オタクに優しいギャルに、彼女(二次元嫁)ができたと言ったら様子がおかしくなった件 作:真嶋青
こんなことってあるか?
俺たちが立っているのは住宅街のど真ん中。
もっと言うなら、雨野の家の目の前である。
そして、俺の家の裏手に位置する一軒家こそが彼女の家だという。
あまり近所付き合いというものがない昨今では、近所の住民が誰々だとかいう情報を知らないのも珍しからぬこと。
そう思うのだが、それにしたって同じ高校に通っている美少女が、これだけ近くにいたら気付くものではなかろうか。
今日の今日まで気づかなかったのは、ただの偶然……だよな?
「えぇぇ! すっごい偶然! 神崎の家って、ウチの裏だったんだぁ」
俺には、どうしても雨野の驚愕の声が空々しく聞こえて仕方ない。
わかりやすく両手で口元を抑え、目をまん丸にしている雨野。
いかにも今初めて知りましたと言いたげだ。
「なあ、雨野。いつからここに住んでるんだ?」
「う〜んと、確か4年くらい前かな。中1の途中に、お父さんの仕事で引っ越してきたんだよね」
「そっか、そっか。ちなみに、中学はどこ?」
「中学?
雨野は、俺の目を見てゆっくりと答えた。
「スゥ……そっかぁ、春中かぁ」
息を呑む。
春中というのは、俺が通っていた三春中学校の略称だ。
あれれぇ、おかしいぞ〜。
俺、雨野と同じ中学に通ってたらしい!
しかも、ほとんど3年間ずっと。
ヤベェよ……全然覚えてないぞ。
春中って一学年の生徒数100人とかだよな?
同級生で雨野みたいな美少女ギャルを見た覚えはないんだが⁇
100人の中に紛れていても、雨野くらい目立つ子がいたら普通は目に付く。
なのに、中学時代の記憶に雨野寧々という存在は残っていない。
怪談話を聞かされた気分だ。
同窓会に行った時、ある特定の同級生の話題で、人によって意見が食い違う展開のやつ。
最後はその子が事故に遭って亡くなっていることが発覚して、みんなで
いや、雨野はバリバリ目の前で生きておりますけども!
7月の真夏日だというのに、俺の背筋にヒヤリとした冷たい汗が伝っていく。
「偶然、だな。実は俺も、春中だったんだよ……」
どうしてか息が詰まる。
俺は喘ぐようにして、やっとの思いで声を出した。
「ヘぇ〜、こんなこともあるんだね♪」
三日月のようにニンマリと両頬が釣り上げられた雨野の微笑み。
愛らしい姿なはずなのに、俺の全身に鳥肌が立っていた。
おかしいだろ!
流石におかしいだろ!
絶対におかしいだろ!
俺だけが歴史の異なるパラレルワールドに来てしまったような気分だ。
ドッと精神的な疲れがやってきた。
「こんなこともあるんだな。ホント、びっくりだ。まあ、あれだな。今日はこれで解散ってことで」
もう、なんでも良いから一度家に帰ってゆっくりしたい。
「いやいや、何言ってるの? せっかく送ってもらったんだから。お礼くらいさせてよ」
「お礼? 送ったって言っても、ここ俺の家の真裏だし。全然そんな気を使わなくていいぞ。ていうか、もう帰りたいなぁなんて……」
だが、そんな俺を雨野は許してくれなかった。
「家が近いんだから、ウチでゆっくりして行っても問題ないよね? お茶くらい飲んでいきなよ」
「うん? なんでそんな話になった?」
「良いから上がっていきなよ。ね?」
まただ。
またハイライトの消えた雨野の目が俺を、じっとりと見ている。
そんなわけないのに、俺にはそう見えてしまう。
「いや、でも……」
「まあまあ、遠慮しないで。おいでよ、カ・ン・ザ・キ♡」
頷くな!
頷くんじゃねぇぞ俺!
「……はぃ」
ぬああああああああああああ!
このコミュ障野郎があああああああ!