ブルーアーカイブ×アークナイツ 調月リオと星外の預言者 作:バトクロス
お気に入りは減るかもしれませんが、それでも今作を考えた時に書くべきだし、書きたいと思いました。
「先生、私は失望しました。いえ、悲しいのです。貴方が道を踏み外した事が。」
「踏み外したとは?少なくとも私は迷いながらも最良の選択肢を取る努力はしてきたつもりだよ。」
「そこです。貴方は今最良の選択肢を取ろうとしている、最善の選択肢ではなく。」
「昔のように理想主義者……いや、夢想家であり続けるべきだったと言いたいのかい?」
「私が求めていたのは、貴方にしかできない選択。だけど貴方はそれを変えた。それなら貴方の様な大人がいる必要が無いではありませんか。」
「君は、大人という存在がまるで不変の完成された存在であるかの様に言うね。」
「前に私に責任について話してくださった事が有りましたね。私はその時意味が分かりませんでした……ですが今は分かります。そして今の貴方が反対に当てはまらなくなっている事も。」
「君は、私に与えられた運命をなぞる救世主であれと……世界を救うためのシステムであれと言うのかい?」
「……貴方はまだ帰られる筈です。先生――私たちのすべての『奇跡』がある場所へ。」
「君は、そうか。だからあの映像であんな事を……」
「私が信じた大人である、貴方なら。」
「君は誰を、何を信じたんだい?」
「……」
「大人と子供と言うものの境目は本来曖昧なものだ。そして大人だとしても、全く変化しないなどあり得ないんだよ。」
「……話が噛み合っていなかった気がするな。」
何処か泡のような、でも決して忘れてはならない夢を見た。
「彼女は何を言っていたかな。」
必死で思い出そうとしてもすぐに零れ落ちてしまう。だけど少しだけ記憶にとどめることができた。
キヴォトスに来た時、似たようなことを言われたような気がする。
「だけど、内容以外にも違うところがあった。」
あの時は
今回は、
今の私を知るすべは彼女にはないはずだ。
「アロナ、
私のつぶやきに言葉を返すものは何もなかった。
朝起きて顔を洗い、食事をとり、歯を磨く。私の脳内以外は何も変わらない日常。
「アロナ、今日の仕事は?」
『……エデン条約の案件が終わった事もあり現状個別の生徒さん達からの連絡は来ていません。主に溜まった書類を確認して分類する感じです!今日はシャーレの外に行く必要はありませんよ。』
「分かった、ありがとうアロナ。」
新聞を読み、アロナから仕事に関する重要事項をピックアップをしてもらいながら制服を着る。
いつも通りの生活リズムだ。
人は意識せずとも行える事は習慣として定まり、意図的に変革を起こそうとしなければそのまま同じ事が続くだろう。
だが何かしらの意図を持って選択を行う場合、その選択肢が多く、判断が難しいものであればそれは変わるだろう。
選択、それは夢で伝えられた言葉。
私は今だ彼女に聞くべきことを聞いていない。
(私は彼女がへそを曲げて助力が受けられなくなるのを避けているのか……或いは彼女から真実を告げられる事を恐れているのだろうか。)
先日、無事に補修授業部全員を試験に合格させた私は、一昨日トリニティからシャーレに帰還し通常の業務を行っていた。
テスト当日は後半は授業の監督を半分も行えなかった事が気がかりだったが、ヒフミとハナコが勉強を教えた事で何とか合格点に到達した。
ヒフミは日常に、コハルは正義実現委員会に戻り、アズサとハナコは
ハナコ最終的には提案を受け止めたとナギサから伝えられていたが、それでも私の好感度を犠牲に前に進む場所に身を置く決心が付いたのならそれは良い事だと思いたい。
頭痛を抱えながらシャーレに出勤し、今日処理する予定の書類を出していると当番の生徒が来た。
見覚えのある顔だ。
「久しぶりと言う程でも無いかな。キョウカ、今日はよろしく。」
