ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
次回からは後始末です。
反省点としてカタルシスが足りませんでした。
「監原ミスズ矯正局局長、喫緊の頼みがあります。」
「おや、急にどうされましたか?不知火カヤ防衛室長。最近貴女は色々と動いていらっしゃるのは知っていますが、この様な早朝の時間に電話とは穏やかでは無さそうですが。」
「時間が無いので簡潔に言います。矯正局が保有する矯正施設の内、7囚人が脱獄した施設がありますよね?その施設は今どうなっていますか?」
「あそこですか?あの施設はつい先日まであの生徒達の脱獄後、警備体制の強化やそもそもの増築が行われていましたね。今はそれも済んで、その際に一時的に別の施設に行ってもらった生徒達を呼び戻す準備を始めようとしていますが……それがどうかいたしましたか?」
「……今から話す内容は期日まで出来れば言いふらさない事を約束して欲しいです、キヴォトスの安全保障に関連する事ですから。」
「……わかりました。必要な場合を除いて確実に口を閉じ、伝えた生徒達には箝口令を敷きます。」
「感謝します。では簡潔に、5日後ある学園が戦争により滅ぼされる可能性が高いです。その学園は洗脳教育によって生徒達が全員少年兵として扱われており、その学園からテロの対象とされたトリニティがカウンターアタックを仕掛けます。そして連邦生徒会もSRTの参画や、後始末に協力する等の役割を担っているのです。私はその担当者として此処に交渉に来たのです。」
「戦争ですか!?……カヤ防衛室長、その様な事態においては貴女はその様な事を辞めさせる様に訴えかけるべきなのではありませんか?」
「理想論はそうですが、そうは行きません。貴女は局長に就任して日が浅いですから分からないかもしれませんが、連邦生徒会は現時点で上から命令して戦争を辞めさせるような事は出来ないのです。それに対象の学園はテロ組織です。命令を聞くとお思いですか?」
「……理解はしましたが、やっぱり納得は出来ません。そもそも矯正局局長である私に何を行わせる思惑なのですか?」
「貴女には洗脳された生徒達の再教育をしてもらいたいのです。彼女達は恐らく一般的な矯正局に移送された生徒達よりもずっと楽に更生出来るはずです。」
「……確かに私が適任な部分もあるかもしれませんが、それでも色々と難しいと思います。そもそもその連合軍に頼めば良いではありませんか?」
「難しいのは分かっています。ですがそれでもキヴォトスのバランスの為に、為さねばならないのです。そして新しく局長になった貴女はしがらみが少なく、一番後腐れが無いのです!」
「うーん……貴女は何故そこまでするのですか?完全なる善意だけとでも言うのです?」
「必要に迫られて……ですかね。私には連邦生徒会内にあまり味方が居ないので自ら動く必要があると言う話です。」
「聞きたいのはそこではなくて……えっと、貴女は何故そこまでして助けようとするのですか?」
「何を言っているのですか?超人ならそうするでしょう?連邦生徒会を立て直すのならそれくらいの仕事はすべきでしょう。」
「……貴女の覚悟は理解しました。私としては動きたいです。ですがそれだけでは周りを納得させるのはどうしても難しい。何か理由付けの為の名目が欲しいです。」
「……では、対外的な名目としてテロリストの収容として説得力を持たせます。その後に彼女達が少年兵として責任能力が無かったと判明すると言うストーリーラインを作ります。」
「……この情報はどの程度の人間が知っていますか?」
「連邦生徒会の中で間違いなく知っているのはリンだけです、ですが彼女から多少は各部署の室長達に連絡は来ているでしょう。」
「そこまで言うのなら分かりました。貴女達のバックアップを信じて、私は動きましょう。」
「感謝します。」
矯正局の電話に残された録音記録。
それはアリウス解放戦争の話し合いの2日後、そして戦争勃発の3日前の記録だった。
眩しい、眩しい?
