ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
オラクルと言う存在がトリニティに来て二回目の火曜日、昨日は彼女がミカさんと話していた為話しかけることが出来なかったが、今日こそはセイアさんの依頼を果たす。
そんな思いを秘めながら彼女に話しかけた。
「オラクル、少しお聞きしたい事が有るのですがこの後お時間頂けますか?」
そう言うと彼女は少し驚いた表情をして少し考えた後頷いた。
「少しやる事が有るからそれが終わり次第で良いかな?」
「ええ、それで構いません。」
「そうだな……B36教室に三十分後来てくれ。」
彼女と別れた後、こっそりとメモを開く。
『調べて欲しいことは幾つかある。思想、技術力、実権、そして過去だ。優先度は過去と技術力を優先して頼む。無理そうなら、実権や思想等のトリニティを揺るがしかねない人物かどうかを判断してくれ。』
メモの中身はセイアさんからの伝言だ。
セイアさんから頼まれた事を……彼女の存在を調べると言う任務を秘めて教室に向かった。
三十分後。
私は指定された教室の扉を軽くノックした。
「失礼します。蒼森ミネです。」
『どうぞ』
返事を待って中へ入り、後ろで扉が閉まる。 咄嗟に後ろを向くと内開きの扉の陰に同じ授業を受けているキョウカさんが居たようだ。
「防犯上の理由です。」
彼女はそう言って扉の前に立ち、目を閉じる。
教室の中にはオラクルだけではなかった。窓際の席に腰掛け、紅茶を飲んでいる少女。見慣れたティーパーティの制服。
「ナギサ様?」
「こんにちは、ミネさん。」
ティーパーティーホスト、桐藤ナギサはいつも通り柔らかく微笑んだ。
「ご安心ください。これは取り調べでも尋問でもありません。ただ私とも約束があっただけです。」
「……そうですか。」
全く安心できなかった。オラクル一人なら単なる話し合いになるが、ナギサ様まで同席しているとなるとうかつにしゃべることはできない。おそらくこの会話は既に何らかの意味を持っている。
オラクルは椅子に腰掛けたままこちらを見る。
「来てくれてありがとう。言っておくがナギサの用事とバッティングしたのは偶然だ。ナギサは私がきちんと教育的指導や、生徒とのコミュニケーションを確認したいらしくてね。何しろ私の雇用主のような存在だ。まあ私はただの従業員ではなく、権限はきちんと持っているけどね。」
「そうですか、分かりました。こちらこそ時間を作っていただきありがとうございます。」
「これも仕事だからね。それで?何を聞きたいんだい?」
彼女はこちらの言葉をさらりと受け流し、いきなり本題に入った。
だから逆に答えづらい。
私は一瞬だけ考え、だがここで躊躇う方が不自然だと判断しストレートに問うた。
「そうですね。」
椅子に腰掛けながら口を開く。
「まず、オラクル。貴女は何者なのですか?」
沈黙。ナギサ様が静かに紅茶を置き、オラクルは少し笑った。
「随分と大きな質問だ。どこまで私は初回の授業で話したかな?」
「確か、ナギサ様から呼ばれてここに来たとその程度しか話していません。その時は私たちの警戒心が薄れてから話すと貴女は言いました。答えられる範囲で構いませんので答えていただけませんか。」
「そうだな。」
彼女は天井を見上げる。
「外の世界の研究者だ。ナギサにもそれ以上の事は……まあ話したが大部分はこれで説明がつく。」
「それだけですか?」
「何を聞きたいのかいまいちわからないな。仮にその外の世界の説明をするとしたら……」
そして肩を竦めた。
「それは三日三晩あっても足りない。」
冗談のような返答だが、妙に本気に聞こえた。これ以上は答えないという線引きにも聞こえる。
「分かりました。ではどのような経緯でここにいらっしゃったのですか?」
これ以上の深入りを避け、代わりにセイア様に個人的に危険人物かどうかの判断基準としての情報を得る方針に切り替える。
「うーん、ナギサ。これはどこまでなら話してよいかな?」
彼女は何故か歯切れ悪くナギサに問いかけた。
「いえ、私が説明します。彼女はミレニアム・サイエンススクールの生徒会長、調月リオさんの食客であり、アドバイザーでした。ですが、私が彼女にエデン条約までの間ある任務を受け持ってほしいとリオさんに頼み、結果としてここにいるという意味です。」
「……
「ナギサの言うとおり私は今ミレニアムで生活していた。そして君はおそらく様々な疑問があるだろうが、一度後回しにして他の事を聞いた方が良いと思うよ。」
