オタクに優しいギャルに、彼女(二次元嫁)ができたと言ったら様子がおかしくなった件   作:真嶋青

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第11話

「あああああぁぁぁ……」

 

 枕に顔を押し付けて唸り声を上げる。

 雨野の家から直帰した俺は、自分の1日の()()()()を振り返って絶望していた。

 

 星屑ララ彼女宣言(ついでに童貞宣言)。

 雨野を泣かせてしまったこと。

 そして、雨野を押し倒し、挙句に胸を両手で鷲掴み……。

 

「うわあああああああ!」

 

 クラスメイトにヤバい奴だと思われてしまったことも悲しいが、それ以上に今は雨野にセクハラ行為を働いてしまったことへの後悔が俺を(さいな)む。

 何より厄介なのは、男の本能というか、俺の煩悩が何度となく雨野の柔らかい胸の感触と、押し倒してしまった時に彼女から感じた甘ったるい香りを思い出してしまうことだ。

 

「忘れろ! 忘れろ! 忘れろ!」

 

 枕に頭を叩きつけて何度もヘッドバンキングを繰り返す。

 

 これまでだって雨野のことを可愛いと思うことはよくあった。

 いや、白状するなら毎日、話す度に可愛いと思っていた。

 それでも友達というポジションに満足していた俺は、極力女子として雨野を意識しないようにしていたんだ。

 異性として意識してしまったら、彼女との友情に穢れのようなものが混じってしまうような気がしていたから。

 だっていうのに――。

 

「雨野を女子として意識しないとか、もう無理だろこれぇ……」

 

 女子と男子の友情は成立しないとよく言われるが、俺はそんなことないと考えていた。

 しかし、やはり生物的な本能が、異性というものをどうしようもなく線引きして見ていることを実感させられた。

 

 嫌だ〜〜〜!

 俺は、これからも雨野と普通に仲良くしたい……(やま)しい感情なんてなく、純粋に仲良くしていたいのに。

 

 なのに、俺の頭は何度だって雨野の胸の感触をフラッシュバックしてきやがる!

 

「最低だ……」

 

 次第に自分の中で雨野に対する感情が友情なのか、恋慕なのか、自分ですらもわからなくなっていた。

 

 俺はもしかして、これまでも雨野のことを恋愛対象として見ていただけだったのか?

 一緒に話して、昼飯を食べて、あの時間は雨野との友情を育んでいたのではなく、恋心を募らせていただけだったのか?

 

 まず思い出すのは笑顔の雨野。

 それから、なぜかその目からハイライトが消えていき、次第に色っぽい熱を帯びていく。

 

「あああぁぁぁぁ! やめろやめろやめろ!」

 

 頭の中を指で悪戯にかき回されているような不快感だけが、俺の意識を支配している。

 身悶えしているうちに、枕元に置いていた携帯が床に落ちた。

 

 ガタッという音で、一瞬だけ思考の渦に空白が生まれる。

 その間に俺はぼんやりと天井の灯りを見つめ、その眩しさに目を閉じた。

 瞼の裏で、俺の前にセレクト画面が表れる。

 

『友情』

『恋』

 

 そして、俺は――。

 

 

 翌朝、いつものように歯を磨き、制服に着替え、朝食を食べる。

 それから、いつもより少しだけ丁寧に髪型を整えた。

 

「鞄、取りに行かないとな」

 

 昨日、雨野の家から慌てて逃げ帰った俺は、彼女の家に通学鞄を置いてきてしまった。

 当たり前だが、それを回収せずして学校へ登校はできない。

 俺は、いつもより少しだけ早く家を出た――。

 

 家の裏手に回り、雨野の家の前に立つ。

 そして、一呼吸おいてから、俺はチャイムを鳴らす。

 

 ピンポーンと、よくあるコール音が流れた後、すぐに反応があった。

 

「お、おはよう。神崎」

 

 親御さんが出たらどうしようかと思っていたが、幸いにもスピーカーから聞こえて来たのは、良く知るギャルの声だった。

 ただし、少し声が上ずっている。

 

