魔法少女「あなた」   作:何処にでもある

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 *嘘で塗り固め、全てを騙せ*




√23-5「*この始まりは存在しません*」

 

「フィフィフィ……」

「アリス! 大丈夫!?」

「……‭─‬‭─ええ、問題ない。いつも通り、元気なものね」

 

 嘘つけさっき滅茶苦茶脳に侵入されてたでしょうが。

 

「フィフィ……」

「なら良いんだけど…ほら、傘。今日は雨が降りそうだから、差して帰りなよ」

「ありがとう。気が効いて助かるわ」

「これでも一月以上は一緒だからね。慣れたもんだよ」

 

 嘘でーす! 本当は滅茶苦茶気が気じゃないでーす!

 

 あなたはそんな風に一々内心でツッコミを入れつつも、なんとかアリスと一緒に居る記憶のパートを終わらせることが出来た。

 感謝するべきは主要な記憶だけ追憶する夢空間の特性だろう。

 お陰で体感2時間程度であなたはアリスに関係する記憶を追体験することが出来たのだ。

 今はアリスのパートが終わり、あなたが魔法少女になるまでの記憶の中である。

 

「ふぅ…びっくりした…本当にびっくりした…脳に居るのは知ってたけど、まさか過去に戻って入ってたなんて」

「フィフィ」

「そうだね。お陰で財団はいざとなれば過去に戻るって事を知れた。過去の私が現場を見てたのは驚いたけど……過去の私、よく取り繕えたなあ…伊達に1番荒んでる時期なだけはある」

 

 そうして過去のあなたは本来マスコットに会う場面を逃した訳だが、次の機会は思いの外早かった。

 そう、それはあなたが校外学習で、ディズニーじゃないのかとぶー垂れながら千葉の田舎に来た時のことだった……。

 

『ガァァアアーーーー!!!』

 

「だれかー!」「助けてくれー!」「怪人だ! ここには怪人がいるぞ!」

 

「ひーっやめてください私を食べても美味しくありませんよなんでおばあちゃんの家にカラスの怪人がいるんですかおかしいでしょおかしいですよねあー最後は映画を見て死にたかったーせめて近日公開の映画観てから死にたかったぁぁぁああ!!!!!」

 

「へーいそこのかわい子ちゃん! 俺と契約して魔法少女にならないかーい?」

 

「う わ あ あ あ !?!?? カラスが喋ってるー!?」

 

「ザッケンナゴラァ!! 私のダチの妹にナニ手ェ出しとるんじゃボケガァ!! テメェ怪人か! ドタマ木槌でぶち抜いたラァ!! [変身]!!」

 

「ヤメテ! 俺ちゃんは通りすがりのマスコット! 怪人のカラスはあっちだから! ねえ! ちょっと! 大きさからして違うでしょ! マジで攻撃こっち飛ばすのヤメテ! おいコイツのマスコット誰だ出てこいやぁ!」

 

「テメェシマ荒らしのクロウか!あちこちに飛んで常識ってもんがわかっとらんみてぇじゃのう! 一片死んで反省しろ若僧ガァ!!」

 

「因幡のジジイがイキってんじゃねェ! 娘がちょっと有名だからって太陽神の使者より上だと思ってんじゃネェぞゴラァ!!」

 

 

「…チチ」

「わあ、すごいカオス……えっこれに変身なしで混ざったの僕?」

「フィ」

「すごいなあその勇気。絶対いらなかったよその蛮勇さ……ッシ、おーい! まーぜーてー!」

 

 それはマスコットがまだ居た時期、まだまだ未熟で荒れてたラビと案山子との出会いの時だった。

 あなたはそれに混ざり、マスコットに逆勧誘し、適切なマスコットとの縁を得ることに成功する。

 

「ふう…なんでそうしたかは分かるけど、我ながら本当にやるとは…」

 

 何故そうしたか。当時のあなたがアリスの脳に財団員が入った光景を見たからこその行動、力を欲したが故の行いである。

 ペットとして実に懸命な働きは報われ、あなたはそれから数日後、魔法少女「シール・サプライズ」として活動を開始する事になったのだった。

 そしてこの縁は不思議と長続きし、後日東京の魔法少女でチームを組む際にも生かされる事となる。

 

