ブルーアーカイブ×アークナイツ  調月リオと星外の預言者   作:バトクロス

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一話の文字数としては長すぎて分割しました。
そしていつも読んで頂いている方々、新たにお気に入り登録してくれた方々。本当にありがとう御座います。
次回がEXラストです。


為政者たちの交差点

 補習授業部の授業が終わった後私は先生に呼び止められました。

 

「どうされましたか?昨日もう私はあなたの助けは必要ないと言いましたが。」

 

「ハナコ、君の条件に合う組織が将来的に立ち上がることが確認できた。私は君をその組織に推薦しようと思っている。」

 そういって先生は私にアリウスと呼ばれる学園の事象、アズサちゃんについて、トリニティの決定、エデン条約の動向等の前提知識を軽く言った後、アリウスの現状と戦争後の教育機関についての話をした。

 

「……つまり、戦争が終わったあと、アリウスの生徒を受け入れるための教育機関ができる。そこは成績競争や派閥の出世よりも、まず立て直すことが目的になる。過剰に期待される場所ではなく、できることを積み上げる場所だ。」

 先生はそこまで言って目を細くした。

 

「先生は、それを私の居場所だとおっしゃるのですか。」

 

「条件には合うと思っている。君が言ったのは、過剰な期待がなく、権力闘争の正面に立たず、他者の視線に潰されず、自分ができることをして、真っ直ぐな生徒と関われる場所だ。戦後の再教育は少なくとも最初はそれに近い。」

 

「近い、ですか。」

 

「完全一致だとは言わない。だが補習授業部に居続けるよりは生産的であり、君にとってもプラスになるのではないかな?」

 先生は何もわかっていない。その行動自体が期待の押しつけであることも。

 

「先生は優しいようで、残酷ですね。そして勘(・)違(・)い(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。昨日は私の話を聞いて即座に動き、今日はその話を材料に配属を決める。素晴らしい実行力です。私(・)が(・)嫌(・)い(・)な(・)事(・)で(・)あ(・)る(・)、(・)勝(・)手(・)な(・)押(・)し(・)付(・)け(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)事(・)を(・)除(・)け(・)ば(・)。」

 

「押しつけでは無い、提案だよ。昨日ナギサに話を通しに行った時に同じ様な事を言われ、キチンと本人の了承を取る様に言われている。説得はするけど、君に予め席を用意して無理矢理押し付けるような事はしない。」

 

「……成る程、その過程を踏んでいるのなら、まともですね。」

 いつもとは違ってと言う言葉を含ませた強い皮肉だった。

 一瞬先生の唇がピクリと震える。

 彼は比較的聡明だ、恐らく皮肉にも気がついているのだろう。

 それでも感情を押し殺しながら説得をしてくる。

 

「難しく考えなくても良いよ。簡潔に言うと君が望んだ環境を用意できるという事だ。何か問題があるのかな?」

 

「……私は、また期待される側に戻るのですか。」

 

「最初から優秀な指導者として祭るつもりはない。できる範囲で、同じ傷を持つ生徒の最初の歩幅を揃える役だ。成果が出なければ、もちろん見直す。」

 先生はやっぱり分かっているようで分かっていなかった。

 

「そういう事ではありません。先生は私が欲しがった『評価されない自由』を、別の形の責任にすり替えた。何も、何も分かっていません!」

 つい口調が強くなる。

 先生を細めた目で僅かに睨見つける。

 先生は何処か悲しそうな顔をして……そ(・)れ(・)で(・)も(・)主(・)張(・)を(・)曲(・)げ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

「すり替えたでいいよ。君の自由を永久に保全する仕事は、私にはできない。できるのは、君が苦しまずに役割へ戻れる道を一本書くことだけだ。」

 

「戻れる、という前提がもう勝手です。」

 

「そうだね。でも人には何処まで行っても役割にしばられる事がある。」

 

「もし断ったら?それとも断れませんか?」

 

「勿論ハナコは断れるよ。その場合、私は別の人手を探す。ただし、昨日の話を『もう必要ない』で終わらせて、何も変えずに済むとは思わないでほしいな。」

 

「脅しですか。」

 

「違う、物事の真理だ。私の口から出た言葉は安っぽく感じると思うけど、全てのものは移ろいゆくと言うのは不変の事実だ。それこそ君が望む補習授業部と言う居場所さえも。」

 

「何を言いたいのですか?」

 

