ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
戦争に全く絡まなかった彼女についての話です。
リオとナギサとマコトは前線に任せていただけなのでお話はありません。
次回からはどうしましょうかね。一応短編を幾つか出した後にパヴァーヌ2章を書くか、短編とは独立してリアリズムを騙る者編の裏で行われていたデカグラマトン編を書くのか……
後今回はアークナイツ要素が多く登場します。
戦争終結の数時間前。
戦争と言う目を焼くような眩い変革の裏に、小さく、されど無視出来ない変化が生まれていた。
私はアリウスで行われている戦争の情報を、マダムに感知されないよう注意しながら注意深く聞いていた。
「クックック、マエストロも随分とマダムに苦労させられているようですね。彼は私と異なり最低限の協力は行うと言っていましたが、やはり上手くは行っていないようですね。まぁ彼はこの惨状自体はある種の喜劇として楽しめる度量があるでしょうが。」
私はこの戦争にゲマトリア側、もしくはアリウス側として参加していない。寧ろ先生やオラクルに多少情報を与えた事を考えると連合軍側と言っても差し支えないのかもしれない。
そんな事を考えながらパソコンを見ていると端末が鳴り、通知が来たことを伝えた。
マエストロ辺りからの連絡かと思いながら端末を起動してメッセージを読み、硬直した。
パソコンから意識を切り替え、端末を通信できるようにして数分後、電話が鳴った。
『黒服、先に言っておく。これは先生や、リオさえ絡んでいない私一人の話だ。
「……貴女は前に随分と明確に私達を思想の隔たりを理由に拒絶した。それでも必要であると判断したならば、
『無視するのではない、
「ふむ、私達のやり方を理解しているようですね。では貴方は何を提供するのですか?」
『……
私は彼女の正気を疑った。
彼女の言うそれは、この
「貴方はそのリスクを分かった上で話していますか?我々は神秘の探求のためなら平気で貴女のそば居る人達と敵対するのですよ?」
私達は日陰者であると、キヴォトスに生きる存在の中では明確に暗部に属するものであると伝える。
『だから私は、
貴方達が倫理を遵守したうえでキヴォトスに適合する様に支援したい。
先生は貴方達の過去の所業から赦すことは無いだろう。だが、私は相容れないとしても研究者として理解は出来る。必要なら貴方達と先生、もっと言うなら生徒の間を取り持つ事もやろう……あまり気が進まないがね。』
それはとても魅力的な提案で、そして彼女の力を使えば実際に可能そうに見えた。彼女はそれ程の手札を切って私から情報を引き出そうとしていた。
だからこそ、
「申し訳ありませんが辞退させて頂きます。」
『何故だ?知識欲によって動く貴方達には魅力的な提案だと思ったのだが。』
彼女の声に疑念が混じる。
「理由は主に二つ存在します。一つはこのキヴォトスにおいては、
『否定はしない。私がもともと居た場所ではそれが一般的だった。』
「ですがキヴォトスではそれが
『成る程、では2つ目は何だ?』
「2つ目はつまらない話ですが……私達の探る神秘と言う物が色褪せてしまわないかが心配なのです。」
『それはどう言う事だ?』
彼女の疑念が更に深まった様だ。
「貴方達とは違い私達は好奇心によって動いています。私達は今神秘に魅せられて研究を行っています。例えうまく行かなくても着実に何かしらの成果は得られる、神秘についての研究は現状その様なものとなっています。ですが、貴方達の理論や技術はそうではないでしょう。きっと数週間の研修とお土産だけでは決して理解出来ない。決して届かぬ頂きを見せつけられるのが辛いのです。」
通話越しの彼女は暫く無言になり、やがてため息をついた。
『わかった。それならば貴方達に何かを頼むことは無理そうだな。手間をかけさせて済まない。』
「まだ話は終わっていませんが?」
彼女は通信を切ろうとしたようだ。
『私は一方的な施しを受けるつもりはないのだが。この世界にはタダより高いものは無いと言う言葉があるらしい。そういう事だ。』
「私が今回の頼みの対価として要求するもの、それはこれから渡す研究データや実験報告についての感想文、そして意見です。」
『それだけでよいのか?少々私に都合が都合が良すぎるように思われるが。』
「それだけで良いのです。」
他のゲマトリアがどうかは知らないが、私はその言葉に嘘偽りは無かった。
単なる音声通信からビデオ通信に切り替える。
