ブルーアーカイブ×アークナイツ  調月リオと星外の預言者   作:バトクロス

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先に言っておくとハナコは嫌いではありません……ですが、この作品のテーマ的にはこの様な展開にせざる負えませんでした。


分かたれる道

 第一次特別学力試験の二日前、そして前日。

 私は浦和ハナコと下江コハルをそれぞれ個別に呼び出した。それに付随して2人にそれぞれ別々のテストを持ってきていた。ハナコには3択問題と記述式の二パターンの問題、コハルには通常の試験に極めて近しい抜粋問題だ。

 

 

 

 試験二日前にハナコを補習授業部終了後に呼んだ。

 

「あらあら、先生どうされたのですか?私に何か興味でもあるのですか?」

 彼女はそう微笑みながらその目は全く笑っておらず、此方を観察してくる。

 

「仕事だからね、特に君みたいな何故勉強ができる人間が此処に居るのかが気になるんだ。少々この部活は()()()()()()。」

 

「……先生は何か疑っていらっしゃるのですか?」

 

「まぁ……具体的な何かを見つけられた訳ではないけどね。精々()()()()()()()()()何だろうなと当たりをつけた程度だ……さてハナコの質問に私は答えたよ。今度は君が何故試験に落ちたのか教えて欲しい。」

 彼女が私に対してやはり警戒心を持っていることを確信しつつもそう話を繋げる。

 

「私はただ()()()()()()()()()()()()()()()()()。成績は別ですけど。」

 

「もし本当なら教師として見る目が無いことになるけど、私にはそうは見えない。」

 

「先生は……()()()()()()()()()()()()無いのですか??」

 

「そうだな……信じる為にこのテストを受けて欲しい。本気でだ。」

 

「つまり()()()()()()()()()なんですね。」

 

「……信じるという事は本質的には()()()()、もしくは互いを尊重する姿勢が必要だと思う。私が思うに君が私を尊重するよりも私が君を理解して、その後に自分が情報を開示した方が都合良いと思うんだ。」

 そう言いくるめて彼女に2つのテストを受けさせた。

 結果は……記述は5点、選択肢は30点だった。

 

「言った通りですよね?」

 何処か勝ち誇った様に言う彼女に対して私はこう言った。

 

「それは申し訳なかったね。君を過大評価していた。ただ……君は自分の出来なくて当然と言う態度が、真面目に受かろうとしている()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()と言うのは理解した方がよいかもね。」

 それだけ言って、

 

「補習授業部の後だろうに申し訳なかったな。帰ってもらっても構わないよ……それとも私ともう少し話すかい?」

 そう彼女を追い出すと彼女は何処か怪訝な顔をしながら帰っていった。

 

「……三択問題を分からない状態で30点取るのは確率的に確かに正しい。ただ、それよりも記述だ。彼女は他の生徒達に教えている事を考えると()()()()()()()()()()()()()()。恐らく分かった上でわざと不正解の解答を選んでいるな?」

 彼女の先程の発言が嘘であることの証拠を手にしつつ

 

(受かるつもりが無い生徒をどうやって合格させれば良いんだ?そもそも彼女は目に見えて私を見定めた上で信用していないし……)

 そう頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 次の日に下江コハルを呼んだ。

 

「何よこんな時間に。ま、まさか私に如何わしい事をする気!?」

 初っ端から何か勘違いしている様だ。昨日とは打って変わって緩い空気に苦笑しながら口を開く。

 

「私はナギサからティーパーティから直接依頼を受けているんだ。そんな事はしないし出来ないよ。それに……」

 彼女の腰にある物を指差す。

 

「私には防壁があるとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな事より……」

 自分の発言に狼狽える彼女を無視して本題に入る。

 

「コハル、君は他の補習授業部のメンバーに()()()()()()()()()()()()。」

 

「なっ、何を証拠にそんな事を!」

 

「根拠としては薄いけど……前ハナコから読む場所が間違っていると言われた時に気がついてさえ居なかったよね?それはつまり、学習内容の前後関係さえ把握していないと考えるのは不自然かな?」

 

「それは……簡単だったから全部同じ様に見えただけよ!」

 私の指摘に彼女は狼狽えがらもそう答えた。想定通りだ。

 

