ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
後今回は指摘は大歓迎です。もしかしたら矛盾が多く出てきてしまうかも知れませんから。その場合は書き直します。
後結末を今度こそ確定させました。曇らせかもしれません。と言うか苦い結末と言いますか。
口調の指摘、感謝します。
時間軸としてはリアリズムを騙る者編『楔』の数日後です。
知恵の蛇 上
私が特異現象捜査部と言う特務組織にリオから頼み込まれて配属されてから数週間経ったある日、私はいつも通り欠伸を噛み砕きながらただ情報を集めていた。
リオがどうやってかは知る由もない……いや、恐らくオラクル経由なのでしょう。とにかくカイザーグループから引き抜いて来た情報を解析した後、私は手持ち無沙汰に陥っていたのだ。
神性を探し出す人工知能……デカグラマトン。
リオは何か知っているのだろうが私は殆ど何も知らない。
「エイミ、他の情報源はありませんか。」
「無いよ部長。先生にも軽く頼んだけど、何も分からないと言う回答が返ってきたよね。と言うかそもそもリオ会長の考えすぎと言う線は無いの?」
「リオに限ってそれはありえません。彼女は何処までも研究者です。何かしらの、この組織を立ち上げるだけの根拠がある筈です。」
いや、あって欲しいと言うべきか。
仮にそれが無いのであれば、彼女が救いがたい程に耄碌してしまったと言う事なのだから。
そんな弛緩していた空気は次の瞬間からゆっくりと、だが確実に破壊された。
「部長なんかミレニアムのネットワークに正体不明のテキストがあるよ?どうする?」
再度何か無いか確認させたエイミが正体不明のテキストを見つけた。
「一応危険性が無いかだけ確認してから中身を確認しましょう。」
そう言って私は一通り簡易的な検査を行ったが特に問題は無かった。
「何も無いようですね。」
「誰かのイタズラかな?」
エイミと顔を見合わせながら中身を確認した。
『竟に、摂理へと至る
嗚呼……我が
我が名は「輝きに証明されし栄光」……
我が名は
聖なる十文字の神を証明し、奇跡を預言する8番目の預言者なり。』
中身は理解不能な詩、もしくは預言の様なものだった。
「イタズラにしては無駄に詩的ですね。少し発生源をたどってみましょうか。」
「部長、それ単に暇潰しじゃないの?」
「そうとも言いますね。」
そうして暇潰しで感染源を辿ると、あるAIに辿り着いた。そしてそのAIについて情報を探ってみると、信じられない事が判明した。
「……
そこには突如としてミレニアムの通信ユニットAIである『ハブ』が、正体不明のAIにハッキングされ、防壁を突破されて掌握されていたと言う情報が残っていたのだ。それも時間をかけてではなく、たったの0.031秒しか耐えられず。
「そんな馬鹿な、ありえないよ!だってつい先日リオ会長がミレニアム全体をシステム丸ごとアップデートしたのに。あれは確かヒマリ部長も歯が立たないレベルのものだったよね!?」
確かにそうだ。ミレニアムのシステムは少しづつリオだけの……いや、もっと言うならあのオラクルとか言う存在との共同制作で造られた物にすげ替えられている。
そしてそれはヴェリタス総出でも突破出来ない代物だ。
だがエイミが驚愕を漏らす隣で、私は歯噛みせざる負えなかった。
「……いえ、ハブに関しては私が辞めさせたのです。ミレニアムの叡智の結晶である基幹システムであり、下手にアップデートさせると寧ろ不備が出ると。」
本音は違う。
私は彼女主導のアップデートにより、リオがミレニアムの最深部まで全てを掌握可能な状態になりかねない事に気が付き一部のシステムに関しては断固として拒否したのだ。
「これは……情報よりも格段に危険です。」
リオからもたらされたカイザーグループの情報よりも明らかに危険性は上回っている。
だが私はこれがデカグラマトンの干渉を受けたのだと判断した。そもそもあの杜撰な企業のデータ等信用してはならなかったのだ。
「何れにせよ、初の本格的な仕事です。直ちにハブ……いや
『情報提供ありがとうヒマリ、この件に関しては先生とオラクルは最初巻きこまないで。』
リオに状況を伝えて数時間後、彼女からはこの様なメッセージが届いた。
あれはまた一人で全て抱え込むつもりなのですか!