「では簡潔に説明させて頂きます。」
指先で端末を軽く叩き、マエストロが提示した実験のデータ、そして彼がそれを纏めた論文を映し出す。
「私は前に、ベアトリーチェの戦力についてのデータを渡しました。しかしその時には使われる可能性は低いとして捕捉として小さく書いていました。その内容は覚えていらっしゃいますか?」
『あぁ覚えている。だが、私の理解が誤っている可能性もある。一応貴方の口からもう一度教えてほしい。』
「承知しました。キヴォトスにおける『複製』、我々がミメシスと呼ぶ現象は厳密にはマエストロの権能……いえ、彼が発見し、形にした『現象』です。彼はこれを芸術と呼びますが、決してそんな綺麗なものではありません。」
研究者の端くれとして他人の研究を説明する事に多少の歯痒さを感じる。
(叶う事なら自分の研究を説明したかった)と。
「ミメシスとは、過去に存在した『神秘』や、特定の概念、場合によっては人物そのものを、『認識』を媒介にして再構成する技術です。重要なのは、これが単なるコピーでは無いことです。」
『複製と言う名前なのにか?』
「はい。あれは実在したユスティナ聖徒会をそのまま蘇らせているわけではありません。むしろ、人々がその存在に抱いていた『戒律の守護者』としての畏怖や恐怖を基に、別の何かとして顕現させる。結果として、神秘の裏返しである『恐怖』の属性を帯びた存在が顕れたのです。」
彼女の顔が目に見えて歪む。
「どうかされました?」
『いや、気にしないで続けてくれ。』
「わかりました。今回の件で言えば、マエストロはアツコ……正確には『戒律を守護せし者の血統』である彼女の血を媒介に、ユスティナ聖徒会のミメシスを構築しました。彼女の血がなければ、あれほどの規模で安定して量産することはできなかったでしょう。
『それは……まるでプログラムによって動く自立稼働兵器だな。ならば何故今
「良い質問です……エデン条約を乗っ取った時点で、彼らは『条約の守護者』として機能するはずでした。ですが現実では全く違う事が起きていました。神秘を内包した平和条約の筈だったエデン条約はロジカルで神秘を廃した安全保障条約に変化し、電撃侵攻されているのは自分達です。」
『成る程、行動原理としてエデン条約を使おうとしてそれ以外の行動原理を用意する時間が無かったと。』
「そうだと私は判断しています。恐らくマダムはただ戦力が欲しいという理由だけで無理矢理顕現させたのでしょう。結果、ミメシスは『誰を守るべきか』を判断できなくなり、戦場という混沌そのものを『戒律が破られた状態』と認識した。だからこそ、連合軍だけでなく、アリウスの生徒たちさえも排除対象にしたのですよ。」
『……本当にただただ戦況を混沌に導いただけに過ぎないな。戦力として数えるには危険すぎる。』
「まさにその通りです。彼女達は痛みを知らず、恐怖を知らず、倒されても煙のように消え、すぐに補充される。まさに『制御されない無限の兵力』です。ただし、媒介であるアツコが失われるか、量産装置が破壊されれば、一気に活性を失う筈です。恐らく先生もその拠点を探している筈では無いかと。」
そう言って簡潔な説明を終えた。
「では、質問が有ればどうぞ。」
彼女が渡した資料を読み込んでメモを取り終えるのを待ち、切りが良いと判断したタイミングで私は尋ねた。
『では1つ目だ。その理論はどの様にして解明されたか教えてほしい。
「いきなり根源に迫ろうとしますね……幾ら貴女でも話しても分からないかと。」
『私にとって仮にこれらの質問への回答が全て適切に為された場合……
その質問は根本的なもので、そして恥ずかしながら
「申し訳ありません。詳しい話はマエストロにしか分からない点が多くありますから彼本人に聞くのが良いでしょう。ですが、恐らく貴女が求める答えを得ることは難しいと思います。」
『何故?』
「我々の探求は
『……それは遺伝子工学等を全く理解していない状態で動物の遺伝子組み換えを行うようなものではないのか?』
「否定は出来ませんね。ですが他のメンバーはともかく私はまだ諦めるつもりはありません。」
そこまで私が言うと彼女はため息を付き
『分かった。ならば、もし良ければ今度マエストロと連絡先を交換したい。』
と言った。
「提案はしますが、彼次第と言う事をお忘れなきよう。」
『心得た。それで、2つ目の質問に移ってもよろしいか?』
「答えられるかはわかりませんが……」
先程の質問内容から答えられない物が来ると私は予想した。