「君を除いて補習授業部の皆は次のステップを目指し、成長しようとしている。どれだけこの居場所を守ろうとしても、いつかは補習授業部は君だけになるだろうね。君の自由は尊重するよ、でもそれは他(・)の(・)人(・)に(・)強(・)要(・)す(・)る(・)も(・)の(・)で(・)は(・)無(・)い(・)ん(・)だ(・)。」

 

「……先生は生徒は社会の部品であるとでも言うのですか?」

 

「違う、大人が社(・)会(・)の(・)部(・)品(・)な(・)ん(・)だ(・)。ハナコ、君が子供のまま生きて死ぬのならともかく、君は数年後にはもう大人になる……もっとも、これは本来ゲヘナの生徒達にこそ言う話なんだけどね。あんまり風紀委員以外と接点がないから。」

 先生は苦い顔をしながら話を展開し続けた。

 今分かった。

 先生は私の言う事が分かっていない訳では無い。

 分かった上でそれは通せないと言っているだけだ。

 

「……少し考えさせてください。」

 

「それでかまわないよ。」

 

「そして、これから先はナギサさんに直接話します。貴(・)方(・)は(・)も(・)う(・)関(・)わ(・)ら(・)な(・)く(・)て(・)良(・)い(・)で(・)す(・)。」

 先生は目を瞑り、私の言葉を噛み締めていた。

 そして目を開いた。

 

「分かった。これからは私は関わらない、君(・)の(・)命(・)に(・)関(・)わ(・)る(・)事(・)や(・)、(・)君(・)の(・)行(・)動(・)で(・)学(・)園(・)が(・)不(・)利(・)益(・)を(・)被(・)ら(・)な(・)い(・)限(・)り(・)。」

 そういって先生は扉を開けて、

 

「ハナコがどの様な選択をしても、私は将来の幸せを願っているからね。」

 そういって帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、トリニティで寝る準備をしているとカヤからメッセージがきた。SRTの再建計画が始動したと。

(生徒同士を比較するのは先生として言語道断だけど……色々とハナコとカヤは正反対だな。)

 そんな事を思いながら、私はすぐにおめでとうとメッセージを送った。

 だが私は彼女が抱(・)え(・)込(・)み(・)す(・)ぎ(・)て居ないかを少し心配していた。

 

『SRT再定義案、条件付きで通過。発動権限は分散。試行期限あり。詳細は添付資料に記載……私の独走ではない。だが、ハッタリによる恐怖心の扇動を行った。』

 

 このカヤから送られたメッセージには恐(・)怖(・)心(・)の(・)扇(・)動(・)を(・)行(・)っ(・)た(・)と書かれている。

 これは彼女が後ろめたいと思っているということだ。負担は計り知れない。

 本来は一度甘やかしても何も文句が出ないほどに彼女は努力して結果を出した、だがそれでも私は彼女にまだ無理をさせなければならない。

 多少うしろめたさを感じながら私は眠りについた。

 

 

 

 

 次の日、私は補習授業部の指導がない午前中にカヤに連絡をした。

 

「カヤ、お疲れ様。そしておめでとう。」

 

『ありがとうございます。』

 彼女は予想と異なりずいぶんと元気だった。

 

「思ったよりも……元気そうだね?」

 

『疲れては居ますが、これで私の正しさを一部証明できました。責任も役割も大きくて大変ですが……自ら求めた役割です。これからのストレスくらいどうにかしてみせます。』

 彼女の頼もしさを感じつつ気になっていた事を尋ねる。

 

「一昨日オラクルと会ってどうだった?」

 

『まあ……悪い大人ではありませんが、危険な大人ですね。確かに優良なアドバイザーでしたが、それと同時に妙な緊張感を感じました。』

 

「手厳しいね。言いたいことはわかるよ、私も最初は敵対とまではいかないけど仲は良くなかったから。私は今はある程度良好な関係を築けたけど、カヤは無理して関係を築かなくても良いと思うよ。そもそも彼女伝聞だけどあと三か月もしないうちに帰るはずだよ。」

 

『わかりました。』

 そんな話をしながら、気になったことを聞くことにした。

 

「扇動を行ったって、どのようなことを具体的にしたの?」

 そう尋ねると彼女の声色がどこか変わった。

 

『エデン条約加入校による連携した武力行使です。気にしないでください。私が選択したことです、私が背負います。ただ困ったときには先生を使い倒してあげますから覚悟してくださいね。』

 カヤは強い生徒だ。扇動については彼女はもう自分が背負うものだと理解したうえで、きちんと抱え込みすぎないようにマネジメントしようとしている。

 