「そうですね。1週間と経っていませんから。こちらこそ今日の当番、よろしくお願いします。」
「では、私は当番として何を行えば良いですか?」
「今日は仕事が少ないから一先ず書類の宛先だけ確認して分類して欲しい。一応機密事項が書いてあるかもしれないから中は出来る限り見ないでね。それが終わったら一度シャーレに来ている匿名のお便りに目を通して何かしら危険そうなものが有ったら教えて欲しい。」
当番と言うものは業務が固定化されていない。だから日によって業務内容は変わる。
「具体的にはどの様なものですか?後それで終わりですか?」
「例えばシャーレや連邦生徒会に対して爆破予告や殺人教唆があれば教えて。それ以降についてはそうだね……確か今日矯正局の一室で
前言っていたスバルの処遇について三日前にカヤとミスズに相談し、無事二人から言質を勝ち取っていたのだ。
カヤからは
『貴方は甘いですね。』
と苦笑されながらだったが。
「分かりました。確かナギサ様とミカ様が直接会いに行かれる予定ですので方針は直ぐに分かると思います。」
彼女はそう生真面目に言うと仕事に取りかかった。
「コンビニのお弁当は良く食べられるのですか?」
「うん。定められた勤務時間の都合上わざわざ遠くまで行く時間が無くてね。寧ろ勤務時間が変則的だったトリニティでの仕事の方が美味しいものが食べられたかもしれないね。キョウカは手作りのお弁当かな?」
「ええ、知らない場所で外に食べに行くというのもイマイチ気が進まなかったので。それにどうせなら先生と雑談でもしたいですからね。それにしても当番と言うものは酷くあやふやですね。そもそも今まで誰が何のために来ていたのですか?」
昼休憩の時間、私はキョウカと会話をしながら食事をしていた。
「ミレニアムの依頼を打ち切られるまでは当番はゲヘナの生徒ばかりが来ていたけど……そうだね。逆にキョウカはどうしてだと思う?」
キョウカの質問に私は逆に問いかける。
「えっ?そうですね……単純に先生と仲良くしたい生徒が関係を結ぶためでしょうか。もう少し穿った見方をするのなら、学園上層部が意図的にその様な生徒達を先生と接触させて関係性を作る為でしょうか?」
彼女の意外にも純粋な感想に思わず顔が緩む。
「それは
「気が付いていらっしゃったのですね。」
「カマをかけただけだよ。ただ君はトリニティ、いや、ナギサにとってとても都合が良い生徒だからね。目立たないが優秀で命令に忠実、何よりも既に私と最低限の関係性を結べている事を考えるとあり得る話だとは思ったね。」
そこまで言って水を一口飲み喉を麗した後私は話を続けた。
「それにしてもキョウカは意外と純粋なんだね。トリニティのティーパーティーに所属しているのに。」
「レッテル貼りは良くないですよ。それに私は他の組織を知りませんから。それなら先生は何だと思っていらっしゃるのですか?」
そう問いかけられ、私は箸を置いた。
「そうだね……キョウカが言ったようなコネと言う側面はあると思う。けど最初ゲヘナの生徒ばかりが来ていた理由は、おそらく
「監視、ですか。シャーレと言う組織が超法規的組織であり、個人が抱える権限が常軌を逸しているからですか?」
「まぁその側面は有るだろうね。うん、私がどの様な存在か見極める為、或いは仮に危険因子だった場合にどうすれば良いかを考える為。私はそうだったと思うよ。」
「側面?」
「気にしないで欲しいな。単にそれ以外もあるかも知れないと言うだけだから。」
嘘だ。私は恐らく本質は理解している。きっと連邦生徒会長への警戒がそのまま私に移ったと言うことだろう。権限の強さが問題なのではなく、それを振るう人間が問題なのだと。
だがキョウカは連邦生徒会長が犯した真実を知らないし、知らせる必要はない。
それに彼女の指摘も合っているのだから、否定する要素は無かった。
「なかなか先生と言うのも不安定な立場だったのですね。」
