ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
死んだと聞かされていたセイアさんに会ったとき、私の脳裏には様々な感情が過ぎった。
まずは生きてくれた事に対しての歓喜。
そして何故死んだとミネさんが言ったのかという困惑。
そしてセイアさんが生きていると伝えてくれなかった事への怒り。
相反する激情を抱え、それでも私はセイアさんから説明されると、何故この様な事態になったのかを教えてくれると思っていた。
なのに、彼女は
「貴女の事を待っていたよ、オラクル。」
「はじめまして、ティーパーティサンクトゥス派所属の百合園セイアさん。私の事はミネさんから聞いたのかな?」
「まぁそれ以前から知っていたのだがね。それよりも幾つか聞きたいことがあってね。」
……オラクルと話す前に何か言うべき事があるでしょう。
そうした鬱屈とした感情を必死に抑え込みながら話しかけようとするが彼女は尚も話続ける。
「君は何者なんだい?」
「やはりそうか……ミネの質問は君の質問だったのだね。何をそんなに気になっているのか分からないな。」
「宇宙ステーションに機械の化け物、そして調月リオとの接触。それは君の過去現在未来の何れかなのではないかな?」
「仮にそうだとしてそれが君にとって何になるんだい?」
「否定はしないと、だが肯定もしない。実に面倒くさい手合いだね。まぁ、君がこの都市に降り立った時からこのキヴォトスは変化しているはずだ。この神秘溢れる都市の中でどうにも君が居ると未来が
「……君は
「さぁどうだろうね。貴女が隠し事をしなければ私も真実の一端を「セイアさん」……何だい?ナギサ。」
もう限界だった。セイアさんとオラクルの腹の探りあいをみるのはもう沢山だ。
「まず言う事為すことが有るのでは無いですか?」
私は口を閉じたセイアさんに近づく。
「何故、貴女は自らの死を偽装したのですか?」
説明を求める。彼女の隠し事の理由を、そして何を考えてその選択をしたのかを。
「……私が生きていると判明すると、また刺客が来る。だから死を偽装して欺いたんだ。説明は十分かい?」
彼女は面倒くさそうに簡潔に説明した。
「十分と思っているのですか?私達がどれ程貴女の死と言う情報に苦悩したか分かっていらっしゃらないのですか?」
「……君だって私の苦悩はわからないだろう?確かに君は苦しんだかもしれないが、それはお互い様ではないかな?」
「……なら貴女の苦悩を言いなさい!物理的に相談相手が居なくなった私と違がって貴女には私達が居たではないですか!」
その言葉に、部屋の空気が凍り付いた。
私の声は震えていた。
怒りだけではない。
悲しみと安堵と失望と、様々な感情が混ざり合ってもう訳わからなくなっていた。
セイアはしばらく沈黙していた。
だがその沈黙が、ナギサを余計に苛立たせる。
「何故黙るのですか!」
「……。」
「私は聞いているのです!貴女は何故私達を頼らなかったのですか!」
机に手を叩きつける。
「私は貴女が失踪してから、友人としての行動1つ出来なかったのです!貴女が死んだと聞かされた日から!私はどれだけの人間を疑ったと思っているのですか!」
「……それは単なる君の優先順位の付け方の問題だ。君がどの様に動くかは君の自由意志に委ねられている。まぁどれもこれも本来は運命の導きのみで決まるがね。」
「逃げ隠れした貴女と違って私には背負うべき責務が有った!エデン条約を放っておいて貴女を探す事に裂けるリソースは無かった!」
「……それは正しいね。」
何処までも傍観者器質の彼女に更に叩きつけるように言葉をかける。ティーパーティのホストとしての仮面を叩き割り、彼女の心に訴えかける。
「ミカさんを疑った!補習授業部を疑った!救護騎士団すら疑った!」
ミネの肩が僅かに震える。
「エデン条約を守る為だとか、ティーパーティの為だとか、私は自分に言い聞かせていました!ですが違う、怖かったんです!貴女が死んだ事が、そして私も殺されることが!」
呼吸が荒くなる。
「セイアさん。」
声が弱くなる。
「私は貴女を友人だと思っていた。」
沈黙。
「ミカさんも。」
「……」
「だから私は説明が欲しかったんです。オラクルと腹の探り合いをする前に。」
セイアは静かに目を閉じた。
そして小さく息を吐く。
「そうか。」
その反応に眉が跳ね上がる。
「そうか、ではありません!」
「ナギサ、その反応は違う。落ち着け。」
「違いません!」
「ナギサ、一度落ち着け。今話すべき事は過去を顧みる事ではなく、これからの事を話すべきだ。」
それまで黙って居たオラクルが賢しい事を言いながら間に割ってはいる。
「貴女は黙っていてください!
