ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
また、1話から少しずつ誤字脱字が報告されており、本当に反省しています。
追記 マエストロのシーンをもう一度みて口調を書き直しました。
剣先ツルギ率いるトリニティ1班は今、動揺を押し殺しながら戦線を下げ、守りに入っていた。
先程から既に何度もアリウス生とは異なる存在に足止めを食らっていたのだ。
『くそったれ、敵の戦力は無尽蔵かなのか!?』
『前線に綻びが生じています、負傷者も一定数確認!後数分で突破されます!』
「チッ、しょうがない。歩兵隊はバリケードまで後退しろ!後退次第、高射砲とロケットランチャーによる砲撃を敢行する。遊撃隊と狙撃班は後退の援護を!」
瓦礫を盾代わりにし、負傷者を担ぎながら必死に後退する歩兵を、散発的な射撃を敢行し後退を援助するが、亡霊はまるで痛みを知らない様に突き進む。
「痛っ!」
そんななか一人の生徒が転倒した。直ぐ様彼女に敵の弾幕が放たれるが……
「ツルギ先輩!?」
「多少の被弾は私に影響はない。」
そう言って攻撃を浴びながら彼女を担ぎ上げ、そのまま近寄る存在を吹き飛ばし、ひとっ飛びでバリケードまで後退した。
「他の人員は。」
「全員後退完了しました!」
「よし、砲撃始め!」
班の全員が後退し終えた事を確認し、砲撃を敢行する。
土煙が晴れた後には何も残っていなかった。
「相手が普通の人間なら下手するとスプラッタになりかねない弾幕ですよ……」
「安心しろ。先程既に先生が
自分達の攻撃が少し過剰過ぎないかと少し怯えている生徒をフォローしつつ険しい顔で後方を見る。
「これでもう三度目か、弾薬のストックと負傷者は?」
「ストックは残り65%、負傷者は2割程です。」
帰ってきた返事に正義実現委員会部長、剣崎ツルギは歯噛みをしながら方針を固めた。
高度な戦術は取らないが、数分毎に訪れる亡霊の様な存在。幾ら此方に大量の兵装のストックを保有しているとは言え、無尽蔵に弾薬があるわけでは無い。
「先生。此方トリニティ1班。弾薬の補給と負傷者の手当の為一度本隊に合流したい。」
『分かった……そしたら部隊を半分に分けた上で片方は負傷者の輸送と弾薬の補給として本陣に戻り、もう片方はそこから600メートル後退した所で防衛線を築いて待機しておいて。今から本陣から穴埋めとして人員を送るから。』
「わかった……班を二手に分ける。片方は負傷者を装甲車に乗せて本陣に向かい、帰りがけに弾薬を載せてこい。もう片方は前線を下げながら簡単にバリケードを作成し、敵に備えろ!」
そう言って通信を切り班に命令した。
1分後、班は移動を開始した。
(黒服の情報によれば、ユスティナ信徒の
最初の伝達の際に心当たりを覚え、すかさず発生源を探して叩くよう命令すると共にそれぞれの班のリーダーに情報を共有した。
だが、よく考えると既に知り得た情報と齟齬が生じている。
(黒服から誤った情報を伝えられたか、もしくは彼自身が何かしらの条件を知らなかったか……或いは敵が
そんな愚かな行動は流石にとって居ないだろうと考えつつも、一抹の不安が頭を過って離れない。
そんな時、ユスティナ信徒達の発生源を探らせる為に動かしていたドローンがある異常な光景を映し出した。
「
アリウス自治区の一角は、既に阿鼻叫喚の巷と化していた。
瓦礫の隙間から顔を出したアリウスの生徒が、震える声で叫ぶ。
「何であいつらが私達を撃つ、あれは味方のはずだ!?」
返事はなかった。
沈黙したまま前進してくる存在。ユスティナ信徒の
ただ淡々と、目の前の『敵』を排除するように銃口を向ける。
「ありえない……信徒達はマダムが呼び出した戦力じゃなかったのか!」
別の生徒がロケットランチャーを構えて撃ち込む。
直撃を受けたミメシスの体が煙のように崩れ消える。
だが、数秒も経たないうちに、奥から新たな個体が現れた。まるで、消えた分を補填するかのように。
「これこそが、虚無の虚無か……」
「詩人を気取っている場合か!無限に湧いてくる……!」
先程ロケットランチャーを撃った生徒に対して信徒達の銃撃が行われ、ヘイローをかき消しながら倒れ込む。
アリウスの戦線は崩壊しつつあった。
連合軍の侵攻で既に疲弊していたところへ、背後から、いや、内部から牙を剥かれたのだ。