「元はアリスがもっと健やかに過ごせるようにって考えて結んだ縁だったけど、改変後がそこに"同時期に魔法少女になった縁"が組み込まれたんだね」

「チチ」

「そうだけど……その言い方は酷くない? 僕が立ち上げた訳じゃないのはそうだけどさあ…」

「チ」

「ちぇ…はーい」

 

 リスに「立ち上げたの私だけどね」と言われつつ、あなたはより最近の記憶の方へと向かう。

 こうして鼠のマスコットと契約したあなたは、それからしばらくアリスに内緒でソロやペアで活動する事にした。

 

「確か大河原ちゃんに会ったのはこの辺だっけ。歌の練習してた時に知り合って、しばらくペアで活動してたんだよね。死んで直ぐなら蘇らせる事も出来る子だった」

「フィ」

「そうそう、初対面で僕を女の子だって、██を鼠だって勘違いした子ね。リスにしては灰色だからって。パティシエ目指してた子だ……本当、短い付き合いなのが残念だったよ」

 

 先ほど挨拶した肉屋と居酒屋のおっちゃんズを歌いながら不良バッドて殴り飛ばし、途中でつるんだ一年下の魔法少女……大河原と一緒に活動して。

 

「今の身体が少年時代だからアレだけどさ、本来の僕って高校生の年齢だぜ? 活動してたのだって三ヶ月くらいで、数えると小学から高校までの間アリスの家にお邪魔してた訳だよ。それで他の女の子に現を抜かしちゃってさ、その罰だとしたら‭─‬‭─これは、結構酷いよね」

 

「しー…る…」

 

 眼の前に、死にかけた大河原の姿が横たわる。

 ああ、本当……一緒に居たのはほんの10日だけど、良い子だったんだよね。

 少なくとも、こんな風に死んでいい子では無かったんだ。

 

「辛いならそのまま眠りなよ。寒いなら、僕の肌で温めてあげる。手を握って欲しいなら、その通りにしよう」

「あは…やさしいね…しーるは……あぁ…すずしい」

 

「……そうだった、死ぬまで暑がりだったね、君は……今、思い出したよ」

「…チチチ」

 

 刹那の記憶だ。

 アリスを助けるのに関係ない記憶。

 それでも、彼女を死ぬ所に立ち会うと胸がキュッと苦しくなる。

 無意識に思い出すのを避けていたからか、顔も何もかも思い出せないけれど。

 

 ……あれ、なんで死んだんだっけ。

 どうやって怪人の彼女を仲間にした?

 

「フィ……っ!?」

 

「………██?」

 

 気付けばいつも肩に乗っているリスが降りて、彼女の死体の傍らに立つ。

 最後に流していた涙を舌で舐めて、慰めようとしていた。

 ……これは、過去のリスがやった事か。

 

「…ダメだ、もう死んでる。なんで死んだか忘れたけど、彼女は確かにここで死んだんだ。さあ、次の記憶に行こう」

 

「チチチ!!!‭─‬‭─‬‭─‬‭─ッチ。フィユーフィ!」

 

「……██?」

 

 あなたが過去の記憶通りに動きつつ、次の記憶に行こうとすると、リスが何か必死になって誰かを呼ぶ。

 ……なんて言ったかは分からない。それが記憶の幻像としての言葉ではなく、記憶のワンシーンだからだろう。

 思い出そうとする。はて、この先に一体どんな記憶があったのだったか…?

 

「‭─‬‭─誰だ? 俺との契約を求めているのは……」

 

 何事か起きる。

 リスの声に反応して、喋る髑髏が……大河原の、リスのマスコットが、現れた。

 

「フィ、チ、フィフ、フィ」

「ってーな…圧縮言語使いやがって……わーったよ、魔法少女になる契約だな? 勿論応じてやる。男らしい宣言にゃ人も…あー…リスだろうが関係ねえ‭─‬‭─契約だ」

「チチ‭─‬‭─!」

 

 契約を結ぼうとした髑髏に、リスが更に言葉を付け加える。

 あなたは、リスが何か大事な約束を結ぼうとしている気がした。

 

「…ははっ! そこで本来の自分を対価に強くなりたいってよく言えたなあ! 気に入った、零落すれど神の目前での"誓約"だ。如何に落ちぶれどこれで動かにゃ‭─‬‭─」

 

