ブルーアーカイブ×アークナイツ  調月リオと星外の預言者   作:バトクロス

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今回で崩壊時計編は完結です。この後幾つか短編を挟んでエデン条約編に行きます。ここから多少ブランク入るので先に感謝を

高評価でも低評価でも、この作品を読んでくれた皆様。誠にありがとう御座いました。一発ネタが此処まで続いたのは読者の皆様のお陰です。


理想の対価

「セミナーから鏡についての返還交渉が有るって!」

 

「私達の所にも連絡来たよ。ヴェリタスからはチヒロ副部長が行く。」

 

「私達は勿論全員で行くよ。しっかり交渉して取り返し出来るから期待してね!」

 

「主に話すのはチヒロ先輩でしょ……まぁアシストは頼むよモモ。期待してるから!」

 

 

 

 

 

 

 指定された談話室に足を踏み入れた瞬間、空気の違いを直感的に理解した。

 

 そこにあったのはいつものミレニアムの軽やかさではない、まるで火薬庫の中にでもいるような張り詰めた静寂だった。

 既に全員が揃っている。

 

 右側の椅子にはゲーム開発部のモモイ、ミドリ、ユズ、そこから少し離れた椅子にはヴェリタス副部長のチヒロ。

 

「初めましてチヒロ。今日は宜しく。」

 

「初めまして先生。コタマ達から話は聞いている。」

 初対面なので挨拶はしたがどうやらあちらは私の事を多少知っていたらしい。

 対面にはユウカ。本来はリオが来る予定だったがユウカが志願したため今回は代理で彼女が来ている。

 

 そして、この場のどこにも属していないように見える位置に、オラクルが静かに腰を下ろしていた。

 

「……来たね、先生。」

 

 最初に口を開いたのはモモイだった。視線は鋭く、明確な敵意ではないが明らかな警戒心を向けている。

 

「先生。本当に交渉なんだよね?セミナーに呼び出されるなんて、正直あんまり良い気はしないんだけど……後あの人誰?先生の同僚?ヘイロー無いけど。」

 

「ああ、交渉だよ……あの人はセミナー関係者だ。……アリスは?」

 

「エンジニア部に誘拐された。何でも帰ってきた試作品がどうのとか、新入生に技術の素晴らしさを伝えたいとか……まぁアリスはクエストとか言って喜んでついて行ったけど。」

 

「そうか、アリスも大変だね。」

 そう言いながらモモイの近くに座る。一応座る場所で表(・)向(・)き(・)モモイ達の味方で有ると示す。それが十分だったのか、モモイはため息をついて口を閉じた。

 

 

 

 

 

 最初に口を開いたのはユウカだった。

 

「では、鏡についての交渉を始めさせて頂きます。まず前提を確認します。我々セミナーが押収した暗号化解読システムである『鏡』、それについてヴェリタスとゲーム開発部が返還を求めていると先生から伝えられ、紆余曲折を経て今回の交渉場が成立しました。」

 彼女の説明を補足するよう、自分も口を開く。

 

「ああ、自分がリオに交渉した。万が一武力行使が起きて、お互い傷つくのは見たくないからね。何事もまずは話し合いの場を設けることから始めるべきだ。」

 自分の補足に頷き、ユウカは予め提示された資料を示しながらそれぞれの立場を明確にし始めた。

 

「我々セミナーの立場としてはヴェリタスが使用した場合につきまとう倫理的な問題とそれに伴うリスクを無視できず、今まで返還する事は難しいと考えていました。」

 

「へぇ、セミナーの方々……と言うよりもリオ会長かな?彼女達は自分達なら完全に正しい使い方を出来ると思っているんだ。だけどそれは驕りに過ぎない。権力者に秘密裏で自由に暗号解読出来る様なものを持たせるのは、それこそ最終的には超(・)監(・)視(・)社(・)会(・)が(・)出(・)来(・)る(・)と相場が決まっているよ。」

 

「……その話は後でしてもらいましょう。話を戻しますが、今回この様な場を設けたのは我々に条(・)件(・)付(・)き(・)で(・)返(・)還(・)す(・)る(・)用(・)意(・)が(・)あ(・)る(・)と言うことです。」

 