「そうしたらこのテスト問題解けるよね?」

 そう言って予め用意していた過去問の抜粋問題を彼女に渡した。

 

 

 

 

 

「コハル……流石にこの点数はどうかと思う。」

 私が彼女に渡した問題は過去問の抜粋とはいえ、所謂基礎問だった。問題数も絞っており試験と比較しても圧倒的に時間がかからない様になっているだからこそ時間が足りないと言うことは無いはずだ。

 

「……君はこの数日、何をしていたんだい?」

 思わずそう問い詰める様な口調で話しかけると……

 

「……だって、人を馬鹿にしているくせに、自分がそれ以上の馬鹿だったら惨めじゃん!そんな風にバカにされるのが嫌だったんだもん!」

 ()()()()()()()()()()。声が裏返り始める。

 

「待て!泣かせるつもりは無かったんだ!ただ、君のこれからの対策を考える為には必要なんだ!」

 そんな風に反応されるとは思っておらず思わず焦りながら彼女にハンカチを渡す。

 コハルは受け取ったハンカチを乱暴に奪い取ると、そのまま目元を拭った。

 

「……先生なんかに分かる訳ないじゃない。」

 小さな声だった。

 だが、その言葉は今までの強気な態度よりもずっと本音に近いように思えた。

 

「そうかもしれない。」

 私は素直に頷いた。

 

「え?」

 

「君が今まで何を考えて、何を怖がってきたのか。私は知らない。そもそも私は少し前までトリニティの事を殆ど知らなかったんだ。だから今聞いているんだ。」

 コハルは黙る。

 責められると思っていたのだろう。

 しかし私が知りたいのは失敗の責任ではない。

 失敗の理由だ。

 

「君は馬鹿にされたくない。だから勉強ができる振りをした。その気持ちは分からないでもない。」

 

「……」

 

「けれど、誤魔化し続けていくと最終的にはその方が辛くなるんだ。」

 その言葉にコハルが顔を上げた。

 

「何でよ。」

 

「自分が理解できないことを認めるのは、とても勇気がいることだ。でも、()()()()()()()()()()()()()()。」

 私は過去問を指差した。

 

「この点数は酷い。正直に言う。さっき言った言葉は確かにきつかったけどそれは自分の本心だ……残念ながらね。」

 

「うぐっ……」

 

「だが私は、この点数自体は問題だと思っていない。いや、寧ろ早い段階で知ることがよかったと思っている。」

 コハルが目を瞬く。

 

「問題なのは、君が自分でも理解できていないのに、『分かっているふり』を続けたことだ。」

 

「……」

 

「それを続けられると、私は君を助けられなくなる。」

 しばらく沈黙が降りた。

 やがてコハルが小さく呟く。

 

「恥ずかしいじゃない。みんなできるのに。」

 コハルの言葉に無言で耳を傾ける。

 

「私だけできなかったら。なんて言われるか分からない……ここはトリニティなの!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう言ってコハルは下を向いた。

 私は漸く彼女の心情の断片が推測できた。彼女は単に見栄っ張りなのではなく、トリニティと言う学園に対する()()()()()()()()()()()()()()

 それを踏まえて私は言った。

 

「なら今の補習授業部では()()()()()()()()()()()()。此処に居るのは基本的に成績不良の生徒達だけだ。誰も点数について馬鹿にしたりはしないと思うし、()()()()()()。」

 

「えっ。」

 その言葉にコハルが反応した。

 

「今の補習授業部で一番恥ずかしいのは、分からないことではない。」

 コハルが顔を上げてこちらを見る。

 

「分からないまま放置することだ。いきなり来た外様の大人など信用できるかと思っているかもしれない……それでも信じて欲しい。信じてくれれば私は最大限君達を助ける。」

 数秒。

 彼女は俯き、そして小さく息を吐いた。

 

「……じゃあ。」

 

「うん。」

 

「じゃあ、今からでも間に合うの?」

 その言葉を聞いて少し安心した。

 少なくとも彼女は逃げることを選ばなかった。

 

「正直に言うと、明日のテストは厳しい。」

 

「ちょっ!?」

 

「だが二回目以降のテストは不可能じゃない。」

 私はそう言って先ほどの解答用紙を裏返す。

 

「君の場合、基礎知識そのものも問題があるが……まず勉強方法がおかしい。」

 

