ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
トリニティに来て二回目の月曜日。
私は聖園ミカの調査の為に本格的に動くことにした。
「聖園ミカさん……貴女は少々授業に対しての積極性が足りていないように見受けられる。少し残りなさい。幾つか話がある。」
授業終わり、帰ろうとする彼女を呼びとめる。部屋の外にはキョウカを控えさせている。
今まで彼女は意図はともかく初手の質問以外は消極的な対応を取り続けていた。そこを逆利用する。
「でもオラクル、他の生徒達だって同じ様に議論に消極的な人も居るよ?」
「……それは幹部と言っても、
彼女の理論を瞬時に潰す。
「……オラクルは随分と傍若無人と言うか、先生みたいに口調に優しさがないね。トリニティみたいに気品がある所で育ってないのかな?」
「生憎研究一筋だったからね。私の居たところでは、礼儀はあっても気品は求められていなかった。ここみたいに綺羅びやかな社交界とは違うのです。」
「……研究者でも発表とかするタイミングだったり予算を得るための場ではもう少し敬語とか使わないの?」
「使おうとすればみな使える。ただ私達の同僚はみな質実剛健で合理性を好む、そんな人間達だった。彼等と話す時には言葉を飾って敬意示す必要が無かった。そして今も敬語を話す必要は無い。それだけだ。」
彼女の話題をそらそうとする話を受け入れつつも逃さないように先に席に座り、彼女に椅子に座るよう無言で促す。
「まぁ良いや、先生は何を聞きたいの?」
彼女は
ミレニアムの生徒達は笑顔の時は本当に喜ばしい時が多かった、問い詰めるときは無表情か怒っている。だがここは違う。皆が常に薄っすらと何かの皮を被っている。
そこは別にどうでも良いが、私の任務には邪魔だな。
「そうだね……初日で君の質問に対してキチンと回答した筈なのに何故そんなに警戒しているのかな?
ひとまず警戒心の理由を聞くことにした。同時に揺さぶりをかける。
「まず貴女は胡散臭すぎるよ。先生と比較してもね。確かにナギちゃんの影響力は警戒していたけどそれ抜きでも貴女は優秀すぎて迂闊に何かを話すことは出来ないかな?ほら、私って一応パテル派のリーダーだし。」
「一応とは?君はその立場にいる事が余り好きでは無いのかい?それとも
「いや、ナギちゃんみたいに私はちゃんとしていないからね。カリスマはあると思うよ?担ぎやすい神輿なだけかも知れないけどね。」
「そうか。じゃあ次だ。君は
敢えて嘘と真実を混ぜながら話す。
「うーん、ごめん。このトリニティではそんなに個人的な主義主張を言う事は無いんだ。まぁ私はそんなに不満は無いけど、こんなに外部講師まで招く様なリソースを使うならエデン条約なんかよりも
「……それは何かな?」
「何だろうね。具体的な事例は出てこないけどきっとあるよ。とにかく私はあの授業は真面目に聞いているし、これからはキチンと発言するからそれで終わり!」
そう言って彼女は立ち上がり、逃げるように帰ろうとした。
「じゃあ最後の質問。ナギサに聞いても教えてくれなかったんだけど
その発言で彼女の足が止まった。
オラクルは先生とは違う。
この大人は何時も何事も見透かしてくるような目をしている。
言葉だってそうだ。常に何かを考えながら、言葉一つに無数の意味を含ませている。
「私は殆ど知らないよ?体調不良だって聞いているけど、居場所は分からないや。まぁ元々病弱だし。」
努めて表情を維持する。確信した。この人に迂闊に何かしらの情報を与えては駄目だと。
「そうなんだね。彼女はじゃあ昔から連絡一つ寄越さずに授業を休む生徒だったのか……連絡先知っているかい?説教しないと。」
オラクルはそう決めつけて質問してくる。私としてはありがたい。そこを突かれると面倒だ。そのまま話の流れに身を任せる。
「ごめんね。今は私からかけても繋がらないの。」
