きっとジャンル違いだとしても 作:ふなぐち又兵衛
今回の話は、血涙鬼・彼岸さんの『凡庸でありふれた転生者達の小話』の、
『番外編その9 黒いサンタクロースの贈り物?』より、一部ネタをいただいております。
それは、私が今世での成人式を迎えた翌年の、節分の頃のことだったと思います。
「30歳になる前の交通事故だったかしら、前世の享年と死因は。
保育士の仕事にも、やっと慣れて来た頃だったんだけどねえ」
「あたしゃBL本読みたさに東京で事務員やってたんよ……まー、
食費を削り過ぎて、四十路くらいで早死にしちゃったけどさあ」
「おれは発電所の周辺設備の点検をする作業員だったんス、
ハタチんなってすぐに寝タバコでセルフ火葬しちまいましたが」
何故か発達していたネット上で『俺ら』と名乗り同類たちで呼びあう、
悪魔の影も形もない平穏な日本の記憶を持った、転生者たちが集った、
平成の始め、山梨県は富士山に建つ星霊神社、修行僧用の宿舎の片隅。
甘ったるいカフェラテの香りがほのかに漂う、
暖房の効いた談話室めいた、広めの一室にて。
あるいは頬に手をやり、あるいは自嘲の笑みを浮かべ、あるいは顔をしかめて。
自らの前世を語る彼女たちや彼の話に相槌を打ちながら、私が口にできたのは、
「前世のことは、余りハッキリとは思い出せないですけど。
生き甲斐と死因が
のような曖昧な内容だけでした……さすがに、ありがとう鯨川リョ◯とか、
ありがとうあやとあや◯などと、声に出して言うのは恥ずかしかったので。
話は変わりますが、どんなジャンルの漫画の作者さんなのかわかった人は、
ガイア連合山梨支部で私と握手……じゃなくて。
「前世込みだと豆柴さんは40歳、脱毛さん地味子さんは60歳くらいなんか……そんで、今世は?」
「あー、今世は、その、ね?」
「そっスね、いや、おれはフツーに大学入るとこまでは来れたんスけど、見た目が、なあ」
「あたしも、ストーカー被害受けて高校入学から1カ月くらいヒキコモリがちだった以外は、ね?」
ひよこニキと名乗った
おなじく良くしてくれた
地味子ネキと豆柴ニキが、顔に似合わない痛々しそうな目で、
「実家との決着はつけられたからいいの」
脱毛ネキがそう苦笑いを浮かべるのに、私も同意の首肯をすることしかできませんでした。
……とは言ってみたものの、私も、決着をつけられたんでしょうか。
あわあわする可愛らしいふたりと、今更ながらに自分の問いの不躾さに思い至ったらしく、
欧州の血が色濃く出た、こちらも小さく華奢で可愛い容姿をした男の子が頭を下げるのと、
苦笑を深めて手を振る目の下のクマが酷い男装の麗人を尻目に、私は半生を振り返ります。
吐息に混ざらんとする
今世にあったものは、白。 そして、青と、金。
それらの色がふんだんに使われた、清潔ながらどこかハリボテめいた内装の、広い家。
もの静かな線の細い父に、おしとやかで整った顔立ちと、ふっくらした体型をした母。
私の今世での生家と似たような家に住む、外国の血を感じる容姿を持った隣人の夫婦。
私が小学校に入った頃には、そちらにも玉のような赤ちゃんが生まれて。
まさに家族ぐるみでの付き合いをしていたんでしたっけ、信仰を介して。
──
思春期の辺りから、オタク向けの漫画やゲーム、アニメに没頭しながら、
吹けば飛ぶような木っ端の大学を出て、似たような規模の会社に就職し。
不惑の頃に不摂生の結果、心臓が止まったような記憶がうっすらと残っていた私は、
日に日に生みの母に似てくる容姿に戸惑いながら、学生生活を送っていたのですが。
──どっからどー見ても、長野県生まれで本の虫な某アイドルの三次元版でやんの。
ソシャゲも音ゲも遊んだ覚えはねーんだがなあ、薄い本にはお世話になったけど、とぼやいて、
私は鏡の中の、しっとりとした黒い前髪越しに見える
ちなみに、これは余談になりますが。
ショタおじこと、神主さんを筆頭に、
霊視さんやちひろさん、ミナミィさんエドさんのように、
前世で目にしたようなアニメや漫画、ゲームのキャラの、
三次元版みたいな容姿をした転生者は目立つんですよね。
