紅と蒼の先輩   作:スナエ

1 / 4
1話

 その人は、突然やって来た。

 

「今日からマネージャーをやります。三年の鷹村紅緒(たかむらべにお)です。よろしく」

 

 どこか影のある美人。着ているのは、ただの運動着だが、綺麗なアンティーク人形のように見える。

 

「鷹村さんは、野球の基本は知ってるから、対戦相手の投球や打率の記録も出来るんだよ」と、小堀。

 野球部の一年生、伊能商人の目には、鷹村が攻略しがいのある人物に見えた。

 部活を終えてからも、鷹村のガラス玉みたいな瞳が忘れられない。

 帰り道。偶然、制服に着替えて歩いているマネージャーを発見した。

 

「鷹村先輩」

「ん? なに?」

 

 振り向いて、鷹村の目が伊能を映す。

 スカートが、風に揺れている。

 

「どうして、野球部に?」

「暇潰し」

 

 くすりと笑い、鷹村は答えた。

 

「へぇ。そうなんですね」

「伊能くん、だよね? 私に興味があるの?」

「はい。あります」

「そう。じゃあ、また明日ね」

 

 鷹村紅緖は、白い腕を振って、去って行く。

 それを見届けてから、伊能は帰路についた。

 翌日の昼休み。伊能が、鷹村がいるはずの教室を覗くと、男子の制服を着ているのが見える。

 伊能は、驚いて目を見開いた。

 クラスメイトたちは、特に何も気にしていない様子。

 

「すいません」

「はい」

「鷹村先輩を呼んでもらえます?」

「はーい」

 

 近くにいた女子生徒に、鷹村紅緖を呼んでもらった。

 

「こんにちは、伊能くん」

「先輩、なんで男子の制服を着てるんですか?」

「そういう気分だったから」

 

 鷹村は、薄く笑った表情を変えずに答える。

 

「鷹村先輩の性別って?」

「あはは。なんだと思いたい? 女? 男?」

「昨日は、女子かと思いました。今日は、よく分かりません」

 

 くすくす。性別不詳の先輩は、笑う。

 

「ねぇ、私とゲームしようよ。卒業するまでに、私の性別を当てられたら、伊能くんの勝ち。当てられなかったら、私の勝ち。どう?」

「受けて立ちますよ」

「うん。君なら、そう言ってくれると思った。それじゃあ、がんばってね」

「はい」

 

 面白いことになった。

 伊能は、彼(今日はそう仮定する)を観察する。

 男女どちらともつかない体。まるで性器の存在を感じさせない。

 中性的な声。その声色は、こちらを見透かしているかのように怪しい。

 

「勝ったら、何かもらえるんですか?」

「私の魂」

「魂?」

「ふふ。なんでも欲しいものをあげる」

 

 天使にも悪魔にも見える表情で、鷹村紅緖は告げた。

 伊能商人と鷹村紅緖のゲームは、こうして始まったのである。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。