「勉強方法?」

 

「ああ。」

 私はペンを取り出した。

 

「君は学習についての順序と言うか流れが理解出来ていない。……まずは堅実に基礎からやって一週間前の自分に勝つところから始めよう。」

 コハルは不満そうな顔をした。

 

「何よそれ。もっと楽に成績上がらないの?」

 

「受験勉強の基本だよ。そもそも簡単に上がるんだったら此処に居ないよね?」

 

「そうだけど……そんな言葉聞いたことないんだけど。」

 

「今聞いただろう。」

 そう言うと、ようやく彼女は少しだけ笑った。

 その表情を見て、私は心の中で一つ問題が解決したことを確認する。

 コハルはまだ大丈夫だ。

 問題はむしろ――

(ハナコだな。)

 彼女は逆だった。

 出来ないから落ちるのではない。

 落ちたいから落ちている。

 そして、その理由を絶対に見せようとしない。

 試験まで残り一日。

 私は補習授業部最大の問題児が、ハナコなのだろうと改めて確信した。

 そして……編入時の成績以外で目立った違和感が無いアズサに関しては明日の結果で分かるだろう。

 そしてもう一つ、彼女達からの信頼を失うかも知れないが、それでもやらなければならない事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 第一次特別学力試験当日。

 私は教卓の椅子に腰掛けながら、試験を受けている補習授業部のメンバーを監視していた。

 

(予め問題を軽く見たが、自分から見ても比較的簡単な内容だった。ヒフミは受かるだろうし、コハルは多分落ちるだろう。問題はハナコとアズサだが……ヒフミはこの後の返却についてショックを受けるだろうな。)

 一部苦戦している生徒達を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 数日後、試験結果が届いた。

 

「み、みなさんお疲れさまでした……!えっと、100点満点で60点以上でしたら合格だそうです!高得点は取れなくても、取りあえずそのラインだけ越えられれば大丈夫です。それに内容も結構簡単でしたし……では、結果発表と行きましょう!先生、お願いします!」

 ヒフミのその言葉に頷き成績を読み上げる。

 

「ヒフミ、72点。結果は合格」

 

「あ、ありがとうございます!何だが無難な点数ですが、良かったです!では、次に……」

 ヒフミの安心を他所に、今から伝える点数達に気が重くなる。

 

「アズサ、32点。結果は不合格」

 

「……はいぃっ!?」

 ヒフミが驚いているが、正直私も内心驚いている。受講態度は真面目であり、わざと落ちたとも考えにくい。

 

「ちっ、紙一重だったか。」

 

「……ま、待ってください!『紙一重』っていう点数じゃないですよ!?結構足りてないですよ!?」

 ヒフミの悲鳴を他所に続きを読み上げる。

 

「コハル、11点。結果は不合格。」

 

「コハルちゃんんんんっ!?ち、力を隠してたんじゃないんですか!?今回はちゃんと1年生用の試験を受けたんですよね!?ま、まさか2年生用の……いえ、その点数3年生用の試験を受けたんですか!?」

 ヒフミはアズサに対してよりも更に大きな悲鳴と突っ込みをいれる。

 

「やっ、その……!か、かなり難しかったし……」

 やはりコハルは真実を人に言うのが怖いようだ。

 

「すっごく簡単でしたよ!?小テストみたいなレベルでしたよ!?」

 ヒフミの悪意のない暴言が突き刺さる。それを見て思わず助け舟を出そうとした。

 

「……そうよ。私は()()()()()()()()()()()()()()。自分が馬鹿だって事を認めたくなくて嘘をついて……それが余計に自分の首を絞めて、余計に虚勢を張って。」

 動こうとした身体が止まる。

 

「ごめんなさい。私は見栄を張っていただけで大馬鹿者なの。補習授業部でも勉強しているフリだけしてた……ごめんなさい!これからは私の勉強についても助けて!」

 そこまで言って彼女が頭を下げた。

 彼女の告白に部屋が静まりかえる。

 誰も言葉を発せない。

 そんな中、一人の生徒がコハルに無言で近づいていった。

 

 

 

「大丈夫だ。私は勉強しても落ちたんだ。これから一緒に頑張ろう。」

 

 

 

