……今日はひとつ頼みがあってね。」

 そう言って1つ装置を渡す。それは頭に被せて脳波や電気信号を測る装置だった。

 

「これをつけた上で暗号を解いてほしいんだ。」

 そう言うと彼女はあからさまに嫌な顔をする。

 

「と言っても、対価が無ければ受け入れられないだろう。」

 そう言って手土産のアイスを見せる。

 

「リオとも交渉して幾つか運が絡むボードゲームとトランプも持ってきた。カタンとチケット・トゥ・ライド。これでどうかな?」

 彼女は目を瞬かせ、にやりと笑った。

 

「ならしょうがないですね!」

 

 

 彼女とカタンをやりながら先程の結果を考える。

(暗号を解く時の脳波や電気信号が全てほぼ一致した。暗号の種類や難度、更には条件や時間も全(・)て(・)違(・)う(・)に(・)も(・)関(・)わ(・)ら(・)ず(・)だ(・)。(・))

 これでは研究をしても無駄だろう。頭を切開こうが何も分からない。確かこの都市にはこんな寓話があった筈だ。確か……ガチョウと黄金の卵だったか?

(彼女に対して短い期間で実験を行い、何かしらの成果を得るのは無理だな。だが、私が帰る前に可能なら最(・)低(・)限(・)の(・)常(・)識(・)と(・)倫(・)理(・)観(・)を(・)教(・)え(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)とリオは言っていた。だが手(・)段(・)は(・)明(・)示(・)さ(・)れ(・)て(・)居(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)な(・)。(・)) 

 私は勝負が着いたタイミングで彼女に話しかけた。

 

 

 

 黒崎コユキにとって『ドクター』は実に都合のよい人間だった。簡単なパズルを解くだけで、オンラインとは言え自分とのゲームに付き合ってくれるし、怒らない。

 彼女は単に外様だから私に深入りしないだけかも知れないが、それでも構わなかった。いや、寧ろその無責任さが心地よかったのだ。

 

「私は……リオから君と対話して常(・)識(・)と(・)倫(・)理(・)観(・)を(・)教(・)え(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)と言われた。」

 

 故にその言葉には少なからず驚いたし失望した。

 

「……帰ってください。」

 

「だが……」

 

「帰ってください。倫理とか常識って、だいたい説教じゃないですか。理解できない事で怒られるの、嫌いなんですよね。」

 思わず椅子から立ち上がりながら、拒否の意思を叩きつける。しかし彼女はノア先輩の様に叱らず、寧ろ困った様に頭を掻きながら話始めた。

 

「何か勘違いしているようだが……安心してくれ。私は君を叱る気はない。」

 

「……ほんとに?」

 

「そもそも、叱っても意味がないからね。」

 どう言う意味なのだろう?多少興味が湧き、一度腰を下ろす。私の反応に安心したように彼女もまた腰を下ろす。

 

「君は何(・)が(・)悪(・)い(・)か(・)を理解しない。だから説明しても無意味だ。」

 

「……」

 

「私が君に教えるのは一つだ。」

 

「?」

 

「それをやると、得か損か。楽しいか楽しくないか。」

 彼女が目の前で紙の資料を広げる。

 

「それは何?」

 

「あぁ、これはリオに頼んで貰った始末書と反省文……それらをまとめた物だ。」

 思わず苦い顔をしてしまう。

 

「そんな顔をしないでくれ、今からするのは簡単なゲームのような物だ。一先ず君が怒られた事案を場合分けしてみたんだ。倫理的な問題点以外の共通点を私は既に把握している……君だって別に好き好んで此処に入っているわけでは無いのだろう?」

 

「当たり前です。」

 

「なら話は早い。これから共に頑張っていかないか?」

 面倒くさそうだが……ノア先輩から怒られるよりはマシそうだ。

 

「分かりましたよ……でも説教臭くなったら直ぐに逃げますからね!」

 

 

 

 

 

 

『リオ、ごめん。これは時間がかかりそうだ。』

『まぁ、そうでしょうね。』

『一応暫定的な対応策は考えついたけど……』

『それは何かしら?』

『彼女に外付けの制御装置をつける。』

『正気?それこそ倫理的に問題有るじゃない!』

『ごめん言い方が悪かった。パッチと言ったほうが良いかな。彼女に行動をする際にそれが正しい行いかを判断する人が居ればよい。』

『彼女一人にそんな人員を付けることは難しいわ。』

『知っている。だからこそ、その役割は『常時対話型の判断補助AI』に任せればよい。』

『成る程……エンジニア部辺りに開発を依頼してみる。』

『がんばれ。こっちもやれるだけやってみるよ。』

 

 

 

 ミレニアム、エンジニア部。

 

「……ここね。」

 

 リオが扉を押し開ける。

 

「いらっしゃいませー……って、あれ?」

 最初に気づいたのはコトリだった。

 