『オラクルが教えてくれましたよ、今度戦(・)争(・)を(・)す(・)る(・)と(・)。教えられない理由も先生の立場も背景も分かりますがなんかこう……少しもやっとしましたよ。』

 様々な感情を抱えながらもそれを『もやっとした』という柔らかい言葉で表され、思わず吹き出す。

 

『何笑っているんですか!?』

 

「いや、ごめん。カヤからそんな柔らかい言葉が出てきたのが少し珍しかったから。そしてごめんね、カヤの言う通り私にもいろいろと立場があるんだ。」

 そこまで言って、オラクルが私達から教える前にすでに伝えているのならむしろアリウス解放戦争についての根回しが早く終わるかもしれない。

 オラクルの独断専行に軽く頭痛を感じつつ、上手く利用する方針に切り替えることにした。

 

「カヤ、うまくいけば明後日のエデン条約の会議に君をねじ込めるかもしれない。カヤはどうしたい?」

 

『勿論参加できるなら参加したいです。』

 

「わかった。明日また連絡するよ。」

 

 

 

 

 翌日の夜、ナギサと共にオンライン上でミレニアムとゲヘナに事件の詳細を伝える……その前に彼女に重要な話を伝えた。

 

「ナギサ、一つ頼みがある。」

 

「なんですか?ある程度の事は聞きますが。」

 

「後始末とかそこら辺は元々私に頼る予定だよね?」

 

「そうですが……」

 

「ならば、アリウス解放戦争に一つの組織を介入させてくれ。」

 

「その組織とは?」

 

「SRT……再建した連邦生徒会長の遺産だよ。」

 彼女の目線が目に見えて厳しくなる。

 

「私は貴女は信用しても連邦生徒会は信用していません。ましてや連邦生徒会長の遺産とは……これは恐らくミレニアムやゲヘナもだと思います。」

 

「分かっている。だが安心して欲しい。これは寧ろ連邦生徒会への不信感や疑惑を払拭するものだと判断できる組織なんだ。」

 そういってオラクルからの要請、カヤとの接触、一昨日SRT再建構想が始動した事、そしてその理念とカヤの思想を一部都合が悪い事を除き殆ど伝える。

 

「成る程、連邦生徒会の中にも日和見主義を脱出した改革派の方が居るのですね。それにオラクルと貴方が関与したと……それは最早別物では?」

 

「あぁ、持つ力は変わらないけど、制限と責任論がより重くのしかかるようになった組織さ。敢えて連邦生徒会長の遺産と言ったのはそこを強調したかったからだよ。遺産は再開発され、君達が警戒心を向けるような組織から変革したと伝えたかっただけだ。」

 

「それで巻き込もうとする理由は?先生の言う事ですし何かしらの意図があるのでしょう?」

 前ならこの様に話を聞いてくれなかっただろう。

 確かに自分とナギサの間の絆とも呼べる関係が深まった事を実感しつつこう言った。

 

「あぁ、理由は四つある。その内二つは連邦生徒会側の事情だが、残り二つは君達にとってもメリットがある。まず連邦生徒会側の事象としては、シンプルに宣伝と権威の証明だ。」

 

「宣伝?それに権威の証明ですか?」

 

「そう。連邦生徒会は君達の様な3大校以外からも正直余り良い印象は持っておらず、半ば形骸化している。だからこそ今回の様な事象が発生した際にはキチンと再誕させた組織を活用してこれ以上の印象低下を阻止し、再び連邦生徒会による最低限の秩序の復活を求めているのさ。」

 

「成る程、理解できました。それで我々にとってのメリットとは?」

 

「一つはシンプル。エデン条約の作戦に後から参加したと私は発表させるつもりだけど、それにカヤが納得するなら『エデン条約の行動に後からさらなる権威と正当性がついた』という風に世論を持っていくことが出来る。もう一つは早い段階でパスを繋いでおけば3大校以外にもアリウス生たちの受け入れを頼む際に連邦生徒会に面(・)倒(・)な(・)部(・)分(・)を(・)丸(・)投(・)げ(・)出(・)来(・)る(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)。」

 

「一つ目は結局連邦生徒会の権威付けと表裏一体では無いですか?」

 ナギサは鋭い視点で問うてきた。

 だが、私は本当にSRTが必要であると言うもう一つの確固たる理由があった。

 