暗闇に閉ざされた視界にアリウス自治区ではまず拝めない太陽の光を感じ、薄く目を開ける。
最初に目に映った景色は灰色だが清潔な天井、夕日が差し込む窓、続けて視界の端に鉄格子が見え……その瞬間に私は覚醒した。
ベットから鉄格子の反対側に飛び降りながら、常に懐に潜ませている拳銃を抜き取ろうとしてそれが無いことに気が付く。
「
直後、鉄格子の外から静かに声がかけられた。
振り向くと警察官らしき生徒が立っている。冷徹そうで小綺麗で、会った事の無いタイプの人間だ。きっとあの連合軍を指揮していた存在もこんな感じの人間なのだろう。
「……貴女は誰?ここは何処?」
敵意と警戒心を全面に押し出しながらそう情報を集めようとする。
「私は尾刃カンナ、ヴァルキューレ警察学校の公安局の局長です。ここは
その発言に対し、ベットを飛び越えて思わず格子越しにつかみ掛かろうとし
「私は貴女達と先生率いる連合軍の戦争の背景について、不知火カヤ防衛室長の伝聞のみを判断材料としています。ですがそれでも貴女達がどの様な扱いをされていた生徒なのかは存じ上げています。
その戦争は終わったと言う言葉に
ショックから思わずベットに仰向けで倒れ込む。
「そうか、もうアリウス分校は存在しなくなったんですね……
「……
「1人、
そう言って瞳を閉じ意識が再び落ちる寸前
「どうせ後で言いますが、貴女のよく知る生徒でしたよ。貴女は此処についてから10時間も昏睡状態だったのですから、今日は一日中寝ることです。
明日意識が戻った生徒全員に説明しますよ。」
そんな声が聞こえた。
今から7時間前、戦況は決した。
秤アツコの救出と周辺施設の破壊によりユスティナ信徒達の量産体制が崩れ、彼女達も動きを止めたことにより、アリウス生達の戦線は遂に崩壊し、連合軍による生徒達の拿捕に歯止めがかからなくなっていた。
「これ以上戦うのも、集団での敗走も無理だ!各自の判断で撤退しろ!」
最早規律を保った敗走さえ出来ず蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、幾ら少年兵としての訓練を受けていたとしても此処まで絶望的であると意味がない。
そもそも
「絶対に殺すな!先程までとは違って我々には余裕がある。正当防衛により仕方なく殺害したと言う言動には最早正当性は無く、この侵略の正当性に泥を塗るという事を忘れるな!」
アリウス生達にとっての救いは一部の生徒が幾ら先程までの苦戦の反動で過激な攻撃をしようとしても、現場の指揮官達がそれを許さない事だった。
その戦況をただ見るだけで、最早有効な手を打てていないベアトリーチェに背後から迫りくる影があった。
「スバル!本当に決行するの?」
立木マイアの小声を聞きながら私はアサルトライフルを握りしめる。私が行う事は大罪だ、だが最早これしか手段は無い。
あの支配者気取りの大人は統治と支配の能力だけは認めていたがそれ以外は最悪の人間だったと私は思っている。私達を搾取し、虐め抜き、力を振りかざす……その姿を見るだけでいつも嫌悪が募っていた。
だが
既に大多数の仲間が捕まった、この戦争は完膚なきまでの敗北で終わる……それなら、戦後の事を考えなければならない。
「あぁ。私はマダムを、ベアトリーチェを
「でもそれだと……スバルはトリニティに投降する事を良しとするの?」
私が抱えるトリニティへの憎悪を知っているからか、何処か伺う様に尋ねてくる彼女に微笑を貼り付けながら答える。
良しとする訳無い、
どれだけ辛くても。
「私が投降するのはトリニティでは無い、
嘘だ。投降後の処遇など結局は運が絡む。だがもうアリウスは行き着くとこまで行ってしまった。ならばもう手段を選ばずに最良の選択肢を引けるよう努力するしかない。
そしてその為には、私が、私が虚勢を張ってでも動くしかないのだ。
「皆、今から私達はマダムを殺す、もし殺せなくても半殺しにして引き渡す。本当は私一人で罪を背負いたかったが……私だけでは力不足でしたね。許して欲しい。」
そう言って頭を下げ、暫くして顔を上げると皆苦笑して頷いた。
「……反論やこの作戦からの脱退者は居ないようだね。よし、行こうか。」