 ユウカの説明に真っ先に噛み付いたのはチヒロだった。反セミナーとしての立場に長年居る彼女は批判も堂に入っている。しかしユウカも話を上手く流し、本題を突きつけたか……

 

「話の腰を折らせてもらいますが、私達のスタンスとしては『鏡』の無(・)条(・)件(・)返(・)還(・)、これに尽きます。下級生はどうか分からないけど、私はヒマリ部長の努力の結晶を盗んだ貴女達に譲歩するつもりはサラサラないです。」

 真っ向から再びチヒロが意思を表明した。そしてモモイ達を見る。

 

「それに、私達だけでなくゲーム開発部もその意見に賛同しているよ。」

 

「そうだよユウカ!ヴェリタスに対して鏡を返してあげてよ!作ったものを勝手に取るのはおかしいことでしょ!?」

 

「……そもそもなんで貴女達が部外者のヴェリタスの鏡について関与しようとしているのよ。」

 

「それは鏡がないとシステムの解析ができないからで……」

 

「そう。てっきり正義感かなんかかと思っていたけど、つまり自己都合なのね。」

 

「うっ、しょうがないじゃん!セミナーは貸し出してくれないんだもん!他の部活もきっと困っている人もいるはずだよ!?」

 チヒロの意見に賛同するかのようにモモイは勢い良く意見をぶつけるが、ユウカの冷たい目線と共に放たれる自己都合という言葉に勢いが鈍る。

 

「あのさ、そもそもリオ会長だって前までビッグシスターアルゴリズムによって個人情報を取得していたりしましたよね。何故彼女は良くて我々は駄目なの?それこそおかしい話だよね。」

 

「リスクと責任の問題です。まずリオ会長はその非を認め、全面的に謝罪しそのシステムを解除しています。またシステムの範囲はミレニアムに限定され、しかも外部とは独立していた為限りなく外部に漏れ出るリスクも悪用されるリスクも低かったです。一方『鏡』に関してはそれ自体は外部とはつながっていないものの、解読した暗号自体は流出される可能性があり、また対象はミレニアムに限りませんよね。そして貴方達は『鏡』の扱い方について、考えが足りてないよう見受けられます。」

 

「それは論点ずらしだね。現状責任を理由に力を振るっている様にしか見えない。そもそもセミナーには信(・)用(・)が(・)足(・)り(・)て(・)な(・)い(・)んだよ。」

 

「おや、それをヴ(・)ェ(・)リ(・)タ(・)ス(・)が(・)言(・)う(・)の(・)で(・)す(・)か(・)?面白い冗談ですね。常に責任と非難を背負うセミナーと違って、貴方達には打ち込まれる楔が何も無いではないですか。」

 話がズレている。ヴェリタスの人間から聞いていたが、この2つの組織……と言うよりも部長であるヒマリの影響で三年は皆セミナーを敵視している。

 

「一度話を戻すべきだ。ヴェリタスにとってもセミナーにとってもこの会話は生産性が有るとは思えないな。2人もそう思わないかい?」

 私が手を叩きながらそう言うと二人とも一瞬此方を向いたが、ひとまず口は閉じた。

 

「それで、セミナーが提示する妥協案は何かな?」

 そうユウカに問いかけるが私は既に先日の話で出され、決定されたその妥協案を知っていた。

 

 

 

「ヴェリタスとセミナーで『鏡』にそ(・)れ(・)ぞ(・)れ(・)が(・)異(・)な(・)る(・)ロ(・)ッ(・)ク(・)を(・)か(・)け(・)る(・)。これが我々の提案です。これさえ行って頂ければ、『鏡』はそちらに返却します。」

 

 

 

 この案の原型は先日意外にもトキから出されたものだった。

『私が使う……装備には二重のロックが施されています。それは他者が簡単に扱う事が出来ないようにするため、私が単独で力を振るわないため、そしてリオ会長が私の同意無しに力を振るわないためです。鏡にも同じ様な事が言えると思います。』

 彼女が何故か序盤言葉に詰まって居たが理屈は納得出来るものだった。それをオラクルが

 

『それだけでは足りないと思う。確実なのは二重のロックを最初に作るのではなく異なるロックをそれぞれが作り、結果として二重になった方がよいだろう。』

と捕捉した事で完成したものだ。

 