「それはそうだね。ただこれは大きな視点での話だ。現場としてはそもそも連邦生徒会直下の特殊部隊がサポートに付くという非常に大きなメリットが付く。アリウスの戦法は十中八九ゲリラ戦、個人、あっても小隊規模での散発的な戦闘にしかならない。つまり大部隊での戦闘を前提としている君達では対応出来ない可能性があるんだ。そこを解消出来る。」

 

「……そこまで聞くと、確かにメリットは大きそうに見えますね。アリウスの情報源については例の黒服とか言う男のデータですか?」

 

「うん。キョウカから知らされているんだよね?」

 

「はい。胡散臭いですがまぁ、大人二人が信用しても良いと言ったのです。今回は信用しましょう……それで、確認ですが指揮権は?」

 

「勿論ナギサ達が持つよ。と言うかそうじゃないとまともにまわらない。戦後についても基本的に出しゃばらない事を私から説得するよ。」

 

「分かりました。トリニティは納得しましょう。ただ、この事はこの後の会議で先生から伝えてください。」

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 放課後の時間、トリニティからミレニアムに送り届けられた私はいつもの道を使ってリオが居るであろうエリドゥに帰ってきた。

 

「オラクル!おかえりなさい。トリニティはどうだったかしら?」

 

「あぁ、自分の仕事は完遂してきたよ。ただ、色々と話すべきことがある。と言うかセミナー全体……いや、ミレニアム全体を巻き込む事だ。後聖園ミカに接触するためだけに行っていた特別授業が思ったよりも人気でね、遠隔で毎日45分授業をする事になった。」

 私がそう言うと彼女は難しい顔をしてため息をつき、

 

「明日何とか時間を作ってセミナーを集めるわ。今日は貴方が居ない間にどの程度様々な事が進歩したか教える時間にするけど、大丈夫かしら?」

 

「構わないよ。色々と知りたいからね。」

 

 

 

 彼女と向かい合って椅子に座る。

 

「まずコユキの事だけど……ごめんなさい。AIによる判断基準の補足プロジェクトは中止になったわ。」

 

「何故かな?時間は掛かるけどコストは安く、彼女にとってもミレニアムにとってもよい影響だと君は判断していた筈だが。」

 まず最初に伝えられた事に疑問を抱く。

 

「単純にヴェリタスに情報を抜かれたようで抗議声明が届いたの。私がどれだけこれが人道的で彼女の為になると説明しても、『貴方ならAIに手を加えて彼女をコントロールするでしょう!』と言って敵対を緩めなかった。コユキに対して情報セキュリティは無駄だから緩めにしていたとはいえ、これは完全に私の失敗よ。」

 

「そうか、それならまぁしょうがないさ。彼女達はコユキの危険性と有用性、そして個人の人権についてとやかく言う立場では無いが……そこは個人の考えだ。次の話に行こう。」

 彼女が多少気落ちしているのを見ながら次の話をしてくれと空気を入れ替える。

 彼女は少し勢いを取り戻し、話を続けた。

 

「次は生徒会長の引き継ぎだけど、こっちは上手く移行できているように思える状態よ。内政面に関しては元々問題視していないけど、外交についてはエデン条約が締結したらその先は彼女も本格的に参入させる予定よ。」

 

「彼女には何を何処まで伝えた?」

 複数の意味を含ませながらそう問うと

 

「アリスの事については、ユウカにもノアにも、そしてトキにも共有したわ。」

 

「……随分と勇気を振り絞ったな。いや、彼女達がそれだけ君にとって信頼できる人間だったと言う事かな。」

 

「半々ね。私が人を信用し頼る事を覚えた面もあるし、彼女達なら愚かな行動も危険な判断に走る事も無いと私が判断する位には優秀だったと言う面もある。」

 

「彼女達の反応は?」

 

「多少違いは有れど、最終的には私達の判断に賛同して協力してくれる事になったわ。ユウカは多少難色を示していたけど、私が『彼女を破壊する必要があると判断する場合はミレニアム全域の滅びを許容せざる負えない時よ』と逆説的にそ(・)れ(・)を(・)行(・)う(・)つ(・)も(・)り(・)は(・)現(・)状(・)無(・)い(・)と伝えたら納得してくれた。」

 彼女も随分と説得が上手くなったものだ。

 

「?何処か嬉しそうね。」

 

「いや、説得が上手くなったようだからね。」

 顔に出ていたようだ。

 

「では最後の質問。都市防衛についてはどうだ?」

 そして最後に私がした質問はミレニアムにおいて、この2週間で最も変化した事だった。

 