私も、ここ星霊神社にて、少なくはない数の自分の……いや、例のアイドルのそっくりさんを、
自分と同じ転生者も、嫁シキガミも込みで見かけてびっくりしましたっけか……それにしても。
『目が死んでる方』『ポン刀を振り回す方』『地味子ネキや脱毛ネキとつるんでる方』
『
どうにも私と凪さん伽奈ちゃんを揶揄するような雰囲気なのは何故なんでしょうか。
洗面所を皮切りに、私は先日亡くなったばかりの祖父母の家の中を見回ると、玄関先で一礼。
思春期での人間関係構築に失敗した高校を成績任せに卒業してから成人式を迎えるまでの間、
家事手伝いとは名ばかりの穀潰しでしかなかった私を迎え入れて、
養ってくれたふたりには、感謝してもしきれない、というもので。
「
「
と、生前のふたりは言ってくれましたけれど。
居場所と、出来ることをくれたあなたたちにこそ、
私はふたりがかけてくれた
そう、今世の生みの親が無条件に信じて崇拝する、天使サマなんかよりも。
天使サマ、天使、てんし……背に翼を持った、唯一の神の、使い。
そんな、いわば使いっ走りの存在にぬかづくのが、私の今世の両親であり、隣人夫婦であり。
前世の創作物で目の当たりにした、メシアンなる、
──生家がメシアン、メシア教徒って、なんだよ。
──今世は、メガテンの世界、なのかよ?
──
そう、令和が始まった頃の日本に生きていたハズの
現代社会とともに東京が滅び、残った荒野には、
人に仇なす人ならざるものどもが跋扈するという、
テレビゲームの世界にそっくりな、平成の日本だったらしく。
思春期が始まった辺りから、前世の記憶が色濃く蘇って来た私は、
今世での同性からのやっかみ、異性からの欲望の視線にも苛まれ、
胡散臭い海外の新興宗教の信者の娘だという、ダメ押しもあって。
色々と心身の不具合が重なって、高校生活もままならなくなって。
進学も就職も考えられないままに、父方の祖父母のもとに転がり込んだんでしたっけ。
……ふたりとも、カルトの紐付き女に誑かされて、
自分たちと家を捨てたようなカタチになってしまった、
放蕩息子のこどもなんかを、よく引き受けてくれたもんだ、と。
今更ながら、祖父母への感謝が湧いてきます……ああ、こどもといえば。
──あの子だけは、なんとか、したいよな。
「戦後すぐのドタバタで実家が潰れた時、これだけは持ち出せたんだわ」と、
ほろ苦く笑って語っていた、祖父の遺品である刀を袋越しに握り締めながら、
うつろに鳴くキャリーケースを引き連れた私は、祖父母の家を後にしました。
その時、私の中にあったのは、私になついてくれていた、隣家の男の子のことばかりで。
光の当たり具合で金色にも見える淡い茶色の髪の毛、
手のひらに優しいその感触、くすぐったそうな表情、
思わず抱きしめた時のぬくもりと、安心を誘う匂い、
耳朶を
……私の心身が、どんどん女のそれに近づいていくにつれて、
彼と、その……そういう仲になり、なってからの妄想に耽り、
独りよがりな愉しみに溺れ、何度自己嫌悪に苛まれたことか。
いっそあの子を……けーくんを
そんな身勝手な妄言がある意味で成就してしまうなどとは、
この時の私は、髪ひと筋ほどにも予感していませんでした。
しかもそれが、自他の血に
片田舎の路線バスを経由して最寄りの駅へ向かい、そこから電車の座席に揺られること、数時間。
その道すがら、私はガイアフォンと銘打たれた携帯端末から、
前世の記憶を持つ同類たちとのコンタクトをとっていました。
祖母の後を追うように他界した祖父の葬儀の手続きやら、ふたりの遺産の確認やら。
遺品である刀の登録証の書き換え……の前に、祖父母の家と所有権の引き継ぎやら。
再びの人生でも厄介かつ億劫な諸々のことを、掲示板越しとはいえ、
ハタチにならずの名ばかり家事手伝いでしかなかった当時の私でも、
どうにか全うできるようにアドバイスをしてくれたお礼を述べると、
「いいってことよー」のような気のいい返事が続々と書き込まれて、ありがたいばかりで。
──山梨のオフ会に参加はよ、そんでいっしょにショタおじの拷問受けようぜ。
──覚醒できたら是非ともスケベ部へ! ネキみたいな美少女なら大歓迎よ!!