「え、会長!?なんでこんなとこに!?」

 続いてヒビキが振り返る。

 

「……珍しいお客さんだね。」

 奥からウタハも姿を現す。

 

「単刀直入に言うわ。依頼があるの。」

 

「依頼?」

 彼女達の怪訝な顔を直視しながら要求を伝えた。

 

「常(・)時(・)対(・)話(・)型(・)の(・)判(・)断(・)補(・)助(・)A(・)I(・)を開発してほしい。」

 

 一瞬、空気が止まった。

 

「……えっと、コトリ聞き間違いかな?」

 

「ううん、私も同じこと聞こえた」

 

「……AI?」

 

 三人が困惑し、ヒビキが静かに指摘する。

 

「私たち、ハードが専門だけど。」

 

「分かっているわ。」

 

「じゃあ何で来たのさ……」

 ウタハは冷やかしならさっさと帰れと目線で訴えかける。

 

「ヴェリタスに借りを作りたくない。それと、私が忙しい。」

 

「出たよそれ!!」

 

「理由が直球すぎる!」

 

「合理的すぎて逆に納得できないパターンだね……」

 軽く騒ぎになるエンジニア部だが、ウタハは腕を組み、考え込む。彼女は恐らく私の言動に対してノーと言った場合のリスクを考えているのだろう……別に昔ほど強権を振るうつもりはサラサラないのだが。

 

 「……話自体は分かった。でも現実問題として——」

 

「無理だよ。」

 

 ヒビキが即断する。

 

「今、資金が無い。」

 

「あー、それね!!」

 コトリが元気よく補足する。

 

「レールガン!覚えてるよね!?ロマン全振りのアレ。宇宙戦艦のビーム砲のために作り始めたやつ」

 

「……覚えているわ。」

 彼女達の予算の動きは多少覚えていた。いくら何でも金の動きが派手過ぎたし。

 

「いやあ……予算、吹き飛んじゃって。」

 

「文字通りね。」

 

「ちょっと爆散もしたし」

 

「ちょっとだったっけ!?」

 

「三回くらいじゃなかった!?」

 

 そんなやり取りを無視して、リオは淡々と言う。

 

「なら、まず一つ提案するわ。」

 

 全員の視線が集まる。

 

「レールガンの規模を縮小しなさい。」

 

「は?」

 

「え?」

 

「出力を落とし、構造を簡略化する。それだけで必要資金は大幅に減るはずよ。」

 ロマンを否定するつもりは……まぁ多少は有るが、そこまで重要ではない。だが彼女達も予算的に宇宙戦艦を作るのは無理だと分かっているはずだ。

 

「いや、それは……ロマンが減るじゃないか。」

 

「優先順位の問題よ。そもそもこれ以上貴女達は宇宙戦艦の他の部分に回せる予算はないでしょう?」

 

「それを言われると弱いんだけど……」

 

 少し考え込み、ウタハが頷く。

 

「……まぁ、現実的ではある。で、続きは?何を言いたいんだい?」

 

「次に、その縮小型レールガンを量産前提で設計しなさい。」

 

「……量産?」

 ヒビキが首を傾げる。

 

「試作ではなく、流通を前提にした設計。出来るなら、それを作ってほしい。」

 

「……リオ、君は戦争でもするつもりなのか?」

 ウタハの声が低くなる。確かにこれだと彼女達に対して誤解を招く発言だ。

 

「侵略用途ではない。防衛用途よ。後、そもそも小型化と言っても携行火器レベルにしろとは言わない。」

 私の説明に一先ず警戒心を解く。

 

「で、それをどうするの?作るつもりは無いけど。」

 確かにこ(・)の(・)ま(・)ま(・)で(・)は(・)彼女達に作る動機がない。

 

「完成品はセミナーで買い取る。」

 だから動機を与える。

 

 一瞬の静止。

 

「……え?」

 

「……まって?買い取るって言った?」

 

「……無償で引き渡せとは言わないんだな。」

 

「予算化できる範囲で、こちらが引き受けるわ。」

 沈黙——そして。

 

「……やるか。」

 ウタハが笑う。

 

「やろっか。」

 ヒビキが頷く。

 

「やるしかないね!」

 コトリが手を叩く。

 

「ただし!」

 ウタハが指を立てる。

 

「全力でやるからには、多少の“遊び”は入れるよ?」

 

「許容範囲内なら構わないわ。」

 

「よし通った!!」

 予算内で収めようとしていた所に思わぬ救いの手が来たと、盛り上がる三人を見ながらリオは静かに言う。

 

「——で。」

 

「?」

 

「その過程で余(・)剰(・)リ(・)ソ(・)ー(・)ス(・)が出るはずよね?」

 

「……出るね。」

 ヒビキが警戒しながら返答する。

 