逃げ場を失った生徒たちが次々と倒れていく。
ヘイローが砕け地面に沈む音が、静かに、しかし確実に増えていった。最早気絶しているのか……或いは
アリウスの生徒達はベアトリーチェの教育を受けて尚、死に対する恐怖が残っていた事を今更理解した。
その光景を、ベアトリーチェは双眼鏡越しに見ていた。
先程までの傲岸不遜な態度は脆くも崩れ去り、今はただ顔の皮膚を痙攣させることしかできない。
「……何をしている。止めなさい。私の命令だ。」
声が届くはずもなかった。ミメシスは命令に反応しない。ただ、目の前のアリウス生を連合軍と同じ様に
「聞こえているのか! あれは私の手駒だ! 私の戦力だ! 何で味方を攻撃する!?」
怒声は虚空に吸われ、返ってこない。代わりに聞こえるのは、遠くで響く銃声と、崩れる瓦礫の音だけだった。
暫く叫んでいると、後ろに何者かが居ることに気がついた。
直ぐにその存在が何者かを理解し振り向く。
「
「その様に言われても、この様な事は想定外だ。」
そこにいるのは、不気味なほど冷静なマエストロの姿だった。
マエストロは首を傾げた。その行為に含まれているのは嘘偽りない疑問だけで、それがとてつもなく癪に障る。
「想定外とはなんですか、間違いなく貴方のミスが原因でこの様な事が起きているのですよ!それを想定外等と!」
「私はただ貴女に協力したに過ぎない。責任のなすりつけは辞めてくれたまえ。」
「ふざけないでください!足元を見た上でやった事がこれです。これが貴方の言う『少しの手伝い』の結果なのですか!?すぐにでも制御を奪取して暴走を止めなさい。」
「
短い言葉だった。
私の表情が、引きつる。
「……何ですって」
「止められない、と言ったのだ。正確には、最初から
マエストロはゆっくりと歩み寄り、崩れた壁の破片を足で払いながら続けた。
「思い出すがよい。原初のユスティナ聖徒会は、戒律を守る存在である。エデン条約という『新たな戒律』を正当に背負わせ、敵を明確に指定して初めて、彼らは安定して動く。貴方がエデン条約を乗っ取り自分たちをETOだと宣言したとき、初めて制御の糸が繋がる。それが本来の手順……その様な計画は最早崩壊しているではないか。」
「だが、私にはアツコが、ロイヤルブラッドがある!その様な事をしなくても最終的には上手くいく筈だ!」
そう激昂しながら掴み掛かろうとした。
「そう。確かに普通なら確かに時間をかければ上手く行く可能性もあったかもしれない。だがここは
その言葉に時が止まった。彼がそう言って指を指す方向……荒れ果てたアリウス自治区を見る。
「この荒れたアリウス自治区を見るが良い!瓦礫、銃声、侵攻する外部勢力、逃げ惑う生徒たち。ユスティナ信徒のミメシスからすれば、ここは『戒律が破られ、秩序が崩壊した地』としてしか映るまい。彼女らの基本性質は、そうした混乱を正すこと……簡潔に申し上げるなら武力により侵略者を排除することである。」
マエストロは、遠方で倒れるアリウス生の方を顎で示した。
「自分たち以外の全ての存在を、潜在的な敵と判断したのだろう。貴方が制御権を確立していない以上、彼らは『マダムの手駒』ではない。ただ、戦場に放たれた、条件反応の塊だ。」
何も言葉を発せない。彼の発言が明確な自分の失策を気づかせる。
「結果はご覧の通り。彼らは『誰の味方か』を判断する材料を持たない。あるのは、本能に近い反応に過ぎない。」
「……そこまで推測できて居ないのなら何が想定外なのですか!私を陥れる為に協力する振りをしていたのですか!?」
そう問い詰めると彼の声に確かな
「私の想定外はベアトリーチェ、
そう言って彼は私を指指した。
「条約を乗っ取れていない状態でただ『戦力が欲しい』という理由だけで、アツコの血を媒介に無理矢理誕生させた。私はてっきり何かしらの代替措置が有るからこそあそこまで高圧的に要請を出したのかと考えていたが……まさか
「うるさい!……今すぐあれを止める方法は無いのですか?」
「アツコを遠距離から殺害するか、私が彼女達を量産する為の装置を破壊するか……何方も不可能であろうがな。何しろ彼女達があの場所から無尽蔵に生まれている、近づく事さえも困難と考えるのが妥当であろう。」
私は言葉を失った。唇が震え、次の言葉を探すが、出てこない。自分が確信していた逆転の目が、自らを食い潰し始めている。