それでももう止まらない。そう言って間に割ってはいったオラクルを押しのけて、セイアさんの胸ぐらを掴む。
「ナギサ様!セイア様は今一応療養中の身です!ティーパーティのホストとしてその様なことはなさるべきではありません!」
「ミネさんも黙りなさい!私は今、ティーパーティのホストとして話しているのではありません!」
声が震える。私の激昂を前に2人は完全に沈黙した。
「私は彼女の友人として話しているんです!」
そこで初めてセイアがナギサを真っ直ぐ見た。
少しだけ……本当に少しだけ、彼女の表情が揺れた。
「友人か。」
「そうです!」
「友人だから怒っているのかい?」
「当たり前でしょう!」
私はそう即答した。
「……じゃあただの友人の君にそんな事を言って何が君に出来た!?何度私が運命を変えられなかったと思っているんだ!」
セイアさんが今度は撃発した。胸ぐらを掴んだ手を振りほどかれ、体勢を崩しかける。
「セイア様!お辞めください!」
ミネさんが今度こそ私達を引き剥がす。
「ナギサ様もご自愛ください!」
彼女の言葉で私達の勢いが怯む。
「私が未来視を持っているのは知っているだろう。それが大して役に立たない事も、そしてそれが今までその通りにしかならなかった事も……」
彼女が初めて本音を吐いた。
「君は疑り深く、トリニティとしての顔としての建前でしか動かない。いや、本心は違うのだろうがそれを隠せてしまう。ミカは頭は良いが短慮で、直ぐに暴走してしまう。そんな君達に何を話すというのだ!」
彼女の不信感、そして諦観が滲む言葉が胸に突き刺さる。
「……だから何だと言うのですか。未来が見えるのに、
その言葉に彼女が怯む。
「私達は変わる事が出来るのです。未来が変わらないと言うのなら過去の私は貴女に辿り着いて居ましたか?」
「未来視は不完全だ。そんな事を言われても分からない!ただ結末は変わらないんだ!」
「不完全な事はリスクであり可能性です、セイアさん!」
私の言葉にセイアさんは眉を顰める。
「可能性だと?」
「そうです!」
オラクルが心配そうな目で見つめているのが感じ取れた。
「貴女は未来視を見る度に失敗を見てきたのでしょう!」
「……」
「裏切りも、破滅も、死も見てきた。だから信じられなくなった!」
セイアさんは否定しなかった。それが答えだった。
「なら何故です!何故それだけ未来を見ておきながら、人が変わる可能性だけは見ようとしないのですか!」
「綺麗事だ、人は簡単には変わらない。」
「変わります!」
「変わらない!」
今度は彼女が声を荒げた。
「私は見てきたんだ!」
震える声。
「何度も何度も何度も!」
その瞳の奥にあるのは過去の蓄積した疲労であり、変わらない世界を呪う怒りだった。
「結果はいつも同じだ。」
力なく吐き捨てる。
「誰かが失敗する、誰かが裏切る、誰かが傷つく……そう、回避しても別の形で現れる。未来は変わらない。」
セイアさんは拳を握り締めた。
「私は未来を見続けた、未来を変える為に……だけど、それでも結末は変わらなかった。未来を見てそして、人に期待するのを辞めたんだ。」
その声は掠れていた。
「だから諦めたんだ。」
静寂が降りる。
初めてだった。百合園セイアがここまで弱音を吐く姿を見るのは。
「……貴女は一度として未来が変わった所を見たことないのですか?」
彼女の勢いに一度冷静さを取り戻す。
「いや、一度だけ直近の夢だけ違ったんだ。」
そう言ってセイアさんは私から視線をずらした。
「そう……
そう言って彼女はオラクルを指さしたのだ。
なんだ……なら
「セイアさん……ならもう一度だけ、運命に抗ってみませんか?」
「何?話を聞いていなかったのかい?」
「貴女は人を信じたが意味なかったと言いました。だが私から見れば、貴女はまだ人の可能性を否定しきっていない。だって貴女はオラクルに興味を持っている。それはつまりまだ完全には世界を閉じて居ないと言うわけではありませんか。」
私の言葉に彼女の目がほんの少し見開かれる。
「分かりました。これ以降は貴女に何も頼みません。」
「……それが賢明」
「ですが!」
彼女の否定の声を遮る様に声を張り上げた。
「もうこれっきりで良いですから。これを最後の挑戦と割り切ってもらって構いません。
私の手を取って立ち上がってください!