「……それは少々奇妙だね。そしたら後で救護騎士団のデータベースを調べてみようか。もしかしたら入院中かもしれない。」
「多分無いと思うよ?」
「どうしてかい?」
「だってそしたらティーパーティに連絡がある筈だし。」
これは言っても問題ない……はず。
「……じゃあ
私の表情が硬直する。声色、表情、何処をとってもただの質問なのに、これは間違いなく詰問だと感じた。集中して答えないと……
「単なる噂だよ。トリニティは噂話が多いんだ。」
「噂の発生源は分かるかい?」
「……何でそんな事を聞くの?」
「話を聞いた感じ、その噂と実情がズレている気がするんだ。」
「知らないよ。噂は噂だし。」
そう言うとオラクルは一度視線を切った。印象は悪くなったがしょうがない。
「すまない、友人なら何かを知っているかと思ってしまった。これ以上は授業に必要ない話だ。明日からは積極的に授業に参加してくださいね。」
そう言ってオラクルは帰る様に指示した。
その申し出に内心感謝しつつ、私は逃げるようにその場を出た。
あの人は外の大人で私の拳一つで簡単に命を奪えてしまう、そんなか弱い人間だ。
なのに、今まで会った人間の中で、一番怖かった。
私はミカを返した後、キョウカと共に廊下を歩きながら先程の会話を振り返っていた。得るものはあったが期待以下だった。いや、寧ろ想定外の
(色々と情報はあったが、内容が錯綜している。)
一つ一つ情報を抽出し、纏める。
(まずセイアは病弱という認識がある。つまりミカはセイアの長期離脱そのものには違和感を抱いていない。これは嘘をつく必要性が無いからここは信用してよい。)
ここからが問題だ。
(しかし病院にいると断定できる情報は持っていない。つまりセイアが今どこにいるかは知らない。)
(それでも襲撃説にもならず病欠説を採用している。つまりここから導き出されるのは、3つある。)
1つ目は彼女が真実を知っているから、逆に病欠は無いと知って居ながら嘘をついている。この場合の
2つ目は彼女が何も知らず、ただ一般論を言っていると言う可能性。ただ、それだとナギサが伝えた
3つ目は、ナギサがミカに『場所は教えられないですが、病欠のようです』と嘘をついて居る。この場合、それで利益を得るのはナギサだ。ミカを疑っているからこそ真実を伝えなかったのだろうが、逆にナギサは
最も危険なのはナギサの情報が歪められていた場合、
彼女の意志に恐らく嘘偽りは無いのだろう。
だが、それだけでは足りないのだ。
「……キョウカ、予定変更だ。一先、ナギサの所にいく事にする。」
「分かりました。」
護衛のキョウカにそう伝え、予定を変更して彼女の所に向かう事にした。
「成る程、話は聞かせて頂きました。結論から言うと私は下手な警戒心を巻き起こさぬよう襲撃だと言う思想を話したのは貴女とキョウカだけです。ミカさんには何も伝えていません。それこそ嘘も。」
結論として疑問の1つは単純なものだった。寧ろミカの言う病欠論が一般的だった。
「……そういう事は予め言ってくれ。」
「申し訳ありません。ですが、着眼点はよいと思います。ミカさんの言う通り基本的には入院などすれば連絡が来ます。ですが、それだとミカさんの論点はおかしいのです。それを知っていながら病欠と実質的に断定しているのですから。」
「そうだね。」
私は頷いた。
「もし彼女が一般生徒ならまだ分かる。だがティーパーティの一員だ。セイアという生徒がどういう人間かも知っている。」
「えぇ。」
「なら何かしら違和感を抱いてもおかしくない。」
ナギサは静かに紅茶を口へ運ぶ。
「やはりミカさんは何かを知っていると?」
「分からない。」
ナギサが僅かに眉を顰める。
「ですが今の発言では」
「私は『分からない』と言った……ナギサ。君は先に結論を作りすぎている。今回の件は憶測では動けない。」
沈黙。
「どういう意味でしょうか。」
「私達は今、ミカが怪しいという仮説を持っている。」
「はい。」
「そして今の情報は、その仮説を補強しているように見える。」