 生徒は……アズサはそう言って彼女に手を差し伸べた。

 コハルが顔を上げて、差し伸ばされる手に瞠目しそしてそれを掴んだ。

 

「ヒフミ、ハナコ。私と同じ様にコハルにも教えて欲しい。」

 硬直していた時が動き出す。

 

「あ、当たり前です!補習授業部の仲間なんですから!」

 

「コハルちゃんは恥ずかしがりや何ですね。可愛らしい事です。勿論お手伝いしますよ。」

 

「うぅ、最初に馬鹿なんて言ってごめんなさい!これからはよろしく!」

 コハルはこうして補習授業部に温かく迎えられた。

 

 

 

 

 

「それはそうと、うぅ……合格したのは私とハナコちゃんだけ、ということでしょうか……となるとまた次の、二次試験を受けないと……。」

 そんな彼女にとどめを刺すようにハナコの点数を言う。

 

「ハナコ、2点。結果は不合格。」

 ヒフミの時が止まる。

 

2点!!?!?!?

 これまでで最大の驚愕を受けている事が容易に想像される音量と声色だった。

 

「2点、2点ですか!?20点ではなく!?いえ、20点でもダメなのですが……!むしろ何が正解だったんですか!?と言いますが待ってください、ハナコちゃんものすごく勉強ができる感じでしたよね!?」

 

「確かに私、そういう雰囲気あるみたいですね。まあ成績は別なのですが。」

 ハナコはニコニコと笑いながらそうのたまう。

 

「雰囲気!?雰囲気だけだったんですか!?成績とは別ってどういうことですかっ!?」

 思わずヒフミがショックで倒れそうになった。

 アズサが咄嗟に支える。

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 私は困惑していた。

 あれだけ私に勉強を優しく丁寧に教えてくれたハナコが2点な事に。

 この補習授業部は良い所だ。

 先生は真面目だけど熱意があるのは伝わるし、ヒフミは一生懸命にリーダーシップを発揮しようとしている。ハナコは勉強を丁寧に教えてくれたし、コハルはさっき心情を打ち明けてくれた。

 そうだ、()()()()()()()()()()()もったいない程のいい人達だ。

 

 

 

 だからこそショックで倒れ込むヒフミを支えた瞬間先生とハナコがこんな風に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……ヘラヘラ笑っている場合じゃないだろう、ハナコ。」

 教室が静まり返る。

 ヒフミが息を呑む。

 コハルも言葉を失っていた。

 私はハナコから目を離さなかった。

 

「先生?どうしたのですか?」

 それでも彼女は笑う。

 だが私は知っている。その笑顔は誤魔化しだ。

 

「君は何人の生徒を見てきた?」

 

「さて、どれくらいでしょう。」

 

「私はまだ少ない。」

 そう言って机の上に試験結果を叩きつけるように置いた。

 

「だが、一つだけ分かる事がある。」

 静かに。しかしはっきりと言う。

 

「君は勉強が出来る。」

 ハナコの笑みが僅かに止まった。

 

「出来ませんよ。」

 

「嘘だ。」

 即答だった。教室の空気が変わる。

 

「君はコハルに勉強を教えていた。アズサの質問にも答えていた。補習授業部で学習を進めていた時、私が見ていないと思ったか?」

 ハナコは黙る。私は続けた。

 

「出来ない人間は教えられない。理解していない人間は説明できない。だが君は出来た。」

 

「ですが先生は私の成績をテストの二日前に確認していましたよね?」

 

「え!?先生どういうことですか!」

 ヒフミたちに動揺が広がるが無視して続ける。

 

「確かにそうだ。あの時君は私を欺こうとした。あのテスト()()()()私はそう確信しなかっただろうね。」

 そう言って一枚の紙を取り出す。

 

「そしてこれは君の過去の試験結果だ。」

 教室の全員が息を呑んだ。

 

「四択問題。完全な当てずっぽうなら確率的には平均二十五点。記述がある事を考えて、しかも記述が部分点無しだとしても……約15点。しかし君はそれを()()()()()()()()。」

 私は紙を叩いた。

 

「そんな偶然は存在しない。君はわざと落ちている。」

 沈黙。

 長い沈黙だった。誰も口を開けない。

 

「だから何です?」

 ハナコが言った。初めて笑顔が消えていた。

 

「だから何です?」

 もう一度。

 