『神秘とは何だ、恐怖とは何だ?』
それは先程私が分からないと言った事についてだった。
「分からない、と言った筈ですが。」
『分かっている部分だけでも教えて欲しい。物質なのか?エネルギーなのか?』
「……極わずかの事実に仮定や推論を重ねた物でしたら説明して差し上げましょうか。」
私は一度、言葉を選ぶように間を置いた。
「まず『神秘』です。我々ゲマトリアが長年観測してきた限りにおいて、神秘とはキヴォトスという閉じた系に固有の、いわば『存在を規定する力』です。生徒たちのヘイロー、並外れた身体能力、回復力、そして時折観測される超常的な現象……それらはすべて、この神秘が顕在化した結果だと捉えています。」
『それは貴方達にも存在はしているのか?』
「えぇ、どうやらその様です。先程の説明と矛盾している様にも思えますがね。ただし、神秘そのものを直接観測した者は、少なくとも我々の中にはおりません。観測できるのは常に『神秘が引き起こした事象』だけです。光そのものを見るのではなく、光が物に当たって生じる影を見ているようなものです。ですので、神秘が物質なのか、エネルギーなのか、あるいは全く別の概念なのかは、現時点では断定できません。」
『成る程な……先程言っていた事の理解が出来た。血を媒介にすると言うのがイマイチ魔術の様に感じて実感が無かったが、その血に含まれる神秘を利用する為に使われたのか。無駄が多いな。』
「理解が早くてありがたいですね。次に『恐怖』です。これは私やマエストロが特に執着している概念ですが……簡単に言えば、神秘の『裏返し』です。神秘が持つ『崇高』や『畏怖』といった側面を反転させたとき、そこに現れるのが恐怖です。ミメシスが生み出す存在が、単なる複製ではなく『恐怖の属性』を帯びるのはこのためです。」
画面上で口を挟もうとするオラクルに手をかざり説明させてくれと無言で表明しながら続けた。
「興味深いことに、恐怖は神秘と完全に切り離された別物ではありません。むしろ、神秘が存在するからこそ恐怖もまた存在する。光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる――そんな関係性だと、私は考えています。」
ここで一度、オラクルの反応を窺った。
『結局、分かることはほぼ無いと。』
「……えぇ、残念ながら。これが、現時点で我々が共有している認識のほぼすべてです。仮説に仮説を重ねた、極めて脆弱な理論体系であることは認めます。ですが、少なくとも『神秘を直接制御しようとするよりも、それが引き起こす事象を安定化させ、利用する』という我々の方針は、この認識に基づいています。」
私は薄く笑った。
「貴女のように根源から理解しようとする姿勢は……率直に言って、羨ましくもありますな。我々には、そこまでの余裕がないのですよ。」
そう言うと彼女は何処か苦悩し始め、そしてポツリと呟いた。
『……
彼女の声は何処か私の心に突き刺さった。
「……どう言う事ですか?」
『今から私が言うことは、私が言える立場ではない事は理解している。部外者がこの世界に関わるべきではないと。実際、私は今回の事も……リオについてももう殆ど手を貸していない。でも、それでも貴方達が過去の清算をし、これから真っ当に研究を続けるのであれば
私は貴方達の研究を手助けしたい。
もっとも私が直接と言う訳にも行かないが……』
その発言は青天の霹靂だった。
「何をおっしゃっているのですか?それに貴女には成すべきことがあるのでは?そもそもどうやって……」
『1つ目の質問についてはだが貴方達の探求する神秘と言うものは先程言ったように
「あの、何を言っているのか本当に分からないのですが?えっと……私は先程対価は先程感想文と意見だけで良いと言いましたが、追加で『源石計画』と『AMaプロジェクト』について教えてくれませんか?」
『それは先程貴方が拒絶した決して届かぬ頂きなのだが……』
「流石に貴女の発言の真意を知りたいのです。技術的な話はしなくて構いません。ただ何を目的としてどの様な物を開発したのかを教えてほしいだけなのです。」
私は彼女の発言が何一つ分からなかった。
『……説明しよう。ただし、これは私のいた世界の話だ。キヴォトスの神秘とは全く異なる概念だと思ってくれ』
オラクルは難しい顔をした後、一度息を整え話し始めた。
『まず『源石計画』だ。私がいる文明で、我々は宇宙的な規模の『観測者』、あるいは『木こり』と呼ぶべき存在に直面していた。通常の物質で構成された生命や文明では、到底抗えない終末だ。』