──おいおい『俺たち』相手にヤリモクとかきめーよ、それよりネキには、
シキガミ用の霊装の着用モデルの仕事を受けてほしいなー、なんてね。
──とか言ってオメーもネキにハレンチなカッコさせるつもりなんだろ!?
ヒワイな薄い本みたいに! 肌色が多めのえっちぃ薄い本みたいに!!
などと下心が所々透けて見えるような書き込みの数々もテキトーにあしらって──うーん、
地味なセーターとカーディガンを着た上で手で目元を隠していたとはいえ、
バストアップの自撮りを掲示板にアップロードしたのはやり過ぎでしたかね?──いると、
いつの間にか、私は今世の生家の前へと辿り着いていました。
2階建ての白を基調とした一軒家を目にした途端、
ハリボテみたいとの呟きが、口からポロリと零れます。
正直、この時点で私は踵を返して、
そのまま星霊神社のある山梨県を目指すべきだったのかもしれませんが。
「実香姉さん!」
「……けーくん」
私が足を止めた途端に隣家の玄関から飛び出して駆け寄って来た、
私より頭半分ほど小柄な、ボーイソプラノと明るい薄茶色の髪の持ち主が。
2年ぶりに味わうことのできたぬくもりと、鼻腔から心を満たしてくれた快い匂いが、
2年前より少しだけ高さと厚みを増した抱き心地が、そうさせてはくれませんでした。
4月の終わり頃のあたたかい日なたを擬人化したような、
私の腕の中から見上げてくる薔薇色の頬をした彼の笑顔を見ていると、胸とカラダの芯が、
熱と潤いを帯びて疼くのがよくわかります……メスカクエン亜種と呼びたければご自由に。
きっと、伽奈ちゃんと私は、
さておき、腕の中の2年ぶりのぬくもりと匂いに、表情やら何やらをしばし蕩けさせた私は、
ふと気を取り直して彼に訊ねました、「ところで、あの人たちはどうしてるの?」と。
私の真顔での問いかけに、ひまわりのようだったけーくんの笑顔が瞬く間に翳り、無言が蟠り。
彼には似つかわしくもない生気の抜け落ちたような顔での返答は「おかしく、なった」でした。
そのまま無言でうつむいてしまったけーくんを、私がそっと抱きしめ直していると、
今度は今世での私の生家の方から、扉が開かれた時の軽い金属音が届いてきました。
──おかえりなさい、実香。
正直なところ聞きたくもなかった、今世の母の声。
彼女に続いて気配もなく顔を出す、今世の父の姿。
出待ちしていたのかよと疑いたくなるように、腕の中の彼の両親までも隣家から出て来て。
当時覚醒していなかった私は、抱きしめていた彼もろとも、強引に玄関の中に連れ込まれ。
生涯
押し込まれた生家は、広めの間取りも、白を基調とした内装も、一昨年と変わらず。
いいえ、白と青と金の護符じみたセンスのよくないインテリアが増えていましたか。
「どうやっておばあちゃんの、おじいちゃんの他界を知ったのかは知りませんけど、
私はもうここには帰りません、今後は関わってこないで」
こう言って、けーくんの顔だけは見て、
『小細工』のタネを手配してくれた
それがこの上なく甘い考えだったと実感できたのは、前世のテレビゲームに出てきそうな、
安っぽい甲冑を着た有翼の美丈夫が、居間の虚空から姿を現した時になってしまいました。