セイアさん貴女の前に居るのはただの人間ではありません。予知夢でも予測不可能なオラクルと覚悟を決めた桐藤ナギサです。人類全員を一般化するのでは無く私達を見てください!」
そう彼女の手をとって力を込めた。
桐藤ナギサ。
昔からそうだった。理屈で負けようが、状況で負けようが、一度決めたら最後まで食らいついてくる。ミカよりは常識や建前と言う甲冑を着込んで居るが、結局は感情に振り回され易い性格だ。
私はずっと人を観察してきた。
人の善性も悪性も、希望も絶望も。
何度も未来を見て、何度も運命に抗った。
だが結末は変わらなかった。
だから私は諦めた。
人を。
未来を。
可能性を。
そう思っていた。
だが。
『人類全員を一般化するのでは無く私達を見てください!』
その言葉が脳裏から離れない。
目の前に居るナギサは確かに変わった。
昔の彼女なら感情を押し殺していただろう。全てを背負い込み、全てを疑い、自らの恐怖と言う感情から目を背け、そして暴君と化していただろう。
だが今の彼女は違う。
怒りも悲しみも抱えたまま、それでも前へ進もうとしている。
きっと後ろに控えているオラクルの影響だけではないのだろう。彼女の知っている一面は……正しくはあるが、きっと私のバイアスがかかっていたものだったのだろう。
そんな見違えた彼女の為にも、もう少しだけこの未来を見届けても良いのかもしれない。
「……痛いよ。ナギサ。」
そう言って私は彼女の手を振り払い
「君が迷惑をかけた人に個人的に謝罪をした上で、運命に抗うというのなら仕方が無い。
君の説得に応じてあげようか。
感謝したまえ。」
そう言った。
「私が知る情報を話そう。」
私はベッドの背もたれにもたれた。
「まず結論から言えば、私を襲った犯人は既に分かっている。」
三人の表情が変わる。
「犯人は白州アズサだ。」
私の答えに既に全てを知っているミネはともかく、ナギサも驚かない。それどころか
「やはり……」
と言っている。変わっても思い込みが先走りがちなのは変わらないようだ。
「落ち着けナギサ、彼女は黒幕ではない。」
「実行犯に過ぎないと?」
ナギサが問う。
「ああ、アズサは私を襲った。だがそれは命令を受けて行った事だ。」
「命令?」
「マダムと呼ばれる人物からの命令だ。」
その名を聞いた瞬間、ナギサの目が僅かに細くなる。
「マダム……」
「少なくともアズサはそう呼んでいた。」
私は続ける。
「彼女自身が私に語った事だ。」
そして一度言葉を切る。
「次にミカについてだ。」
ナギサの身体が目に見えて硬くなる。
「単刀直入に言う。」
私は彼女を見る。
「ミカがアズサの入学を手引きしたのは事実だ。そして私の所に彼女を向かわせたのも。」
重苦しい沈黙。
「……やはり私は間違えて居なかったのですね。」
ナギサが意気消沈している。いや、その程度の言葉では表せない程落ち込んでいる。
だから私は彼女の気分がこれ以上下がらないようこう続けた。
「いや、恐らくミカは私を襲わせるつもりではなかった。寧ろただ私に彼女を紹介したかっただけだと思う。」
私がそう言うとナギサが顔を上げる。
「何故そう断言できるのですか?」
「彼女を知っているからだ。」
私は苦笑する。
「彼女は頭は良いが、計画性が無い。私を殺すとしても、謀略では無く多分些細な言い合いからうっかり自らの腕力で絞め落としてしまう可能性が高いと思う……そして何より、私を嫌っていたとしても殺そうとする人間ではない。」
ミネが安堵とも困惑ともつかない表情を浮かべる。
「つまりミカは利用された、と?」
「その可能性が高い。」
「……セイアさん。1つ言っておきます。ミカさんは貴女が死んだと聞いて私よりも心を痛めていました。間違いなく嫌ってなど居ませんよ。偶に鬱陶しく思っては居たようですが。」
「そうか……そして次だ。」
ここからが本題だった。
「アズサは自分の所属を語った。」
「所属……?」
「アリウス。」
その名にナギサが首を傾げる。
「ミカさんが融和したいと言っていた今はもう無いとされた学園ですよね。学園としての規模を保ったまま存続していたのですか?」