「うん。でも今回の件で漸く三大校からの信頼も得られたし、それに付随して他の学園からの見る目も変わった。これからは多少当番についての思惑は変わっていくはずだよ。」
そう、きっと連邦生徒会長が考えていた物に。彼女の考えでは私はもっと無条件に生徒達から好かれていた筈だったのだから。
「先生、ナギサ様達に対しての確認終わりました。」
「どうだった?」
「梯スバルは司法取引に応じたようです。分かっていることはあらかた話した上で、これから先継続的にアリウス自治区の調査に同行することで話が纏ったようです。」
「そうか……これでエデン条約に関しては最後の仕事を終えたと考えて良さそうだね。ここからはトリニティと矯正局の仕事だ。」
無事に梯スバルの処遇についても解決し、肩の荷が下りた。
「そしたら当番としての私の仕事はもう無いですかね?」
「そうだね。それに私も殆ど仕事終わっているんだよね。そしたら適当に新聞でも読んで時間を潰しておくか、帰ってもらっても構わないよ。」
「そしたら新聞でも読んで待っておきます。用事があれば読んでください。」
そう言って彼女は休憩室に行った。
【エデン条約締結。連邦生徒会長失踪後、実質凍結された筈の条約が成立した理由に迫る。
〇〇月✕✕日、エデン条約が締結された。それも元々のトリニティとゲヘナに加えてミレニアムも含み、元の条約から更に深化した協力体制を敷いたものだ。私達はこの変化がミレニアムによってもたらされたものだと判断して取材に行った……】
【ミレニアム躍進。研究機関としての仮面をはぎ捨て覇道を突き進むのか?
世間ではエデン条約機構が取り沙汰されているが、ミレニアムサイエンススクールに対して私達はもっと注視しなければならない筈だ。近年急速に勢力を拡大し三大校として名を馳せる様になったものの、やはり歴史や規模感から一歩劣るとされていた。だが今回の条約で飛躍的に存在感を増し……】
【SRT再始動。連邦生徒会長失踪後の覇権争いかと心配する声。
SRT特殊学園の再編成が行われ、無事に運営され始めたのは記憶に新しいだろう。だが今まで解体され、誰も手を出さなかったSRTが復活したのは何故か。それは不知火カヤ防衛室長による連邦生徒会の政治バランス変革を狙ったものだったと言う証言が……】
【三大校とSRTが合同で特別軍事作戦を実行。標的は巨大テロ組織の壊滅と少年兵達の救出。
先日行われた特別軍事作戦について、ミレニアムの調月リオ生徒会長とゲヘナの羽沼マコト議長、そしてトリニティの桐藤ナギサ生徒会長が相次いで一連の軍事作戦はテロ組織の壊滅と少年兵の解放であったと声明を出し……】
【連邦生徒会の意義とそれに対する答え
連邦生徒会長が失踪してから連邦生徒会は機能不全に陥っていると言われており、実際に学園間の調整や治安維持もほぼ行わず、形骸化しかけていたと言っても過言ではなかった。しかし先日の特別軍事作戦において声明を出し、更に少年兵達の受け入れ先を斡旋すると宣言した。これは今までの連邦生徒会とは異なる風が吹いていると考えられる。連邦生徒会に所属する生徒からの証言も……】
「当事者として携わったものが多く、目新しいものは無いですね。」
過去数日間の大手メディアの記事を取り敢えず一通りざっと見たが、どれもこれも見覚えがある話ばかりだ。それだけ一連の出来事がキヴォトスの注目の的だったと言うことだろう。
だがそれについて一つ不可解な事が有った。
「しかし幾ら探してもクロノススクール出版の新聞を始めとする大手メディアには
勿論2面の端やコラムでシャーレの話は有った。
何処を見ても目立つのは生徒達だけであり、あれだけ孤軍奮闘した先生の事がメインを張っている記事がないのだ。
確認の為ネットニュースを確認するとシャーレについてはある程度纏った量の記事がある。
(まさか……シャーレと連邦生徒会は仲が良くないのでしょうか。クロノススクールに連邦生徒会が圧力をかけている可能性もある?)
