きっとジャンル違いだとしても 作:ふなぐち又兵衛
高1の冬休みが明けてからは、途端に忙しい日々が始まった。
いや、クリスマスイブといい、元旦の翌日といい、
年末年始は事あるごとにカナに溺れっぱなしだったから、
そこでふやけた心身が、事態についていけなくなって、
尾を引いているだけかもしれなかったけれど。
そう思って傍らのカナを見ると、
ぷっくりした唇が一度ネコの口許を模したようなカタチをとってから、
頬を薄く染めながら黒縁眼鏡越しに目をつむった彼女が、そっと唇を突き出して──。
『イマはそれどころじゃないだろう、アホウが』
革手袋を嵌めたヒコザさんの右手に握られたハリセンが、
カナの脳天にためらいも遠慮もなく振り下ろされて。
快音と重なった気が抜けるソプラノの悲鳴が、
どこか剽軽な気配を帯びて、おれたちの鼓膜を振るわせた。
「ぼーりょくはんたーい! おーぼーな使い魔のげこくじょーをゆるすなー!」
『ダマれ、ツガイとチチクりあうのはネるマエのシンシツでだけにしておけとイっているだろう』
垂れ気味の目尻に涙をにじませながら頭を両手で抑えた、おれの恋人のカナと、
表情を形作るものがひとかけらもないのに明らかに顔をしかめていると分かる、
等身大の全身骨格を模した
この場にいる人が揃って表情を苦笑いか呆れのカタチに歪ませるのが、なんだか申し訳ない。
「……うちのセンパイたちみてーでやんの」
そんな風にポツリと紡がれた声変わり前のボーイソプラノは、かつてこの屋敷を訪れた、
カナのオフ会仲間の人たちとは、似て非なるぶっきらぼうさを帯びたものだった。
ぱっちりした目と小ぶりにまとまった形の良い鼻と口が印象的な顔に似合わない口調をした、
先祖の血がそうさせるのか、まるで巣穴から顔を出して耳をそばだてる仔ギツネのように。
「それどーゆー意味なのさ
「ひよこニキ、だとこの場にはそぐわねんだっけか、
なら……ブラザー
「え、めどい。
それにさあ、じきにメシアンやめるつもりなんでしょ?
なら、名字で呼ばれるのにも慣れといた方が良くない?」
「時間かけて改宗すっからまだ
「えー? 長くない? 霊視さんも他のみんなも怒らないの?」
「……わり、あの人らの話は勘弁してくんね?
例の眼鏡抜きのメガネ置きとかそのツレとか、
そいつらの先生夫婦とかに色々詰められたのは、
なるだけ思い出したくねんだわ、教わった内容はともかく」
「あー……うん、だろうねえ……ごめんね?」
──なんつーか、小学生同士の揉め事にしか見えねえな。
血の繋がりは無いはずなのに、
そっくりな表情で揃って肩を震わせる小柄なふたりを目にして、
頬を掻きながらつぶやいたのは、
おれの友人にして、ここの家主の恋人である
「ごめんなさいねえ、うちの新人のコが、こどもみたいなところをお見せしちゃって」
そんな伊東のつぶやきに返される、やや高めながらも甘いという概念をカタチにしたような声。
背の中程まで伸ばしたふわふわの金髪をシニヨンにまとめ、ムチムチした体型を、
半ば無理矢理に黒いツーピースのスーツに押し込んだとおぼしき外国人──ちなみに、
本人曰くアメリカ出身らしい──の女の人が、流暢に紡いだ謝罪の言葉だ。
彼女に声をかけられた伊東は、
どこか腰が引けたような様子で、先程当人から告げられた名前を呼んだ。
「シスターさん……シスター・リュンヌ?」
「あら、リューンと呼んでくださいな、Mr.イトー。
もちろん、あなたたちも」
「あ、ハイ」
グイグイ来るなぁこの外人さん……ただ、小首をかしげて微笑みかけてくるのはどうかと思った。
金髪碧眼の容姿にしてはあどけなく親しみやすい顔立ちとは対照的に、出てほしいところは出て、
引っ込んでいてほしいところは引っ込んだ、砂時計じみた体型のコンビネーションがえぐいから。
ああ、伊東の隣でほのかに口許で弧を描いた
そういえば、葛城さんといい、おれたちの担任である
このシスターとだいたい同じような体型だった。
普段から見慣れてはいるから、おれたちには彼女への耐性がついていたんだろうか。
そんなしょうもないことを考えていると、