「なら、A(・)I(・)一(・)個(・)く(・)ら(・)い(・)作れるでしょう?」

 

「その言い方雑すぎない!?」

 

「ついで扱い!!」

 

「いや技術的には出来るけどさ!?」

 

 コトリが笑いながら言う。

 

「でもさ、それってさ——」

 

「結局、最初からそれが本命でしょ?」

 

「さぁ、どうかしらね。」

 答える必要は無い。

 

「……はあ。」

 ウタハが大きくため息をつく。

 

「まぁいいか。面白そうだし。量産と言うものもロマンでは有る。」

 

「それが全部だよね。」

 

「頑張って行きましょう!」

 

 三人は同時に頷いた。

 

 

 

 

 

 オラクルという人間について、私はミレニアムの誰よりも批判的な見方をしている。あれは会話じゃない。誘導だ。感情と論理を使い分け、人を望む方向に滑らせる。

 以前、私は彼女と対話したことがある。だがあの時、核心には触れさせてもらえなかった。私の話ははぐらかされた……少なくとも私はそう思った。

 そして私は、感情的になって追い出された。

 ……あの時、止めるべきだった。

 あれからリオは変わっていった。いや、変えられた。

 あのままオラクルと引き離していれば、少なくとも、依(・)存(・)す(・)る(・)ことはなかったはずだ。今のリオは、明らかに影響下にある。

 ……でも、私以外はそれを歓迎している。セミナーの連中は特にそうだ。あれを「成長」だと。

 

 

 

 

 不意に、端末が振動した。

 

「……?……何これ!」

 画面に表示されたのは、新規データ。差出人は調月リオ。

 

「……また勝手に」

 開く。

 次の瞬間、思考が止まった。

 

「……これは」

 カイザーグループの内部情報。しかも、明らかに——

 

「非合法……」

 あり得ない。これを入手する手段は限られる。そして、それを選ぶ人間も。

 直ぐにリオに電話をかける。

 

『どうかしたのかしら……なんて白々しく言うべきかしら、ヒマリ。』

 

「どうした、じゃないでしょ。これ、どこから持ってきたの?」

 

『情報源の開示は出来ないわ』

 

「オラクルね。」

 

 数秒の沈黙。恐らくリオは端から隠すつもりは無かったのだろう。

 

『……そう断定する根拠は?』

 

「質問を質問で返さないで」

 私の声が思わず低くなる。

 

「あなた一人でこんなものを引っ張ってくるとは思えない。それに、最近の貴女は、あの人間と一緒にいる時間が長すぎます。」

 

『それとこれに、因果関係は無いわ』

 

「あるに決まっているでしょう!」

 気持ちが昂ぶっている。深呼吸しながらペースを戻す。

 

「少なくとも、判断に影響してる。」

 

『ふむ……仮にそうだとして、それが問題になる理由は?』

 

「は?」

 

『得られる結果に問題がない以上、手段を問題視する必要はないでしょう。それに彼等はこの情報がすっぱ抜かれた事に気がついたとして何(・)も(・)出(・)来(・)な(・)い(・)。』

 

「それ、本気で言ってるのですか?」

 

『……ヒマリ』

 

「何」

 

『今の私は、最適な選択をしているだけよ。それに、例えオラクルが情報源だったとしても、私(・)が(・)情(・)報(・)を(・)抜(・)く(・)の(・)と(・)は(・)訳(・)が(・)違(・)う(・)。』

 彼女は酷く冷静だった。

 

『仮にそれが真実でミレニアムが責められたとして、私(・)が(・)オ(・)ラ(・)ク(・)ル(・)を(・)切(・)れ(・)ば(・)よ(・)い(・)の(・)よ(・)。リスクは少ないのでは?』

 

『使うかどうかは好きにしなさい。』そう言って電話は一方的に切られた。

 

 

 

 

 

 

「……やってくれたわね。」

 彼女はもう戻れない場所まで行ってしまっていた。

 

「……オラクルに連絡は取れないのかしら。」

 もう一度、オラクルと対話する必要が有る。私は既に彼女から拒絶されており、リオに仲介を頼むのも億劫だ。

 

「早瀬ユウカに仲介を頼むことにしよう。」

 次に動く事を定めつつ、その情報を横目で見る。

 

「……一応保存しておきましょうか。」




複素数関数……通常の暗号は0と1の並びによって自然数を表現するが、この関数は特定のビット列を「虚数単位(i)」として再定義する。そのため暗号は実数領域ではなく複素数空間上で展開され、実数として解釈した場合にはノイズにしか見えない構造となる。

六軸多積関数……単なる因数分解の拡張ではなく、暗号を六つの独立した演算軸に分解して同時に処理する多層構造暗号。各軸(時間、順序、観測状態など)は相互に干渉し合い、単一の順序での計算では正解に到達できない。全ての軸を正しく同期させた場合のみ、元の情報が復元される。
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