「あぁ、今のトリニティでは殆ど記録が残っていない。だから昔私達はミカの発言を冗談半分として受け流していた。だが、ミカはどの様な手段かは不明だがそこと接触したらしい。」
「そんな学校が存在していたのですか……」
「今まで気が付かなかったがね。今は地下に潜り、独自の勢力として活動し……そして彼女達はトリニティに強い憎悪を抱いている。」
そこまで言って一息付く。
「最後だ。」
部屋の空気が張り詰める。ここから先は伝聞や状況証拠による推論ではない。
私が死を偽装するに至った最大の理由だった。
「アリウスは何かを計画している。」
「何をですか。」
ナギサが問う。私は静かに答えた。
「クーデターだ。」
全員が息を呑んだ。
「彼らはトリニティそのものを転覆させようとしている。」
「馬鹿な……」
ミネが呟く。
だが私は首を振った。
「残念ながら事実だ。」
「そして。」
私は視線を落とす。
「その計画の中にミカも組み込まれている。彼女が何処まで知っているのかは分からないがな。」
「……。」
ナギサが固まった。
「ミカさんが?」
「ああ、彼女はアリウスと接触している。」
私達がセイアさんの情報に頭を回転させていると、オラクルが手を挙げた。
「……もう話をしても良いかな?」
先程黙ってろと言った事を思い出し赤面しながら
「はい……先程は申し訳ありませんでした。」
と謝罪する。
「では話させてもらう。まず白州アズサに関しては補習授業部のテストが終わるまで手を出さない方が良い。」
「何故ですか?早いタイミングで話す方が良いのでは?」
「
「……その発言の根拠は?」
「ミレニアムで先生と対立した経験からだ。あの時とは違い、今回は我々が客観的に見て権力を盾に問い詰める側だ。間違いなく得策では無い。」
「成る程、ではその様にします。ミカさんに関しては……アズサさんと話をした翌日にはもう動きましょう。」
オラクルの発言に同意しつプランを組み立てる。
「その時はセイアさんも一緒に来てくれませんか?」
「……まぁ良いけど。どうしてだい?」
「貴女が生きていると言うその事実そのものがミカさんに対しての最大の武器になるからです。」
そう彼女に言った。
そして真実が明かされてから4日経った。
「先生、そこはポーンを動かして盤面を構築では無くナイトでチェックをかけるべきです。これならキングが逃げるかルークでナイトを取るかしか出来ませんが……」
私はシャーレで元気になったカヤからチェスの指導を受けていた。
すると奥の電話が鳴った。
「カヤ、1回電話を取りに行ってくる。」
「分かりましたよ。今日はもう疲れていますしシャーレで泊まらせてください。」
「分かったよ……一応私は成人男性何だけどな。」
そうカヤに言いながら電話を取る。
「もしもし……ナギサ?え!補習授業部について不合格者が居る場合の退学を辞めるって!?」
思わずカヤが肩をビクつかせる程の大声を出す。
『声が大きいです!はい。本来もっと早めに連絡するつもりでした……先生も対面ではありませんがその様なメッセージを送っていらっしゃいましたよね。』
「確かに来週話す機会を設けさせてくれとメッセージは送ったけど……何かあったのかい?」
『はい……白州アズサさんが我々ティーパーティの前ホスト、百合園セイアさんの暗殺未遂を起こしていたと判明したのです。』
私はその報告を聞いて頭が空っぽになった。
「ナギサ……この世界では殺人は超重罪だよね。私はどうしても彼女がその様な展開を起こすとは思えないんだけど。」
私はアズサについて真面目で友情を重んじ、少し常識に疎い可愛い少女としての印象しか知らない。その様な事をするとはどうしても思えなかった。
『はい。どうやら複雑な背景が有るようで……なので公平を期すためにも先生にも明日の放課後アズサさんと共にメッセージで指示した所に来て欲しいのです。私はアズサさんを責めるつもりはありません。ただその背景を知る必要があるのです。』
「分かった……それはそうと今度補習授業部の皆には謝罪しようね。本来連帯責任などあり得ない話だから。」
『……そこは理解しています。全てが終わったら謝罪します。ですがそれはそれとして
そう言われて電話は切られた。