「私一人が落ちただけでしょう?」

 その瞬間だった。

 

「違う。」

 思わず声が強くなった。

 

「全然違う。」

 今度は抑えなかった。

 

「ヒフミは心配した。」

 

「コハルは苦しんだ。」

 

「アズサは必死で勉強した。」

 

「私も君達を合格させる為に時間を使った。」

 一歩前に出る。

 

「それなのに君だけが最初から受かる気すら無かった。それは失敗じゃない。怠慢ですらない。欺瞞だ。」

 教室が完全に静まり返る。

 

「君には事情があるのかもしれない。理由があるのかもしれない。私はまだそれを知らない。」

 そこは断言しない。そして、そこは()()()()()()

 

「だが、理由があるなら説明する責任がある。」

 そう言って補習授業部を見渡して、

 

「少なくとも……君を信じていた人間に対しては。違うか?」

 

「……過剰に信じられる事は嫌いです。放っておいてください。」

 

「それなら()()()()()()()()()()()()()()()()。私はこの仕事で、君達の卒業の為に動く責務がある。君からしてみれば自分には関係ないかもしれないけど……これはトリニティ上層部とシャーレの取り決めだ。」

 そう言って話をきり上げる。踵を返そうとしてもう一つ言うべきことを思い出した。

 

「傷ついたと恨んでもらって構わない。だが私は裁くために来ているわけではない、最初に言ったように私が背負うものは君達の合格、もっと言うなら()()()。もし君が私の発言や態度に文句を言いたいなら、シャーレに対しての苦情かティーパーティへ働きかける事だね。」

 そう言ってテスト発表は終了した。

 

 

 

 

 

 先生はそれだけ言うと踵を返した。

 教室には重苦しい沈黙だけが残る。

 誰も口を開こうとしない。ヒフミも、コハルも、アズサも。

 みんな困ったような顔をしていた。

 

「ごめんなさい……少し一人にしてください。」

 そう言って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 私のせいなのだろう。

 先生の言う通りだ。

 それくらい分かる。

 分からない程、私は馬鹿じゃない。

 いや……むしろ逆だ。

 分かっているから嫌になる。

 補習授業部がどれだけ自分にとって都合の良い場所だったのか。

 ヒフミがどれだけ必死だったのか。

 アズサがどれだけ努力していたのか。

 コハルがどれだけ苦しんでいたのか。

 全部見ていた、全部知っていた。ただ見ない振りをしていただけだ。

 私はただ落第生のふりをしていただけ、補習授業部の生徒を演じていただけ。何も彼女達に感化されるつもりはなかった。

 その筈だった……

 いつの間にか、この場所は随分と居心地が良くなっていた。自分に振りかかる責任もなく、頼り方も心地よい……そうぬるま湯の様な居心地だ。

 だから嫌だった。

 先生の言葉が。

 責任。

 信頼。

 説明。

 そんなものは最初から分かっていた……分かっているからこそ逃げていた。

 期待されることが嫌だった。

 信じられることが嫌だった。

 優秀だと言われることが嫌だった。

 何かになれると言われることが嫌だった。

 そうやって誰かに何かを求められるたびに、少しずつ自由が無くなっていく気がしたから。

 だから落ち続けた。

 だから馬鹿なふりをした。

 そしてそれが積もり積もって補習授業部に来た。

 それなのに。

 先生は()()()()()()()()()……振りかざしているだけの筈だ、そんな逃げ道を容赦なく塞いでくる。

 

『それなら早く補習授業部全員で受かる事だね。』

 

 思い出しただけで腹が立つ。

 あの発言には3つの意味が含まれていた。1つ目はそのままの意味、2つ目は()()()()()()()()()()()()()()()()と言う意味、そして最後は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ。

 本当に嫌な大人だ。

 少しくらい同情してくれてもいいだろうに。

 少しくらい見逃してくれてもいいだろうに。

「……嫌いです。」

 ぽつりと呟く。

 正しいことと、納得できることは、必ずしも同じじゃない。

 そして先生は、それを分かっているはずなのに……

 私は静かに目を閉じた。

 先生の言葉が頭から離れない。

 

『少なくとも……君を信じていた人間に対しては。違うか?』

 

 反論は出来なかった。

 それが何より腹立たしかった。

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