ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
相当苦戦しましたし、この方針で決めるのには勇気が要りました。
どうか感想を頂けると有難いです。
月曜日の放課後、私はいつも通り集まった補習授業部の面々に対して2つ伝達事項を伝えた。
「こんにちは。今日は2つ伝えるべき事があるんだ。落ち着いて聞いてほしい。」
そう言って全員を見渡す。金曜日、確執が生まれてしまったハナコもキチンとこの教室に来ていることを確認しながら話を続ける。
「まず補習授業部の目的についてだ。ヒフミは知っていただろうけど、三回のテストで全て不合格者が出た場合この部活に所属している生徒全員にペナルティが出る筈だった。
その伝達に純粋に喜んでいるコハルとアズサ、ペナルティの内容を知っているヒフミの驚愕、何を考えているのか分からない微笑を浮かべているハナコと反応は様々だ。
だが、これはあくまでオマケだ。
「もう一つの伝達として、今日明日は私の用事で完全な自習だ。そしてその用事には
そこまで言って頭を下げる。
「しょうが無いですよ。先生は忙しいですし。ただ2日間ブランクが出来てしまうアズサちゃんには後でサポートしてあげてください。」
「ふん、3日後に私の成長を見せてあげるから!」
「勉強は任せてくださいね。」
幸い3人とも特に疑う事なくアズサを連れて行くことを了承した。
恐らく3人とも一度は私と個別で話した経験があるからだろう。
アズサを連れて歩きながら他愛もない雑談をする。
「コハルやヒフミ、そしてハナコとは既に二人きりで話したことは有るけど、アズサとは初めてだね。」
「そうだな。先生。」
「私は1つ質問したいことが有るのだけどよいかな?」
せっかくの機会だ、一度気になっていた事を聞いてみようと思い彼女に問いかける。
「アズサは真面目だし編入試験を通っているのに何で補習授業部に来るような成績だったのかな?」
そう問いかけると彼女何故か少し首を傾げながらこう言った。
「いや、私はそもそも後見人が居ればトリニティに入れると思っていたんだ。だけど編入試験を受けさせられて、全く分からなくてとりあえず提出したんだ。そしたら何故か受かっていて……運が良かったのだろうか。」
そう言う彼女に(それは改竄されたのでは?)と思いながら歩く。
「そうだ、私からも聞きたい事があったんだ。先生は何時も何かしらに追われる様に仕事をしながら様々な分野に手を突っ込み、そして時にはハナコみたいに生徒と対立さえしている。先生は何を目的にそんなに必死に今を生きているんだ?どうせ私達は
急にアズサから問いかけられ返答に窮する。アズサは良くも悪くも真っすぐだ。上っ面の言葉で誤魔化しても意味が無いだろう。真剣に考える事にした。
「……最後に死ぬとしても、
最後に空気を軽くしようとそう言って誤魔化すと。
「いや、先生の考えはよいものだと思う。
何故か彼女は頷きながらそう返した……彼女はやはり補習授業部に居るような精神性では無いし、そこまで確固たる意志を持つことが出来るのなら勉学もいつか平均点には追いつくだろう。ただ改竄したであろう人間については後日調べても良いかもしれない。
「それにしても何処に私を連れて行くんだ?先生。気の所為では無ければティーパーティの部屋に向かっている様に思われるのだが……」
アズサは私の隣で歩きながらも何処か周囲を伺ってそう尋ねてきた。私は彼女に振り返ってこう言った。
「気の所為では無いよ。私達は今、桐藤ナギサの所に行っているんだ。」
指定された部屋の扉の前に辿り着き、扉を開ける。
「やぁナギサ、アズサと一緒に来たよ……オラクルとハスミもいるのか、よろしく頼む。」
「お久しぶりですね先生。今日はありがとう御座います。」
てっきり3人で話を行うと思っていたため少々面食らいながらも用意された椅子に座る。
背後の扉が閉められナギサの挨拶を皮切りに、スクリーンが降ろされる。
「ハスミさんはまず今回護衛として連れてこられただけですので、まずこれまでの話をさせてもらえます?先生も同様に何も知らないのでしょうから、聞き逃さないでください。」
