ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
純粋な器
鏡の交渉が終わり、私が帰るとアリスが背中に
「パンパカパーン、モモイ。アリスは『ひかりのけん』を手に入れました!……どうしたのですか?モモイ、元気がありませんよ?」
手に入れたものを自慢したいのだろうが、私はそんな状態では無い。先生と叫び合って、ユズ達と気まずい雰囲気になって……一人で帰った私にとってその純粋さは毒だった。
「ごめんアリス……もう少ししたらミドリとユズが帰ってくるからその二人に話して。」
そう言って私は部屋に籠もった。悔しかった。
先生に怒鳴った事か。
ユズ達との空気か。
ヴェリタスとの約束か。
理由は分からない。
けれど涙だけは止まらなかった。
ユウカへの謝罪、ヴェリタスへの謝罪、鏡の譲渡、カスみたいな中身の判明、ミレニアムプライズの為のゲーム作成、短い時間は飛ぶように過ぎていった。
そんな中彼女の言っていたひかりのけんについて聞きそびれ、そして片隅に置かれ続けるうちに忘れ去られていった。
しかし
「検査の為にアリスを連れていきたいのだけど……」
「アリスを連れて行くってどういうこと!?アリスはゲーム開発部の一員だよ!本人の許可なく……いや、あっても連れて行くのは駄目!」
お姉ちゃんは私達の部室に訪れたリオ会長の話を聞くなりそう言って追い返そうとした。
「一応言っておくけど私とオラクルで彼女の安全性を確認するだけよ。それにアンドロイドである彼女が急激な思考の変化、並びに環境の変化にさらされていることを考えるとチェックは必要でしょう?」
「誰が信じるもんか!もしそうなら自分達も連れて行ってよ!」
「それは難しいの、自分達の研究施設は極秘だし、余り他の生徒を入れないようにしているの。それにオラクルは余り人前に出るべきでは無いの……特に貴方達の様に悪感情を抱いている人の前には。」
やっぱりそうだ。お姉ちゃんは先生のことを嫌っている。
でも今は違う。
先生の話になるよりも、リオ会長やオラクルの名前が出た時の方がずっと険しい顔をする。
でも私からしたら、重要なのは
私はリオ会長が怖い。けど鏡の譲渡の件やミレニアムプライズについて、あの人は何時も約束を破らなかった。過剰な合理性と綿密な根回しは恐ろしいけど、そこは
だからリオ会長の発言を信用した上でアリスに判断を任せようと思った。
「ねぇアリス。アリスはどうしたい?」
此方を向いたアリスにそう問いかける。
「どう、とは?」
「リオ会長とオラクルの元で検査を受けると言うこと。あの人は安全の為、アリスの為と言っているよ。」
彼女に再度説明すると、アリスは難しそうな顔をしてリオに問いかけた。
「私が検査を受けたほうが、モモイ達にとって良いですか?」
「……えぇ、そうよ。」
「なら、アリスはリオ会長に付いていきます。ミッションです!」
彼女がそう宣言したとき、お姉ちゃんは、何か悲しそうな表情をした。
歩きながら見覚えの有るレールガンを担いたアリスと会話する……随分と高性能なアンドロイドだ。だけど、その割には知性がゲーム関係に偏ってる。
「アリス、そのレールガンは何処で手に入れたのかしら?」
「エンジニア部の人から譲り受けました!プロトタイプの実証実験?とか言ってました。試作兵器はロマンです!」
「……そう。」
後でエンジニア部を問い詰めると頭の中でメモをしつつ会話を続ける。
「リオ会長は王様ですか?」
「そうね……何方かと言うと政治家かしら。」
「政治家とは何ですか?貴族みたいなものですか?」
「……まぁ一部同じ様な部分も有るけど、基本的には貴族の様に血筋では無く個人の資質によって選ばれた支配者だと思って欲しいわ。」
「成る程!つまり皆で選んだ王様な訳ですね!」
余りの理解力に思わずため息が出る。認知能力に歪さがある。私のコミュニケーション能力では手に負えないがそれは彼女の罪ではない。
「アリス、貴方が嫌でないなら後で少しお勉強する?会話をする時に、知識は大事よ?」
そう私の打算を含ませながら問いかけるが
「いえ、モモイ達を心配させてはいけないのでミッションが終了次第帰ります!」
