鷹村紅緖は、装いによって入るトイレを変えている。
というのが、ゲーム開始から2日目で分かったことだった。
それから、部活中に小堀に訊いてみたところによると。
「鷹村さんの性別? 好きに受け取ってほしいって言われたから、鷹村さんって呼ばせてもらってるよ」
小堀は、鷹村紅緖を中性的に捉えているらしい。
彼女(今回はそう仮定する)は、運動着で日陰に座っている。
白磁のような肢体を焼かないようにしているようだ。
「伊能くん」
「はい」
「どう? 何か分かった?」
鷹村は、首を傾げながら問う。
「そうですね。鷹村先輩は、服装に合わせてわずかに性別規範への従い方を変えています」
「ふふ。そうだよ」
鷹村は、口元を押さえて笑った。
「先輩の性別は、まるで固定されていない。ジェンダーフルイド的です」
「そうかもね」
先ほどは肯定したのに、今度は「かも」か。
伊能は、鷹村を観察しながら話を続ける。
「私は逃げないから、部活に戻りなよ」
「はい。また後で」
伊能は、マネージャーの前から去った。
野球を真剣に攻略し、部活が終わるまではゲームのことは頭の片隅に留めるだけにする。
マネージャーは、きちんと自分の役割をこなしているようだった。
部活を終え、着替えてからは、鷹村を探す。
特に約束はしていないが、一緒に帰りたい。
「伊能くん」
あちらの方からやって来てくれて、伊能は口角を引き上げる。
「途中まで一緒に行こう」
「はい」
彼女が隣に並ぶと、シトラスの香りがした。
「鷹村先輩は、他の人ともゲームをしたことが?」
「ないよ。君が初めて」
「どうしてですか?」
「退屈だから。大抵の男子は、私に“女”を押し付けてくるし。あ、小堀くんは違うよ。彼は、さん付けを汎用性で選んでるだけ」
鷹村は、スカートをなびかせて進む。
「伊能くんは、ちゃんと私と勝負をしてくれそうだと思ったの。だって、暇潰しで野球してるんでしょう?」
「はい。野球も、先輩とのゲームも、いい暇潰しです」
「それなら、よかった。私も楽しいよ」
彼女は、美しく微笑んだ。日射しに透けて、消えてしまいそうに見える。
幽霊だと言われたら、信じてしまう人も少なくないだろう。
「伊能くん、コンビニ寄らない? アイス食べようよ」
「アイスとか食べるんですね」
「そうだよ」
ふたりは、コンビニでアイスを買った。
コンビニ前の日陰で、ソーダバニラのアイスを齧る。
鷹村が人形のような見た目で、ものを食べているのが、なんだか面白かった。
伊能商人は、そんな彼女の肌を伝う汗を見て、人間なんだなぁと思う。
当たりを引いた鷹村は、2本目のアイスも食べ始めた。
先輩女子と買い食いをしている自分は、彼女を好きに見えるのだろうか?
ふと、自分を客観視した伊能は、疑問に思った。
だが、全てはゲームに勝つためにしていることである。
伊能は、冷静に鷹村紅緖を見続けた。