「それを受け入れると「今回のゲーム開発部の件は我々セミナーも許可を与えるつもりです。ヴ(・)ェ(・)リ(・)タ(・)ス(・)の(・)行(・)動(・)次(・)第(・)で(・)す(・)が(・)、先生としての使命は果され、ゲーム開発部にとっても都合が良いでしょう。」割り込まないで!」

 チヒロが反論する前に、ユウカによって楔が打ち込まれるのを幻視した。そしてそれは間違いではなかった。

 

「ユウカは鏡の使用を許可するの?」

 

「ええ、この条件なら私達の懸念事項も対処できるから。」

 目を輝かせるモモイ達を見て、しまったと言う顔をするチヒロに内心申し訳なく思う。

 

彼女はこちらの目的を察するのが早かった。

 

しかしそれでも遅すぎたのだ。

 

 そもそも今回の会談は出(・)来(・)レ(・)ー(・)ス(・)だった。ヴェリタスはチヒロ一人が此処に来ているのに対し、セミナーはユウカ一人で一見対等に見える。しかし実際には3:1。確実に有利に展開を運びつつ、最悪ゲーム開発部に対する謹慎処分と言うちゃぶ台返しも有るのだ。

 

「モモイ、君にとってミレニアムの案は魅力的じゃないか?なにしろセミナーと闘う必要が無い。」

 この機を逃さずモモイに話しかける。

 

「でも……自分達だけ恩恵を被るのはどうなんでしょう。此処までお膳立てしてくれたヴェリタスのみんなに申し訳がたちません。」

 しかし思わぬ伏兵が現れた。ミドリが申し訳なさげにそう言ったのだ。

 

「うっ、確かに……」

 

「マキ達に取り返すって言っちゃったし……やっぱり駄目だ。」

 ユズやモモイがそう唸り、板挟みにあう。私がかける声を失っていると……

 

「君達は何故そこで彼女達に謝らない。」

 オラクルが彼女達に話しかけた。

 

「まず貴女は誰?先生からセミナー関係者と聞かされているけど。」

 不躾にモモイが尋ねる。

 

「私はオラクル。ミレニアムで噂程度には認知されていると思うよ。」

 

「え?あの不審者の噂の!?」

 

「私がリオから聞いた噂は亡霊だったけどね。それでもう一度聞く。何故素直に約束を完全には果たせなかったと謝(・)る(・)選(・)択(・)肢(・)を(・)考(・)え(・)な(・)い(・)?実際今回の話は謝って済む話だろう?実際ヴェリタスにとっても今よりは良いはずだ。」

 オラクルの言葉は問い詰めるようなものでは無く純粋な疑問だった。しかしそれは彼女にとっては寧ろ酷く重圧を与えるものだった。

 

 

 

「……謝るのはいいよ。約束守れなかったのも、糠喜びさせた上で自分達だけ恩恵を享受していると思われてもしょうが無い。」

 モモイが下を向いて話しだした。

 

「でもさ……それで『はい終わり』ってするのは違うじゃん。私たちだって、ちゃんと欲しいものがあって、ここまで来てるんだよ。それはヴェリタスの皆もそうなんだよ。」

 言葉に熱が入り始める。ゲーム開発部が、チヒロが、そしてユウカが瞠目する。

 

「それを「ごめん」で手放せって言われても……納得できるわけないじゃん!」

 彼女は顔を上げ、そう叫んだ。その顔は涙(・)で(・)濡(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 

 

「……なるほど」

 小さく、オラクルが言う。

 

「つまり君は……ヴェリタスとの約束も守りたいし鏡も手に入れたい。どちらも手放したくはない、という事だね?」

 確認するような、静かな声だった。

 

「……うん、そうだよ」

 モモイが強く頷く。

 

「それは理解できる。非常に人間的で、自然な感情だ」

 モモイ達の顔が理解してくれたと笑顔になりかける、

 

「ただ一つ、確認させてほしい」

 だが、オラクルの声が、わずかに低くなる。

 

「その選択をしようとした場合、その手段は何になる?そしてその場合の責任は誰が取る。」

 沈黙が落ちた。

 

「それは……何とかする。」

 言葉が詰まる。

 

「つまり答えられないと言うべきか……別に責めているわけではない。」

 すぐに言葉を継ぐ。

 