長めの白髪を撫でつけた首から上と二の腕、
背中の両翼だけがあらわになったその姿は、
とても気障ったらしくハナにつくと感じて。
私を見る視線が卑しく舐め回すような毒気を帯びていたのに、
表情ばかりは随分おキレイに取り繕っていたからでしょうか。
そんな風に私が前髪の隙間から目を
カタチだけは良い唇が開かれ、快いハズの声が私と彼の親たちにかけられました。
「人の子らよ、これがあなたたちの話していた
はい、てんしさま。
そう吐かす今世の母……いや、このカラダの遺伝子提供者の片割れ。
そして恍惚とした顔のもう片割れと、図々しく居座る、隣家の夫婦。
視線を移してみれば腕のなかの彼からは表情が抜け落ちていて、
私は歯軋りや舌打ちの代わりに、彼を抱きしめる力を強めます。
──山梨のオフ会の連中の言ってたまんまになっちまったか。
そう吐き捨てたくなる衝動をため息に載せて追い出しながら、
私たちを害する意思の有無の最終的な確認も兼ねるつもりで。
まりあこーほ、ってどういう意味ですか、と私は訊ねました。
すると、我が意を得たりと言わんばかりに口を開く美丈夫が、
「救世主の母となる栄誉を得られる幸いなる人、という意味で……」
などと、私がガイア連合に所属してから出くわすようになった害鳥の例にもれず、
判で捺したような『ヤラせろ』という内容の寝言をもったいつけてさえずるのに。
私の脳裏に響いたのは、前世から脆かった堪忍袋の緒がぷちんと切れる音でした。
「ふざけないで」
──誰のための救世主だっていうんですか、どうやって産ませるっていうんですか。
──私はけーくん以外の相手とそういう仲になる予定はないんです、ふざけないで。
したり顔の九官鳥が打てば響くように応えようとしたのを遮るように。
そう声を荒げながら、私はけーくんを背にかばいつつ、袋の紐を解き、
それから取り出した祖父の形見を抜き放てるよう腰だめに構えました。
背後からの「実香姉さん、その、嬉しいけど恥ずかしい」って蚊の鳴くような声?
それはもちろん、私にとってのタルカジャ……いいえ、ラスタキャンディですね!
一方、けーくんの言葉とは対照的に騒ぎ始めた狂信者連中に構わず、
私がいつでも腰の物を抜き打てるように力を抜いたのを目にしてか。
──よろしい、躾が必要なようですね。
青い鎧姿の害鳥もまた、杖つくようにしていた長剣を鞘から抜き放ちました。
スコットランドのクレイモアといいましたか、
あの大剣のように、両端に輪を連ねたような飾りが付いた鍔が目を引きます。
西日を照り返す剣身が嘲るように輝き、鍔に気を取られた私の瞳に光の矢を射掛けました。
思わず目を閉じた私の耳が拾ったのは、私を案じるけーくんの声、床を蹴る重い踏み込み。
そして空を引き裂く風切り音……左半面に冷たいものが走り、残るは灼熱を迸らせた激痛。
欠けた視界には、デコをさらけ出した若白髪のなまっ白いツラがニヤついてやがったので。
蛇が威嚇するような絶叫とともに、
濁った呻きを吐きながらも、籠手に覆われた右手は長剣の柄を握りしめたままで。
斬り飛ばすには剥き出しの二の腕を狙わねえとダメか、と冷え込んでいく私の頭。
この刀で甲冑を抜けるか? 私はそんな達人じゃねえぞ?
