オタクに優しいギャルに、彼女(二次元嫁)ができたと言ったら様子がおかしくなった件   作:真嶋青

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第14話

 柊木との昼食を終え、俺は重い足取りで教室に戻った。

 午後の授業中、俺は微塵も授業に集中できなかった。

 理由は言うまでもない。

 目の前の席に座る雨野寧々の背中が、いつもとは違って見えたからだ。

 いつもなら授業中に椅子の背もたれに寄りかかって伸びをしながら俺の方をチラ見してきたりするのだが、今日の雨野は微動だにしない。

 まるで精巧に作られた蝋人形がそこに置かれているような、不気味な静けさだった。

 

 柊木の奴は『雨野がどう思われたいか考えろ』なんて言ってたけど……。

 どうも今の雨野が何を考えているのか、俺には理解できそうにないな。

 そもそも人の考えを理解するなんて無理ゲーだろ。

 俺はテレパシーなんて使えやしない。

 

 キーンコーンカーンコーン……。

 

 思考の沼に沈んでいる間に、放課後を告げるチャイムが鳴った。

 周囲がガヤガヤと帰り支度を始める中、俺はどう動くべきか迷っていた。すぐに帰るべきか、それとももう一度謝るべきか。

 すると、雨野がゆらりと立ち上がり、くるりと俺の方を向いた。

 

「あ……」

 

 身構える俺。

 一体何を言われるのだろうか。

 

 そう、思った時――。

 

「お疲れ様、神崎()()♡ 今日の授業、結構ハードだったね~」

 

 聞こえてきたのは、やけに甘えたような声。

 一体だれが喋ったのかと思えば、目の前に満面の笑みを浮かべた雨野がいる。

 朝の般若のような形相はどこへやら。

 目尻を下げ、口角を綺麗に上げ、まるでゲーム画面から抜け出てきたかのようなパーフェクト・スマイル。

 昼休み人は俺を絶対に寄せ付けまいとする

 

「あ、雨野? 機嫌、直ったのか?」

「え? 機嫌? なんのことかな? アタシはずーっと機嫌いいよぉ?」

 

 小首をかしげる仕草。その角度、あざとさ。

 どこかで見覚えがある。

 ……そうだ、俺が今ハマっているスマホゲー『ぴゅあぴゅあ・めもり~ず』の星屑ララが、ホーム画面で見せる待機モーションそのままだ。

 

「そ、そうか。ならいいんだけど……」

「うんうん! それでね、神崎くん。アタシ考えたの」

 

 雨野は俺の机に両手をついて、ぐっと顔を近づけてくる。

 甘い匂いが鼻腔をくすぐるが、今の俺にはそれを堪能する余裕はない。彼女の瞳の奥が、笑っているようで全く笑っていない気がしたからだ。

 

「神崎くんは、三次元の女子に幻滅しちゃったんだよね? 自分の中の『理想』を壊されたくないから、ララちゃんを選んだんだよね?」

「いや、そんなこと……。いや、結果的にはそう……なる、のか?」

「だよね! わかるわかる~! やっぱり生身の人間って、感情的だし、面倒くさいし、神崎くんの理想通りには動かないもんね!」

「そこまでは思ってないが⁉」

「ううん。良いの。もうアタシ、決めたから!」

「な、何をだ?」

「三次元をやめる! それでね、アタシが神崎くんの『理想の推しキャラ』になることにしたの!」

 

 はい?

 

「つまりぃ、神崎くんが好きな星屑ララみたいにアタシがなれば、全部解決だよねっ☆」

 

 最後、星が飛んだ。

 確かに物理的なエフェクトとして星が見えた気がした。

 

「いや、雨野さん? 言ってる意味がよくわからないのですが」

「もー、にぶちんだなぁ神崎くんは! つまり、アタシをララちゃんの代わりにしていいってことだよ! ……あ、違うな。これだと、まだ解釈違いかな?」

 

 雨野はブツブツと何かを呟いた後、スッと表情を引き締め、どこか芝居がかった口調で言った。

 

「――お帰りなさいませ、マスター。今日のログインボーナスは、ア・タ・シ♡」

 

 教室の空気が凍り付いた。

 俺の背筋も凍り付いた。

 

 それは俺が毎朝ログインする時に聞いている、星屑ララの決め台詞。

 完璧な口調のコピー。

 完璧なポージング。

 だが、それをやっているのは現実のクラスメイトであり、数時間前に俺を殴ったばかりの雨野寧々だ。

 狂気。

 純粋な狂気を感じる。

 

「ど、どう? 似てた? アタシ、頑張ってイメージトレーニングしたんだよ? 神崎くん、ララちゃんが好きなら、アタシのことも好きになってくれるよね?」

 

 雨野の瞳が、爛々と輝いている。

 それは恋する乙女の瞳というよりは、バグってループに入ったNPCのようだった。

 

「さあ、帰ろ? 今日は一緒にゲーセン行く? それとも本屋? マスターの行きたいところ、ぜーんぶ付き合ってあげる。だってアタシは、神崎くんのためのヒロインなんだから♡」

 

 差し出された白い手。

 俺は震える手で、自分の頬をつねった。

 

 …………………………痛い。

 夢じゃない。

 

 柊木、お前の言っていた「雨野がどう思われたいか」って、これのことなのか?

 俺はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない。

 

 クラスメイト達は、俺たちを非常に悩ましい顔で見つめていた。

 

 頼むから、そんな目で見ないで欲しい。

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