彼女の話は初手から常軌を逸していた。
『その終末を乗り越えるために立案されたのが私達が立ち上げた『源石計画』だ。文明の全ての情報――物質、エネルギー、存在そのものさえも源石という結晶に同化・保存し、超次元的な空間に退避させる。後世でそれを再構築し、文明を再生させるための方舟だと思ってくれ。』
彼女は淡々と続けたが、その発言はおかしい。
「少し待ってください。その発言だと貴女がそんな超物質を作った様に聞こえます。」
『
血の気が引いた。
「プロジェクトの想定規模は?」
『
「……我々からしてみればそれは世界を作り変える神のような力に聞こえるのですが。」
『そうか……続きを話そう。源石は単なるエネルギー資源ではない。情報を取り込み、増殖し、世界そのものを再定義し得る媒体だ。我々はそれを『文明の存続』のための最終手段として設計した……もっとも、計画はまだ途中だけどね。現状は理論とフラスコの中でしか実現していない。』
少し間を置き、オラクルは次の言葉を紡いだ。
『次に『AMaプロジェクト』だ。こちらは源石計画の本流ではない。どちらかといえば、メインプランとしては早期に頓挫し希望を託した副次的な計画だ。バイナリー循環システムを核とした機械生命体を量産し、極限環境下でのテラフォーミングや、新しい生息地の構築を支援させることが目的だった。学習能力が高く、理論上はほとんど破壊不能で生命として認識されにくい構造を持つ。大量生産が予定されていたが……結局、完成したのは一体だけだ。私と、もう一人の共同開発者が作り上げた特別な個体。AMa-10、いやケルシー。』
オラクルの声が、わずかに遠くなった……故郷が懐かしいのだろう。彼女の人間らしさが見える。
『彼女を此処に送る事は無い。彼女は
「……そこまでして私達を助けるのは何故ですか?」
彼女は説明を切り上げ、私を真っ直ぐに見た。
『
そこまで聞いて私は一つ恐ろしい事に気がついた。
「貴女は……いつかこの星もその源石で覆うのですか?」
『必要なら私はする……そして
そこまで彼女は言って、ふっと笑みを浮かべた。
『君達が追い求める神秘が源石よりも良い結末を迎えられるのなら私はその手段を取りたいものだ。そしてそれは君達次第だ。』
そこまで言って最後に彼女は尋ねた。
『それで、この提案を受けるかい?』
「まだ、答えられません。持ち帰らせてください。」
私はそう言って逃げるように通信を切った。
「必要なら、か……」
私は画面の戦争の映像を見る。
そこには私の元同僚のベアトリーチェが引き起こした惨劇が映し出されていた。
「……私はどれだけの人間と組織に対して過去の清算をする必要が有るのでしょうね。」
そう零れ落ちた独り言に苦笑する。
そうか、私は
私は彼女が言った、外の世界を知ったうえで表舞台に出て真っ当に探求を行うのは無理だとしても、過去の清算をして影の中で彼女達と神秘の探求を行うのは良しとしているのか。
少し考えて一つ分かった事がある。
「私は、この都市が彼女の言う源石とやらに飲み込まれるのを良しとしたく無いらしい。」
私が愛した実験場、奇跡が宿る土地、未知の宝庫……そんなキヴォトスが喪われるのは許容出来ないらしい。
「取り敢えず、ホシノさんに今までの所業を謝りますか……面倒臭そうですね。」
私は彼女と通信を終えた端末を再度開き、『小鳥遊ホシノ』と書かれているアイコンを押した。
源石……先史文明(オラクルとプリースティスら)が、宇宙的な終末(観測者)から文明を守るために作り出した人工結晶。
物質・エネルギー・存在そのものの情報を同化・保存し、超次元空間(同化宇宙)に退避させて後世で再構築するための「文明存続の方舟」として設計された。
現在のテラでは高エネルギー資源として利用される一方、鉱石病(オリパシー)の原因にもなっている。
ケルシー……オラクルとプリースティスが共同で開発した機械生命体。AMaプロジェクトの唯一の完成個体。
バイナリー循環システムを核とし、極めて高い学習能力とほぼ破壊不能な構造を持つ。
本来は極限環境でのテラフォーミング支援用に量産される予定だったが、計画は頓挫し、彼女だけが残った。
現在はロドス・アイランドの中核メンバーとして活動し、長い時を生きながらテラの歴史に深く関与し続けている。
オラクルは自分の都合で生命体を作り出す事に対し、何を思ったのか、倫理的な問題はどうなのかと尋ねられたさい、自身の内面を言う事は決して無かった。