そう言って私達は持ち場を離れ、マダムの居る場所に向かった。
「マダム。」
後ろから何処か冷たい声が聞こえてきた。
振り向くと先程防衛を伝達した筈の梯スバルが居た。
何故此処に居るのかを聞く前に彼女の後ろから更に複数の生徒達が現れた。皆一様に武装している。
「命令を無視するとは何事ですか?今は人手が足りないのです。早く前線に戻りなさい!」
そう命令するも彼女達は動かない。
それどころか梯スバルは……私に銃を向けた。
「マダム……貴女を拘束する。貴女の身柄と引き換えに私達に対する処遇を緩和してもらう。」
頬が引きつる。
「私に逆らうと言うのですか!?私が居なければ組織だった徹底抗戦は行えないのですよ!」
そう声を張り上げると彼女の目が据わった。
「……貴女の教義はvanitas vanitatum et omnia vanitas……『全ては虚しい。どこまで行こうとも全ては虚しいものだ』と言うものだ。なら何故
その彼女の言葉に呼応して私と相対する全員が銃を構え、発砲した。
『
その命令は、全てのアリウス生に届いた。
「……命令ならしょうがないですね。どの道もう勝てるものではありませんでした。」
瓦礫の後ろでたった1人隠れていた生徒はそう呟き、銃を捨て、両手を挙げて投降した。
大多数のアリウス生は彼女の様に投降した。
「だが、敵はトリニティだぞ。今まで受けた迫害の歴史を忘れたと言うのか!」
一方別の地点で逃走しながら反撃の機会を待っていた彼女の様に最後まで徹底抗戦を主張する生徒も少数ながら存在した。
『vanitas vanitatum et omnia vanitas……
だがその様な強固な意思を植え付けられた生徒達程、
その言葉により、強硬派も一人ずつ武器を降ろし始め、やがて全ての生徒達が指示に従い武装を解除した。
「ッチ。」
通信が生きている全ての端末に同時に命令を送った後、後ろを向いた。
そこには意識を失ったベアトリーチェが手足を拘束された状態で床に転がされていた。
「アリウスは暴力による圧政で支配されてきたと言うのにトップはこうも愚かで弱かったとは……いやその支配を支えてきたのは我々教官でしたね。」
私達が彼女を襲った時、内心複数の死傷者が出かねない緊迫した争いが起きると思っていた。
だが、実際には
彼女は意識を失う間際に『ロイヤル・ブラッドの神秘さえ有れば!』と言っていたが、私は彼女の言葉の意味は知らず、興味も無い。ただ私達が誰一人欠けず、拍子抜けする程指揮権を簒奪できたと言う結果が全てだ。
だが、まだやるべき事がある。
「マイア、武装を解除した状態で最も私達に近い連合軍の班に接触してメッセージを伝えて欲しい。『上層部と話がしたい』と。対面でも通信越しでも構わないが出来れば対面が良いと伝えてくれ。」
「分かったよスバル!」
そう言って駆け出す彼女を眺めながら私も銃を降ろす。
銃を持つ私の手が震えていた事は隠せただろうか。
本当は……敵の目の前に武装解除させた状態で前に出したくはないのだが、仕方が無いのだ。
「いったいこれはどう言う事なの?」
ゲヘナ1班を指揮しながら私は困惑していた。
先程まで絶望的な表情を浮かべながら徹底抗戦をしていたアリウス生達が突如として何処か諦めた様な顔をして武装を解除し投降して来た。
最初は何かの罠かと身構えていたものの、その後何一つ戦闘が起こらずただただ私達と遭遇した生徒達が皆静かに投降するのを見続けて感覚が麻痺してきた。
「これじゃあなんか肩透かしね。もっと戦闘する必要があるかと思っていたわ。」
「ヒナ委員長はそうかもしれませんが、私達はもうヘトヘトですから正直ありがたいですね。」
軽口が飛び交い、戦場には似つかわしくない何処か弛緩した空気が流れる。
「すみません!貴女達はトリニティ……ではありませんね。この部隊の隊長はどなたですか!」
そんな時、一人の生徒が前方の脇道から飛び出してきた。
戦場に居ながらどう見ても武装して居ない生徒に逆に不信感と警戒心を覚えながら私は他の生徒達を押しのけて前に出る。
「この班の隊長は私よ。」