 

 ‭─‬‭─ぞわりと、あなたの背筋に死の予感が伝った。

 

『‭─‬‭─根の神の威光が廃るってもんだ』

 

 ピシリ、ピシリと髑髏にヒビが入る。

 何かいけないモノが飛び出そうと、産まれようとしている。

 

 魔法を使わなければ。

 

 そう考えても、身体が蛇に睨まれたように動かない。

 ただ、眼の前の死が過ぎ去るのを眺めるしかない。

 

『……だが足りんな。お前の望むものに対し、貢ぎが足りん。その分はこっちで勝手に取るとしよう。手始めに其処の死体、それからお前の名前、それから‭精神に知名と─‬‭─…』

 

 リスが解体され、大河原が無造作に何処かへと連れ去られていく。

 何処に連れて行かれたか、その先を見る勇気は無かった。

 あなたは眼の前の出来事が早く終わる事を願うばかりだ。

 

『‭─‬‭─あとは…いっそのことだ、一時(いっとき)の俺の存在も使うか。お前が生きている間、俺はお前の一部だ。お前が死ねば、俺が生き返る為の素材だ。星と世界が煩いだろうが、魔法として組み込めば出来ない事はない‭─‬‭─これで成立だ。ま、精々無様に死ぬんだな』

 

 

 ………………死の気配が消え去った。

 

「‭─‬‭─後輩(先輩)立て(立ち上がってください)争いが来るぞ(……怪人が来ます)

 

 それから……懐かしい、先輩/後輩の呼び声がした。

 

 安心する。

 

 安堵する。

 

 もうあの気配はないと、幾つかの記憶が消えていく事から目を逸らしながら、あなたは後輩の隣に立った。

 

「けほんけほん…こんな感じですかね…よし! いつも通り、私が前衛に出ます! 先輩は眷属への指示を!‭─‬‭─アリスさんも、学校のみんなも、絶対に傷付けさせないようにしますよ!」

 

「……分かった」

 

 ……今、ようやく思い出せた。

 

 これは、アリスが…リスが……後輩になった日の記憶だ。

 

 僕が後輩が死んだ事を忘れて…奪われて、アリスを守る為の従者として立ち上がった記憶。

 

 リスが茫然自失になった私を見て、主人を守る為に全てを捨てるのを見届けた、傍観の記憶だ。

 

「‭─‬‭─せーんぱい! "今日も無事に怪人退治出来ましたね"! ハイタッチしましょ! ハイタッチ!」

「ああ…うん…」

 

 立ち尽くす。過去の僕はそのままハイタッチしたけど、思い出した今、そんな事をする気にはなれなかった。

 

 だって、後輩が死んだのは、不意打ちする僕を庇ってのことだったんだから。

 

 その事を思い出したら……とても、その顔を見る事なんて……できる訳無かった。

 

「‭─‬‭─そんなに、一緒に戦った仲間が自分を庇って死んだのがショックですか?」

「……記憶の幻像としての発言か」

 

 リスが自由に喋っていたように、今度は後輩の姿で喋り始める。

 ……リスの魔法を考えれば驚く事ではないが、こんな事で安心してしまう自分がイヤになる。

 

「そうですね。さっきまでが再現で、今はフリーです」

「…返答だけど…後悔するよ、そりゃ」

「んー…私としては先輩が無事で心底嬉しかったんですけどねー? 私が防いで、直ぐに当時の眷属さんが倒して、先輩は無事。その後の襲撃だって防げた。犠牲が私の命一つなら、充分だと思いますけどね」

「……どっちの発言だ?」

「あなたの記憶なので、あなたの都合の良い発言ですよ? なので後輩でも先輩でもない。あなたが二人に言って欲しいなーってことを喋ってます。本人達なら多分チョップや叱咤が来ますよ」

 

 まあ、そうだろうな。

 あなたは過去の空を見上げてそう考える。

 なんだか、どうしようもない過去を思い出した時って感じの気持ちだった。

 やるせなくて、どうしようもなくて……淡々とした後悔が積もった埃のように飛び交うのだ。

 

「先輩はこれからどうしますか?」

 

「……どうするって」

 

「リスは先輩の尻拭いの為に魔法少女になりました。最善を尽くす為に、可能な限り強い自分を創り出した……その後どうなったか、先輩は知っている筈です」

 