聞いた人の耳の奥にチクリと突き刺さるような、押し殺した小さな声が届いた。
「何が、呼んでくださいな♪ だ、海外の土偶*1みたいな体型しやがって」
「みか
「
「あ、すみません」
少しの間をおいて、まあ、
白いセーターと青いデニムスカートに身を包み、
頭に太めの白いヘアバンドを着けた、ハタチくらいの女の人が低めの声を漏らし。
カナと、そのオフ会仲間である
誰にともなくかすかに頭を下げたので、芳香を帯びた豊かな長い黒髪と、
その発言通りに、シスターと遜色ないご立派なものが、ユサっと揺れた。
視線をそらしながら、ブラザーカムイと名乗った少年──小学生くらいにしか見えない彼は、
実のところおれたちと
「うちのシスターたちと同じような
「ブラザー、めっ、ですよ」
「う、すんません」
しかしこう、なんだろう、こうして畳敷きの広間で、
座布団の上に腰を下ろしてじゃれ合う姿を見ていると、
気のおけない外人の姉弟くらいにしか見えない。
このふたりは本当にメシア教徒という、はた迷惑なカルト組織の一員なんだろうか。
この場にはいない、去年の11月の末に顔見知りになった、カナのオフ会仲間のうち、
少年……北原、くん? と似たような容姿の
メシア教に対しては、あまり良い印象を持っていないようなことを口にしていたけれど。
「ありゃ夏の、ナナさんといっしょになる直前の頃だったかなあ。
おれも平井さんも、
『
みたいなことを異界で出くわした手羽先連中に言われて、
よってたかって
てか男のおれまでなんでマリア呼ばわりされたんスかね?」
そう話して顔をしかめた黒井くんや、半眼になって舌を出す平井さんを思い出していると、
伸ばした金髪をうなじで結わえた黒井くんのカノジョさんが、彼の魅力を語りながら、
「ゆーちゃんはウチだけのもんや!」などと怪気炎を上げる姿まで浮かんできてしまい、
おれはそっとため息をついた……と、そういえば。
「ねえカナ、この女のひとは、誰?」
「ん、
しばし言い淀んだカナは、やがてどこか恥ずかしそうに、
「……ヒキコモリ予備軍としての先輩、かな?」
「あー……」
そう口にしたカナともども、再び軽く会釈した沢巳さんもまた、
長い前髪の狭間から覗いた右目を細め、眉尻を落としながらも、ほろ苦く微笑んだ。
ふたりともクセのない長い黒髪と、丸みを帯びた色白な顔立ちなのもあいまって、
姉妹ですと言われたら、納得してしまいそうな雰囲気だったと思う。
「
「は、はあ……」
「まあ」
おれが彼女の告白にどう応えたものか迷ってるところに、
シスターリュンヌの声が挟まった途端、
沢巳さんの穏やかだった声と苦笑に、再び尖った色が混ざった。
「ええ、おかげさまで、
白く長い指が、左半面を覆っていた前髪をそっと掻き上げると、
あらわになった額の生え際から顎のラインにかけて走り抜ける、
ひと筋の赤い稲妻じみた傷痕が、痛々しく左の瞼を塞いでおり。
おれだけでなく、シスターも息を呑んでたじろぐのがわかった。
周囲に構わず紡がれる、沢巳さんの氷柱のような声が耳に痛い。
「トチ狂った
命と貞操ばかりは、奪われずに済みましたけれど」
覚醒者の目には蒼く見える隻眼に刺し貫かれ、
空気が冷えた畳敷きの広間には、
北原くんの言葉にならないうめき声が響くばかり。
自分のそれと同じ色をした、
シスターのただただ悼むようなまなざしが、
いかにも癇に障ったと言わんばかりに、
沢巳さんは再び左半面を前髪で隠して、口許を吊り上げた。
その左右に口角を引き裂いたような嗤い顔は、
かつて見た舞原さんのそれと、良く似ていた。
湛えられた敵意の量は、段違いだったけれど。
「まあ、私のことはお気になさらず。
こうして図々しく出しゃばりに来ただけですので」
──あと、私と似たような
そう結んで沢巳さんは、
視線を北原くんとシスターから外して身を引いた。
ふわりと甘く毒々しい香りを髪から漂わせながら。
すると、沢巳さんが引いた分の距離を、
身を乗り出すことで詰めたシスターリュンヌが、そっと手を挙げて口を開いた。
「あの、Ms.サワミ?」
「…………何か?」
「その、キズ、私に、手当てをさせていただくことはできませんか?