「……実物を見せた方が早いわね。」

 彼女はそういって私の手を取り、エレベーターで地下に向かった。

 コントロールタワーの最上階に鎮座しているアビ・エシュフとは対極の座標である地下3階のボタンを押す。

 エレベーターの中では互いに無言だった。

 安っぽいチャイムの音と共に扉が開き、リオが目の前の部屋の電気をつけた。

 

「これは……凄いな。最(・)早(・)原(・)型(・)が(・)無(・)い(・)。」

 目の前には目算で全高8メートル程の巨大ロボットが鎮座していた。

 

「アビ・エシュフ・ティタノマキア……そのプロトタイプよ。元々は量産型アビ・エシュフを先に作る予定だったのだけど、小型化と量産性を達成しながら飛行能力を与えるのが現状難しかった。そこで私は量産性を考慮しないハイエンド機体であるティタノマキアを先に完成させたの。」

 てっきり彼女が私の助言よりも彼女のプランをただ優先しただけかと思えば思わぬ合理的な説明に面食らう。

 

「でもこれは、パワードスーツでは無いだろう?寧ろ時間はこっちの方がかかりそうなものだが……ま(・)さ(・)か(・)こ(・)れ(・)も(・)パ(・)ワ(・)ー(・)ド(・)ス(・)ー(・)ツ(・)なのか?」

 

「鋭いわね。そう、こんな大きさでもパワードスーツの位置づけよ。この機体の中に身体接続型のインターフェースがあって、まるで手足の延長線上の用に機体は動かせるの。」

 そういって彼女は壁に備え付けられたモニターを映す。

 

「大型スラスターによる飛行能力とそれに必須な燃料と排熱の問題も機体の大型化によってクリア、エリドゥからの遠隔バックアップを行う為のドローンも製作完了。セルユニット構想はまだだけどそれでもアビ・エシュフとは比べ物にならない最(・)強(・)の(・)強(・)襲(・)機(・)体(・)よ。」

 モニターには模擬戦用の数多のドローンと……複数体の何やら珍妙なロボットを薙ぎ払うティタノマキアが映っていた。

 

「あの奇妙なロボットは何だ?」

 

「あれは量(・)産(・)型(・)ア(・)バ(・)ン(・)ギ(・)ャ(・)ル(・)ド(・)君(・)。量産型アビ・エシュフを作れなかった時に備えて作ったロボットよ。強さはまぁ生身のトキよりはつよく、ネルよりは弱い程度ね。」

 

「そうか、これ程短時間でどうやってこれ程の物を作れたんだい?」

 ずっと聞きたかった事を聞く。

 彼女は優秀だが此処までの物を短期間で作れる資源も余裕も無かった筈だ。

 

「あら、前に私はトリニティからの援助を3割を軍事費に転用したと言ったわよ?それに今内政はユウカに押し付けているから時間に余裕があるの。」

 

「そうか……」

 やがてティタノマキアが対戦相手を殲滅した映像を見届けると彼女はエレベーターに向かって私の手を引いて歩いていった。

 リオが活き活きしているのを喜ぶべきか、内政を押し付けられたユウカに同情するべきか。

 私はそんな事を思いながらエレベーターに乗り込んだ。

 

「あんな兵器、本来は過剰戦力だし様々な組織からの警戒は避けられないな。」

 そう呟くと自分の端末にメッセージが来た。

 開いて中身を見るとあの兵器の扱いが書いてあった。

 

『通常発動時はミレニアム必須+ トリニティ、ゲヘナ、もしくは連邦のうち2者の賛同。

エデン条約作戦時の優先ルールとして、ミレニアム+トリニティまたはゲヘナのいずれか1つ以上まで制限を緩和。

緊急発動時は現場指揮とミレニアム合意で仮発動+事後追認必須。

違反時は自動ロック強化、または以後の条約支援停止。』

 

「私は武力行使の目的を見誤るつもりはないわ。あの機体も、アリス暴走時に起動する無名の司祭の兵器群を初動で叩くため、そしてデカグラマトンの預言者に先手を取るための兵器よ。」

 

「……君は本当に優秀で仕事がはやいな。」

 そう隣に立つ彼女を見ながら呟いた。

 

 

 

 

「次は貴女の番よ。オラクル。明日話すこととは言え、先に情報は集めておきたいの。」

 そう言って私はオラクルを見つめた。

 

「まぁそう言うだろうね。」

 彼女は落ち着いた様子で話始めた。

 