「違うのですか?」
「違うとは言わない。実際君の襲撃と言う観点とは食い違いがある。」
私は首を振った。
「だが、それだけでは足りない。」
彼女は黙る。
「人は一度結論を持つと、その結論に都合の良い情報ばかりを集め始める。」
「……何が言いたいのですか?」
「
「例えば今の話。」
机の上の紙を指差す。
「ミカが違和感を抱いていない。」
「はい。」
「だがこれは本当に違和感を抱いていないのか?」
「演技だと?」
「それもある。」
そう言って私は首を傾げる。
「単純に違和感を抱いていても、私や君に彼女が相談するとは思えないのでは?」
ナギサの手が僅かに止まった。
「残念ながら、可能性としては十分ある。君は彼女から自分が、信用されていると判断しているがその様な前提条件は存在し得ない。」
「何故ですか?」
「君が彼女を疑っているからだ。その様な状態で何故相手は信用できる?」
静寂。時計の音だけが聞こえる。
「ナギサ。」
私は静かに言った。
「君はミカを疑っている。」
「否定はしません。」
「そして恐らくミカもそれを感じている。」
「……」
「もしそうなら、君達は互いに本音を話していない。」
ナギサが僅かに目を細めた。
「それでも私はティーパーティの為に最善を尽くしています。」
「知っている。」
「ならば。」
「だが最善の結果になるとは限らない。」
「っ……。」
言葉が止まる。
私は責めるつもりはなかった。
ただ整理しているだけだ。
「私はミカを擁護したい訳じゃない。いや、ハッキリ言おう。単なる一個人としては
「は?」
「だが君から得た情報だけを信用して、彼女を裁く気もない。私には本来の行動力に、肉体的、社会的、そして倫理的に非常に大きな
そこで一度言葉を切る。
「私が聞きたいのは別の事だ。」
「別の事、ですか。」
「あぁ。」
私はナギサを見る。
「襲撃説、君は何故それを信じた?そしてミカの前に危険と判断していた、補習授業部についてだ。ミカの前に彼処の生徒達は何故要注意人物として判断した?」
「……順序が逆なのです。私は失踪の前に
初耳だった。
「その話を聞いて私は直ぐに箝口令を敷き、それを失踪として処理し、更にその外側に病欠というカバーストーリーを展開したのです。」
「何故それを早く言わない!誰から聞いた!」
思わず問い詰めるような口調で話しかける。
「……救護騎士団のミネ団長です。」
「それなら彼女が第一発見者にして最大の容疑者じゃないか!」
そこまで言って気がつく。
「ナギサ……もしや君はそれでもミネ団長が容疑者から外せる決定的な証拠や理論を持っているのかい?」
「……はい。貴女からしてみれば分からない事でしょうが、私にとっては明確な理論が2つ存在します。」
「……聞こうか。」
「落ち着いて頂けたようで感謝します。1つ目はセイアさんを殺す動機とメリットです。今回セイアさんが死亡した件について一番大きな影響を受けた案件は
彼女はスラスラと話始めた。
「予め言っていたように今回ミカさんが容疑者として挙げられるようになったのは具体的な状況証拠だけでなく彼女がかなり重度の
彼女の発言には一定の説得力があった。
「2つ目は、確証とまでは行きませんがかなりの精度の
「今は違うと?」
「はい。仮にそうだとしても実行犯に過ぎないと思っています。少なくとも先生と補習授業部が動いて以降、あの子達の行動は監視しました。ですが実行犯にせよ首謀者にせよ、彼女達には違和感があります。」
「それは何だ?」
「誰がスパイだったとしても、誰もこの現状に
「……何が言いたい。」
「仮にセイアさん襲撃がエデン条約妨害の第一段階だったとします。ならば次の段階がある筈です。」
「無数に考えられるな。」
「ええ。ティーパーティへの浸透、世論誘導、エデン条約への反対工作、あるいは更なる襲撃。」
「ですが何も起きていない。」
「そして制限をかけたからこそ逆に動くと思っていた補習授業部の生徒達も、奇妙な動きをしていないと。」