強引な話題転換に内心舌打ちをしつつも仕方なく話を切り替える。
「では技術者なのですね?」
「一応。」
「専門は?」
「狭い。だが知識は広く持っているよ。」
「広い、ですか。」
「専門がとてつもなく高度なことをしているから、基礎的なものは全てマスターしておかないと話にならない。」
そこでナギサが口を開く。
「ちなみにミネさん。」
「はい?」
「何故技術について尋ねるのですか?」
私は一瞬固まった。
質問しているのは私の筈だった。
だが気付けば質問が返ってきている。
しかも自然に。
「興味です。」
「興味。」
「オラクルはとても博識ですから。」
「成る程。」
ナギサが頷く。その仕草は穏やかだった。だが私は知っている。彼女は猜疑心の塊であり、人の言葉を額面通りには受け取らない。
私は彼女の
「では次の質問です。」
流れを無理やり戻す。
「オラクルはトリニティに来る前、何をしていたのですか?」
「仕事だね、大人は皆そうだ。」
「どの様な?」
「研究と組織運営。」
「組織?」
「ああ。数十人、関連団体を含めれば数百数千人を率いていた。
思わず驚いた。あくまで単なる研究者だと思っていた。しかし、その規模は研究室の話ではなくもっと大きい。いや、それほどの人物でなければ
「それは企業ですか?」
「近い。」
「近い?」
「企業のようなものではなくもっと大きく重大なものだった。」
「キヴォトスの学園に所属する研究者?」
「いや。」
そこでオラクルが少し考える。
「その例えなら正確には学校の生徒会長に近いかもしれない。誰かを導き、誰かの判断を肩代わりし、誰かの未来に責任を持つ立場だ。……
横っ面を全力で殴られたのかと錯覚するほどの衝撃が来た。
教室の空気が変わった。ナギサ様の目もいつの間にか笑っていなかった。
「そう言えば。」
私の硬直をよそに不意にオラクルが言った。
「今度はこちらから質問してもいいかな?」
来たと直感した。話の流れが変わった。
「内容によります。」
「簡単なことだ。」
彼女は微笑む。
「ミネ。」
「はい。」
「君はどうして私に興味を持った?」
その一言で背筋に冷たいものが走った。
単なる雑談ではない。
私が技術力や過去ばかりを尋ねていたことに気付いたのだろうか。
それとも、私が何かを探っていること自体を疑われたのだろうか。
分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
オラクルは、私の質問よりも《私が質問する理由》の方に興味を持ち始めていた。
「救護騎士団としてですか?」
慎重に返す。私個人の話からそらそうとするが
「いや、個人として君が何故興味を持っているのか知りたい。」
即座に戻された。
私は救護騎士団団長だ。腹の探り合いは慣れていると思っていた。だが違った。私は今まで人の腹を探り暴くことはできても、後ろ暗いことがないゆえにこのような真実を隠す経験はなかったのだ。
「ミネさん、何を
ナギサ様がそのように発言する。
この場で質問しているのは私のはずなのに、いつの間にか観察されているのは私の方だった。
私は即座に返答した。
「焦ってなどいませんが?」
「そうでしょうか?」
ナギサ様はゆっくりと紅茶を置いた。
「先程から貴女の質問は少々不自然です。」
「不自然?」
「ええ。不自然です。」
彼女は指を折る。
「技術力。」
一つ。
「過去。」
二つ。
「思想。」
三つ。
「組織運営。」
四つ。
「どれもオラクルという人物そのものを調べるための質問でした。単なる教師では無くもっと深い部分を。」
思わず息が詰まった。
「救護騎士団団長である貴女が、そのようなことを調べる理由は何でしょう?」
「単なる興味です。」
「それは無理がありますね。」
即答だった。
迷いなど一切ない、まるで最初から確信していたかのように。いや、確信していたのだろう。ナギサ様はそう言う人間だ。そしてその思い込みはリスクであり、本当にやましい事がある人間に対して権力を振るう瞬間には
「オラクル。」
ナギサ様は視線を隣へ向けた。
「貴女はどう思いますか?」
突然話を振られたオラクルは少し考えた後、肩を竦めた。
「別に不思議ではないかな。私は外部から来た人間だし、興味を持たれてもおかしくはない。」
「ですが尋ねる内容に偏りがあります。」
「そうだね。」
オラクルはあっさり頷いた。
「私自身より、
心臓が一度大きく脈打った。まずい、思った以上にまずい。
この人は既にこちらの質問そのものではなく、
「ミネ。」
オラクルがこちらを見る。