「……程なくして、リスは大河原の姿で魔法少女達を集めて、組織的に財団と争い始めた。その過程でアリスにバレて、アリスは魔法少女として私達の知らない場所で契約した」

 

「そして私はアリスを守る為、事前にアリスの姿へと変わり、リーダーという1番護られる立場に置いた」

 

「そうして幾つか大規模な襲撃を防ぐ作戦を成功させて、財団の本拠地に乗り込んで……」

 

「「リス/私は、アリスを人質に取られてゲームに参加した」」

 

 今なら思い出せる。

 あなたは決戦の時、確かに露払いとして上の階に居た。

 しかしあなたの律動は、下の階で派手に行使される魔法から、アリス達の動きを推測していたのだ。

 

 "*《叶う(ウィッシュ) Lv.0》と《偽・子リスの夢(デミ・リスメア)》‭が相互に封印*"

 

「この時に、僕は、アリスの改造された魔法と……リスの魔法が相殺される律動を聴いた……」

 

 そうして出した結論が、アリスの人質とリスのゲームへの参加。

 

「そうだ…思い出した…… 《影の石棺(シャドーアークセス)》の反応で、決戦でアリスとリス以外が死んだ事が分かって……律動で魔法の相殺が読み取れて……アリスの死を皮切りに、リスは上の階に上がって行って……"一つ、一つ、上の階に留まっていた魔法少女達を殺していった"」

 

 その後あなたは怪人に改造されたとはいえ、そういう結論に至った過去が、今なら鮮明に思い出せる。

 

 "*《影の石棺(シャドーアークセス)》→魔法少女「913」「バスラ」「タイガータイガー」「シェア#000」「エッグタルト」「アイアンメイデン」「ショー・ファミリア」…《偽・影の石棺(デミ・シャドーアークセス)》により無効*"

 

「初めは呆気に取られて……」

 

 "*《影の石棺(シャドーアークセス)》→魔法少女「ダブルシャイン」…《偽・影の石棺(デミ・シャドーアークセス)》により無効*"

 

「段々背筋が寒くなって……」

 

 "*《影の石棺(シャドーアークセス)》→魔法少女「ブレイブドール」…《偽・影の石棺(デミ・シャドーアークセス)》により無効*"

 

「逃げる為に走り出して……」

 

 "*《影の石棺(シャドーアークセス)》→魔法少女「ハーミットスター」…《偽・影の石棺(デミ・シャドーアークセス)》により無効*"

 

「3階の入り口まで行った所で……」

 

 "*《影の石棺(シャドーアークセス)》→魔法少女「ヴァンピーグルシェフ」…《偽・影の石棺(デミ・シャドーアークセス)》により無効*"

 

*詠唱破棄→《偽・███(デミ・███) Lv.0》*

『ハロー ゴキゲンイカガ?』

「僕の首は刎ね飛ばされた」

 

 当時の魔法の気配が、律動が、夢の世界に再現されていく。

 崩れ落ちる電子の世界、広がっていく暗闇。

 

 機械的な崩壊……冷たい痛みと、沈んでいく視界。

 

 

 断絶した/

    /記憶と思考。

 

「そして、私として蘇った。この場面も久しぶりね」

「……そうだね…ここからは、私の記憶だ」

 

 私の、最初の記憶。

 後輩も姿を変えて、アリスの……私の見慣れたものに戻っていた。

 

 ……怪人の姿を見てないからだろう。

 さっき振り返っても姿は分からないままだった。

 真っ黒な霞、もじゃもじゃ。私が分からない時にやる、真っ暗な塗り潰し。

 リスが怪人の声で喋っていた事実だけが、手元に残った。

 

 ……疑問。

 

「……どうして怪人アリスの魔法じゃないのかな。怪人化自体は、財団がゲームを始める為に必要な事だったんだと思うんだけど」

 

「殺すだけならアリスの願いで一発だろって話? 私が態々あなた達(魔法少女)をこの手で殺す必要あったって?……それよりも、全員一度怪人になってる点が疑問ね」

 

 アリスが近づいた。

 怪人にされて、救われて、私になった。

 全てアリスが自らやった事なら、訳が分からないけど……怪人として殺されたって事実は、余計意味が分からない。

 