「ただ、君が今言っているのは自(・)分(・)の(・)意(・)思(・)で(・)道(・)を(・)選(・)ぶ(・)ということだ……ならその先に起きる結果も、同じように自分のものになる」

 静かに、置くように言う。

 

「君にはそれだけの権限も、穏当な手段も……そして覚悟も足りていないように見える。」

 モモイの目が見開かれる。

 

「それなら君がこの案を受けた方が全員が幸せになれる。」

 オラクルの論調はもっともらしく、また責め立てるものでは無かった。恐らく真(・)面(・)目(・)で(・)理(・)性(・)的(・)な(・)人(・)間(・)な(・)ら(・)裏の意図に気が付かなかっただろう。

 

 

 だが感(・)情(・)的(・)だ(・)が(・)馬(・)鹿(・)で(・)な(・)い(・)モモイには

 

 

 思(・)考(・)を(・)理(・)論(・)で(・)丸(・)め(・)込(・)も(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と理解できてしまった。

 

 

 

「……は?」

 最初は、小さな声だった。

 

「……何それ、それって選択できないじゃん。」

 モモイの肩が、小さく震える。

 

「じゃあさ……」

 顔を上げる。涙はもう止まっていない。

 けれどその目は、潤んではいるが——先程までとは違う色を帯びていた。

 

「じゃあさ、最初から言えばよかったじゃん」

 声が、少しずつ荒くなる。

 

「私たちには関係ないって。責任取れないなら、口出すなって」

 一歩、前に踏み出す。

 

「だったらさ!」

 拳を握りしめる。

 

「なんでここに呼んだの!?」

 声が、完全に弾けた。

 

「交渉だとか、話し合いだとか、そんなの全部ウソじゃん!」

 

「だってそうでしょ!?最初からもう決まってる!」

 視線がユウカへ、そしてオラクルへ、最後に先生へと向く。

 

「『責任が取れないからダメ』っていうなら、どっちに転んでも私たちの選択に意味なんかないじゃん!」

 息が荒くなる。

 

「謝って引くのも、突っ込んでぶつかるのも——」

 一瞬、言葉が止まる。

 

 それでも、

 

「……全部、子(・)供(・)の(・)ワ(・)ガ(・)マ(・)マ(・)で片付けるつもりなんでしょ」

 吐き捨てるように言う。

 

「だったらさ……」

 ゆっくりと、顔が歪む。

 

「最初から、そう言えばよかったじゃん」

 唇を強く噛む。

 

「大人が全部決めるから、黙って従ってろって」

 そして次の瞬間

 

「それをさ……!」

 拳を叩きつける。

 

「それっぽい言い方で誤魔化してるからムカつくんだよ!!」

 部屋の空気が震えた。

 

「責任とか、正しさとか——そんなのどうでもいい!」

 

「私は、やりたいことをやる!!」

 

 その言葉は、宣言だった。

 理屈を捨てた、選択の宣言だった。

 

 

 

 変化は劇的だった。

「……お姉ちゃんの言うとおりです。この会議がその様な茶(・)番(・)であるなら私達ゲーム開発部は賛同しません。私達は、私達のやり方で鏡を手に入れます。」

 

「部長として……私もそう決断させてもらう。」

 ミドリとユズが共に覚悟を決め、その様子を見てチヒロも勢いを取り戻す。

 

「彼女達と私達を分(・)断(・)す(・)る(・)のは失敗したね。」

 そう言って彼女は席を立った。

 

「交渉は決裂だから。」

 

 

 

「モモイ!」

 帰り道、モモイに話かける。

 

「何?先生。話すことは無いよ。」

 彼女は振り返り悪意を込めた口調で吐き捨てる。

 

「冷静になって欲しい。確かに彼女の言動は君の思考を誘導しようとするものだった……しかし現実としてユウカが提案した案を飲むのが一番君達にとって都合が良かった。」

 自分がそう言うと彼女の顔が歪んだ。

 

「やっぱり先生だってそっち側じゃん!」

 

「もう話しかけないでください。」

 彼女達からの印象は最悪だ。

 正直オラクルに関してはやってくれたなとも、しょうが無いとも思う。彼女の論調はモ(・)モ(・)イ(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)打ち破れたのだから。

 だがそれでも、最後の責任を果たすべき時が来た。

 

 

 

 

