くっ!鍛えた筋肉があれば吸血鬼になんか絶対負けないっ!   作:b畜農家

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肉の芽「オ"ッ♡」

 

 熊沢莉羅(くまさわりら)は転生者です。

 

 前世の記憶を思い出したのは中学校低学年に入って間もなくのこと。

 転校先で出会ったきゅるんとした顔の美少年を見るなり、人生一回分の情報を頭に流し込まれた彼女は、ショックで鼻血を噴いて気絶しました。

 それもさもありなん。前世の記憶を思い出すなど、子どもの脳味噌では理解不能です。

 

 この世界は人為的な力で一度滅んで生まれ変わります。具体的に言うと強くてニューゲームが一番近いでしょうか。

 違うのは、それがただ一人を除けば誰も望まないまま起こるということです。猫リセットよりも理不尽なのです。

 その中でくだんの美少年──空条承太郎は過酷な運命に翻弄された挙句命を落とす宿命にありました。

 彼だけでなく、多くの罪もない人たちが陰惨な悪意に巻き込まれ、尊厳を否定された挙句殺されるのです。

 

 中学生にこんな情報を受け止めきれるわけがありません。下手をすれば発狂ものです。

 

 しかし問題はありません。以上の情報を流し込まれた瞬間、莉羅という少女と前世の女性の人格は混じり合い、まったく別の人格として新生させたからです。

 その瞬間を経て、莉羅という少女は文字通り生まれ変わったのです。え?それってYO人格上書きからの尊厳破壊コンボだって? そうですねえ……

 

「世界、救うしかないよね」

 

 目覚めたあとの莉羅はそう思いました。そんな未来を見せられて、指を噛んで泣き寝入りなんてできやしません。

 元より、彼女は負けず嫌いな女の子でした。壁が高ければ高いほど登り切ってやるというやる気が湧いてくるものです。時間だけはたっぷりあるのですから、今からでもできることはあるはずです。

 

「まずは自分を鍛えながら、周りにいる人たちを助けよう」

 

 そう誓った莉羅は、部活動を漫画研究から柔道部に変えたいと両親に言いました。

 急に卒倒したという娘の発言を聞いて両親は怪しみますが、彼女はこう説明します。

 

 気を失ってしまったのは日ごろの運動が足りておらず、体に不摂生な暮らしをしていたから。

 これではいつまた保健室のお世話になるかもわからないから、心身を鍛える時間が欲しい。

 周りに迷惑をかけたとお父さんとお母さんが判断したのなら、いつでも部活をやめる。

 

 母親はやはり怪しく思っていましたが、父親は話を信じて鷹揚にそれを許しました。

 言い分は真っ当だし、いつもお菓子を片手に漫画を読んでばかりの娘が体を鍛える気持ちになってくれたのはうれしいものです。

 心身を鍛える時間が欲しいと彼女は言いますが、もう少し大人になったら今の発言を思い出して赤面し、しかしあの時の決断は正しかったと感謝するはずです。

 そのとき、娘をからかってやりながら酒を飲み交わすのが楽しみだ。

 

 お父さんはそんな気持ちで喜ぶ莉羅を見つめました。

 彼は、後々までその判断を後悔することになります。

 

 

▼▲▼

 

 

 時は流れて1987年。

 

「承太郎~、莉羅ちゃんがお迎えに来たわよ~。ほら早く早くっ!」

「……ケッ」

 

 愛する母親(しかし自分からそう言ったことはここ2年一度もない)に促され、承太郎は舌打ちして部屋から出て行きました。

 今日も“彼女”に付きまとわれるのかと思うと気が沈みます。

 引き戸をくぐると、空条家に繋がる門に背の高い美少女が立っていました。

 睫毛の長い、愛らしい少女です。

 長い栗色の髪は上品に結わえられてさらさらと風にそよぎ、瞳は優しいべっこう色。

 肌は透き通るようで、まるで異国の妖精そのもののような可愛らしい顔立ちでした。

 