 なんでアリスは人間に戻っているんだ。

 

「財団の趣味……と考えるのは安直ね。ゲーム自体は趣味100%だけど、それはそれとして連中はサッサとゲームセットを目指すタイプだから」

 

 アリスが私をぎゅって抱いた。

 あたたかい、人の温もりだった。

 

「……ゲームの前提に魔法少女の怪人化が組み込まれてるとしても……財団が悪趣味だとしても、全員怪人にした時点で勝ちと考えるのが連中よ。態々私を人に戻さない。……ほんと、アリスもリスも怪人になってる点も含めて、謎ばかりね」

 

 アリスの怪人化は雑で、弱体化していた。

 リスだって、直ぐに這い上がってた。

 ならば改造はそれだけ直ぐに終わってた筈。

 

 ……なにか、イヤな事実に辿り着きそうな気がして、怖気そうになる。

 

「一度私の説得関係に使えそうな事実をまとめましょうか。私はあなたの記憶…あなたの一部なんだし」

 

 アリスが手に持ったカードを、あなたの前に広げた。

 カードには其々、あなたが分かった事実がゲームの説明の様にまとめられている。

 

「1、財団員は過去に遡ってアリスの脳に入り、ゲームに勝って拠点にしていた。

 2、リスは何処かのタイミングであなたのナイトを使い、全てを知った。

 3、財団員とリスはゲームをしている。

 4、そのゲームでは、大多数の魔法少女が怪人である事が前提条件の可能性が高い。

 5、あなたがリスに殺される時、リスは怪人だった

 

 それで、気になる点は?」

 

「……全てを知ったリスが自分から死のうとするなら、何処か…かな」

 

「1、3、5。あなたが知れた範囲で考えられる要素としてはそこでしょうね。アリスの為か、ゲームに勝つ為か、一度怪人になったからか」

 

「……結局、出たとこ勝負だね」

 

 それらしき過去を知る事は叶った。

 けれど、結局全てを知るには本人に聞くしかない。

 最終的な結論はそういうものだった。

 

「それでリスが何処に行ったのか……分かった?」

 

「……二つ…いや、三つかな」

 

「そう、なら急ぎなさい。情報を聞くだけなら電話でもなんでも使えば良い。あなたがやるべき事は、今直ぐ探しに行くことよ」

 

 アリスが抱擁をやめ、扉を開いた。

 リビングに繋がる筈の扉の先は光に包まれていて先が見えない。

 ……ここに入れば起きられるのだろう。

 

 ここはあくまで記憶を思い出し繋げる場所。

 ならば私になった瞬間が記憶の接着点で、夢の終着点なのは道理だ。

 

「……手伝ってくれてありがとう、これから僕として生きるか、私として生きるかはまだ分からないけど、大事な仲間を助ける道が少し開けた気がする」

 

「記憶の一部なんだから、私との会話は自問自答に過ぎない。さっさと行きなさい」

 

 最後までリスらしいなあ。

 あなたはクスリと笑って、記憶の出口へと足を運んだ。

 さあ行こう、リスを迎えに。

 

「……はぁ…多少は待っててあげられるから、なるべく早く来る事ね」

 

「……ん? それど」

 

 光に包まれる。

 

 

 24:30

 

 

「‭─‬‭─っちの発言…〜〜っ」

「…あ、起きましたね」

「本物か夢として都合良く言ったか分かんないのやめてよもぉぉ‭─‬!」

「悶えててウケる〜写メ撮っちゃお」

 

 夢から醒めると、あなたの周囲には休憩中と思わしき魔法少女の姿があった。

 何号室かは不明だが、あの人形はクエストの達成の為にSPオフィスの隠れ部屋を選んだようだ。

 

「……夢、見た?」

「興味ねー」

「早送り過ぎて…さあ?」

 

 なるほど、濃い内容で人には分からず、財団には分からない配置である。

 ある意味依頼の意図が汲めているので怒るに怒れないが、ちょっぴり気恥ずかしさをあなたは感じた。

 

「って、そんな事考えてる場合じゃなかった!」

 

 それから直ぐに、あなたは弾丸のように部屋から出て、外でタクシーを捕まえる。

 お金は魔法少女の特権で免除し、第一候補であるアリスの家に来た。

 