「私は一つだけ興味がある。」
「……何でしょうか。」
「君が私を調べたい理由だ。」
逃げ場がない。そんな錯覚を覚えた。何故こんなこんな事になったのだろうか。私はただオラクルの腹の中を探りに来ただけなのに。
「私はただ……」
「救護騎士団として?」
先回りされた。
「……はい。」
「本当に?」
その問いに言葉が詰まる。オラクルは責めていない。ただ確認しているだけだ。だけどその目が、その声色が、全てにおいて此方を見通している様に思われた。
「そこまでにしましょう。」
不意にナギサ様が口を開いた。
助かった。
先程まで、
「代わりに私から一つ、お願いがあります。」
安堵は吹き飛び、嫌な予感がした。
「ミネさん。」
「はい。」
「貴女は百合園セイアさんを発見した第一発見者でしたね?」
全身が強張る。
「……そうですが。」
「でしたら、その時の状況を改めて説明して頂けませんか?」
呼吸が止まりそうになった。
「説明、ですか?」
「ええ。」
ナギサ様は微笑んだ。
「発見場所。」
「……。」
「当時の容体。」
「……。」
「搬送経路。」
「……。」
「そして、そこに至る経緯。」
一つ一つ。逃げ道を塞ぐように言葉が積み上がっていく。何故此処にたどり着いたのだろう。彼女は本来人を疑い過ぎるのと同時に信じ過ぎる人間でもあった筈だ。
「資料を見ながら説明した方が正確でしょう。」
反射的にそう答える。
「資料なら救護騎士団にあります。」
「なるほど。」
ナギサ様は頷いた。私は内心で安堵した。今日は乗り切れると思った。
「では明日にしましょう。」
思考が止まった。
「明日?」
「ええ。」
ナギサ様は紅茶を一口飲む。
「放課後なら問題ありませんよね?」
「その……予定が。」
「私も時間を空けておきます。」
柔らかい声だった。だが断る余地はなかった。
「オラクルも同席します。」
「え?」
「私としても興味がある。」
オラクルが静かに答えた。
「百合園セイアについて、そしてトリニティで実際に何が起きたのか。」
灰色の瞳がこちらを見る。
「折角だ。しっかり聞かせてほしい。」
その視線には敵意も、悪意はない……だが、だからこそ誤魔化せる気がしなかった。
「……分かりました。」
それしか言えなかった。
彼女が帰った後、暫くしてナギサが口を開く。
「……
先程の会話で私はミネさんに詰問をした。しかしそれはオラクルのアドバイスによるものだった。20分前に私に会いに来た彼女はそのままミネさんの足を掬う為の悪巧みを伝えたのだ。
「貴方が詰問すれば良かったのでは無いですか?そもそもミネさんを疑ったのは貴方が最初だったのに。」
「だが、ミネは分かりやすく動揺した。ナギサ、君は思い込みが激しく、一度標的から外れた場合はまず安心する。逆に、その後に新しく標的として見られた場合は過剰に動揺する。君は一度信じた相手を簡単には疑わない。
彼女はそう言って微笑んだ。
「……私は貴方が怖いです。人心掌握に秀ですぎています。」
私は純粋な胸の内を吐露する。
「それは済まなかった、だがもっとも手っ取り早く確実な成果を得られると判断したからな。それにしても彼女から申し出が有ったのは非常に運が良かった。」
彼女の言葉に目を瞬かせる。
「あちらからの申し出だったのですか?」
「ああ、本来此方から何かしらアクションを起こして時間をかけてこの場所をセッティングするつもりだった。運が良いな。」
彼女の発言は裏を返せばいずれ彼女を嵌めるつもりだったと言うことだ。
「……それでもやっぱり怖ろしいです。」
確かに私から見ても後半の彼女は挙動不審だった。オラクルが昨日ミネについて話を聞くべきだと言わなければ絶対にこんな事にはなっていないだろう。
そしてこんな人間をパートナーとして扱っている調月リオの評価を私はもう1段上げざるおえなかった。
「セイアさん。申し訳ありません。探りを入れたら逆に此方の情報が暴かれかけました……ナギサ様が私を疑っている以上、誤魔化し続けるのま時間の問題かと。」
「そうか。そんなに彼女は……オラクルは有能なのかい?」
「私を詰問したのはナギサ様ですが……」
「ナギサが君を疑う訳が無い。彼女なら仮にトリニティの組織の幹部を疑い始めるにしても、まずはシスターフッドだろう。十中八九オラクルの助言だろう。まぁそれ抜きにしてもナギサの政治力が多少向上しているようには思えるがね。」
「それで……私はどうすれば良いですか?」
「……明日私の所に2人を連れてきてくれ。これは無理そうだ。今まで部下でも無いのに私を助けてくれてありがとう。」