狙うべきはどこだ? 露出してるのは首から上、二の腕、背中の翼、あとは。
──
「このッ……
「うっさいガチョウ野郎!」
長剣の切っ先が、欠けた視界を縫うように跳ね上がり、私の左半身を襲う。
怒鳴り合う私たちの殺意を載せた鋼が噛み合って上げた悲鳴で、耳が痛い。
いや、鼓膜の痛みなんざより、刺突の重さが、胸にめり込む肩が骨に響く。
痛えな畜生と泣き喚くことさえ出来なかった、
代わりに、私は首を伸ばして、欠けた視界を埋めていた、純白の左翼に齧りついた。
途端に耳を
口内に残った、羽毛と血肉のカケラを吐き捨てつつ、
私は、祖父の形見を大上段に振りかぶって、嗤った。
ムダにデカい胸が引き攣れて痛むのを無視しながら。
夏の海辺でのスイカか、さもなくば包丁でカボチャを叩き割った時のものよりは軽い手応え。
断末魔の叫びが白い喉から上がり、文字通り光を失った天使サマが、膝から床に崩れ落ちる。
うつ伏せにブッ倒れたところに、うなじから刀の切っ先を
素っ首を切断してやろうとしていた
両親を呼ぶけーくんの声、二度三度撒き散らされる火球、私の遺伝子提供者ふたりの──。
4人とも、一瞬で骨まで燃え尽きて、残されたのは床の焦げ跡だけでした。
その焦げ跡も、白かった居間も、私が流した血も、
有翼の亡骸の置き土産となったアギラオによって、
瞬く間に赤い炎に舐め回され、呑み込まれて逝き。
マグネタイトの燐光と変じて散ったアークエンジェルを罵る
私はけーくんと刀をかかえて、奇跡的に無事だったキャリーケースと、
おまけに刀を入れていた袋を鷲掴みに、扉を蹴破って脱出する破目に。
抜群のプロポーションと金髪碧眼が印象的な、
迎えに来てくれるまでの短い間、私は震えるけーくんを抱きしめることしかできませんでした。
──よく生きてたな、
回想から現実に帰ってきて、
何せ、山梨に着いてからの私たちを待っていたのは事情聴取と、
「軽はずみにメシアンの巣に近寄るな」という朝倉さんとその旦那さんからのお説教、
それらと並行した私の左目のキズとけーくんへの診断、判明した
ショタおじこと神主さんからは、「キミのキズは種族的なもんだねこりゃ」と言われ、
邪龍テオイヘビのデビルシフターであると自覚した途端、四肢の産毛は白い鱗になり。
その上オメーの吐息は毒じゃねーかこれ! と周囲の皆さんから騒がれもしましたし。
身寄りがなくなったばかりだったけーくんを心配させたのは、未だに気まずいですし。
あと、ひとしきり騒ぎになった後で、「この毒、血管拡張の薬にもなるんじゃない?」
と、朝倉さんがつぶやいたのをきっかけに、私たちの診断にも立ち会ってくださった、
サングラスと髭が目立つどこぞのサーカス漫画のラスボスにしか見えない
その教え子という、例のあの無免許外科医そっくりなお医者さんが淀んだ目になって、
──バイアグラかよ。
──赤まむしじゃないかな。
などとのたまっていたのは、忘れたくても忘れられないものになってしまいましたね。
……つーか、あの先生たちじゃねーだろーな?
まあ
朝倉さん夫妻とその教え子さんたちくらいな気もしますが。
だいたいの『俺ら』からは『ツチノコネキ』と呼ばれてしまってますし。
もしくは黒井くんとその友人カップルのように『
……黒井くんといい、ミナちゃ…
伽奈ちゃんや凪さんと下の名前で呼びあってる私の言えたことではないのでしょうけれど。
ああ、不用心といえば。
私はけーくんと似通った雰囲気の『
一拍置いてから訊ねました、「教会の人たちや、孤児院の人たちは、どうしてますか?」と。
すると、私が訊ねた彼のみならず、傍らでそれを聞いていた伽奈ちゃんまでも、
なんといいますか、苦笑とげんなりをないまぜにしたような表情になりました。
「一応はみんな無事っス、たぶん」
「だ、ね、うん……」
「一応? どういうことですか?」
私が再度訊ねると、ふたりとも濁りきった──伽奈ちゃんは黒曜石が罅割れたような色の、
北原くんは紅茶が溢れたような色の──目になって黙りこくってから、やがて口を開いて。
──例のあの、現地民覚醒用の、果実酒の生き血割カクテルを飲んで、その、ね?
──そのせいでほとんどの人が
──さすがにオレの孤児院のマザーやチビたちには、飲ませなかったんスけどね。
──ほぼガチの
──『厭だ! 儂はまだ死にたくない!!』なんてリアルで見聞きするとは思わねっスよね。
凪さんも交えて、揃って煤けた顔になっていたのには、どう反応すればよかったのでしょうか。
あと、私のけーくんまで、朝倉さんの教え子さんたちが関わったという、そのカクテルやら、
ガイア連合に所属する転生者が呼ぶところの現地民向けの霊装や術式の使い方の勉強会やら。
もしくは伽奈ちゃんの彼氏くんや、私とシュミの合いそうな高校の担任の先生、
ついでに北原くんの赴任先の先輩だったという、
もとメシア教のテンプルナイトたちとの交流によって、色々と騒動に巻き込まれたのは……。
私も、今のみんなと同じような顔をするしかなかったと思います……どっと、はらい?