「始めまして、梯スバル生徒会長代理からメッセンジャーとして遣わされました。立木マイアです。先程梯スバル代理はマダムから指揮権を譲り受け、全アリウス生に投降する様命令を出しました。」
駆け寄ってきた彼女が話した内容に驚きつつも先程までの不可解な投降について納得ができた。
「成る程ね。私はゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ。それで要件は?」
私から彼女質問を投げかけると、彼女は私の瞳を見つめこう言った。
「スバル生徒会長代理は降伏と敗戦処理のために連合軍指揮官、並びにトリニティを始めとする連合軍を構成する学園のトップと話がしたいと言っています。」
その言葉に多少の警戒心を持ち直す。
「それは通信越しに?それとも対面で?」
「何方でも最悪良いと言っていましたが、出来れば対面が良いと言っていました。此方に交渉材料があるので。」
これは先生に指示を仰ごう。そう判断し、先生に連絡をした。
「此方ゲヘナ1班空崎ヒナ、先生に繋いで……繋がったようね。先生、今アリウス生のメッセンジャーが接触してきたの。敵の指揮権が今までとは別の生徒に譲り渡されたそうで、降伏と敗戦処理のために先生と各学園のトップと出来れば対面で話がしたいようなの。どうする?」
通信がつながり私はそう先生に伝えた。
返答は早かった。
『分かった、対面で向かうよ。そしたらヒナ達ゲヘナ1班は先に交渉の場の安全を確保しておいて欲しいな。私は今からナギサにリオにマコトに、後カヤも彼女とオンラインで話せるように調整するから。』
先生の言葉を聞き、頷いて通信を切る。
「先生は対面で良いと言ってくれた。今から私達が先に対面の場所の危険を排除しに行くから……道案内、頼めるわよね?」
そう言うと彼女は首を縦に振り、小走りで道案内を開始した。
ヒナから連絡を受け取り、私はある回線を開く。それはアリウス戦争前に急遽作成したそれぞれの指導者に同時に繋がる直通回線であり、本来現場だけでは事態がまわらなくなった際に更なる上層部に判断を仰ぐためのものだった。
『何か戦局に大きな負の動きでも有ったのですか?それにしては先生の周りで大規模な戦闘は起こっていないようですが。』
『最終的な指揮権は私に帰属しているが基本的には貴女が指揮をとる手筈の筈だ。もしや先生だけでは手に負えない事件でも発生したのか?』
『オペレータ達の総指揮はユウカが執っているわ。何故わざわざ私に直通で連絡したのかしら。』
『先生、いきなりどうしたのですか?まさかSRTのメンバーに何か有ったのですか!』
4人に連絡をすると全員揃って私がミスを犯したのかと聞いてくる。
用途を考えればそれが当然の話ではあるのだが、思わず苦笑する。
「違うよ、アリウスのトップのメッセンジャーから降伏と敗戦処理のために対面で話し合いたいとの事だ。念の為ヒナ達に周辺の安全を確認しに行かせたけど、多分本当に大丈夫だと思う。」
その報告に4人が多少肩から力を抜いたのが分かった。
『先生。戦争は終わったのですね。長時間の指揮、お疲れ様でした。私達もそのトップとは話をしたいですね。』
『オンラインでならそのトップと話してやろう。愚かな行為に及んだことに対する落とし前をつける必要もある。』
『貴女は直接的な被害者じゃないでしょう?何故そこまで偉そうなのかしら。まぁ最期まで気を抜かないようにしなさい。私はその対話に何かしら口を挟むつもりはサラサラないけど。』
『調月会長、先生はそこまで気にする必要は無いかと思います。この様な場で気を抜くようなら……まぁこの先は言わなくても良いでしょう。』
全員、この後の話し合いに対して否定の意見は出なかった。
「じゃあヒナから安全の確保の完了の連絡が来次第、私は向かうよ。着いたらまた連絡する。後リオ、もし良ければオラクルも同席させておいて欲しい。」
『ごめんなさい。オラクルはずっと誰かとオンラインで話しているの。私にも部屋に入るなと言っていて……』
「そうか……分かった、ありがとう。」
『先生。』
「なんだい?カヤ。」
『敗戦単体の手続きは学園間の問題ですので私は関わりを持たない方針で行かせてもらいます。私の仕事は主に戦後処理ですから。』