そう思い、私は直ぐ様通信端末を開き、通話ボタンを押した。
『ヒマリ、丁度良かった。私からも話したい事があったのよ。』
「そんなことよりも先に私の話を聞きなさい!何故先生やオラクルを頼らずに私達だけで対処しようとするのですか!?」
『あの人達は今これからの組織運営に必要な事をしている。代わりに今回は私が全面的に協力するから。リスクは分かっているし、最終的には頼る……けど人を最初から頼るのも違うと私は思うわ。』
「結局人を頼る事が怖いだけなのでしょう!?」
私がそう言うと彼女は少しムッとしたようで多少強い口調で言い返してきた。
『少なくともオラクルに対して敵意を向けている貴方がいる限り、オラクルに協力してもらうのは無駄なリスクを抱え込む事になる。これは貴女への配慮でもあるの。』
「そこまでわかっているのなら何故いつも貴女は彼女を頼るのですか!敵意を向ける理由が分からないとでも?」
『
そう言って彼女はサラリと私の怒りを受け流し、
『2時間後。
そう言って通信を打ち切った。
会議室には私とエイミ、対面にリオとトキが居た。
「プランを説明するわ。」
そう言って彼女がスクリーンに3体の機械を映し出す。
「貴方達特異現象捜査部、そして私の目標はデカグラマトンの正体を明らかにする事。だけど恐らくデカグラマトンは私達の正体には気が付いていなくても何者かに探られていると判断していると思う。」
「その根拠は何ですか?」
リオのその判断にトキが質問を投げかける。
「根拠は薄いけど……どの様な目的があって預言者?と言う存在を作り出しているのかは分からないけど、わざわざミレニアムのネットワークにメッセージを入れた。それは宣戦布告であり同時に敵はミレニアムの動きを観察していると考えられないかしら。」
筋は通っているが、導線としてはあまりにも薄い。
「多少被害妄想が入っているのでは?……まぁ良いでしょう。それで何を仕掛けるつもりですか?」
多少釘を刺しながらそう尋ねる。
「今回の作戦はシンプル。明日の朝六時に、ミレニアムの地下通路に向かい、ホドを発見しに行く。ミレニアムの地下に巣食う
「……どうやって強襲するのですか?そもそもカイザーの情報から考えると変質したAI群は武装していると思われます。先生等の支援は受けられないのですよ。どうするつもりなのですか?」
「その為にエイミだけでなく、トキも連れて行くのよ。彼女には軽量化したアビ・エシュフを装着して戦闘に臨んで貰うわ。」
「……反対です。それならまだ情報があるビナーとケテルを先に攻撃するべきです。いくらなんでも急ぎすぎです。」
余りにも強硬手段だとして彼女に反対を突きつける。
「私は生徒会長として常に最悪の事象を考えているの。ホドが仮に今もミレニアムのネットワークに巣食っているのなら、それは安全保障上の重大なリスクよ。それに今回のホドは本来アップデートしておけばこの様な結末にはならなかったかもしれない。」
「結果論を盾にして、私を非難するつもりですか?」
「ただの事実を説明しているだけよ。」
思わぬ反撃を受け、私の口が重くなるのを確認し、何処か安心させるように口を開いた。
「そもそもハブはあくまで超高性能演算機関であり通信ユニットAIに過ぎない。仮に武装していたとしても元から兵器として設計されていた可能性のあるビナーや大規模基幹システムのケセドとは違って小規模な物である筈よ。それにあくまで今回は威力偵察偵察に過ぎないのだから危なくなったら直ぐに逃がすわ。それでもまだ納得出来ない?」
「……エイミが良いと言うのなら。彼女に委ねます。」
「私は構わないよ部長。少なくとも会長は基本的に不可能な事は言わない。」
「ありがとう。続けさせてもらうわね。」
そう言って彼女は説明を再開し始めた。
「基本的な目標はホド本体の目視での感想と、それに位置情報発信器を付けること。その為にアビ・エシュフの片腕のガトリングには特殊弾頭を搭載しておいたわ。何かにぶつかると破裂して粘着性の液体に包まれた位置情報発信器がそこに張り付き、大気に触れた液体が直ぐに硬化して外れなくなるわ。」