アリウスの生徒達もユスティナ信徒達も、彼女の手駒に過ぎなかった筈だ。その手駒が、別の手駒に殺されている。
「……馬鹿な。そんなはずは……力は力によって滅ぼされる。私が呼び出した力だ。私の意のままに……」
「そもそも貴女の力では無いだろう、あれは私の作品だ……そして力とは意にならない事もある。貴方が『大人』として君臨しようとするその傲慢さが、今回も仇になったに過ぎない。」
マエストロはそれ以上、私の失態について深くは語らなかった。
「複製は確かに作った。しかし制御は最初から貴方が握れていなかった。エデン条約を乗っ取れていない時点で、この結果はほぼ必然。」
話続けるマエストロを無視して作戦を考える。
何か、何か無いか。
ユスティナ信徒達を上手く使う方法を。
この勢力図をひっくり返し、敵に出血を強いる方法を。
そして先程まで敗北し意識を失ったアリウス兵達がどうやら敵の本陣まで護送されている事を思い出し、一つの策を思いついた。
「アリウス生達、
そう通信端末に怒鳴り散らし、相手の反応が返ってくる前に端末を叩き割る。
「スマートに制御出来ないと言うのなら。無理矢理にでも本能を利用してコントロールするまでです!」
通信端末から流れたベアトリーチェの怒声は、既に戦意を失いかけていたアリウスの生徒たちに、最後の選択を強いた。
『ユスティナ信徒に敵対され、追いかけられている状態で連合軍に特攻してきなさい! どうせ貴女達の人生は全て虚しいのですから!』
端末が叩き割られる音がして、通信は途絶えた。
残されたのは、背後からユスティナ信徒の群れと、前方に広がる連合軍の戦線だけだった。
「……本当に人生とは虚しいものですね。」
誰かが静かに呟く。
隣の生徒が弾切れの銃を握り直す。
逃げ場はない。
後ろには痛みを知らない亡霊たち、前には自分たちを『解放する』と言いながら撃ち続けてくる外部の生徒たち。
「あんだけ死ぬ事に対してどうでも良いと思っていたけど……やっぱり死にたく無かったな。」
そう言って隣の生徒が銃を握り直す。
「逝くぞ。」
声を上げた生徒を先頭に、残存兵力は一斉に前進……いや敗走を開始した。何時かトリニティにぶち当たる事を信じて。
走射の精度は低い。だが、数だけはまだ残っている。
瓦礫を蹴散らし、叫びながらただ前へ前へ……故にその班と遭遇する事は半ば必然だったのだろう。
「見つけた、此処で自分達は死ぬんだ!突撃だ!」
そう言って戦線を押し上げていたトリニティ2班……聖園ミカ達に突き進む。
「ミカ様、左翼から中隊規模です!しかも後ろから別のも……!」
「後ろ?何それ?」
ミカが首を傾げた瞬間、先に現れたのはアリウスの生徒たちだった。弾幕を交えながらの特攻は、もはや戦術というより暴走に近い。
「亡霊かと思ったらアリウス生達!?殺しちゃダメだよ、気絶させるくらいで!攻撃し……なにかおかしいよ?」
ミカの指示に合わせてトリニティの生徒たちが応射する。
しかし、アリウス側は止まらない。
被弾しても、転んでも、起き上がってまた走る。まるで背後にいる「何か」から逃げるように、必死だった。
「何でそんなに焦ってるの……?」
疑問が口をついた次の瞬間、答えが現れた。
ユスティナ信徒達が、アリウスの後衛を飲み込むように現れたのだ。
ユスティナ信徒のミメシスは、逃げるアリウス生にも、応戦するトリニティの生徒にも、等しく銃口を向ける。弾が飛び交い、三つの勢力が一つの広場に重なった。
「ちょっと待って、あれ敵でしょ?何でアリウスも攻撃されているの!?」
「分かりません!ただ、明らかにこちらも狙われています!」
ミカは一瞬だけ表情を硬くし、そしてすぐに虚勢に満ちた笑顔を浮かべる。
「じゃあ、両方とも相手するしかないね。」
虚空に亀裂が走り、小規模な隕石がミメシスの密集地帯へ落下する。衝撃で影が複数消滅するが、すぐに奥から補充される。その隙にアリウスの特攻がトリニティのバリケードへ到達し、至近距離での乱戦が始まった。
「ミカ様、挟まれます!」
「知ってる!私が真ん中行くから、後は頼んだよ!絶対にアリウス生達の命を奪わないで!」
ミカは銃を構えたまま、最も密度の高い場所へ踏み込んだ。アリウスの生徒が銃剣を突き出せば、身をひねって避け、拳でヘイロー近くを殴りつける。背後からミメシスの射撃が来るのを察知し、アリウスの生徒を盾代わりに引き込み、そのまま咄嗟に投げ飛ばして敵弾を受けさせる。