 ……首から上は。

 

 しかしその肉体は、承太郎より頭二つ分大きなその体はまるで(いわお)のよう。

 丸太のように太い腕に加え、太ももの内輪差はバッファロー殺戮鉄道レベル。

 そしてでかでかでかπぶっともものグラビア体型でした。

 ボンキュボン♡ではありません。ボンッ!!キュッ!!ボンッ!!でした。

 まるで武神の肉体に美少女の首を据え付けたようです。

 そしてその美貌も、弛まぬトレーニングによって鍛え上げた筋肉の塊なのだと直感で理解できます。皆さんに分かりやすく言うなら水着の妖精騎士(UDKバーゲスト)女戦士(アマゾン)鬼娘(イヌタデ)伝説のスケバン(栗浜アケミ)のような感じでしょうか。恐らくヒップドロップで人死にが出るし、おっぱいに挟まったら窒息以前に頭が砕けて星になるでしょう。

 

「おはよう、空条くん。今日こそ学校に来てもらうよ」

「……あぁ」

 

 莉羅はそっけない挨拶をして通学路を歩き出した承太郎の正面に立ち、先導するように歩き出しました。

 

 承太郎は、この幼馴染が苦手でした。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女の、自分越しになにかを見ている目つきがどうも好きになれなかったのです。

 思えば、中学校の頃から彼女は自分へ、初対面なのに古い友人を見るような視線をよこしてきました。

 彼女を恐れてうっとうしい女子高生が寄ってこないのは助かりますが、つっけんどんな態度を取ってるのにそんな目をされて毎日のように迎えられるとなんとも複雑な気持ちになります。

 

 初めて会った時はどこにでもいる楚々とした子どもだったのに、いつからこんなになったんだろうなと承太郎は遠い目をしました。

 奇遇にも同じ時間帯、どうして娘はあんなになったのかと莉羅の父は会社で遠い目をしていました。

 

「危ないです」

 

 それはちょうど、下り階段に差し掛かった時でした。

 そんな脱力した声を放ち、莉羅は承太郎を突き飛ばしました。

 次の瞬間身を切るような風が吹いたかと思うと、本当に、莉羅の靴下がグッパオンと切れたのです。

 

「な──」

「空条くん大丈夫!?」

 

 奇妙な後味を残す現象でした。まるで透明人間が切りつけてきたような。

 いえ、それよりも奇妙だったのは幼馴染のほうです。そんな現象に見舞われたのに、莉羅は承太郎を心配してきたし、彼女のたまご肌には()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何言ってやがるッ、てめーの心配をしろ、馬鹿野郎ッ」

「あ……わたしは問題ないですけどー……」

 

 腕を組んで何かをブツブツ唸りだした莉羅は、おもむろに落ちていた枝を拾い上げました。

 そして、全てを察した承太郎が止めるよりも先に己の足を引っ掻いたのです。

 白い肌に赤い線が浮かび、つぅっと仄かに黒い血が破けた靴下を汚していきます。

 その圧倒的不可解な行動にさしもの承太郎も目を剥きました。

 

「おい!?」

「あー! 足を怪我しちゃったなー! 困った困った! これだと保健室に行かなきゃいけないなー! そんなわけで空条くん、わたしは先に学校行ってますからあとはよしなに!」

「待て! 足を怪我してんのに走るんじゃあねえ!」

 

 足から流血しながら莉羅はまくしたて、猛スピードで走り去りました。

 

「……くそっ」

 

 またしても厄介ごとの気配にやるせなく頭を掻きまわし、承太郎はその後を追いました。

 うっとうしいやつは嫌いですが、目の前で女が怪我をして放っておける男ではありません。

 承太郎は──ジョースター家は先祖代々紳士の一族なのでした。

 

 

▼▲▼

 

 