「そもそもの根幹はパテル派代表の聖園ミカがトリニティでクーデターを起こそうとしているのではないか?と言うのが発端だった。そしてそれは事実だったが、この話は予想よりも深い所に根があった。彼女は明確な目標があってクーデターを計画したんだ。」

 

「その目標とは?」

 

「簡潔に言うと、トリニティから昔分離したアリウス分校と呼ばれる学園がとある大人の手によってテロ組織に変貌した。彼女はそれを知り、洗脳教育を受けていたそこの生徒を開放するために武力を求めたらしい。」

 

「らしい?伝聞なのね。」

 

「ああ、先生が教えてくれたよ。私はあくまで探偵としての能力を求められてトリニティに呼ばれた、真実を暴いた後の物事については責任も権限もなかったからね……ここからが重要なことだ。トリニティは彼女の暴走を止めたうえで、彼女の目的であるア(・)リ(・)ウ(・)ス(・)解(・)放(・)の(・)た(・)め(・)の(・)戦(・)争(・)を(・)正(・)式(・)に(・)行(・)う(・)つ(・)も(・)り(・)だ(・)。そしてその戦争にエデン条約を利用してゲヘナ、ミレニアムとの連合軍を組むつもりだ。」

 

「それは……大事ね。」

 

「まだ重要な要素がある。もしかするとそこに連邦生徒会の改革派と呼べる勢力がある。そこが干渉してくるかもしれない。」

 

「幾ら反連邦生徒会長側だとしても「最後まで聞いてくれ。」……分かった。」

 

「そしてその組織はアリスが暴走した際に切れる手札として、私(・)が(・)先(・)生(・)に(・)頼(・)ん(・)だ(・)も(・)の(・)だ(・)。」

 反応は劇的だった。

 彼女が唖然とし、次第に苦虫を噛み潰しながら苦悩し始めた。

 

「……彼女達は信用に足りるのかしら?」

 絞り出すように彼女は尋ねる。

 

「それは今日、この後わかる事だ。」

 今日彼女に助言をするのだから。

 

 

 

 

「カヤ、一つ忠告する。私を信用するな。利用しろ。先生も同様だ。彼は君の味方だが、君の組織人としての利害まで常に優先はしない。」

 

『……分かっています。』

 

「分かっているなら十分だ。今夜はここまでにする。シナリオの粗案が欲しいなら、また呼んでくれ。一応使えそうなデータは後ほど送る。好きに使いなさい。」

 画面が暗転する。

 深夜、カヤとの会談を終え、後ろを振り返る。

 

「リオは彼女のバイタリティと危険性をどう判断するかい?」

 私がそう尋ねると、リオはため息をつき机を指で叩きながらこう言った。

 

「彼女は信用する。そして彼女の意見が通らない限り、その組織はそもそも生まれないでしょう……良いわ。私は賛同する。ただ動きが遅いなら、物理的に時間が足りないと言っておくわ。」

 

「私もそう思うよ。」

 リオだけでなく私も彼女の理念は評価しつつも、短時間でそこまで動くことは無いだろうからアリウス戦争には恐らく関わる事は無いだろうと判断していた。

 ま(・)さ(・)か(・)彼(・)女(・)が(・)一(・)日(・)で(・)不(・)可(・)逆(・)的(・)な(・)流(・)れ(・)を(・)作(・)る(・)と(・)は(・)思(・)っ(・)て(・)も(・)見(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 

 

「……以上の事から私達ミレニアムはアリウス解放戦争に参入するつもりよ。必要性や合理性、更にはリスクについても説明したと思うけど、質問が有るなら是非ともして頂きたいわ。」

 翌日の放課後、私はセミナーや一部の部活、そしてC&Cを集めて、エデン条約に基づいてミレニアムはアリウス解放戦争に参加する事を発表した。

 

「……理屈は理解できました。そして避けられない事も。ですがそれでも生徒達を戦場に行かせるのは!」

 何処かの部が反発する。

 

「そうね、貴女の言う通り危険よ。だからこそ私は最大限責任を持って彼女達の安全と作戦の成功を両立させるべく努力しているの。」

 そう言ってスライドをプロジェクターに投影する。

 

「今回C&C以外は誰も戦場には行かせない。でも貴女達にも協力して欲しい部分が有るの。そして貴女達の頑張り次第でより安全に任務が遂行出来るようになる。」

 映し出されたのはティタノマキアの模擬戦で薙ぎ払われていたドローン。

 