「ごめんね。でも、貴方も撃たれてたでしょ?」
倒れた生徒に短い言葉をかけ、次の敵へ向き直る。ミメシスは沈黙したまま近づいてくる。隕石を落とす余裕がない近距離では、最早消耗を気にしていられる程の余裕は無かった。
銃を乱射してユスティナ信徒を消し飛ばし、アリウス生達を殴りつけて地に沈める。
だがキリがない。消えても消えても、また次が来る。
少しずつ、自分に、そして部下達に傷が増える。次第に倒れる生徒達が増える。
その様子をみて遅れながらも自分達が追い込まれていると言う現状を認めざる負えなかった。
「……ごめん、前に出過ぎた!全員撤退。
その発言は、アリウス生達の命と自分の部下達の命を天秤にかけ、アリウスを切り捨てたと言う事だった。
「ミカ様!……分かりました。貴女に従います。」
それは彼女の言う解放の為の戦争と言う理想が崩壊し始めたと言う事だった。
「トリニティの生徒達が逃げていきます!」
「追いかけるのは無理だ!」
一方、アリウスの生徒たちも既に統率を失っていた。前はトリニティ、後ろはミメシス。どこを向いても銃声がする。
誰かが「こっちだ!」と叫んでもそれが味方なのか敵なのか、もう判別がつかない。
「マダムの命令だ……!特攻するしか……!」
「特攻してどうなる!後ろも敵だ、私達は何故彼女に従っているんだ?」
叫び声が交差する中、ミメシスの一斉射撃がアリウスの集団と連合軍を薙ぎ払う。
死に物狂いで撤退しようとするトリニティの弾幕も重なり、広場は硝煙と土煙に包まれた。
ミカは煙の中で息を整えながら、通信を開いた。
「先生、トリニティ2班。状況がおかしい。アリウスが特攻してきたと思ったら、後ろから例の亡霊がアリウスごと攻撃してくる。今から私達は撤退する……もうアリウス生達の命の保証出来ない。どうか指示をして欲しい。」
返事を待つ間も、彼女は銃を下ろさず部下達の撤退を援護していた。
『そこまでよく耐えたね。安心して、君達が突出してヘイトを買ったお陰で一部の人員を向かわせるくらいには余裕ができた。君の連絡がある前に
通信が切れると共に上空から地上に向けて閃光が走り敵を吹き飛ばした。それと同時に背後からも足音がし、そして止まった。
『遅れました。これより殲滅を開始します。』
そう言って先程放ったビームキャノンから排熱するティタノマキアからトキの声がする。
「待たせたな。お前が守ろうとした部下達は他のC&Cに任せている。直ぐにくるさ。」
そう言ってマシンガンを両手にもつネルの声が聞こえた。
「……ありがとう。アリウス生達を助ける事は努力目標。まずはあの亡霊達を止めよう!」
再び希望を取り戻したミカの掛け声と共に前方に向き直る。
ティタノマキアのマルチミサイルを皮切りにミカとネルが走り出し、たったの三人で大軍と戦闘を再開した。
ユスティナ信徒達の発生源を探すよう指示してから1時間20分。そしてミカ達が孤軍奮闘し始めてから20分後。
「C&Cが抜けたトリニティ3班は戦線を後退させつつ本陣からの援護を待って……大丈夫!今はアリウスの生徒達を収容したりする必要性が減っているから少ない人員でも回せるよ!ゲヘナ1班はこのまま直進して、このままだとゲヘナ2班に遭遇しそうなユスティナ信徒達を横から急襲して……大丈夫!ドローンの映像を見た感じそこにはアリウス生達は居ないから火力を手加減しなくてよいから!」
戦闘開始から既に4時間半近く。それぞれの班の人員を一部ローテーションさせつつ休息させていたが、そろそろ疲労が蓄積され始めていた。
そしてそれはずっと指揮を執っている私もだった。
「先生!少し休んでください!戦闘が始まってからずっと6班全部隊のオペレーションをしているんです!幾らミレニアムのオペレータ達の助けが有るとは言えマルチタスクも限界ですよ!」
「今はまだ分水嶺なんだ。それに戦っているのは生徒達だ。私が休む訳にはいかないよ。」
そう言って渡されたゼリー飲料を奪い取って飲み干していると、吉報が届いた。
「先生!
大きな、大き過ぎる成果を遂に得た。
「場所は!」
「ここです!」
そう言って示された場所を見る。そこを映すドローンの映像には確かにユスティナ信徒達が無尽蔵に湧き出る様子が映し出されていた。
「よし!全部隊後退!今から指定する地点に高射砲を使い砲撃を敢行して!」
戦局は再び大きく動こうとしていた。