「一つ聞きたい。その最後のプランは武(・)力(・)に(・)よ(・)る(・)強(・)奪(・)。そうだよね?」

 もう先生の言葉なんて聞きたくなかった。何を言われても自分達の自(・)由(・)意(・)志(・)を(・)折(・)る(・)だけの事だ。それならば無駄な雑音を入れたくなかった。

 

「そうですよ先生。それしか手段はありません。」

 代わりにモモイがそう宣言してくれる。そうして先生の歩く音が消え、気配が遠ざかりかけた時。

 

「……その発言は記録させてもらった。君達がやろうとしていることはれっきとしたテ(・)ロ(・)リ(・)ズ(・)ム(・)だ。命どうこうでは無く、力で現状を変えようとする意思そのものがな。」

 抑圧され、酷く冷たい先生の声が聞こえた。

 

「……それがどうしたの。キヴォトスではありふれた行為じゃん。」

 

「個人や1組織ならな。でも今回モモイ達かヴェリタスと共謀して襲う予定なのはセミナーだ。」

 

「何が言いたいのさ。」

 

「セミナーに対する武力を伴う反逆を、ミレニアムの生徒が行う。それをセミナーが許すと思うのかい?」

 

「だから勿体ぶらずに言ってよ!」

 振り返って大声で叫ぶ。

 

 

「……君達が最終的に武力行使をすると全体で意思決定がなされた場合、ミレニアムプライズまで拘束すると予め約束したんだ。」

 

 

 帰ってきた言葉に私は、意外なほど動揺した。

 

 

 

 

 

 

 

「は、はは。先生、私達は依頼主だよ。そんな事を敵側と約束しているなんて契約違反だよ。そんな事をするわけ無いよね。」

 

「したくは……無かった。」

 

「じゃあなんでするのさ!先生は生徒を助けるものでしょ!?」

 先生の無責任な言葉に思わず熱がはいる。

 

「先生に力が無いからこんな事になっているんじゃん!」

 そう叫んだ瞬間。

 

「あぁ、そうだよ!だから小細工を弄してでも君達の助けになろうとしてた!」

 それ以上の激情をぶつけられた。

 

「君達を助ける為に何でもやったさ。廃墟に連れて行った。アリスについて承諾を取りに行った。二度目の廃墟に連れて行った。鏡に関しての返還交渉の場も準備した。」

 

「じゃあなんで最後にこんな選択をするの!責任を投げるの!」

 そう言うと先生の声に怒りが混じった。

 

「君達がそれを言うのか!そもそも自分を頼る前に自分達で何か努力したのかい!?」

 突き付けられた言葉はナイフのようだった。

 

「そんな、そんな事を言わないでよ!依頼っていうのはその為にあるんでしょ!」

 

「そうだ、でもそれが最初から人だよりであって良い訳では無いんだ!」

 先生と激しく言い合う。こんな風に話す筈では無かった、もう話すつもりさえ無かったのに、気がつけば言葉がこぼれてくる。

 

「先生は生(・)徒(・)の(・)理(・)想(・)の(・)た(・)め(・)に全力を尽くすんでしょ!」

 

「自分だって、こんな事はしたくない!君達の理想を叶えてあげたい!でもそれだと君達の為にならない。」

 先生は血を吐くような表情で叫んだ。

 

「生徒の為に、依頼主の為だけに動く、

 

そんな理想は毒なんだ!

 

頼むから、これ以上私に、責任を押し付ける大(・)人(・)の(・)仮(・)面(・)をかぶらせないでくれ!」

 その言葉は

 

 先生が一人の若(・)い(・)人(・)間(・)で(・)あ(・)る(・)事(・)を私達に思い出させた。

 

 

 

 

『先生、待ってください。先生!ひとまず彼女達の話を…、』

 アロナの声が聞こえる。静止する声だ。彼女は何時も私を助けてくれる。もしかしたら彼女は自分が直接伝えるよりも良い対話が出来るかも知れない。

 けど、そ(・)れ(・)で(・)も(・)自(・)分(・)が(・)直(・)接(・)伝(・)え(・)る(・)べ(・)き(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)た(・)。

 恥も外聞も無い。先(・)生(・)としての態度では無いことは分かってる。

 気の利いた言葉も言えない。情けない限りだ。

 ただ、自分が伝えたい事を、隠してきた本心を曝け出してきた。

 