「本格的な戦闘に発展した場合、戦力はどうなのですか?」
「その他の兵装は排熱機構を改良したレールキャノン『光の短剣』2門に大型ガトリングガン1門。まぁネルと同程度までの強さは担保出来ているはずよ。」
「……それでリオ、貴女は十分だと思っているのですか?」
「十分でないならば、
そこまで言われると私は何も言い返せなかった。
元々リオは管理主義者に近しい人間であり、これで迂闊にもっと万全を期すべきとでも言えば直ぐ様ミレニアムのリソースを注ぎ込みかねない。
「まぁ不明な事が多すぎるから、危険と判断したら彼女達の判断で引かせるつもりよ。」
当日の朝5時、私とリオは2人で特異現象捜査部に陣取りエイミとトキの行動を見ながらオペレータとして指示を出していた。
『地下通路に侵入しました。ヒマリ部長、私達の居る座標は確認出来ていますか?』
『部長、ある程度明かりはある様だけどカメラ見える?持ってきたライト付けたほうが良い?』
「座標は確認できているし、映像も見えています。もし暗くなったらライトを付けるように指示しますから安心してください。」
地下空間は様々な配管や設備がある程度保護された状態で数多く設置されているものの非常に広く、まるで枝分かれした洞窟の様な様相を呈していた。
「随分と大きな通路、いや大きさ的に最早ルームね。ミレニアムの地下はある程度調査していたつもりだったけど、今回の感染源を特定した際に示された座標はその調査範囲から大きく外れていた。他の三大校と比較して短い歴史とは言え侮れないわね。」
「この地下空間はハブ以外にも幾つかの管理システムが幾整備している筈です。」
彼女達から送られる映像には目立ったケーブルの損傷は見られない。仮にネズミとかが囓ったとしてもハブが補修していたのだろう。
「埃とか大丈夫だとは思うけど、一応今回の件が片付いたらハブとは別に新しく複数の小型作業ユニットを作って放出しておくべきかしらね……ヒマリ、手伝って貰えないかしら。」
彼女が私に頼み事をしてくる。
彼女の言動に多少違和感を覚える。
「ロボットを作るのは構いませんが、私を何故巻き込むのですか?癪ですがハードに関しては私と比較して貴女の方が明確に上手です。ソフトに関しては……まぁ天と地の差がありますが。」
「えぇ、だからこそソフト面で、ハッキング対策として貴女も頼りたいの。」
「……オラクルではなくて?」
彼女が今最も信用しているのはオラクルだ。彼女は前に必要なら切り捨てれば良いと言っていた時から随分と親密になっていた。
だからこそリオが一人の人間に依存しているこの状態は良くないと考えていた私にとって、喜ばしい事であり、同時に不可解だった。
「……
「まぁ私は全知を持つ天才美少女ハッカーですからね。ですが本当にそれだけですか?貴女は私の事を信用していないですし、嫌っていますよね?」
彼女は最近マシになったとはいえ、信用する人間以外の意見は基本的に叩き潰す。私に対しても先程の様に有無を言わせずに方針を決定する人間なのだが、一体どの様な心境の変化なのでしょうか。
私が内心を隠しながらそう尋ねると、リオは映像を見ながら口を開いた。
「
意外だった。
私は彼女の事が嫌いだ。
合理主義者で、冷徹な人間で、思い込みが激しくて、人の事を理解していなくて……そして
てっきり彼女も私の事が嫌いだと思っていた。
「そんな事よりもそろそろ最後にハブの通信があった場所に到着するはずよ。次の曲がり角を右折して、そこから100メートル程度直進すればルームに出る。そこにホドがいる可能性があるわ。警戒して進みなさい。」
私の混乱を他所に、彼女はそう命令を下した。
私達は支持された通りの道を辿り、広いが薄暗い通路を抜けて明るい巨大なルームに到達した。
「この様な巨大なルームはどの様に建てられたのでしょうか。」
「そんな事よりもトキ……あれ、何?」
私がこの地下通路に思いを馳せる前にエイミが前方を指さした。