普通に考えて連邦生徒会の下部組織でありながら独立した権限を持っているシャーレは連邦生徒会にとっても扱い辛いものだろう。
もし私の予想が正しいのであれば確かめる必要があると思い、私は休憩室の扉を開け、先生の部屋に向かった。
「先生、一つ聞いてもよろしいでしょうか。」
丁度一区切り付いた様子でコーヒを飲む先生に後ろから声をかける。
急に声をかけられたからだろう、軽く咽つつも先生が後ろを振り返る。
「なんだい?手短に答えられる事なら答えるけど。」
「大手メディアが先生の活躍を取り上げない理由について、知っている事が有れば教えて欲しいです。」
そう尋ねると先生は少し硬直し、珍しく困った表情をした。
「ごめんね、私は
要領を得ない回答にピンと来た。
「
「私からは何も言えないよ。」
質問への答えは沈黙。
だがやはり裏には高度な政治的背景がある可能性が高いと確信できた。
「わかりました。お仕事で、また手伝える事が有れば呼んでくださいね。」
ならば単なる疑問で藪蛇をつつく必要は無いだろう。
そう思って私は頭を下げ、休憩室に戻った。
「今日はこれで仕事は終わりだね。ありがとうキョウカ。私ももう少ししたら帰るよ。」
「いえ、午後からは余りする事もありませんでしたから。お疲れ様でした。失礼します。」
午後6時、キョウカが挨拶して帰り、私もその5分後にはシャーレを出る。珍しく終業時間までに仕事が早く片付いた事に安堵しつつ、夕食を考えていると電話が鳴った。
相手の名前を確認し通話ボタンをおす。
「今晩は、カヤ。どうかしたのかい?」
『今晩は先生。シャーレの仕事はもう終わりましたか?』
「今シャーレを出たばかりだから戻ろうと思えば戻れなくも無いけど……」
何かシャーレに用事があるのかと思いそう尋ねると、カヤは穏やかな口調でこう言った。
『それなら良かったです。もし夕食をまだとっていらっしゃらないのなら、今日一緒に食べませんか?』
「プライベートで一度先生と話したかったんですよ。一連の出来事は終わりましたし、SRTも無事に再始動しましたから。」
私と合流したカヤはそう言いながら隣を歩く。彼女の身長は低くは無いが、何処か身体つきが細く感じる。
「それなら普通に休日とか昼休みに遊びに来ても良いんだよ?それが無理でもモモトークは交換しているから他の生徒の様に連絡してくれれば話し相手にはなるのに……」
そう問いかけると、彼女は何処か押さえつけるように言葉を紡ぐ。
「先生は忙しいですし、私は連邦生徒会で権限を持つ人間ですから、
「そうか……なら今日は美味しいものを楽しく食べよう。プライベートな時間が貴重なのならばね。」
「はい。ありがとうございます。」
本来生徒がそこまで気を使う必要は無い。確かに礼儀は必要だが、カヤからは自分が生徒である事を抑え込み、一人の対等な人間で在ろうとしている様に感じられた。
カヤの言葉は何処か背伸びをしていて痛々しく見え、けれどもそれを指摘する事自体が
だから私はそれを隠して今日はカヤを甘やかす事にした。
「カヤは何を食べたいの?せっかくなら静かな所が良いよね?」
「場所としてはそうですね。食事の種類はお任せします。あ、でも美味しいコーヒーが飲みたいですね。」
彼女はそう言って笑った。
私が選んだのはとある洋風のレストランだった。特別格式張っている訳ではないが、静かで治安のよい店とレビューに書いてあり、私はその店の一番端の個室に入る事にした。
「一応料理が来る前に幾つか話したい事が有ります。食事の時にはプライベートな話をしたいですから。」
「良いよ。カヤは真面目だね。」
「真面目さとは方向性を間違えると危険ですがね。」
何処か遠い目をしながら彼女は水を飲むと話し始めた。