「分かった。」
そう言って通信を切った。
安全の確認が終わったと連絡が有り、トリニティの生徒が操縦する戦車に乗って示された座標の建物に向かう。
座標の場所に到着すると入口でヒナが待っていた。
「来たわね、先生。トラップが無いこと、遠距離からの攻撃が来ないこと、彼女達が武装を隠し持っていないことを確認したから身の安全は恐らく保証出来ているとは思うけど……一応私が護衛としてそばに居るから。」
そう言って彼女が先導して私をそのトップの基に案内する。
「……先生、この扉の先に梯スバルと言う生徒会長代理が居るわ。」
無言で歩くこと5分、私は遂に対話の場にたどり着いた。ナギサ達に通信を繋げながらもう一度周囲を確認する。
「特にトラップは無さそうだね。良し行こうか。」
扉を開けるとそこには一人の生徒が大きな瓦礫の上に座っていた。
「始めまして、貴方が先生ですね。私は梯スバル、アリウス分校の生徒会長代理です。混乱の中自称したに過ぎませんが……まずは交渉のテーブルに着いて頂けた事を感謝します。もっとも此処にはテーブルも椅子もありませんが。」
彼女の声は、冷たく澄んだものだったが同時に何処か粘り気を感じるようなものだった。
「始めまして。まずはベアトリーチェに代わりアリウス生達に投降命令を出してくれた事、感謝するよ。先に言うと交渉については……」
「あぁ私と貴方達では天と地ほど様々な面で差がある事はわきまえていますからそこは安心してください。」
「……最大限君達の権利を尊重するよう努力するし、学園の生徒会長達も説得はする。何しろ通信越しに彼女達も聞いているからね。」
私がそう言うと
「分かりました。そしたらまず私から、いや私達から出せる最初で最後の交渉材料を提示させて頂きます。」
そう言って彼女は瓦礫から飛び降り、それを蹴倒した。
破片が飛び散り、そのタイミングでようやくそれが
「は!?」
「えっ?」
驚く私の前にヒナが割って入り、銃口を向けようとして硬直した。
その中から
「これは……なんだい?人質のつもりかい?」
少し距離を話しながら、恐る恐る尋ねる。
「いや、違う。貴方は始めてみるでしょうが、これが
私の縛られた存在に向ける視線が変わったのを自覚する。
「……ヒナからは前任者から権力が譲り渡されたと聞いた。それで有っているかい?」
「えぇ、立木マイアだったかしら。あのメッセンジャーはそう言っていたわね。どういう事が説明してもらっても良いかしら。まさか罠にでも嵌めるつもりだったのかしら。」
ヒナに聞いた話と違うと問いかけると彼女は間違いなく最初のメッセンジャーとの情報とずれていると太鼓判を押し、彼女は今度こそ銃口を向けた。
「いや、違います。これには幾つかの事情が有りました。」
だからその銃口を下ろしてくれと両手を挙げながら彼女は言った。
だがヒナは聞く耳を持たない。そのまま銃を向け続ける。
「では先にその事情を話しなさい。」
「分かっています。ですが銃口を突きつけるのは辞めて頂きたいです。貴方の行動は此方が落ち着いて話す機会を奪っているだけなのですから。」
『おいヒナ、落ち着け。話を聞くのが先決だ。」
冷や汗を流しながら冷静に辞めてくれと頼むスバルをみて、マコトがヒナに対して少し水を差す。
「ヒナ、君が既に周囲の安全確認を終えているのだから気にしすぎないで問題ないよ。」
だから安心してと私からも伝え、ヒナはようやく銃口を下げた。
だが、別に私はスバルに誤魔化させるつもりは無い。
「それで、何故君はこの様な嘘をついたんだ?」
「まず大前提として最初にベアトリーチェは
その発言に待ったをかける人間が居た。アズサからアリウス生の実情を聞いていたナギサだ。
『待ってください。アリウス生は基本的にその様な行動を取らないと聞いていました。強固な教育と暴力による自由意志の剥奪が行われていると。なのに何故貴方は……まさかアズサさんが嘘をついていたのですか?』
そう疑心暗鬼が発動しそうなナギサに対し
「それは私が教官としてある程度の自由と裁量が許されていたからに過ぎません。一般のアリウス生は彼女の言う通りでしょうね。」