「この偵察用ドローンは細かい姿勢安定等については自動操縦で動くものの、やはり大まかな動きは人の手によるものの方が良いの。だから戦場に行かない私達は偵察ドローンによる索敵とそこから得た情報によるオペレーション……まぁバックアップがメインよ。何か質問は?」

 そう彼女が尋ねると周囲の生徒は静まり返った。

 沈黙が満ちる中一人の生徒が手を挙げた。

 

「……もっと早く情報を伝達する事は出来なかったのですか?頭で理解していても、やはり実感が湧きません。」

 

「ごめんなさい。でもこの情報を得たのは昨日なの。私もこの話には少し思う所があるし、急な話で申し訳ないとは思っているけど……緊急性の高い事だから。」

 そう言って頭を下げると小さなざわめきが走った。

 

「ちょっと良いか?」

 そんなざわめきを鋭い声が切り裂いた。

 

「リオ、お前は私達C&Cに対して最大限のバックアップをしてくれるんだよな。」

 

「えぇ。」

 

「なら話は早い。た(・)だ(・)何(・)時(・)も(・)よ(・)り(・)少(・)し(・)危(・)険(・)で(・)キ(・)ツ(・)イ(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)任(・)務(・)に(・)行(・)く(・)だ(・)け(・)だ(・)。」

 声の主……美甘ネルはそう言って獰猛な笑みを浮かべた。

 

「リーダー、私も頑張るよ!」

 

「どの道任務を遂行するだけだ。」

 

「完璧に終わらせてきます。」

 彼女に続いて次々C&Cのメンバーから声が上がる。

 

「最後にもう一度聞くわ……この大仕事協力してくれるかしら。」

 最後にその他の部活や組織の面々にそう尋ねる。

 

「……仕方ありませんね。」

「リオ会長が頭を下げるくらいには大事なことなんだろう?」

「あの女も少しはマシになりましたかね。」

「終わったら仕事手伝ってくださいよ!」

「私達は追加で装備や資材を出すよ。」

「C&Cがやる気なら仕方ないか。」

「私達は操作の練習をするよ!」

 重なり合って殆ど聞こえなかったが、彼女達が苦笑しながらも賛同した事だけは理解できた。

 

 

ミレニアム・サイエンススクール、アリウス解放戦争への協力決定。

 

 

 

 

 

 

「マコト議長。お手紙です。」

 

「誰からの手紙だ!マコト様は今イブキと遊ぶのに忙しい。後回しにしろ!」

 私はそう言って後回しにしようとした。

 

「失礼しました。ですが差出人がトリニティのティーパーティです。」

 脳内のスイッチが切り替わる幻聴がした。

 

「……分かった、イロハが戻ってくるまで暫くイブキの相手をしてくれ。くれぐれも粗相のない様にな。」

 そう言って伝達してきた生徒にイブキを任せ、万魔殿の保有している個室に入る。

 封を切り、中身を確認する。

 

『ゲヘナ学園 万魔殿議長 羽沼マコト様

 

 突然のご連絡、失礼いたします。

 本状は、エデン条約に基づく正式な協力要請としてお送りします。

 先日、トリニティはアリウス分校関係者による組織的な敵対行為を確認いたしました。

 内容は、学園上層部に対する実力行使の計画、ならびに本校生徒の安全保障を直接脅かす性質のものです。トリニティとしては、これを単なる内部不祥事ではなく、加盟校の秩序と生徒の安全を侵害する事案と判断しました。

 つきましては、当該勢力への対応として、トリニティはアリウス分校への侵攻を決定しました。

 目的は報復ではありません。同様の脅威の再発防止とアリウス生徒達の保護と再教育による更生です。エデン条約の集団的自衛に鑑み、加盟校であるゲヘナ学園、および万魔殿にも協力を仰ぎたく存じます。

 貴学園の戦力と機動力は、本件のような散発的・非正規な抵抗への対応において不可欠です。トリニティ単独で完遂する選択肢もありますが、それでは条約の実効性を示せません。』

 

「長すぎる!トリニティはゲヘナの様に単刀直入に話せないのか!?」

 堅っ苦しく長い手紙を読みつつも、薄々これでも彼女達にとって最大限手短に手紙をしたためたであろう事を推察し、思わず顔をしかめる。

 

「しかも2枚目もびっしり書かれている……」

 

