次の相手のバッテリーは、広瀬と三馬のライバルらしい。
鷹村紅緒は、露木リンと目が合った。
お互いに、会釈をする。
そして、あざみ野高等学校との試合が始まった。
あざみ野は、“流れ”を掴むのが異様に上手い。
「流れなんて気にするな! 強気でいけ!」と、流れをオカルトだと思っている阿川監督は言っているが。
「鷹村先輩は、流れについてどう思います?」
ベンチで、伊能は尋ねた。
「私には、よく分からない」
記録ノートから顔を上げ、鷹村は返事をする。
「そうですか」
「でも、私がついてる方が勝つんじゃないかな」
鷹村紅緒は、妖艶に微笑んだ。
その様は、人間を誑かす悪魔めいている。
「それは何か理由が?」
「私が応援するところは勝つ。そういうジンクスがあることにしない?」
「はは。なるほど」
「露木くんの占いは、神秘性のあるものじゃないだろうから、対抗しようもあるよね」
「そうですね」
その後。伊能による“予言の自己成就”の話が部員たちに共有された。
それから、広瀬が先頭バッターとして出塁。流れをハマソウのものにしようとした。
「鷹村先輩、具体的にどんなジンクスにしますか?」
「鷹村紅緒は、幸運の女神である。女神は、便宜上の表現」
「もう少し捻りたいですね」
ふたりは、真剣に話し合っている。
「そう。それじゃあ、幸運の女神がついてる鷹村紅緒が応援しているチームは最終的には勝つ、の方がいいかな」
「そうですね」
そんな話をしているうちに、ハマソウはダブルプレイをとられてしまった。
流れの影響を受けていないのは、伊能商人だけである。
そうして、ラッキーセブンがやってきた。
伊能は、球種を見極めようとしたが、三振する。
ベンチに戻った伊能は、ぶつぶつと何か呟いた。
「伊能くん」
「先輩」
「何か掴めた?」
「向こうの球種の記録を見せてもらえます?」
「どうぞ」と、鷹村はノートを渡す。
異様なほどのストレートの応酬。伊能は、確信した。
「あざみ野バッテリーの魔球の謎が解けました」
部員たちに考えを述べる伊能。
草加が投げているのは、ジャイロボールということだった。
ストレートのジャイロを狙えば打てるが、あざみ野にそれを悟られないよう、ハマソウは点差を詰めていく。
それでも、いずれはバレてしまう。
草加は、夢幻ジャイロを投げ続けた。
「青春だね」
鷹村は、ぽつりと呟く。
それから。広瀬のサヨナラホームランにより、ハマソウが勝った。
「さすがだね、広瀬くん」
「読み勝ちましたね」
鷹村と伊能は、顔を見合わせて小さく笑う。
試合終了後の帰り支度中。
「ギリギリだったね」
「そうですね。それに、桐山先輩のことがバレます」
「桐山くんのこと、秘密にしていたかったのにね」
ふたりは、静かに話し合った。
「これから、みんなが桐山くんを攻略しようとするよ」
「そうなりますよね。波が立ちそうだ」
「うん。ところで、伊納くん。私のこと分かった?」
「まだ情報が足りていません」
「そっか」
鷹村紅緒は、「ふふ」と微笑む。
「でも、ひとつ分かりました。鷹村先輩は、本心はともかく、望まれた性別を演じていることがあります」
「……そうだね」
風が薙いだ髪を押さえながら、鷹村は肯定した。
「伊納くん、お願い。ゲームを続けて」
「はい。もちろん」
どうか、私を見付けてね。
鷹村紅緒の願いが、声に出されることはない。