 息を切らし、下を向く。

 もう何も言うことは無い。ただゲーム開発部に選択を促すだけだ。

 そう思って顔を上げると、

 

 

 

 目の前にミドリとユズが居た。

 

「先生、それにモモイ。今(・)ま(・)で(・)あ(・)り(・)が(・)と(・)う(・)、本来ゲーム開発部の事は部長の私(・)が(・)背(・)負(・)う(・)べ(・)き(・)だ(・)っ(・)た(・)。人見知りを盾にして、議論から逃げていたんだと思う……」

 ユズの口から出たのはゲーム開発部と私(・)に対する感謝だった。

 

「先生、ご(・)め(・)ん(・)ね(・)……思う所は有るけど、私達が無茶を言い過ぎた。先生も人間で、しかも背負うものが多いのに……分かった。ユウカに頭を下げて、私達は要(・)求(・)を(・)飲(・)む(・)と伝えるよ。ヴェリタスにも謝るよ。」

 ミドリの口から出たのは謝罪と決意だった。

 

「そんな、二人はそれで良いの!?」

 モモイの口から悲鳴のような声が上がる。

 

「うん。」

 

「私は、これが最善だと思いました。」

 辺りを沈黙が支配する。

 

「ユズも、ミドリも、それでいいんだ。」

 モモイは数秒だけ目を閉じる。先程の叫びとは酷く対照的な沈黙だった。

 

「ならゲーム開発部としては、それでいいよ。」

 そして目を開いて静かにそう言った。だが、その良いと言う言葉は決して良い響きを伴っていなかった。

 

「でも私は納得してない。」

 誰も言葉を挟まない。

 

「先生の言い分も分かる。」

 拳を握る。

 

「ユウカの言い分も……それでも私は嫌だ。」

 その言葉には怒りも涙もなかった。

 ただ悔しさだけがあった。

 

「だから今回は引く。だけど……私(・)は(・)も(・)う(・)先(・)生(・)に(・)期(・)待(・)し(・)な(・)い(・)。」

 視線が此方に向く。その瞳は酷く濁っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、最後にもう一度ユウカ達と調整を行い、鏡を借りた後、依頼を打(・)ち(・)切(・)ら(・)れ(・)た(・)自(・)分(・)はシャーレに戻って居た。

 あの後オラクルからは謝罪の言葉をもらった。自分は謝らなくて良い、どうせあのままでは会議は硬直し、何も決まらなかったのだからと言ったが、『自分の責任だ』の一点張りだった。

 

 ユズとミドリからは感謝と謝罪の手紙が来た。モモトークでも良いのに律儀な事だ。あの後ゲーム開発部は無事ゲームの制作を終え、そしてミレニアムプライズで特別賞を取ったらしい。

 もっとも調整後にどんなドラマが合ったのか、どんな風な感情を抱いたのかは私(・)に(・)は(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 依頼は打ち切られたとは言え、一応目標は達成した。それを社会がどう見ているかは現状不明だが、自分にとって今回の案件は苦い経験になった。

 

 だが得たものもあった。

 モモトークに送られた写真を見る。

 その中で彼女達4人は笑っていた。

 

 私のしたことは完璧な正解だったとは到底思えない。 

 それでも、彼女達の笑顔を見られたなら、この依頼を受けたのは無駄ではなかった。

 

 そう思う事にした。

 

 

 

 第一章『崩壊時計編』終幕。




先生
対象は教育者としての責務と現実的制約の間で継続的な葛藤を経験。 介入による解決を試みたが、一部個体から信頼を喪失する結果となった。 対象自身も当該判断を最善とは評価しておらず、現在も結論の検証を継続中。 それでも長期的利益を優先する傾向に変化は見られない。 ――失ったものはあるが、責任を放棄する兆候は確認されていない。

才羽モモイ
対象は外部からの善意や合理的判断よりも、自身の信念および仲間との約束を優先。 当該局面において外部個体(先生)の行動を明確に否定。 感情的反発として観測されるが、その根底には一貫した価値観の存在を確認。 対象の判断は未だ変化していないが、直接対立を経ても関係の完全断絶には至らず。 ――信頼は損なわれたが、相互理解の可能性は消失していない。
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