と素気なく断られた。
本当に裏表がなく、同時に良い子だと思った。
「リオ会長!今から会う人はどんな人ですか?」
「……預言者ね。」
「占い師みたいな?」
「ごめんなさい、それなら賢者と言うべきだったわね。」
「初めまして、私がオラクル。今回リオと共に君の調査、および検査と調整を行う人間だ。」
エリドゥの一室、待ち合わせ場所に足を踏み入れたアリスに対して彼女は穏やかに歓迎した。
「貴女が賢者ですね!先生と似たような雰囲気を感じます。」
「そうかい?それなら嬉しいな。彼と同じ様に善人と思われているんだね。」
「違うのですか?」
「善なんてあやふやだからね。仮に善を
「何故仮定するのですか?正しい様に思えます。」
アリスがそう言うと彼女は少し苦い顔をした。
「……今日は検査がメインだ。この話について気になるなら、今度続きを話す。ついでに幾つか物語を伝えよう。どうする?」
オラクルは話を流しながらもアリスに選択肢を与えた。
「是非とも聞きたいです!勇者は自己を高めるべきです!」
「そうか。君は勇者なんだね。」
「はい!」
アリスに「意識を落とすことは出来るかい?」と尋ね、意識を落としてもらった後調査を始めた。
専門的な施設、莫大な電力供給、そしてエリドゥの演算リソースの活用。様々な条件を揃えてアリスの検査と調査を始めたが……
「これは、危険すぎるわ。」
リオの発言には警戒心が多分に含まれていた。
「同意する。」
私も即座に同意した。
「まずアリスは兵器として設計されている。そして同時に演算機能も持っている。」
「えぇ。しかも後者が問題よ。」
リオは表示された内部構造を指差す。
「普通のアンドロイドならアクセス権限の階層構造が存在する。でもこれは違う。重要な部分そのものに強固なロックが掛かっている。」
「比喩的には金庫だね。」
「えぇ。そして問題はその金庫の鍵穴。」
彼女は画面の一部を拡大する。
「この部分。」
「特定のプログラムを受け入れるためのインターフェースだね。」
「そう。」
リオは頷く。
「つまり製作者は想定していたのよ。将来的に何かを追加することを。」
「追加というより実行かな。」
「同じ意味でしょう。」
「微妙に違う。これは多分本当に鍵穴として存在していると思う。周りのプログラムが汎用性を持たせるにはシンプル過ぎる。だが実行する内容は碌でもない事だろう。で、問題は……」
私は画面を切り替えた。
映し出されたのは複数の防御レイヤー。
「本命はこっちだ。」
「ファイヤーウォールね。」
「そう。」
自然に何時もより声が低くなる。
「危険性があると判断される領域へ到達するにはまずこの防壁を突破する必要がある。」
「解除ではなく突破。」
「解除権限が存在しない。」
短く答える。
「つまり設計者以外には楽に開ける方法が無い。」
沈黙が重くのしかかり、リオは腕を組んだ。
「君一人でまずこの防壁を突破出来るか?」
「……現状難しいわね。それなら
「私ならそうだな……人員を用意すれば楽にで突破出来るかも知れないが、一人で、かつこの都市の技術力だと
「嫌な予感しかしないわ。貴女で8時間ならキヴォトスで突破できる人間はいるの?ただの1兵器にしては過剰すぎる。」
「残念ながら私も同感だ。」
私は更に後方のログを表示する。
「この部分を見てくれ。」
リオの表情が凍った。
「待ちなさい。」
「気付いたか。」
「通信機能?」
「ああ、常時待機状態になっている。ファイヤーウォールへの不正接触を検出した瞬間、もしくは彼女自体に不可逆的な障害が発生した場合、自動的に外部への通信が実行されるようになっているみたいだ。多分このパターンは……
頬を引き攣らせながらリオが私に問いかける。
「送信先は。」
「確定で廃墟だろう。具体的な対象については推測になるが……検査途中何度か出てきた『無名の司祭』と言う存在の遺物だと思う。」
リオが舌打ちした。
「最悪ね。これだとコユキに突破させようとした場合、不可逆的な障害と判断されて寧ろ
「同感だ……そう言えば君は知っている様だが、無名の司祭とは何だ?」
「私にもわからないのよ。知っているのは表面上の事だけ。ただ……
私は黙って頷きつつモニターを指差す。