「まず今日の梯スバルの司法取引についてです。トリニティのお二人は当日に先生がいらっしゃらない事に疑問を覚えて居ましたが、彼女が協力的であった事もあり、スムーズに進みました。お二人からの連邦生徒会への印象も多少は良くなったと思います。」
「それは良かった。私が間に入ると
「ええ、先生に頼り切りの何も動かない組織……その印象を払拭する為には逆説的に先生が交渉の場にいらっしゃると困りますから。それとアリウス自治区についても、後日復興について話し合う事になりました。」
彼女は非常にアグレッシブであり、良くも悪くも思い切りが良い。私が間にはいらない場合、その行動力が裏目に出ないか心配ではあったが今回は上手くいったようだ。
「それと先生、やっぱりもう少しクロノスにもシャーレの活躍を取り上げて貰ったほうが良いと思います。先生がクロノスに
「私の様な大人一人に権力が集中している組織を美化されてもね。
「ですが!」
「それにネットニュースとかは私の活躍もしっかりと書かれているよ。でもそうだね、そしたらカヤの所に記者が来た時に宣伝して欲しいな。」
私はそう言って彼女に
「……分かりました。」
彼女はそうは言ったものの、納得したようには見えなかった。
「……美味しいですね。」
「そうか。前カヤがトリニティの食事処を教えてくれたよね。その時から私もカヤに何処かよい店に連れて行ってあげようとは思っていたんだ。」
彼女が目の前のハンバーグに舌鼓をうつのを眺めながら、自分のステーキに刃を入れる。
「先生は特定の生徒を特別扱いはしないと思っていましたが……」
「特別扱いしているつもりは余り無いよ。ただ、どの生徒にも同じ様に接する事は出来ないしするべきでも無いと思うな。例えば既に一生懸命頑張っている子に『死ぬ気で頑張れ』とは言わないよね?反対に怠けている子に『少し肩の力を抜け』とも言わないよね?」
そこまで言って自分もステーキを一口食べる。
「では何が平等なのですか?」
「そうだね、生徒一人ひとりの将来的な幸せを願う気持ちかな。」
「随分とお優しいことで。」
「そうでありたいとは思っているからね。」
食器が鳴らす小さな音と共に小気味よい言葉が交わされる。
何時もより、少しカヤの口調が軽く、早い。
「私は何処まで行っても自分が一番優先です。その次に
「随分と私を高くかっているんだね。」
「そこは重要な点ではありません。私は平等な人間では無いという事です。」
「一人の人間としてはそれが正常だよ。でも先程と矛盾しちゃうけど、今回カヤは本当に頑張った。それも殆ど一人で。先生としては失格かもしれないけど、一人の人間としては
「そう言って頂けて嬉しいですが、今回孤軍奮闘する事になったのは私の
何時の間にか、カヤの食事の手が止まっている事に気が付いた。
「そうですね……私の懺悔を聞いていただけますか?」
私はナイフとフォークを置いた。
「……聞こうか。」
彼女が……いや、
彼女は何故かスマートフォンのメッセージアプリ……では無くただのメモを開き、何か書き込んだ後私に見せた。
『私は過去に防衛室長でありながら
「ッ……続けて。」
懺悔の冒頭、彼女はいきなり爆弾を投げ込んだ。
思わず声が漏れそうになるが、必死に抑えて続きを促す。
『理由は幾つか有りますが、そもそも連邦生徒会と言う組織が防衛室に必要な予算を回さなかった事、そして
「……言いたい事は後で言うよ。」
『ありがとうございます。私は金と地位さえ有れば大体何とかなると思っていましたし、実際にその
彼女の発言に少し気になる箇所が有った。
「見本?具体的に誰なのかな。」
次に発せられた彼女の言葉に私は絶句させられる事になる。
『連邦生徒会長、超人です。』
「そんな……いや、だが……」
