オタクに優しいギャルに、彼女(二次元嫁)ができたと言ったら様子がおかしくなった件   作:真嶋青

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第13話

 真夏の昼下がり。

 学校の中庭にあるベンチに座り、俺は購買のパンに適当にかぶりついていた。

 これまでなら、今頃は教室で雨野と弁当を食べている時間だが、今日はわけあって俺と相席している人物は雨野ではない。

 

「なあ柊木。俺は何を間違えてしまったんだと思う?」

 

 隣に座る友人へ、もう何度も答えを探し、それでも全く進展することのない悩みを相談をした。

 

「生き方ですかなぁ?」

「そんな元も子もないことを言うな。俺は真剣に悩んでいる」

「恋人よりゲームのキャラを優先してフラれたという話でしょう? どう足掻いても人間性で詰んでおりますぞ、神崎氏。キャラクリエイトからやり直す以外の解決案など拙者には思いつきませぬ」

「ふざけるな。全然話をわかってないじゃないか。フラれるも何も、雨野は元から俺の恋人なんかじゃない。俺の大切な友達だ。あと、俺の人間性をキャラクリエイトの段階から否定するのはやめろ」

 

 このフザケタ喋り方を誰の前でも貫く柊木(ひいらぎ)(つかさ)という男は、昨年俺と同じクラスだったオタク友達だ。

 数少ない友人ながら、俺に対する忌憚ない言葉は親交の深さから来るもの。

 若干、いや、結構本気で俺に対して軽蔑の眼差しを向けているような気がするが、気のせいだろう。

 

「やれやれ……雨野氏とは毎日一緒に弁当を食べて仲睦まじくしていたではないですか。たまに神崎氏の教室の前を通りがかる度に、神崎氏は遠くに行ってしまったんだなぁと拙者は眩しく思っておりましたのに」

「なにが眩しいだ。そんなこと言って、お前の方はとっくに彼女がいるだろ。しかも年上で、コスプレイヤーをやっている大学生の美女が」

「拙者と二宮氏は一般でいうところの恋人というよりも、同士というか、魂の理解者と言うか……まあ、拙者たちのことは今は関係ありますまい?」

 

 ひょうきんな喋り方が目立つ柊木だが、顔面と学力の偏差値は70を超えている。

 神が二物とプラスアルファで意味不明なオプションを付けたことで、奇跡的にリア充の陰キャオタクとして生きている稀有な存在だ。

 オタク趣味に染まっていなければ、アイドルグループにでも入って芸能界でブイブイ言わせていただろう。

 

 まあ、柊木の場合、今のままでも十分すぎるほどに幸せで充実した日々を送っていそうだが。

 SNSで20万人もフォロワーが居る大人気レイヤーが彼女とか(うら)ましいを通り越して(うら)やましいだろ。

 隣の家の綺麗なお姉さんと小学生の頃に結婚の約束をして、そのままずっと付き合ってるとか、どこのラノベ主人公だ。

 

「せっかく泣きべそかいて拙者の元までやってきた神崎氏の願いをきいて、学友との昼食を中断してまでこんな辺鄙な場所へ足を伸ばしたというのに……なんですかな? その恨みがましい目は?」

「学校の中庭を辺鄙だなんていうな。あと、俺は泣いてない。雨野にガン無視されて、ちょっと心が折れていただけだ」

「拙者のクラスメイトが引くくらい号泣しておりましたが? おかげで教室にいづらくなって、こうして人気の少ない場所まで移動したわけでして……。このカンカン照りの日の下で食事など、今日限りにして欲しいものです」

「それは、すまん」

 

 いつもは俺から声をかけるまでもなく、前の席の雨野が俺の方を向いて弁当箱を広げるのが恒例となっていた。

 だが、今日は自分の机で静かに弁当箱を開け、黙々と食事を始める雨野の姿に、俺は強烈な拒絶の色を見た。

 思い出すだけでも心臓がキュッと締め付けられる。

 

「ああああああああああ」

「いきなり奇声を上げるのはやめてくだされ」

「終わりだああ! 俺はこんなに雨野を大切に思っているのに……なぜ…………。なあ頼む柊木、俺はどうしたら雨野と仲直りできる? 教えてくれ!」

「まずは自分の何が悪かったのか、しっかり考えるのです。自分が何を間違えてしまったのか、それがわかれば、あとは謝るだけでしょう」

「何を間違えたか? そんなもんがわかってれば、俺はこんなに悩んじゃいねぇよ」

 

 俺は雨野への信愛の証として、全ての煩悩を捨て去る覚悟を見せた。

 それだけでどうして雨野があんなにも怒ってしまったのか……。

 

「重症ですなぁ。では逆に考えましょう。神崎氏、雨野氏がゲームのキャラと付き合いたいと言い出したら、どう感じます?」

「何を言ってるんだ? 雨野はそんなバカなこと言わないぞ」

「神崎氏が始めた物語でしょうに……」

 

 心底呆れた顔をされたが、心外だ。

 

「おい柊木。言っておくが、俺は本気で星屑ララと付き合えると思っているわけじゃない。俺はあくまでも雨野と交流する上で邪魔になる煩悩の避難先として二次元を選んだだけでだな」

「その意味のわからない解説は聞いても理解できないのでもう良いです。……はぁ、神崎氏」

 

 柊木は、やけに様になっている物憂げな顔で溜息をつく。

 そして、無駄にサラサラな黒髪を軽くかき上げながら言った。

 

「雨野氏が、神崎氏からどう思われたいと考えているのか、まずはそこから考え直してくだされ」

「雨野が、俺に、どう思われたいか? なんだそれ?」

「これ以上はレギュレーション違反になりますので、拙者から出せるヒントはここまでです。さて、拙者はもう昼食を食べきってしまいましたので、これにて教室へ帰還させていただきまする」

「えっ、いつの間に……」

「神崎氏も急がねば、次の授業が始まりますぞ」

 

 そして、柊木は片手を上げて挨拶をすると、俺を置いて校舎の中へ戻ってしまった。

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