「もし私達が防壁に干渉した場合、向こうはアリスへの攻撃だと判断する可能性が高い。そうしたら兵器群が動く……アリスを守るために。」
「笑えない冗談ね。」
「冗談なら良かった。」
モニターをリオが横から閉じる。
「問題は単純よ。」
「聞こうか。」
リオが口を開く。
「この子は爆弾よ……しかも誰も解除する事は出来ない。」
「出来るのは爆発しないように祈るだけ……か。」
沈黙が満ちる中、ふとリオが尋ねてきた。
「逆に言うなら無名の司祭の兵器軍に一次的でも対処できれば何とかなるの?」
彼女の質問に少し考える。
「君達ミレニアムの生徒達が自分を手伝ってくれると言う前提だが……自分ならまずファイヤーウォールに接触した段階で実行された通信を生徒達に順番に追跡させて送信先を特定し、そこをハッキングで叩く。そうすれば敵の攻勢は多少勢いを失うだろう。復旧前にファイヤーウォールを突破してしまえば良い。」
「だけど通信先は恐らく分散しているはずよ。」
「だとしても意味は大きい。分散しているなら時間差で全部叩くだけだ。君達の能力次第だが……エリドゥの防衛システムも使えば時間は稼げるだろう。逆にリオは初動を止めるために何人くらい生徒が必要だと思う?」
「エリドゥの防衛力、私が持っているデータ上の兵器軍の戦力を考えると……少なく見積もって
思わず天を仰いだ。
「この都市でそれは不可能だろう。」
「えぇ少なくともミレニアム全員を持ってきても駄目でしょうね。」
そこで議論は停滞した。
「仕方が無い。一先ずアリスに自分達も
「それしか無いわね。」
思考の末、私とリオはその様な先送りを選択した。
アリスに追加の制御プログラムを仕込み、彼女を起こす。
「おはようございます!リオ、オラクル……どうしたのですか?元気が無いですよ。」
彼女の目には私達が元気が無いように映ったようだ。そしてそれは正しい。
「アリス、先に言うと貴女は
私がそう言うと彼女は少し動きをとめ、ゆっくりと口を開いた。
「魔王……魔王?いえ、アリスは勇者なんです。仲間を見捨てず助けるのが……」
「私たちもそうであって欲しかった。けど貴女は残念ながら勇者として創り出された訳では無かったの。貴女は世界を滅ぼす存在なの。」
それが彼女のアイデンティティを揺るがす発言である事を承知でそう告げる。彼女の動揺が手に取るように分かった。
本来なら真実を告げてすぐにでも破壊すると言いたい。けどそれは
私が口を閉じると代わりにオラクルが話しかけた。
「アリス、君が動揺しているのは分かる。君は勇者であると教育された。けど産まれは魔王だった。その衝撃は計り知れないだろう。」
「アリスは、モモイ達を傷つけるのですか?彼女達は仲間では無かったのですか?」
「話を聞いてくれ。アリス、確かに産まれは魔王だが、君の心は勇者だ。
アリスの瞳が瞬く。彼女の反応を見てオラクルは説得を続けた。
「生まれ持った血筋や運命だけで魔王や勇者、英雄になるのでは無いと私は思うんだ。仕立て屋やただの1兵卒から魔王になったり、一人の孤児が世界を纏める英傑になる事もある。」
そう話した上で、
「アリス、君は何になりたい?もし勇者でありたいなら……この手をとってくれ。」
オラクルはそう手を差し出し……アリスは迷った上で、その手を取った。
「諦めるのは……多分違いますから。アリス頑張ります!」
「決まりだ。これから君には定期的に検査を受けてもらうよ……モモイは多分反対すると思うからミドリとユズに伝えてくれないかな?定期的にメンテナンスをしにいくと。」
「はい!」
私はシャーレで書類の整理を行っていた。ミレニアムの依頼が終わった後受けた幾つかの依頼、解決後の後始末だ。
正直規模だけならミレニアムの依頼よりも大きいものも有ったが、苦い結末を迎えたとはいえあの時の経験は無駄ではなかった。それに、基本的にキヴォトスは暴力がまかり通っており、力はより大きな力で迎え撃てばよい為簡単だった。
また、セミナー……特にリオの様な考え方をする生徒や大人達に会うことはなく、彼女の考え方がキヴォトスでは異質だった事がより実感できた。