そう言って彼女は今までの話を始めた。
「これ、私が知るべきことなのでしょうか。いや、知ってしまった事は覆せませんが……私は誰を敵と認識するべきなのでしょうか。」
ハスミが頭を抱えるのを横目に私はナギサに話しかける。
「……私の裏が有ると言う予想は正しかったけど、それなら早めに教えて欲しかったな。いや、私の信用が足りてなかったと言うだけか。」
伝えられた真実……アリウス、エデン条約、ミカとセイア、補習授業部、全てにおいて想像よりも複雑な話だった。
「いえ、それも有りますが……」
「あるんだね。」
「……申し訳ありません。話を続けます。今回先生を呼ばなかったのは貴方が
自分がナギサに突っ込みをいれると彼女は素直に謝罪をした後、話を続けた。そしてその内容には何も否と言えなかった。
「それでアズサに何をさせるつもりなのかな。話を聞いた所彼女はトラブルの渦中の人物ではあるが、同時に被害者としての側面が強い。事によっては私は彼女の側に立つよ。」
そう予め釘を差す。そう言うと何故かナギサはクスリと笑いながら紅茶に手をつけた。
「安心してください。今回アズサさんに聞くことはアリウスの実情とミカさんの事です。寧ろ貴方はセイアさんの命を命令に反してでも守って頂けた。それについて感謝こそすれ罰する等行うはずがありません。まぁ報連相はしてほしかったとは思っていますが。」
そう言って飲んだカップを置く。
「ですが、その様な指令を出した『マダム』とか言う人間には……
トリニティとして落とし前をつけさせます
アズサさん的には元々居た学園に対する愛着もあるでしょうが我慢して頂きたいです。」
その発言には私は反論するつもりは無かった。
「アズサ、これはナギサが正しい。いや発言について正当性があると言うべきかな。とにかく君が抱えるものを話して欲しい。」
数秒沈黙が生まれた。
アズサは暫く沈黙した後、ゆっくりと顔を上げた。
憑き物が落ちたような、それでいてどこか遠くを見る瞳だった。
「……分かった……話すよ、全部を。」
彼女は一度深呼吸をしてから、静かに語り始めた。
「アリウスは、もう『無い』ことにされている学園だ。トリニティが統合される前はちゃんと存在していた。」
何処か諳んじるような語り方だった。
「でも統合の過程で、アリウスだけが徹底的に冷遇された。土地も、予算も、発言権も、ほとんど取り上げられた。『異端』『厄介者』『消えていい存在』……そう扱われたんだ。」
アズサの声は低かったが、感情は込められていなかった。ただ事実を並べるような口調だった。
「残った者たちは地下に潜った。表向きは消滅したことにして、実際は細々と、でも確実に組織を維持し続けた。今のアリウス支部は、地下の深くに作られた施設で生活している。日の光はほとんど当たらない。食事は最小限。教育は『トリニティへの憎悪』と『戦い方』が中心だ。子供の頃からそう教えられる。『お前たちの苦痛は全てトリニティのせいだ』『いつか必ず仇を取る』『そのために生きろ』って」
私は彼女の話に対して拳をゆっくりと握った。
「私の育った環境は、そういう場所だ。『全てが虚しい』って言葉を、何度も聞かされた。vanitas vanitatum……虚無の虚無。全てが空しい。努力も、希望も、未来も、結局は無意味だって。だからこそ命じられたことを淡々とこなせと。感情を持つと弱くなるから、最初から持つなとも。」
だが私が口を開く前にナギサが静かに尋ねた。
「その様な自由意志を剥奪する様な教育を誰が行ったのですか?昔ゲヘナに居た
彼女がそう尋ねるとアズサは頭を振って否定した。
「それを伝えたのはマダム……アリウスの生徒会長の立場にいる人だ。彼女の事に関してはよく分かっていない。元々アリウスは内戦の真っ只中にあったから情報がそもそも錯綜していたんだ。」
「内戦の原因は分かるのですか?」
「いや原因は分からない……もうその理由を知る人間は
衝撃的な事実にナギサが口を挟もうとしてそれでも一度最後まで説明を聞こうと口を噤んだ