「莉羅ちゃん! 怪我したのに手当てもしないで走ってくるなんて何を考えてるの! バイキンが入ったら大変でしょう? 綺麗な肌してるんだから大切にしないとお嫁に行けなくなっちゃうわよ」

「あはは、ごめんなさい……」

 

 保健室の丸椅子に腰かけた莉羅は、保険医の小言に力なく笑いました。

『不敗のゴ莉羅』にそんな心配いらねーだろ、色んな意味で。

 そうベッドの不良二人は思いましたが、彼女の前で同じ言葉を言い放った不良(仲間)がビンタを食らって文字通り吹っ飛ばされたのを見たことがあるので口にはしませんでした。

 事実、この高校で莉羅は一度も喧嘩で負けたことがないし、彼女を女の子として見なしてくれるのは承太郎とこの女医だけなのです。

 

「全ての女の子はお姫様」。それがこの、名うての不良も一目置く女医のポリシーでした。

 

「もうっ。次同じことしたときはよ~く染みる消毒液をたっぷり塗ってやりますからね。わかった?」

「はーい、ごめんなさい」

「どこまで本気なのかしら……」

 

 小言を口の中で転がしながら、女医は莉羅の足の処置を終えました。

 そして今度は体温計を手に取って不良たちに向き合います。

 

「さっ、今度は君たちの体温測って仮病だってこと証明してあげるわ」

「風邪ですよ~、早引けさせてくださいよォ~」

「オホホ、そうはいかないんだから」

 

 ──莉羅の目が、すっと細くなりました。

 三人の注意が移った隙に、莉羅はゆっくりと椅子から降りました。

 その巨体にあるまじき静かな動きで女医の背後ににじりよると、その首に手を伸ばして──

 

「せ~のっ!」

「グオワー!?!?!?」

 

 口元に入ろうとした触脚を掴み、一瞬で束ねるや背負い投げの要領で投げ飛ばしました。

 窓に腰かけようとしていた赤毛の高校生が引きずり込まれ、地面に叩きつけられたのです。

 きゃああ、と女医の悲鳴が響きます。

 頭を打った花京院が唸っている隙に残りの触脚もできるかぎりまとめて、莉羅はそれをぷらぷら振りながら彼へ話しかけます。

 

「おはよう。こうして顔合わせするのは二度目かな? 花京院典明くん」

「熊崎莉羅、貴様ァ……!」

「女の人の体の中に入ろうとするなんて、ちょっと趣味悪いと思うよ」

「その触脚を放せ、さもないと…後悔することになるぞ……!!」

「後悔? 何をする気なのかな? …ん?」

 

 シュオオと光るメロンのような触脚に燐光が集中していきます。

 勝機を掴んだように花京院が粘ついた笑みを浮かべるのと、異変を知った承太郎が保健室に飛び込むのは同時でした。

 

「喰らえ!! エメラルド・スプラッシュ!!

 

 燐光が集結し、無数のエメラルドの塊に変じました。

 

「熊沢!! 逃げろ!!」

 

 承太郎がとっさに手を伸ばしますが、間に合いません。

 放たれるエメラルドの弾丸はまるで集約されたショットガンのよう。

 それは過たず莉羅の胸に吸い込まれていき──

 

 

 

 

 

 

「あうちっ」

 

 ──なんの痛痒ももたらさず、まるで紙風船のように弾き飛ばされました。

 

「へっ?」

 

 気の抜けた花京院の声。

 莉羅の胸に跳ね返されたことで加速したエメラルドの弾丸は花京院の額に激突し、彼の体は今度は外にブッ飛ばされました。

 ゴム人形のようにグラウンドを数回バウンドし、5メートルほど吹き飛ばされた後、まるで投てき槍よろしく地面に突き刺さって停止しました。

 

「………………………あ?」

 

 後には恐怖のあまり言葉を失った女医、不良。

 そして、恐怖というより困惑で言葉を失った承太郎と、けっこう呑気してそれを眺めている莉羅が取り残されたのです。

 

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