「おはよう雨野。悪い。昨日、お前の部屋に鞄を忘れていっただろ? 学校に行く前に、どうしてもそれを受け取りたくてな」

 

 俺はいつも通りの落ち着いた口調を意識して、用件を伝えた。

 

「そ、そうだね! ちょっと待ってて」

 

 そんな返事とともに、プツッと通話が切れる。

 雨野の慌てた感じの声が気になったが、その理由はすぐにわかった。

 玄関の扉が開かれると、雨野と、その後ろに彼女の姉と思しき美人な女性が顔を出していた。

 

 あ、ヤバい。

 俺が昨日家に上がり込んだのが、今の会話で家族にバレたのか……。

 

 あまりにも配慮が足りなかった自分を内省しながら、俺は丁寧に頭を下げて挨拶をした。

 

「はじめまして。神崎龍之介と申します。昨日は雨野……寧々さんのご厚意で少しお邪魔させていただいていました」

「あ~、はいはい。娘がお世話になってます~」

 

 なんだかニヤニヤした顔と楽しそうな声が気になったが、それ以上に俺は驚愕していた。

 

 娘⁉

 あの見た目で、雨野の母親……どう見ても姉の見た目だろ。

 

 雨野家の遺伝子の強さを前に俺は動揺したが、極力それを表に出さないようにしながら笑顔を返す。

 

「寧々さんには、いつもお世話になっています」

「あらぁ~、良い子じゃない。またいつでもウチに来てね。次は是非、私がいるときに」

「お母さんは引っ込んでてよ!」

「あらあら」

 

 顔を赤らめた雨野が母親を家の奥に押しやる。

 名残惜しそうに去っていくのを見送って、雨野は乱れた呼吸のまま、ずいっと俺に鞄を差し出した。

 

「これでしょ」

「おう。悪いな。なんか、いろんな意味で」

「別に……いいけどさ。な、なんか今日の神崎、いつもよりピシッとしてない?」

「ピシッとってなんだよ。髪型か?」

「それもだけど、雰囲気がなんか……」

 

 確かに今日の俺は、昨日までとは一味違うだろう。

 なんせ、俺は覚悟を決めて、今この場に立っているのだから――。

 

「まあ、俺も昨日のことで、色々考え直したんだよ。雨野との今後のこととかさ」

「あ、アタシとの、今後のことって?」

「それは登校しながらゆっくり話そうぜ。そろそろ出ないと、俺もお前も遅刻ギリギリになっちまう」

「一緒に登校してくれるの⁉」

「雨野が嫌じゃ無ければだけどな。同じ学校に行くのに、今から別々に登校するのも変だろ?」

「わ、わかった! 待ってて! すぐに準備してくるから!」

 

 パァッと表情を華やがせ、雨野が駆け足で家の中に戻って行く。

 俺はその姿を、穏やかな気持ちで見送っていた。

 

 ――それから数分もしないうちに雨野が玄関から飛び出してくる。

 

 なんだかよくわからないけど、雨野はいつもより可愛く見えた。

 リップの色が少し明るいのが理由だろうか。

 でも一番は、幸せそうな笑顔がそう見せているのかもしれない。

 

 良かった。

 昨日のセクハラの件で怒られることも覚悟してたんだけど……機嫌は良さそうだな。

 

「それじゃあ行くか、雨野」

「うん!」

 

 雨野は元気な返事をすると、俺の制服の袖を軽く摘まんで横に並ぶ。

 昨日までの俺だったら、そんな彼女のスキンシップに胸を高鳴らせていたかもしれない。

 

 だが、もうそんな柔な心臓は棄てて来た。

 今の俺の心臓は、重低音を奏でるウーハーの如く強固。

 ちょっとやそっとでは揺らがない。

 

「雨野、俺な……昨日のことがあって、色々考えた」

「うん……うん♡」

「それでな……それで」

 

 俺の次の言葉を、雨野は期待の眼差しで待っている。

 

「俺、やっぱり、星屑ララちゃんと真剣に交際しようと思うんだ‼」

 

 その時、住宅街のど真ん中で、俺の魂の咆哮が響いた。

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