「申し訳無いですが、オラクルには一人護衛がついています。3人でも良いですか?」
「そうか。分かった、良いよ。」
「承知しました。そしたら明日3人を連れてきます。……私は病人の味方です、もっと言うなら傷ついた人を守るのが約目です。」
翌日。
約束の時間より十分ほど早く、私は指定された場所へ向かっていた。
救護騎士団の資料室から必要な書類を持ち出しながら、何度目か分からない溜息を吐く。
終わりだ。
そう思わずにはいられなかった。
昨日の時点で既に限界は見えていた。
ナギサ様は疑い始めている。オラクルはほぼ確信に近い違和感を抱いている。
そして私は嘘を吐くことに向いていない。
何とか一日だけ時間を稼いだが、それももう終わる。
だからこそ昨夜、セイア様へ全てを報告した。
そして返ってきた答えは簡潔に纏めると
『明日、連れて来てくれ。』
だった。
その言葉を思い返しながら歩く。
やがて校舎前へ到着すると、既に二人は待っていた。
ナギサ様、そしてオラクル。オラクルの少し後ろにはキョウカさんもいる。
どうやら今日も護衛らしい。
「こんにちは。」
先に声をかけてきたのはオラクルだった。
いつも通りの調子。
まるで昨日のことなど何もなかったかのように。
「お待たせしました。」
「いえ。」
ナギサ様が首を横に振る。
「私達も今来たところです。」
嘘だろう。
この人は恐らく十分以上前からいた。昔からそういう人だった。
「それで、資料は持ってきたかい?」
「はい。」
私は鞄を軽く叩いた。
「必要なものは揃えています……
「そうか……ナギサ、彼女を信用するか?」
「……救護騎士団の理念に逆らうような事はしないと思いたいですね。1つだけ連絡をティーパーティに入れさせてください。仮に次の日私が学校に来なかった場合、
「まぁ、それくらいは有るべきだね。ミネ、飲んでくれるかい?」
「……その様な事はあり得ませんから。好きにして下さい。」
私の返事に彼女は頷く。
「なら案内を頼む。」
案内。
その言葉に胸が僅かに痛む。
これから連れて行く場所は、救護騎士団の施設でも病院でもない。
誰にも知られてはならなかった場所だ。
だがもう決まったことだった。
「では行きましょう。」
そう言って私は歩き始める。
後ろから三人分の足音が続く。
誰も雑談をしなかった。
そして誰も目的地を尋ねようとしない。
恐らく尋ねる必要がないからだ。
今日の目的は一つしかない。
校舎を抜ける。
中庭を横切る。
礼拝堂の裏手へ回る。
更に人通りの少ない通路を進む。
途中から建物の数すら減り始めた。
ナギサ様は黙ったまま。
オラクルも何も言わない。
ただ観察するように周囲を見ている。
それが妙に恐ろしかった。
「ミネ。」
不意にオラクルが口を開く。
「はい。」
「目的地は近いのかな?」
「もう少しです。」
「そうか。」
それだけだった。
それだけなのに心臓が跳ねる。
昨日からずっとこんな調子だ。
何気ない一言一言が、自分を試されているように感じる。
三十分ほど歩いた後。
古い建物の前へ辿り着く。
外見だけなら何の変哲もない施設だった。
だがここは表向き使われていないことになっている。
救護騎士団が秘密裏に管理している場所。
そして。
「ここです。」
三人の足が止まる。
ナギサ様が静かに周囲を見回した。
「随分と人目につかない場所ですね。」
「そうですね。」
私は短く答える。
説明する必要もないだろう。
ナギサ様なら理解している。
人目につかないからこそ価値がある。
オラクルは建物を見上げた。
その灰色の瞳が僅かに細まる。
「どうしたのですか?」
ナギサ様が視線に気が付き、尋ねる。
「何もまだ言う事はないよ。まだね。」
彼女の発言には多少安心した。
同時に理解した。
この人は本当に何も分かっていない時しかそう言わない。だから今までの発言は常に彼女の中で確証を持っていた事だったのだと。
「失礼します。」
私は扉を開いた。
中へ入る。
小さな廊下を進む。
そして一番奥の部屋の前で立ち止まった。
「
静かに呼びかける。
後ろでナギサ人が無言で驚愕したのが分かった。しかしオラクルは雰囲気を崩さない。
一瞬の沈黙。
やがて部屋の向こうから、聞き慣れた穏やかな声が響いた。
「入ってくれ。」
その声を聞いた瞬間。
私の役目は終わったのだと理解した。
これから先はもう私の仕事ではない。
百合園セイア。
桐藤ナギサ。
そしてオラクル。
トリニティの未来を左右しかねない話し合いが、今から始まろうとしていた。