指先が指し示す方向へ視線を向け、
「私は詳しく知らないけど変質する前のハブってあんなに巨大で気持ち悪い存在なの?と言うかこの空間はあのデカブツの移動を想定して作られているの?」
「目算ですが、全長40mはありそうですね。まるで機械で出来た単眼のタコの様です。元々ハブは通信ケーブルの補修等の為に作られ、多数のアームを持っていたとは聞いていましたが……」
「仮にあれがきちんとした武装を搭載しているのなら流石に2人だけで倒せるとは思えないよ。どうする?遠距離から狙撃して発信器だけでも付ける?」
「まずはヒマリ部長とリオ会長に判断を仰ぎましょう。
運良く気付かれていないが、何時あれが気付くか分かったものではない。私達がどの様に行動するべきかオペレータの2人に判断を仰ぐ。
『確認したわ。ヒマリの保有している情報と比較してみると、元のハブからは大きく変質していると考えるのが妥当ね。』
『デカグラマトンの干渉による影響はどうやら私達の想像を超えている様です。』
2人はそこまでは同じ様な事を言い
『なので発信器だけ付けて直ぐに撤退してください。可能なら戦闘も避けてください。
『だからこそ発信器をつけた後、光の短剣を発射して敵の硬度を確認後、敵の行動パターンを取得して。
二人の指示は真っ向からぶつかり合った。
『リオ、貴女は現場に居ないからと言って何処までも危険な行動を押し付けるのですね。トキに何時もそうやってリスクを押し付けているのでしょうが、彼処にはエイミも居るのですよ。』
『やるべき事の明確な期限が決まっていない先延ばしは、非合理的であり、過剰なリスク回避はプランの崩壊を招く行為に過ぎない。そもそも早い段階での情報収集は今後の安全性を明確に向上させるわ。』
『ですが、それにしたってもう少し安全性の確保を!』
『どうやって?そしてその機会は何時現れると思っているの?』
話は纏まりそうにない。
「このままだと埒が明きません。どうしますか?」
「トキはどうしたいの?」
「お二人の役に立ちたいです。」
「なら、攻撃しちゃうか。どの道いつか情報は得ないといけないわけだし。」
私達はそうして、方針を決定した。
「ヒマリ部長。私達は威力偵察を行います。」
『何を言って!』
「私は部長を信じているから、きちんとオペレートお願いね。」
『分かったわ。全力を尽くす。』
絶句したヒマリ部長に代わり、リオ会長がそう言った。
『発信器を装填した特殊弾頭、発射準備完了。』
トキの冷静な報告が通信機から流れた。
「エイミ、援護をお願いします。トキ、好機を見て腕部のガトリングから特殊弾頭を撃ち込んでください。」
「特殊弾頭は有効射程が短い、警戒しながら接近しなさい。」
私とリオの指示に、エイミが即座に応じた。
『了解。狙撃位置は、確保してる。』
薄暗い巨大なルームの端に、全長四十メートルはある機械の塊が静かに佇んでいた。単眼の光学センサーが微かに赤く点灯し、無数のアームが床に垂れ下がっている。
まるで巨大なタコが眠っているような姿だった。
トキがアビ・エシュフを低姿勢で滑らせるように前進する。
「牽制射撃をお願い。」
『了解。』
エイミの狙撃銃が、センサーの死角を正確に縫うように牽制射撃を放った。金属に弾ける乾いた音が響く。ホドはゆっくりと頭部を傾けただけだった。
『牽制命中、対象に反応無し。』
エイミからの報告と同時にトキが射程範囲内に入った事が確認できた。
「トキ、今よ。」
『特殊弾頭発射。』
特殊弾頭が撃ち出された。粘着性の液体に包まれた発信器が、ホドの側部装甲に直撃し、破裂する。液体が広がり、瞬時に硬化した。
『発信器、設置成功……信号確認。』
「すぐに距離をとってください。」
だが、その瞬間だった。ホドの単眼が一気に輝度を上げ、無数のアームが一斉に持ち上がった。
床を削るような重低音とともに、本体がゆっくりと向きを変える。
『反応した!』
エイミの銃声が連続する。狙撃弾が装甲に弾かれ、火花を散らす映像が映る。
『通常兵装では傷つけるのは厳しそうだね。トキ、援護を!』