あっさりとスバルはそう言った。
『……お前は自由意志を剥奪する側の人間だったと言うのか?』
その発言に何処か低い声でマコトが問いかける。
「そうですね……上から命令されているとは言え、事実上そうなります。認めたくはありませんが。」
「別にやりたくてやっている訳では無いんだよね?」
マコトの発言から彼女をフォローしながら続きを促す。
「その通りです。では本題の話に移らせて頂きます。何故情報に食い違いが有るかについてですが、これはアリウス生達に投降を促す為には
『支配者の力と、正当性ですか?』
ナギサが問い返す。
「はい。アリウスは支配者の命令に基本的に従うよう教育されています。しかし例えば私が彼女を襲撃して指揮権を簒奪したと正直に告白した場合、私達の命令に従わずに寧ろ内乱が起こっていた可能性さえあります。ですからあくまで彼女から譲り受けたと騙る事によって正当性を確保する必要が有ったのです。」
『理屈は理解できました。ですが何故アリウス生達だけでなく私達にもリスクを犯してその様な伝達を行ったのですか?』
「単純な話です。絶対にアリウス生達にこの事はバレてはいけなかった、しかし貴方達には話す必要があった。だから外では常にカモフラージュをして、この様な密室で始めて真実を明かしたと言うだけの話です。」
ナギサは彼女の回答に対して納得したようだ。
これで彼女達の質問は終わったようだ。
ならば彼女がこの様な手を使ってまで何を望むのかそれを見極める時間だ。
「それで、君はこれを手土産に何を交渉したいんだい?」
誤魔化さずに直球で答えさせる。
「……私の望むことは多くありません、捕らえられた生徒達の基本的人権の尊重と、その後の再出発を支援していただければそれで。」
彼女の発言は拍子抜けする程シンプルで当たり前の話で、
「こんなリスクを態々負わなくても、もとからそのつもりだよ。何故こんな事をしたのかい?」
だから私は迂闊にもそう言ってしまった。
「その発言は、
「……ごめん。失言だった。」
遅ればせながら彼女達がトリニティに対しての敵意を育む教育を受けていた事を思い出した。そして生きてきた環境も。
「カヤ、頼めるかい?」
学園間の問題には絡まないと言っていたカヤに声をかける。
『……大多数の生徒に関しては非常に緩く扱う事は出来ます。と言うよりも最終的に責任能力が無かったとして同情の方向に持っていくように矯正局と話をつけていますから。』
カヤの発言はスバルの要望に対して真摯に答えていた。
だがその口調は苦渋に歪んでいた。
『ですがスバルさん、
その発言に対して一人を除いて全員が沈黙した。
ある意味
「気にしないでください。覚悟は出来ています。」
だが梯スバルは既に覚悟を決めたのだろう。何処か遠くを見るような目をした上でそう言ったのだった。
話を終え、スバルは周囲を警備していたゲヘナの生徒達に連行された。
去り際に彼女はベアトリーチェについて
『好きに扱ってもらって構わないが、真相をアリウス生に伝える事、彼女がアリウス生と再び接触することだけは避けてください。』
そう言っていた。
「……一先ず厳重に拘束した上でトリニティに極秘で移送しよう。凶悪犯用の檻とかあるかな?」
『あります。』
「分かった、そこに移送したあとに処遇を考えよう。」
そう言って私達は彼女を運び出した。
『先生。』
そして通信を閉じる間際、リオが口を開いた。
「なんだい?リオ。」
『ミレニアムにこのままでは命の危険があると移送された生徒達は、全員無事に峠を越えた。多分先生が彼女達を気にしていると思ったからつたえたわ。』
そこまで言って彼女は通信を一方的に切った。
「……ありがとう。」
そしてアリウス自治区全体に怪我人がもう居ないか確認した上で、連合軍はアリウス自治区を後にした。
アリウス解放戦争終幕。
エデン条約連合軍、軽症者3割。
各組織に致命的な影響は無し。
アリウス分校、軽症者6割、重症者3割5分、意識不明の重体5分。
学園としての機能は喪われ、軽症者は矯正局に、重症者はトリニティに、そして重体者はミレニアムに輸送された。