そんな事を思いながら仕事をしていると、個人携帯から電話がなった……電話?基本生徒達はメールやモモトークで連絡してくるのだが。
「もしもし、何方ですか?」
『2週間ぶりかな、先生。』
「オラクル?何かあったのですか?」
電話をかけてきたのはオラクルだった。何時もよりも
『……人払いをして他の機器の電源を落とす、もしくは完全に機密な情報を取り扱える場所に行けるかい?』
伝えられた言葉に一瞬困惑し、彼女が無駄な事を言わない事を思い出し表情が固くなる。
「ヒナ、少し外に行ってもらう事は出来るかい?」
当番のヒナにそう伝えると怪訝な顔をして
「どうしたの?」
と尋ねて来た。
「この電話で今から話すことは機密情報の伝達だと思う。」
「分かった。ただ誰からの電話かは教えてほしい」
「……言っても良いか。オラクルだ。確か君も会ったことがあるとリオから聞いているよ。」
彼女からの問に対してこれなら答えてもよいかと考え返答すると彼女は苦い顔をしつつも頷いて部屋を出た。
パソコンやこれ以外の電子端末を一部の基幹システムを除いてオフにし、イヤホンを繋いで準備をした。
「準備できたよ。」
『落ち着いて聞いてくれ、我々はキヴォトスにとっての
「……詳しい説明をしてほしい。」
『アリスにキヴォトスを滅ぼしかねないプログラムが仕組まれている可能性がある。また、その解析中に具体的な危険性が明らかになった。そのプログラムを排除しようとすれば、
背筋が凍った。オラクルはそんな冗談を言うような人間では無い。だが冗談であって欲しいと思った。
「……対応は?何か応急処置はしたのか?」
念の為現状の状況を把握しようとする。
「……一応そのプログラムが作動するには、外部から何かしらのプログラムが差し込まれる必要が有ると考えられる。今はそれを防ぐ為、アリスの基幹システムの外にセキュリティを取り付けた。」
「……つまり先送りと言う認識で正しい?」
『手厳しいな。だがその認識で有っている。今回連絡したのは情報の共有と頼みたいことが有るからだ。』
「……とりあえず話は聞くよ。」
彼女は無理難題なのは承知しているが……と前置きした上で
『今の連邦生徒会の持つ力と民衆からの信頼は緊急時に何も出来ない木偶の坊と化している。だからこそ君にはそこを空いた時間で対処してほしい。』
と依頼内容を伝えた。
「それは連邦生徒会を強化しろと言うことかい?」
『正確には違う。』
私の疑問をオラクルは即座に否定した。
『私達が必要としているのは組織力だ。避難誘導、物資輸送、治安維持、学園間の調整、そして
「だが同時に権力を持ち過ぎても困る、と。」
『そうだ。』
彼女は迷いなく肯定した。
『連邦生徒会に学園へ直接介入する権限を持たせるべきではない。各学園の自治は維持されるべきだ。権力は集中した瞬間から腐敗の危険を孕む。』
「それはシャーレへの当てつけかい?随分と厳しいね。」
彼女の過去の言動を思い返しながら少しでも空気を軽くしようとする。
『それはすまない、だが事実だ……だから私は強い連邦生徒会を望む。だが巨大な連邦生徒会は望まない。学園を支配する組織ではなく、学園同士を繋ぐ組織であるべきだ。』
「なら戦力は?」
話の展開からして、彼女の思考が多少理解でき始めたが一応聞く。
『必要だ。』
即答だった。
『最後の手段として。どの学園にも属さず、特定の思想にも従わず、キヴォトス全体を守るためだけの戦力は存在するべきだ。だがそれは普段から振り回される剣であってはならない。鞘に収められたまま忘れられているくらいが丁度良い。』
「随分と都合の良い組織を求めるんだね。」
『そうかもしれない。だが、我々は生徒に任意で戦えと言えない都合上、この様な都合のよい外部組織を頼るしかない……そしてその為のパスとしてもっとも安全で、もっとも強力なのが貴方だ。』
オラクルは自嘲気味に笑った。
『だが最悪の時にだけ機能し、普段は誰からも恐れられない組織。それが私の考える理想の連邦生徒会だ。』
「……期待はしないでくれ。」
『わかっている。無理を言ったな。』
私はその後、連邦生徒会の関連組織や過去の実績を調べ、有る1つの組織に目を付けた。
「アロナ。」
『はい!何でしょうか!』
「……
『……分かりました。』