「はい。少なくとも私にはそう見えます。あくまで伝聞ですが。」
「……。」
「仮に彼女達の中にスパイが居たとしても、
「だが、ミカは監視が無いためそれで判断出来ず、自身の派閥もある為ブラックボックスも大きいと……」
新たな、そして非常に大きい情報を手に入れた。
「なら、尚の事その生徒には聞き取り調査をしなければならないな……」
「話を聞いていらっしゃいましたか?」
「聞いた上で言っている。2つ目はまだ良い、問題は1つ目だ。君の視点では正しいかも知れないが、その視点はテロリズムの首謀者の立場だけで考えている。」
「弱みを握られているとでも?」
「分からない。だけどやはり重要な情報源だと思う。明日彼女に君と同伴で聞き取り調査をしたい。それと補習授業部の……白州アズサは編入生だよな?何故編入試験をパスしているのに補習授業部に居る。君が認識しているよりもきっとそこの重要度は大きい。そこを確認してくれないか?」
「わかりました。引き続きよろしくお願いします。」
こうして彼女との話し合いは終わった。
貸し与えられた住居に戻り、遅くまで付き合わせた謝罪として、キョウカも招いて夕食を食べる事にした。
そして食後に先生と共に夕食を食べ終えコーヒーを飲んでいると電話がなった。相手はナギサだった。
『オラクル、重要な事が分かりました!ミカさんが犯人として挙げられるに足る確固たる証拠になりかねないものです。』
「は?それは何だ?」
『……編入試験の採点をした教員は、
「それは確かなのかい?」
『間違いありません。編入試験の採点者に直接点数を問い詰めた所、何故か焦り始めたのでティーパーティの権力を使って脅したら、ミカさんから絶対に言うなと言い包められたとの事です。』
「……つまり白州アズサをミカはトリニティに編入生として入れさせたかったと言うことか。」
『はい。明日本格的にそこを洗ってみようと思います。そして確証を得た暁にはすぐにでも問い詰めようかと!』
「……言っておくが、それは現状グレーが限りなく黒に近づいただけでそれ自体は単独では証拠になり得ない。それは理解しておきなさい。」
『分かっています。』
「
ナギサが沈黙する。
「それで分かることは、今の時点で聖園ミカと白州アズサに関係性がある事、バレたら不味いことをしてまでも入れる必要があった事だけだ。後そうだな、推測にはなるが2人はトリニティに来る前に知り合いだったと言う事かな。」
『……分かりました。一先貴女の言葉を考慮して動きは最小限にします。』
「助かるよ。私はミネについて探ってみようか。あとアズサについてはテストが今週あるはずだし、それが終わり次第先生に交渉してみようか。」
そう言って電話を切った。
「オラクル、何か判明したのですか?」
そうキョウカが尋ねてくる。
「判明した事は少ないけど……真実にたどり着く経路が見え始めた。」
そう言ってミカとの会話、ナギサとの推理を話す。
「話は理解できましたが……貴女の頭脳が有ればもっと簡単に解決できたのでは?まずミカ様との会話から此処まで情報を取捨選択できていることが既に恐ろしいですが。」
「ナギサにも言ったけど、私は様々な枷がつけられているからね。それにこの世界を壊す様な事はするべきでは無い。」
「……恐ろしい事を言いますね。」
「あくまでたとえ話だよ。気にしすぎないでくれ。それと今日も護衛ありがとう。本来君も学生として生活したいだろうに、護衛や伝達の仕事ばかりさせてしまってすまないね。」
「いえ、最初はナギサ様に多少恨みを向けましたが、今は割とこの仕事好きですよ。大変ですけど……そろそろ帰りますね。」
「お疲れ様。」
「疲れているのは貴女の方ですよね。」
そう言って彼女は帰っていった。
「先生……私は疲れているように見えるかい?」
「まぁ……見えますね。」
「そうかい。奇遇だね。私は先生も相当疲れているように見えるよ。」
「……否定はしません。」