「……居ない!」

 

 魔法の律動に、物理的な捜索。

 その二側面で居ないと判断し、大河原の居た高校……アリスが通っていた高校も探す。

 

 ……これも、居ない。

 

「……って事は…嘘でしょ、でもそれが一番可能性が……考えるのは後! 取り敢えず行こう‭─‬‭─成田空港!」

 

 あなたは成田空港へと向かった。

 

 

 ……なぜそんな結論になったか、順序を立てて説明しよう。

 記憶を取り戻したあなたはリスを探すに従って、最初に考えたのは一番嫌な結末だった。

 

 1つ目は「リスの自殺」

 

 そしてもう一つが「海外への高跳び」である。

 

 一番は言うに及ばず、財団員以外の誰にとっても不都合な結末だ。

 だからこそあなたはその線で説明し、魔法少女達に協力を呼びかけた。

 記憶を取り戻したのも、ここまで焦ったのも、その為だ。

 だからこそ縁のある場所を……自殺しそうな場所を優先して探した。

 

 しかし、あなたはもう一つ….あり得ないとは思いつつも、あり得なくはないと考えていた終わりがあった。

 

 それが、リスが何もかも捨てて海外に逃げる事である。

 

「あり得ないと思いたいけど!……でも人間じゃなくてリスだからさあ! 後輩的になんかそんな気がするんだよねぇ……!」

 

 さて、ここまでをリスの視点で考えよう。

 

 前提としてリスは人間ではなくただのリスである。

 どんぐりと胡桃を頬いっぱいに食べ、エサを渡してくる女主人に飼われて生きて来た。

 

 リスはお外を駆け回るのが好きである。

 人間より劣るが、リスとしては上等過ぎる賢さがあるので野生でも余裕で生きていける。

 人間に飼われて生きているのが楽だったからで、面倒ならいつでも抜け出せる立場にあった。

 

 リスは野良畜生のオスだが、義理堅いリスである。

 ペットとして、エサをくれた礼にこれまでの身体を捨て、人間として面倒を見るくらいはしてやる情があった。

 生き返るなら胎を貸してやるし、理不尽に死んだ連中を自分の食い溜めを使って蘇らせてやる。

 

 リスはボスとなれる器を持っていた。

 しかし、人間関係とかいう七面倒な事は人一番嫌いであった。

 リスは生来の野生児であった。

 

 ポーン…‭─‬‭─‬ポーン…‭─‭─

 

「言ってたんだよなあ…! ずっとその手の関わりをイヤそうにさあ…! だからずっっと思考の片隅に有ったんだけどさあ……! 違うと思いたいじゃん! みんなも同じ考えだから、誰もゲッワイしない前提で会議してたしさあ……!!」

 

 あなたが空港内を走る。

 あまりマナーは良くないが、今回ばかりは許して欲しい。

 

 カナダ便 カナダの都市バンクーバー行 日本航空 フライト時間 約8時間41分。

 出発予定時刻18:00より、現地での怪人被害により遅延発生、現在の出発予定時刻26:40。

 乗車予定の皆様におかれましては‭─‬‭─…。

 

 現在時刻26:15

 

 

「はぁ…はぁ……しかも大河原の姿とかさ…私にしか分からないじゃん…それ」

 

 肩で息をして、乱れた魔法少女のドレスを整えて、あなたはコートやマフラーで着膨れた格好の後輩の前に立った。

 

「……あーあ、バレちゃったね」

 

「はぁ…ふぅ……ギリッギリだけど…なんとか、見つけたよ」

 

 

 乱れた髪を整えて、キャリーケースを側に寄せて座っていたリスの眼を見つめた。

 

 一点の曇りもない、純粋で澄んだ眼があなたを見つめ返す。

 

「話し合いなら聞いてあげる。応じる気はないけどね」

 

 最後の説得の時間が始まった。

 

 






 最後に明かされる情報に惑わされず、これまでの付き合いでしっかりアリスとして振る舞うリスの性根さえ分かっていれば簡単に見つけられる問題です。
 死ぬ必要ないから自殺はない。だから本人の都合という訳です、

 シールは探索ダイス2D6+5の難度16ダイスを失敗しまくり、ナイトがカナダに行って遅延した上で最後の一回で成功しました。

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