私は、癒しの奇跡……ディアラマを授かっております。
欠損した四肢や、潰れた臓器のひとつふたつなら、再生させることもできます。
だから、あなたの左目も……」
どこか身悶えするようなスーツ姿のシスターがここまで口にしたところで、
沢巳さんは彼女の言葉を断ち切るように「いいえ、結構です」と拒絶した。
が、横目で見えたカナの困ったような視線か、
もしくはシスターの隣の北原くんが、ほのかに硬くこわばらせた表情か。
あるいはその両方の圧に耐えられなかったものか、
数拍の間を置いて、どこか気まずそうに言葉を継いだ。
「そもそも、この左目は、ディアもパトラも効かないんです。
私は、あンのクサレ害鳥のナマクラで斬りつけられた時に覚醒したんですが、
その際に、余計なモノにまで目覚めてしまいまして」
ため息をひとつついた彼女は、白いセーターの袖を
異界で悪魔相手に
女性らしいすべらかな肌と、刃を振るうことで培われたらしい筋肉を備えた前腕には、
冬の朝の霜を思わせる透き通った小さな鱗が、産毛の代わりにうっすらと生え揃っていた。
「ヘビの、鱗?」
「ええ、その通り。
ガイア連合の方で調べていただいたら、
私は邪龍テオイヘビ*2の、デビルシフターになった、と。
江戸時代の怪談に出てくる、
キズだらけでボロボロのゾンビのような姿をした、復讐と恐怖を司るヘビの妖怪が由来だとか。
おかげでこの左目はキズで潰れているのがデフォルトと見なされるし、
感情が昂ると吐いた息に毒が混ざるし、こうして手足には鱗まで生えてくるしで散々ですよ。
いくら暑くても、人目があるところでは気軽に薄着になれませんから」
口許に手をやったシスターと、
鱗に覆われた白い腕を凝視しながら疑問の声をあげた北原くん、
そして歯軋り混じりに吐き捨てるような口ぶりの沢巳さんをよそに。
「……でもさ、みか姉の毒って、だいたい血行を活性化させてえっちな用途に使うヤツだよね?
男の人を元気にしたり、女の人を敏感にしt「わーわーわーわー!!」」
「「…………ぱーどぅん?」」
わがいとしのちいさなお狐様が、とんでもない爆弾を放り投げてくださりやがった。
途端に顔を真っ赤にして腕(と胸元のご立派なもの)を、
ぶんぶんさせながら喚く沢巳さんの醜態…じゃなくて姿も、
一瞬それに視線を吸い寄せられて慌てて顔を背けた伊東も、
間髪入れずにその後頭部をノーモーションで引っ叩く葛城さんも、
シスターと北原くんが漏らした「なんだって?」というつぶやきも、
舞原さんの「刀に纏わせて斬りつけた相手の出血を酷くさせたりもできるけどね」
という、苦笑交じりの補足も、すべてが虚しい。
「そ、そうです! それ! 失血を悪化させる毒!!
かー! つれーわー!
カッとなると敵も味方も自分さえも!
キズから血が止まらなくなる体質がつれーわー! かー!!」
「いや、そんな『ギザギザハートの子守唄』みたいなヤワな制御してないでしょみか姉。
あたしもナギ姐さんもこうしてケロッとしてるし。
……そもそも、あたしが
主原料はみか姉の血じゃん」
『うわあ』とその場に居合わせたほぼ全員の声が重なったのに被せるように、
カナも眉尻を下げつつ、目元と口許で弧を描きながら暴露を続けた。
やめてあげて、彼女のライフはもうゼロよ。
そう北原くんが謎の言葉を口ずさんでいたが、何故かむしょうに頷ける気分だった。
「おかげでうちの両親は夫婦円満。
今日もおかーさんはお肌も髪もツヤツヤ、おとーさんとラブラブ。
いつもありがとうね、ふたりとも」
カナが呑気にのたまうお礼に律儀に返される、「どういたしまして」の声がふたつ。
苦笑を深める舞原さんのアルトと、恥じらいの余り跳ね上がった沢巳さんのメゾソプラノだ。
「……あー、ひょっとして、あれか?
沢巳さん、ア…ナタ、ですかい?」
「その名前で呼ばないでください! くちなわネキ! くちなわネキです!!
少し髪の毛量が多くて骨太なだけじゃないですか!