「ただ限られた資源を巡って争ったと言う部分は分かっている。でも、その資源が何だったのか、そもそも何でその資源が不足したのか、どの様に偶発的戦闘から戦火が広がったのか何も分からないんだ。」
彼女の発言を聞いて何故かオラクルが目を閉じた。
「彼女は内戦の終盤に現れ、最終的に謀略によってアリウスを纏め上げ、内戦を終結させた。私たちにとっては絶対的な存在だった。逆らうことなんて、考えもしなかった。命令は絶対。成功しても特別な報酬はない。失敗すれば……それこそ『虚しい末路』を迎えるだけだ。だからみんな、命令を遂行することだけを考えて生きている。」
アズサは少しだけ目を細めた。
「彼女の命令で私達は古代のトリニティへの増悪を植え付けるためだけの教育を受けた、だから私は古代語を理解できるしトリニティへの造詣も歪なんだ。そしてマダムは
その言葉にオラクルが目を開き一言だけ言い放った。
「シンプルな事象だな。
マダムがその内戦の元凶なのだろう
恐らく資源というのは食料や油だろう。それに纏めて火でもつけたのではないかな?」
アズサの表情が凍った。
「……マダムが元凶?」
「あぁ、確信は持てないがね。ただ話を聞いた所、秩序の崩壊の為の内戦に、その後の君臨、そして歴史の抹消と言う
オラクルの問に対してアズサは答えられなかった。
つまりそういうことだ。
「ではミカさんとの接点と何故セイアさんを襲ったのかを貴女の視点から教えて欲しいです。」
ナギサが一度次の議題へ話を動かす。
「セイアを襲ったのも、命令だ。『百合園セイアを襲い、殺害しろ』、『エデン条約を実行はさせつつもトリニティを弱体化させろ』と言う2つの命令を私は抱えていた。私はそれに従った。抵抗する理由は当時はなかったし、そもそもそれに抗うという感情さえも浮かばなかった。アリウスにとって、トリニティの人間は全員が『敵』なんだ。例外は認められない。たとえ相手が病弱でも。」
「……マダムは何故セイアさんを襲わせたのですか?それにエデン条約を維持つつも弱体化させろとは?」
「分からない、それに私は外に来て初めてエデン条約が象徴的で神秘的なものでは無く、
彼女の言葉に私とオラクル、そしてナギサが少し微妙な顔をする。その原因を作ったのは桐藤ナギサであり、それを形にしたのが調月リオとオラクルであるからだ。
「でも、そんな私にとってもミカは他のトリニティの生徒とは明確に違った。ミカは自分からアリウスに接触してきた。『融和したい』『本当に敵対を終わりにしたい』って。最初は誰も信じなかった。罠だと思った。実際、殆どの生徒は警戒して距離を置いたし、マダムも何かしら謀略を行っていた。でもミカは何度も通ってきて本気だって態度で示し続けた。私は……その姿を見て、少しだけ揺れた。」
アズサの声が、初めて僅かに揺れた。
「後見人になってくれたのも、ミカだ。ある日私にこんな言葉を送ってきたんだ。
『与えられた偽りの真実じゃなくてアズサちゃん自身の目で真実を見ないと!』
って。彼女は比較的マダムの教えが浸透していなかった私を融和の象徴として将来的に祭り上げる為にトリニティに連れてきたんだ。」
彼女の言葉がほのかな熱を持つ。
「編入試験の答案は、本当にほとんど空欄だった。なのに合格していた。ミカさんが裏で手を回したんだと思う。点数を改竄してまで、私をここに入れた……入れてくれたんだ。」
彼女は俯いた。
「セイアさんを襲えという命令が出た時、私はミカさんに相談しなかった。したら、きっと止められていた。ミカさんはセイアさんを殺すような人じゃない。短慮ですぐ感情的になるけど、根が優しくて友人を殺させる様な事は絶対にさせない。きっと私をその拳で殴り飛ばした後に泣きながら抱きしめてくれたと思う。」
彼女は何処か儚い笑みを浮かべ、そのまま下を向いた。
「だけど……いや、だから私は
アズサはゆっくりと顔を上げ、ナギサを見た。
「ナギサ、貴方はきっとミカを疑ったんだと思う。その疑いは正しく、政治家としては正しいと思うんだ。だけど彼女の事についてもっと知っておいて欲しいんだ。」
「何をですか?」
「彼女がどれだけアリウス解放に全てを賭けていたかを。私はミカと関係を隠しながらもトリニティの中で長い間交流していたんだ。だから彼女の事はずっと見ていたんだ。気が付かなかっただろう?」
