陰陽課特命係・対極院禊―浮気され禁足地に異動させられた警察官―   作:華洛

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06話 昔話

 

 

 時は平安時代、京の都から遥か遠く地。

 人が住まない荒野にて二体の異形が、怪獣のごとく戦いを繰り広げていた。

 

 白面金毛の大妖怪──九尾の狐。

 

 六道が使役する異界の魔神。

 

 地は揺れ、空は引き裂かれる。

 九尾の狐の力が放たれるたび、周囲の風景はまるで滅ぼされたかのように歪んでいく。

 それに対抗するように魔神も力を振るい、激しい爆風が荒野を駆け抜けた。

 世界の理さえも歪ませたるほどの戦いであった。

 

 その圧倒的な戦いが見える場所に、4人の陰陽師が集まっていた。

 

 一人は対極院六道。

 

 一人は芦屋道満。

 

 一人は安倍晴明。

 

 一人は賀茂忠行。

 

「忠行先生、お手数をおかけします」

 

 晴明は頭を深く下げた。彼の師であり、陰陽頭として名高い忠行に、心からの感謝を伝える。

 

「気にするでない、晴明よ。おぬしの頼みを拒む理由などあろうか」

 

 晴明は九尾の狐を母に持つ半分人間半分妖怪であった。

 半身の妖怪の部分が、年々増大して行き、晴明も制御が難しくなってきていた。

 そこで妖怪の部分を晴明から分けて、退治するために、4人は集まった。

 

 予想はしていたとはいえ、半身である妖怪部分は、九尾の狐にとっては子供同然。

 敵意を放ちながら襲い掛かってきたのだ。

 対抗策として、今、異界の魔神を相手にさせているが、なんとか互角、いや、少し圧されている。

 それもしかたない。

 魔神は召喚されてあまり日数が経っていない。まだこの世界に慣れていないのだ。

 

 道満は険しい顔をしながら異形たちの戦いを見つつ、忠行の言葉を無視して鼻を鳴らす。

 

「……忠行。手を貸してやるからには、約束を守れよ」

 

「無論だ。成せば、六道を陰陽寮に迎え、我が弟子としよう」

 

 道満はそれを聞き、わずかに満足げに頷くと、指示を出す。

 

「ならば、六道、その小生意気な小僧から、妖しの部分を剥がしてやれ」

 

「はい、蘆屋師匠」

 

 道満の指示に従い、六道は歩みを進める。晴明の胸元に符を当て、呪文を口にする。

 

「対極を司る――対極院六道が命じる。「人間」安倍晴明と「妖人」安倍晴明。対極と成せ。急々如律令」

 

 その瞬間、晴明は苦しみ、膝を地につけた。

 そして、晴明の背後に現れたのは、晴明の姿を反転させたような、全身を黒く覆われた存在──それは、晴明の母である葛の葉――九尾の狐の因子を持つ異形の姿だった。

 

「おお!!」

 

 驚愕の声を上げたのは忠行だ。

 

「まさか、陰陽寮に属する者でさえ引き剥がせなかったものを、単身で剥ぎ取るとは……」

 

「対極院の秘術は、まさに対象を対極にすることに長けている」

 

 道満は冷徹な目で言った。その声には、確かな自信がにじんでいた。

 磁石のN極とS極のように、陽と陰に、正と邪のように、互いに反発し合う──それが、対極院の秘術であり、六道の特異な力だった。

 引き剥がされたもう一人の晴明──妖人は、叫び声を上げる。その声には呪いが込められており、もし普通の人間が聞けば、即座に昏倒するほどの威力を誇った。

 

「安倍様から引き剥がしましたが、狐の呪力を持つ難敵です。蘆屋師匠、くれぐれもご武運を」

 

「フン、弟子に心配されるほど、儂は衰えていない」

 

 道満は軽く鼻を鳴らしながら、忠行と共に戦いの準備を整える。

 

「それに、忠行の方がよっぽど心配だ。貴族たちの間で政治をしているうちに、実力が衰えていないか?」

 

「嘗めるな、道満!!」

 

 忠行は怒声を上げるが、それでも二人は一緒に戦いを挑んだ。

 

 ──そして戦闘は、長く厳しいものとなった。

 

 結果的には、道満と忠行は辛くも勝利を収めた。しかし、九尾の狐が近くにいたことで、その呪力は際限なく使われ、勝利を収めたものの、妖人を完全に倒すことはできなかった。封印するしか方法は残されていなかった。

 

「一件落着……か?」

 

 道満は安堵の表情を浮かべるが、六道の表情は曇っていた。

 

「いえ、まだ終わりません。」

 

 六道は冷静に言った。

 

「封印した妖人の場所に新たな龍脈が発生しています。このままでは、妖人は再び復活し、さらに強くなってしまうでしょう。」

 

「ちぃ……面倒だな。六道、何か策はあるのか?」

 

 道満は苛立たしげに言ったが、六道はすぐに答えた。

 

「はい。現在、私に宿っている魔神は九尾の狐との戦いで消耗して休眠状態ですが、スキルを生み出す能力は使うことはできます。それを用いて、陰気を集約する場所を作り、妖人が力を蓄えることを防ぎます」

 

 その提案に、道満、忠行、晴明は頷いた。

 まずは妖人の封印に必要な要石を設置し、賀茂家と安倍家の血で封じ込める。その後、道満と六道は各地を巡り、龍脈の陰気を集約する場所を探し出した。

 

 そこで、六道は【山河社稷図を同等のスキル】を使い、地形を変化させていく。

 山河社稷図は、伝説の神・女媧(ジョカ)が使う宝貝であり、術者の意志のままに地形を操る力を持つ。

 その結果、六道は、陰気を集約する「冥獄」を創り出すことができた。

 

「本当に……これでいいんだな?」

 

 道満の問いに、六道はやや苦しそうに答える。

 

「仕方ありません。魔神が私たちの味方でい続ける保証はありませんから――」

 

 六道は深く息を吐き、決意を固める。

 そして、母・縁の亡骸を取り出し、【生前の姿に戻すスキル】を用いて彼女の骨を生前の姿に戻した。

 涙を流しながら、六道は魔神の一部を縁の肉体に宿す。

 こうして縁は、山河社稷図で構成された世界の中においてのみ、自在にスキルを創り出せる存在となった。

 

「陰気はこの地に溜まり続けます。罪人を引き込んで、それらを相殺し無効化する理論です。賀茂さま、安倍さまにも確認済みです」

 

「だが、人の記録は曖昧だ。もし罪人が集まらなくなったら、どうする?」

 

「陰気が集まるだけ集まって消えません。妖人がその陰気を吸収すれば、いつか復活する日は来るでしょう。――それは私たちの子孫に任せましょう」

 

 六道は静かに言った。

 

「今、私たちにできるのは最善の手を打つことだけです」

 

 

 

 

 

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