「前から見たら*3ふみふみとか*4オカマニ系だけどな……ただし、薄い本の」
「……野良ヒグ◯の同人CG漫画に出てきそうな顔のキミにだけは言われたくないです、
と、いいますか、もっとこう、優しい口調で話しましょうよ北原くん、
そんなガサツな話し方なんて、森島コ◯くらいしかよろこびませんよ」
「急に冷静になんなし。
あとアンタの見た目で◯良ヒグマとか◯島コンとか言われると違和感エグいからやめてくんね。
てか、なんでそんなエロ漫画家に詳しいんだよアンタは」
「うぐ……だ、だってガイア連合はその……
「まあそりゃそうだけどなー……むしろヲタクじゃねえヤツの方が浮いてたまであったわ、
眼鏡とコートの猟師みたいな人と、毛皮羽織った豆タンクみたいなねーちゃんのカップルとか」
「お労しや 保護上に牡丹上……まー、みか姉も、TS勢の『俺ら』だもんねえ」
「良い人さんまでいるものね、ちょうど北原くんと似たような雰囲気のコ」
「Ms.マイハラ、そのことについて詳しく教えていただけますか?
それとMs.クロカワ、ティーエスゼーとは?」
「あの、
「えーと、生まれつき男心にヤケに詳しい女の人、ですかねえ?」
「お隣のお家の生き残りの男の子で、実香さんとは小さい頃からの幼馴染だったとか」
「……それなんてえろげ?」
「北原くんうっさい!
あと凪さんも伽奈ちゃんもプライバシーの侵害はやめてもらえませんかァ!?」
北原くんと沢巳さんの間に急激によそよそしさがなくなりつつ、
どこかディープな雰囲気を漂わせた会話を重ねる一方で。
カナと舞原さんはくたびれた笑顔でこちらも
それにしてもシスターリュンヌの食いつきの速さはいったいなんなんだ。
葛城さんも乗らないでほしい。
おれは置いてけぼりを食らった伊東ともども、
ヒコザさんの『ここにはアホウしかおらんのか?』
という苦々しいボヤきのカタチで発せられた念話に、
「たぶんそっスね」「類が友を呼んだんじゃないかなと」
などと応えることしかできなかった……えーと、どっと、はらい?
「まー、北原くんの
この辺に湧いた夜魔の間引き手伝ってもらうとっかかりにはなったんじゃない?
北原くん、そのうちこの辺にガイ連の派出所を建てて、
今居る教会の人も、
……いや、もう教会の人たちは、一神教に寝返る準備始めてるっぽいね、
年明け早々、霊視さ…ガイ連の対メシアンスペシャリストによる、
圧迫面接みたいなことがあったとかも言ってたし」
とは、騒ぎが治まった後で、カナが語ってはくれたけれど。
ただ、
「……まあ、派出所建てるまでに、まず間違いなく、平城先生に食べられるんじゃないかな?
平城先生、黒井くんとか
葛城さんたちと北原くんの教会の人たちとでお互いの顔合わせした時にも、その……ね?」
との未来予想図は、聞かなかったことにしたいと思う。
おまけ・初期のガイア連合における装備事情といえば
それは去年のゴールデンウィークにおける連休期間、
山梨県は星霊神社の片隅に設けられた、休憩所というか雑談用スペースでのこと。
全身を隈無く駆け巡る激痛と、それで溢れた血液その他もろもろの体液とにまみれながらも、
投げ入れられた無明の闇から覚醒して、あどけない容姿と天を駆ける翼を得た水橋くんや、
火だるまのちオンギョウキさんによるサンドバッグ体験から、
二足歩行の豆柴と化した黒井くんと同じく、覚醒者になることができまして。
当時から既に覚醒はしていたけれど、
ヒトや天使の翼の毛根を死滅させるのが関の山な威力のムドと、
あとはせいぜいンダ系しか使えなかったからと、
ハマやムドの漬物になった弾を撃てるように改造されたガスガンで武装したナギ姐さんと。
顔のキズが未だ生々しいものの、幼馴染の子と新生活を始めたばかりの、みか姉と出会い。
見た目の雰囲気が近かったとか、
前世で楽しんでいた漫画のジャンルが似ていたとかで意気投合して、
3人で星霊神社の異界に潜るようになったのですが。
……話はズレますけど、
脱毛ネキとツチノコネキが並んでると仲村レグ◯の薄い本みたいだ、
これで地味子ネキが内気なショタだったら危なかったとか、
わたしたち3人が揃ってると、
どこからともなく『ぼくたちの失敗』が聞こえてくる気がするとか、
掲示板の『俺ら』は口さがない人の声が大き過ぎると思うんです、くそがよ(国歌斉唱)
ちゅーかね、◯村レグラって誰なのさ?
悪魔相手に無銘の刀や、
マグネタイトとマッカやフォルマを、相手の命ごと強奪して来た、のはいいものの。
神主さんのご厚意で支給されたとはいえ、
さすがに悪魔の爪牙や拳、魔法相手には耐えられない作務衣の脆さに、
みか姉が「どうにも頼りないんですよね、これ」と零したのが始まりでしたっけか。
「みか姉は前衛だし、どたぷん! だもんねえ……あたしと違って」
「どたぷん言わないで」
わたしの軽口に、みか姉は前髪から覗く右目を、
普段の3割増でじっとりとさせて羞じらいを見せてましたが。
修行場異界上層の道中で、オークやボーグルに出くわした途端、
──死ィねよやァああああああ!!