ナギサが予想よりも深い関係性に驚く。
そして私もそれは同様だった。
「セイアが自ら流した噂で暫く彼女は何処か空元気を演じ続けていた……だけどある日、彼女が深夜私の部屋に来たんだ。何処か泣き腫らした目で私を押し倒してね。私は遂に彼女のタガが外れて首を絞められるかと思ったよ。」
「違ったのですか?これまでの話の流れならミカさんは貴女に怒りを覚えていた筈です。」
ナギサの言葉に彼女は静かにだが力強く否定した。
「違う、彼女はそのまま私を抱きしめて『私が夢を見て、そしてその為の障害への理解が足りてなかったからこんな事が起きたんだ。』と
「……ミカさんはクーデターをしようとしていたと聞いています。」
「ああ、それは正しい。彼女の目的は……
そこまで言ってアズサは初めて目の前に置かれていた紅茶に口をつけた。
「アリウスの実情は、こんな感じだ。恨んでいる。深く恨んでいる。トリニティに統合される過程で踏みにじられた歴史を、今も忘れずにいる。だからクーデターを計画している。トリニティを内側から崩して、自分たちの居場所を取り戻そうとしている。マダムが先頭に立って、着々と準備を進めている。でも……ミカによって最早事態はコントロール出来る段階を超えている。」
彼女は自嘲するように唇を歪めた。
「私はそこで育った。『全ては虚しい』と教えられて育った。でも……昔からその教えには違和感を抱き続けていて、ここに来てからそれが余計に分からなくなった。ヒフミやコハル、ハナコ……そしてミカと過ごした時間は、『虚しい』だけで片付けるのが難しくなる。」
アズサは静かに息を吐いた。
「それでも、私はアリウスの人間だ。命令に背いたわけじゃない。セイアさんを殺すことはできなかったけど、襲った事実は消えない。だから、どう裁かれても構わない。ただ……ミカだけは、巻き込みたくない。彼女は本気で融和を望んでいた。それだけは本当だ。そして……叶う事ならアリウスを解放して欲しい。」
部屋に重い沈黙が落ちた。アズサはもう何も語らなかった。ただ、真っ直ぐに前方を見据えている。その瞳には、諦めと、僅かな迷い、そしてそれらを凌駕する強き意志が同時に宿っていた。
「ナギサ、君はどうする?」
私は落ち着いた声を演じて問いかけた。
「逆に先生はどう思いますか?」
「……私が何を思っているか問いかける必要はあるかい。」
「いえ、そうですね私と同じでしょうミカさんは後日、彼女がクーデターを起こす前に個人的に話し合います。アズサさんとセイアさんも一緒に招待してミカさんの孤独を解き、背負うものを分かち合い……そしてクーデター関係の事象は揉み消します。これは誰が何と言おうと強行させていただきます。良いですね。」
ナギサはそう言って空気と化していたハスミに問いかけ……と言う体での命令を行う。
「……はぁ、この話は全て聞かなかった事にします。正義実現委員会としてはクーデター未遂にその揉み消しなど許されるべきでは無いのですが、今回は特例です。」
「ありがとう御座います。」
ナギサはハスミの返事に軽く感謝をしつつ、こう続けた。
「
アリウス解放戦争を行う事にします。
何処にも居ないセイアに問いかけるその言葉にギョッとすると彼女の胸ポケットから声がした。
『無いよ……そうか、未来はこういう事だったんだね。友人を泣かせた罪を支払わせようか。』
私が最初からいる事を伝えてくれと言う突っ込みをさせないほどの怒気を纏った声が響き、その瞬間トリニティの歩む道は決まった。
なら大人達もその為に動くべきだ。
「それならミレニアムやゲヘナにも声をかけよう。トリニティへの攻撃としてエデン条約を利用すれば協力して戦える筈だ。」
「連邦生徒会にこの事象は伝えさせてもらう。良くも悪くも私ともっとも接点があり、同時に深いつながりがある生徒だ。上手く行けば彼女の力も借りれる筈だ。」
オラクルと私は作戦を万全にする為、それぞれ動き出す事を宣言し
「わかりました。協力感謝します。先生、オラクル。これからも最後までよろしくお願いしますね。」
ナギサがそう締め括る事で会談は終わった。