『分かっています。』
生身の人間であるエイミからヘイトを剥がそうとトキも大型ガトリングをフル回転させ、弾幕を叩き込んだ。
金属の雨がホドの表面を叩くが、弾はことごとく弾かれ、あるいは浅い傷を残すだけだった。
『火力不足です。通常武装では貫通できません!』
「分かっている!トキ、光の短剣を用意しなさい!」
リオの命令に応え、アビ・エシュフの両肩部が展開し、改良型レールキャノン『光の短剣』が姿を現す。
排熱機構が唸りを上げ、青白い光が収束していく。
その間にホドが動いた。複数のアームが床を突き、侵食を広げるように何かの柱状構造物を生成し始める。
同時に、別のアームが大きく振り上げられ、トキめがけて薙ぎ払うように叩きつけられた。
『回避!』
トキがブースターを噴射し、間一髪で回避する。アームが床を抉り、コンクリートと金属が砕け散る。衝撃波が部屋全体を揺らした。
『生身なら一挙手一投足が、文字通り必殺技になりかねないですね。』
「エイミ、ホドの生成した柱状構造物を破壊してください。」
冷や汗をかきながらエイミが柱を攻撃する。本体とは異なり、そこまで頑丈では無いようで攻撃すれば破壊できるようだ。
そして短い均衡状態は崩れた。
『エネルギー充填率100%。』
「トキ、撃って!」
『光の短剣、発射。』
青白い光の槍が一直線に放たれた。
レールキャノンの弾丸はホドの側部に直撃し、装甲を焼き切るように食い込む。金属が溶解し、内部からスパークが噴き出した。
ホドの単眼が激しく明滅し、初めて明確な損傷反応を示した。
『有効打です!』
「けど、それだけよ。」
リオの言葉通りホドは損傷をものともせず、残ったアームを一斉に展開した。
複数のエネルギー光が収束し、部屋を薙ぎ払うように光線が放たれる。トキが急激に機動を変え、エイミも柱の影に転がるように身を隠した。光線が壁を溶かし、通路の一部を崩壊させる。
『これ以上は危険です、撤退の許可を!』
トキの声に、珍しく焦りが混じっていた。
私の隣でリオは即座に判断した。
「撤退しなさい。発信器は成功し、戦闘データは十分!」
『了解しました。エイミ、捕まってください。』
トキがアビ・エシュフを反転させ、エイミを抱え込みながら後退を開始する。
ホドは追撃するようにアームを伸ばしてきたが、すでに距離を取った二人に届かない。
後方から閃光が迫る中、二人は無事に通路へと逃げ込み、遅れて通路の出口が崩壊した。
「被害は?」
『多少ビームで炙られて表面の装甲が融解したのみです。エイミは……』
『大丈夫。トキが囮になってくれたから。』
「……よく耐えたわね」
私は大きく息を吐いた。逃げる間際、モニターの中でホドは損傷した装甲を引きずりながらもまだルームの中央に鎮座していた。発信器の信号は安定して捉えていた。作戦は成功だ。
「……アビ・エシュフの量産化は必要不可欠だけど、一般生徒をこれに巻き込みたくは無いわね。」
「ええ、貴女の切り札とも言えるあれも有効打しか与えられませんでした。物理的な攻撃ではなく遠隔で内部構造を破壊することも視野にいれる必要がありますが……その為にはまず預言者達の内部構造とシステムが欲しいですね。」
だが、同時に明確な事実も突きつけられた。通常武装ではほとんど通用しない。光の短剣ですら、致命打には至らない。
あのサイズと装甲、そして攻撃の多様性を前にすれば、現状の戦力では撃破は困難だ。通信が切れた後、リオが静かに口を開いた。
「……予想以上ね。ハブの変質度が、想定を大きく上回っている。」
「貴女の『小規模な筈』という楽観が、甘かったという事です。」
リオは否定しなかった。
彼女はモニターに残るホドの映像をしばらく見つめ、それからゆっくりと頷いた。
「ティタノマキアの開発を急ぐ事にしましょう。」
「リオ、何か言いましたか?」
「いえ、大したことでは無いわ。ただの独り言よ。」
彼女はそう言って部屋を出ていった。
発信器は確実に機能している。
だが、あれを本格的に排除するには、まだ時間がかかるだろう。