オタクに優しいギャルに、彼女(二次元嫁)ができたと言ったら様子がおかしくなった件   作:真嶋青

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第7話

 雨野の謎の圧に屈した俺は、まんまと彼女の家の玄関へと足を踏み入れていた。

 

「お、お邪魔します」

「へぃらっしゃい!」

「寿司屋かな?」

 

 ワハハと笑う雨野。

 軽快なやり取りの裏で、俺は背中に大量の汗をかいてる。

 

 ヤ、ヤバい。

 なんか、良い匂いがするぞ……。

 

 雨野の家に入った瞬間から、俺の家とか全く違う、何か甘い香りを感じた。

 玄関前の芳香剤というわけでもない。

 なんとも形容しがたいが、女性特有の良い匂いと言えばよいだろうか。

 

 小学生の頃、男友達の家にお邪魔したときにも、他人の家の匂いというものに不思議な感覚を覚えた記憶がある。

 でも、あの時とはまた異なる、何か落ち着かなくなる匂いだった。

 

 ちなみに、俺は中学と高校では、友達の家に上がった経験がない。

 別にボッチだったわけでもないんだけど、家にお邪魔するほど仲良くなれた友人がいなかった。

 教室で話すけど、外では遊ばない、みたいな。

 高校で仲良くなったオタク友達、新田と柊木の2人とも、せいぜい学校から最寄り駅まで一緒に雑談して帰る程度で、寄り道をしたこともない。

 昔から、俺はどうにも一定のラインから、それ以上は仲良くなれないのだ。

 

 だっていうのに……いきなり女子の家は、ハードルが高すぎる!

 

 そんな俺の緊張を知ってか知らずか、雨野は平気な顔でローファーを脱いで、綺麗に並べ直している。

 それから、次はお前の番だとでもいうように俺を見た。

 

「アタシしかいないから緊張しなくて大丈夫だよ」

 

 何でもないことのように言ってのける雨野。

 どう考えても大丈夫じゃない。

 

「それは逆に緊張するんだが……」

 

 女子の家に入って2人きり。

 これで緊張しない男子高校生ってリアルにいるのか?

 

 別に何かおかしなことをする気はないし、何かを期待してもいないけど、それでもソワソワして落ち着かない。

 もうこれは、生理現象に近いものだと思うのだ。

 

「え~、友達の家に入るくらい普通のことでしょ?」

 

 雨野、お前、他にも男子生徒を日常的に家へ上げていたりするのか?

 だとしたら、結構ショックなんだが……。

 

 いや、雨野くらい可愛い女子なら、男子と遊ぶこともそりゃああるか。

 俺とは本来違う世界を生きてる陽の者だしな。

 

 だからショックを受けることでもない。

 そのはずなんだけど……。

 

 わ~~~~‼

 なんだ、このモヤモヤは⁉

 

「雨野! 男を簡単に家に上げるのは良くない! 良くないぞ‼」

 

 我慢できずに思ったことが口をついて出る。

 

「今まさにアタシの家に上がり込んでる神崎が言うと、説得力が皆無だね」

「確かに⁉」

 

 軽くあしらわれてしまった。

 それから、彼女は少し心外そうな顔で言う。

 

「言っておくけど、アタシ、誰かれ構わず家に男を上げたりしないかんね? 男子でウチに入ったのなんて、神崎が初めてだし。勘違い……しないでよね」

「そ、そうか。それは、悪かったな」

 

 そうだよな。

 雨野はギャルだけど、そんな尻軽女じゃないよな。

 

 あ~、良かった!

 

 ……。

 …………ん?

 ………………あれ?

 

 じゃあ、なんで俺は普通に家に上げてもらってるんだ?

 

 とても大切な疑問だったはずなのだが、次いで出た雨野の言葉に、深くそのことについて考える前にかき消されてしまった。

 

「も~、神崎は変に意識しすぎじゃない? もしかして、アタシに何かする気があるって、コト?」

 

 雨野は両肩を抱くようにして、身を護るような素振りをする。

 しかし、逆にそのポーズは彼女の豊満な胸を圧迫して、その存在感を強調していた。

 

 わざとか……わざとなのか、雨野⁇

 

 なんにしても健全な男子高校生に、彼女の姿は毒だ。

 

「なんもしねぇよ!」

 

 全力で彼女の胸元から目を逸らし、誤魔化すように叫んだ。

 

「じゃあ、問題ないね。ほら、いつまでも玄関に立ってないで、上がってよ」

 

 もうどうにでもなりやがれ!

 

 そして、俺はやけっぱちで雨野の家に上がった。

 

「ふふ……」

 

 俺が靴を脱いで玄関マットを踏んだ瞬間、雨野が何やら嬉しそうに小さく笑った気がしたが、気のせいだろうか。

 

「こっちだよ、神崎」

 

 俺の小さな疑問は、またも雨野の呼び声によってかき消される。

 

 雨野は、階段の前に立っていた。

 彼女は家に入ったことで、早くもリラックスモードになったようで、シャツのボタンをいくつか外して緩い恰好になっている。

 

 さてはこいつ、俺のことを男だと思っていないのか?

 

 そんな疑念を抱いてしまう程には、彼女の格好は無防備だ。

 

「リビングはちょっと散らかってて恥ずかしいからさ。アタシの部屋の方に来てよ」

「いやいや、普通逆じゃないのか? 部屋が恥ずかしいからリビングに通すもんだろ」

「良いから良いから。ほら、2階行くよ」

 

 ちょいちょいと手招きする雨野。

 その誘いに乗ってしまって良いものなのか、俺の脳がフル回転していた。

 

 家に上がるだけじゃなくて、部屋にまで入って良いのか?

 あの雨野の部屋だぞ?

 

 ……さすがにダメだろ!

 

「神崎、早くしてって」

 

 心なしか冷たいトーンになった声が、俺を呼ぶ。

 瞬間、俺の背筋がピンと伸びて、無意識に重たい一歩を踏み出していた。

 

 チクショウ!

 俺って奴は、なんて意志が弱いんだ……。

 

「急かさないでくれよ!」

 

 上ずった情けない返事とともに、結局俺はズルズルと雨野家の奥へと入り込んでいく。

 まるで得体の知れない生物の腹の中へ飲み込まれていくような――そんな錯覚を、覚えながら。

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