と、おしとやかな雰囲気と声質に似合わない雄叫びをあげながら、
今世での父方のおじいさんの形見だという、神社にまで持ち込んでいた無銘の刀で、
片っ端から首を刎ね飛ばし、あるいは脳天をかち割ってた姿は、まあ、ハイ。
前世は男性だった影響が、良い意味で出ていたと思います。
ただ、彼女の身のこなしの方は、気迫や殺る気にイマイチついていっておらず、
悪魔たちの反撃を、たびたびもらってしまっていたのは、要改善だったかなと。
おかげで、傷薬やら魔法やらで外傷が癒えはしても、
着ていた作務衣がボロッボロになっちゃって、多分に目の毒なありさまに。
わたしが「どたぷん!」と形容したのも、納得していただけると思います。
で、わたしがいつものネコ
みか姉の湿度80%オーバーな視線を受け流してたところに、
ナギ姐さんがミルクたっぷり砂糖マシマシなカフェラテ……いや、
彼女とおなじく製造部に所属してる、耐性装備職人の
「ありゃインスタントコーヒー溶かしただけの砂糖牛乳だ」
と煤けた表情になる飲み物を、人数分持って来てくれて。
それをおともにわたしたちの話を聞いたところで、
ほんのり華やいだ気配を漂わせながら口を開いたんでしたっけ。
「あら、そういうことならちょうどよかったかしらね。
製造部からシキガミ用の装備がいくつかダブついてるって連絡が来たし、着てみない?」
「え、本当ですか?」
ナギ姐さんからの情報を耳にして、渡りに船と言わんばかりに、
こちらも表情を幾分明るくして、みか姉が乗り気な様子を見せますが。
わたしは彼女を制止しながら、
対面の長い手足とメリハリの利きまくった体型がどうにも作務衣とは似合わない、
わたしと同じく腰に届きそうなストレートの黒髪を伸ばし、
ただしうなじで巫女さんめいてひとつに結わえた、
目の下のクマがえげつない長身の美女に、こう訊ねることにしたんでしたっけ。
「ナギ姐さん、その装備のデザインって、どんなやつ?」と。
わたしの質問に「あっ(察し)」と言いたげな顔になったみか姉をさしおいて、
「察しのいいコは大好きよ」と、
油性マジックの太い方で書いてありそうな苦笑いを浮かべた、ナギ姐さん曰く。
「……フレンチと、ヴィクトリアンそれぞれのエプロンドレスと、ビキニアーマーだけど」
「……1着ずつ?」
「いいえ、ご丁寧に私たちそれぞれの身長や体型に合いそうなのが3セット」
そして、女神転生世界でなければ『天使が通った』と形容されそうな間を置いて。
「ヴィクトリアンでお願いします」
「おなじく」
「満場一致ね」
こうして、ナギ姐さんのパンツスーツ型シキガミが完成、彼女の手元に届くまでの間にて。
星霊神社は修行場異界の上層には、ロングスカートの裾を翻しながら、
日本刀を、金属バットのちに三段警棒型の武器シキガミを振るい、
破魔や呪殺の魔力を帯びた弾丸を撃ち出すエアソフトガンをもって。
ドブ川が腐ったような色の目のメイド長に率いられた、
黒曜石が罅割れたような色の目のロリっこメイドと、
海原が汚染されたような色の目のムチムチメイドのコンビが。
異界の悪魔をルンバめいて、
根こそぎにしていく姿が名物になっちゃいましたとさ、めでたくなしめでたくなし。
私ハ おねショタノ味ガ 好キダ(黒沐死並感)
世迷い言はさておき、
警棒型シキガミで武装してるとはいえ、うすほそちんちくりんの地味子ネキと、
豆柴ニキの婆ちゃん用の剣鉈の製造だ、もしくはイタズラ脱毛呪詛だなんて脱毛ネキが、
ふたりだけで修行場異界を探索できるか?
と考えて、地味子ネキのアガシオン以外にも、
前衛を張れそうな修行僧仲間がいたんじゃねえかなと思い、今回登場の彼女と相成りました。
そのぶん割を食わせてしまったカタチの彼は……うん、マジでごめん、次回以降に書きます。
いつも通りしょーもない卑猥なネタまみれの話ですが、
ここまで読んでくださってありがとうございました。