陰陽課特命係・対極院禊―浮気され禁足地に異動させられた警察官―   作:華洛

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12話 足止め

 

 

 

 

 タクシーが、廃校舎まで残り百メートルほどの地点で停車した。

 

「お客さん、この先は警察が規制線を張ってて通れませんよ」

 

 運転手の声は平静を装っていたが、どこか怯えた色が混じっていた。

 私は前方を見る。パトカーがいくつも横隊を組み、黄色い規制線が夜風の中でぎこちなく揺れている。

 その向こう──廃校舎は闇に沈み、まるで息を潜めてこちらを窺っているようだった。

 

「ここで降ります。ありがとうございました」

 

 運転手へ礼を言い、カードで支払いを済ませる。

 タクシーが走り去るのを見送ってから、私とましろは規制線へと向かった。

 

「すみません、ここから先は立入禁止です」

 

 若い警察官が私たちを制止した。

 

「警視庁陰陽課特命係の対極院です」

 

 私は警察手帳を提示する。

 警察官は手帳を確認したものの、苦しそうに首を横へ振った。

 

「……陰陽課の方でしたか。しかし、ここから先は刑事局長の命令で立入禁止になっています」

 

「刑事局長の?」

 

「はい。同じ警察官でしたら分かると思いますが……上の命令は絶対ですので。申し訳ありません」

 

 警察官は深く頭を下げた。

 ……刑事局長の命令に、一般警察官が逆らえるはずもない。

 私は軽く会釈を返し、ましろと共に規制線から少し離れた。

 

「禊さん。スマホで調べたんですけど……今の刑事局長、土御門黎明(れいめい)って人みたいです」

 

「……茉莉花のお父さん。相棒だった頃、名前を聞いたことがある」

 

≪ふぅん、キナ臭いわね。つまり、あの廃校舎にいるのは全員、土御門の息がかかった連中ってこと。何が起ころうと、真相は闇の中に葬れるってわけ≫

 

 ……嫌な予感が、じわじわと膨れ上がっていく。

 

≪でも、不思議なのよね。土御門の連中は、どうして妖人を蘇らせたいのかしら?≫

 

(安倍晴明の力の一端なんだから、子孫としては是が非でも欲しいんじゃない)

 

≪その安倍晴明が制禦できなくて封じたのよ。自分たちが扱えると思っているのなら、思い上がりも甚だしいわ≫

 

(……人間の欲には際限がないからね。いつもは理性で抑えているけど、それが外れれば欲に飲まれて身を亡ぼす)

 

 陰陽課に務めていると、欲に支配され、禁術や触れてはいけないものに触れ、身を破滅する人々を何回も見てきた。

 

≪なら、土御門の奴らは全員が理性の箍が外れたバカということね≫

 

(そこなんだよ。理性が飛ぶのは一人二人なら分かるけど、一族全員となると……不自然すぎる。むしろ第三者が、強い術で精神を特定の方向へ誘導していると考えた方が自然だと思う)

 

≪第三者……ね。単純に考えれば、一番復活したいのは妖人。じゃあ、妖人の思念を持つ……何者か……が……≫

 

 母さんは途中で言葉を切って考え始めた。

 妖人の思念を持つ者に心当たりがあるようだった。

 

≪……いたわ。きっと十二天将よ≫

 

(え。十二天将って、母さんが創ったものを巡りに巡って安倍晴明が使役いるようになったものだよね?)

 

≪元々、そんな仰々しい名前じゃなかったの。六道の母親――縁が使役していた式神十二体が、私を召喚した際に、私からあふれたエネルギーを受けて魔神の権能を得てしまった存在。それが十二天将。

あの校骨な狐の息子のことだもの。使役している十二天将に、万が一に備えて自身の意思を潜ませていても不思議じゃないわ≫

 

(――待って!! 私、母さんに頼んで、茉莉花の十二天将を全部使えるように調整して、貰って……)

 

(妖人復活に向けて活性化した可能性が高いわ)

 

 茉莉花の十二天将をすべて使えるように――。

 あの日、迷いなく母さんへ頼んだ自分を思い出す。

 それが、もしも妖人復活の一端を担ってしまったのだとしたら。

 

「……そん、な……」

 

≪……禊。しっかりしなさい。遅いか早いかだけの違いよ。仮に十二天将を使えるようにしなくても、龍脈の陰気を吸収しているのだから、その内に復活したでしょう。それに操る式神に操られる時点で三流。未熟者の小娘が悪いわ。禊が気に病むことは全くないの≫

 

 慰めるような母さんの言葉とは裏腹に、罪悪感は胸の奥で重く沈んだ。

 力が抜け、私は壁に背を預けてしまう。

 

「禊さん! 大丈夫ですか?」

 

 ましろが駆け寄って来て心配してくれる。

 それよりも夜魔が言った言葉が思い浮かぶ。

 

『お前の罪は――怠惰だ』

『お前は『人との関わり』を怠った』

 

 茉莉花から十二天将を預かり、母さんに使役して可能に調整して貰ってから、私はなにをしたって。

 私は、何をしてた?

 

 ……何もしなかった。

 

 茉莉花の変調を一度でも疑ったか。

 十二天将の安定を確かめたか。

 相棒として茉莉花の近くにいた私が感じ取ろうとしたか。

 

 自覚が、鋭い刃のように胸を刺す。

 

「禊さんっ。アレ!!」

 

 思考の沼に陥っていると、ましろの声で意識が戻る。

 ましろが指さす方向を見た。

 黒装束を身にまとった個体が、3体ほど影の中から現れた。

 手には刀が握られている。

 また顔の所には、面布をしていて、布には梵字が書かれていた。

 

(……土御門家の汎用型警邏式神・刑部(おさかべ))

 

 意思を持たない簡易式神。

 人形のように術者の命令だけで動く。

 戦闘力は成人男性ほどで、高くないため刀を持たせて補っている。

 

≪まだ小娘たちは私たちの存在に気づいていないようね。もし感知していたら、あんな式神じゃなくて十二天将を数体差し向けてくるわ≫

 

(なら、撃退はまずい……。なんとか廃校舎に気づかれず侵入しないと)

 

≪方法ならあるわ。あの式神、龍脈を使ってここに出現したのよ。つまり、廃校舎へ繋がる道がある≫

 

(それを逆に使って侵入する、ってこと?)

 

≪ええ≫

 

 刑部たちは巡回しながら遠ざかっていく。

 一瞬こちらを向いたような気配はあったが、察知はされていない。

 

≪【道を開くスキル】≫

 

 母さんがスキルを使うと、空間に扉が現れた。

 ……前の時間軸で、罪華が【道を閉ざすスキル】を使った場面を思い出す。

 まさか、こんな未来が待っていたなんて。

 

「行こう、ましろ」

 

「はいっ! 禊さん!!」

 

 

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