『言いたい事は分かります、金と地位があったとしてもそれを扱う人の能力で全てが変わるという事は。ですが私はその当時、自分は連邦生徒会長に匹敵すると根拠も無くそう思っていたのです。』
私の驚愕を彼女は違う方面に解釈したのかそう書き記す。
『ですが私は数ヶ月前、突如として経営が悪化したカイザーから手を切ると言われました。つまり私はいきなり金と言う力を失いました。私は途方にくれましたよ。突然信仰していた神が消えた様なものですから。』
彼女はそこまで書いて私を見つめ、口を開いた。
「私は今まで馴れ合いと言うものを避けていましたから交友関係も狭く、頼れる人も居ませんでした。そこで私は
「……打算で此処までするのかい?」
まさかそんな訳は無いだろうと考えながらそう問いかける。
「しているのならこんな話しませんよ。私にとって先生は
「大人の力?」
「情報を集めつつ、理論を絡めて権力を使い要求を通す
私は彼女の言葉に面食らった。
彼女の言葉は、私が夢で連邦生徒会長から否定された人間を肯定するものだったからだ。
「私の言いたい事は終わりました。先程先生は何か言いたい事がありそうでしたね。全て聞きますよ。」
彼女の言葉に頭を回転させ、言うべきことを思い出す。
「……まずカイザーとの癒着でもたらしたであろう不利益をある程度カバーしたのかい?そして、弱みは握られていないかい?」
「えぇ、それは先生と接触する前に既に片付けています。関係各所にも手を回しましたよ。弱みに関しても問題ありません。あちらにとってもバレると困るものでしたから互いにログは残っていません。仮にあちらが何かしらの証拠を握っていたとしても偽造したものだとして寧ろ
「分かった。じゃあ2つ目だ。カヤは良心の呵責を覚えたかい?」
その言葉に彼女は顔を歪ませてこう言った。
「ええ、そしてその過去を払拭したいとも。」
私はその言葉に嘘を感じ取ることは無かった。
今私は一つの岐路に立っている。
不知火カヤと言う人間を許すか裁くか。
証拠が無くとも私が証言すれば彼女は罰せられる可能性は有るだろう。そして彼女の過去は本来許されるべきでは無い……
だが……
ならば、やはりこう言うべきだろう。
「なら、
そう言って私はフォークとナイフに手を伸ばした。
それは懺悔の時間は終わりであると言う意思表示であり、彼女もそれを理解したようだ。
「……ありがとうございます。」
そのまま食事を終え、食後のコーヒーがやって来た。
カヤはそれを美味しそうに飲む。
「カヤはコーヒーが好きなんだよね。」
「えぇ。最初は大人っぽいから無理して飲んでいましたが今では好物です。先生は?」
「嫌いでは無いね。」
そう言いながらコーヒーを飲む。
温かい液体が喉を通るのを感じながら、ふとカヤに一つ大人と言う物について聞いてみたくなった。
「カヤは
「は?何を言っているのですか?」
「いや、ある生徒からそう言われてね。カヤはどう思っているのかなと。」
彼女から半眼で流されかけ慌てて言葉を紡ぐ。出来れば否定してほしいという感情を心の奥底に隠しながら。
「そうですね……私としては、やはり
彼女も夢の中の連邦生徒会長と同じ様な事を言った。
『そうか』、失望を隠してそう言おうと口を開く……
「ですがそれは
その前にカヤが続けざまにそう言った。
開こうとした口が閉じ、次に開いた時には別の言葉を発した
「何故そう思う?」
「簡単です。それは理想の押しつけであり、その様なものはいずれ破綻します。」
そこで彼女は口を一度閉ざし
「大人であろうと、先生であろうと、
そう言った。
その言葉は、私の心を強く打った。
「カヤ、ありがとう。」
「先生……
カヤが狼狽えてハンカチを差し出してくるが、そんなカヤの手を私は握り締めた。
「私を、肯定してくれてありがとう。」