『ゲヘナの参加は、本件を「トリニティの私戦」ではなく「加盟校の共同対応」として成立させるために必要です。なお、指揮系統は現場の混乱を避けるため事前に調整します。

 ゲヘナの面子を損なう形での従属的運用は想定しておりません。戦果の対外的な扱いについても、万魔殿の貢献が正しく示されるよう配慮します。本件は時間を要します。

 可能であれば、近いうちに直接協議の場を設けさせてください。マコト様のご判断を、お待ちしております。

 

トリニティ総合学園 ティーパーティ 桐藤ナギサより』

 

 読み進める内に、表情が険しくなるのを自覚し、読み終わったタイミングで思わず舌打ちが出た。

 

「アリウスとは懐かしい名前だな。昔、一瞬トリニティに襲撃をかけないか?と誘いを受けたな。最も、その直後に連邦生徒会長の暴走を見せつけられ、それどころではなくなったが……」

 簡潔に纏めると手紙にはトリニティへの攻撃をしたとしてアリウスに侵攻する、その為エデン条約加入校であるゲヘナには是非とも力を貸して欲しいと言う旨が書いてあった。

 

「詳しい状況はある程度しか分からないが、キキキッ結局自分のケツさえ自分で拭けないから助けてくれと言っているわけだ……マコト様がそう簡単に動くと思ったか。」

 そう言って拒絶の連絡を送ろうとしたとき、封筒の底にもう一つ手紙が入っている事に気がついた。

 

「これは……」

 送り主は白(・)州(・)ア(・)ズ(・)サ(・)と書かれていた。

 

『万魔殿 羽沼マコト様

 

 始めまして。私は白州アズサ、元々はアリウスの生徒だ。ナギサがゲヘナに助けを求める手紙を書いていると聞いて急いで書いて同封させてもらった。

 助けを求める前に私が居たアリウス分校の現状を知って欲しい。

 アリウス分校は地下にいる。そこでは日の光はほぼ無く、食事は少ない。マダムと呼ばれる生徒会長から与えられる教育は戦い方と、トリニティへの憎悪を煽る思想が中心でそれ以外の物事には教えられない。希望を持つな命令だけ遂行しろ、どうせ全ては虚しいのだから……私はそんな洗脳教育しか行われない地獄の中で育った。

 私は今マダムの支配から逃れ、トリニティで保護されているが、私以外のアリウスの生徒達は今も自由を剥奪され、虚無の中で生き、使い潰されようとしている。

 私はナギサからゲヘナは自由意志を象徴する学園だと聞いた。図々しいと思われるかもしれないが、どうか助けてほしい。

 

白州アズサ』

 先程とは打って変わってその手紙は私の心を震わせた。

 

「……洗脳教育の中で自由を求める生徒か。」

 その在り方は何処か昔の私達を想起させた。

 自然と手紙を持つ手に力が入る。

 その手紙に込められた思いが、自由への渇望が、そして過去を超克しようとする意思が私の胸を打ち据えた。

 私はここ最近何をしてきたのだろうか。

 風紀委員を虐めながら自己顕示欲を満たすだけの日々。

 そんな自分よりも支配からの解放を目指す彼女達の方がよっぽど自由を象徴する人間らしく思えて…、

 

「ふっ、らしくない感傷に浸ってしまったな。」

 自分の感情の動きを自覚し思わず苦笑を漏らしながらポケットからスマホを取り出す。

 

「トリニティに協力するのは業腹だが……これに参加しない選(・)択(・)肢(・)は(・)無(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)な(・)。」

 そうして私は直ぐに空崎ヒナに電話をかけた。

 

「もしもし、私だ。」

 

『マコト、今私は忙しいの。しょうもない用件なら後にするか手短に要点だけ教えなさい。』

 

「……分かった。近い内にトリニティ、そして恐らくミレニアムとも協力してアリウス分校と言う学校に戦争を仕掛ける。その際には風紀委員全員を派遣する。」

 

『……は?マコト、貴女の何を言っているの!』

 

「お前達の憂いがない様に万魔殿がその間はゲヘナを管理する。だから私(・)達(・)に(・)任(・)せ(・)て(・)生(・)徒(・)を(・)救(・)っ(・)て(・)こ(・)い(・)。これは命令だ。」

 

『……後で説明しなさいよ。』

 

「分かっている。切るぞ」

 そう言って彼女との電話を切った。

 

「自由意志の剥奪と言うものが我々にどう受け取られるか、その身で思い知ってもらおうか。」

 

 

ゲヘナ学園、アリウス解放戦争への協力決定。

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