おまけ・黒井有斗の懊悩
「黒川さん」
「ほいほい? どったの黒井くん」
「そっちの、久喜市派出所でしたっけか、
北原、くん? と、黒川さんと、黒川さんの友達の名家のお嬢様の、葛城さんと。
あと北原くんの古巣の教会の人らで立ち上げたっつー、新しいガイア連合の拠点って」
「だねえ、それとありがとね、夜魔の間引きとフォルマ集め手伝ってくれて。
旗揚げ早々、戦闘向けの人のほとんどが、例のお酒の副作用で寝込んじゃってさあ。
みんなレベル上限は上がったんだけど」
「いえ、こちらこそ。
ただね、その、教会の人ら、なんスけど」
「ほい?」
「北原くんと、テンプルナイトのセンパイだったっつー男の人はいいんス。
センパイさんは、うちの飯野さんと似た感じなんで、親しみも持てますしね。
ただ、司祭だった爺様と、金髪の方のおねえさんは、ねえ。
いや、司祭さんは
なんか気がつくとじーっと見てくるだけなんで、実害はないっちゃないんスけど、
金髪さんは距離感ちけえっつーか、肩や背中とはいえボディタッチが多いのがなあ。
作ってくれたクッキーはホントに旨かったんスけど」
「あー……リュンヌさんはそうだろうねえ、あたしもたびたび抱きつかれたりしてるし。
……やっぱり、ナナコさん、怒ってる?」
「ええ、そちらに行くたびに。
『ななみはんが落ち着いた
ゆーちゃんはウチのモンや、そない触らんどいてや腹立つわ』ってね」
「うん、伝えとくよ、あと一応謝らせてね、ごめんね?」
「いえいえ。
と、いいますか、リュンヌ、さん? も、正直なところまあいいんス、
おれがコボルトに化けると『あ、悪魔祓いに行かれるんですね、お疲れ様です』
みたいなことをいって、身を引いてくれるんで。
それはそうとして、おれがコボルトの姿になると、
今度は銀髪の方の姐さんと、教会付きだった天使の子がなあ、
急にソワソワしだすのはなんなんスかね?
天使の子なんてこの前、
『あの、ユートさん! コボルトに変身した時の頭を撫でさせてください!
できればうちのシスターライラといっしょに!!』なんて言ってきましたし」
「あっ(察し)」
「豆柴さん、ウチのモンがすんません」
「まあ、いいんスけどね、無理矢理じゃなければ」
「……ライラさんと、リュミエルちゃんサマも、ねえ。
教会に迷い込んだワンコ撫でたり、あたしの尻尾触ったりするのが好きみたいだから」
「あ、リュミエルっつーんスか、あの小せえ天使の子」
「ん、ちなみに、センパイさんはピート、おじーちゃんはパットって呼ばれてたね」
「それぞれピーターとパトリックの愛称だそうで。
……“Father Patrick's P is "patapouf"'s P”、ってね」
「"Pedophilia"'s P、じゃなかっただけマシかねえ。
ところで北原くん、仮にももと上司相手に、
そのフレーズはどーかなーってカナちゃんは思うんよ」
「おおう、ガンギマ…ライラ先輩以外にはウケたんだけどなー」
「っと黒川さん、ぱたぷふ、ってなんなんスか?」
「ふとっちょですわ」
「おなか出てるもんね、パットおじーちゃん」
彼女の過去と、彼の現在は、こんな感じで。
彼の古巣のメンバーの名前の出し方は不自然でしょうか?(黙らっしゃい)
あと、「あれ? くちなわネキはいつ覚醒したの?」と問われますと、その……。
まあ、本格的な覚醒は、アークエンジェルに左目を潰された時のハズなのですが、
アークエンジェルと関わったせいで低レベルとはいえ覚醒済だった今世の両親だの、
隣家の夫婦だのにもみくちゃにされた時に、悪魔の姿と声を見聞きできるくらいには、
半覚醒の状態にされていた、ということで、どうかひとつ(土下座)
何はともあれ、読んでくださってありがとうございました。