カスの英雄に鉄槌を 作:百合ロボ!
『ここは私に任せて逃げろ!』
決死の覚悟を込めた仲間からの通信に、パイロットの少女たちが息を呑む。
「何バカ言ってんの! 大体なんであんたがこんなとこに──」
少女の一人がたまらず反駁するが、それを遮るように強い振動が機体を揺らした。
地表から二千キロ、低軌道上に浮かぶ敵異星体の本拠地。月の四分の一ほどもある巨大な母船に、少女たちは三人で乗り込んだ。
もちろん丸腰ではない。異星体の骨格をベースとした人型機動兵器、
迎撃兵器の弾幕を潜り抜け内部に侵入し、中枢施設を破壊。異星体からの反撃を躱しながら、母船の各所に爆薬を仕掛けることに成功した。後は、時限式の爆薬が母船を無数のデブリに解体する前に脱出するだけだ。
しかし異星体の反撃は予想よりもはるかに苛烈だった。同胞の遺骸を利用した忌々しい兵器を駆る地球人に、彼らはいきり立っていたのだ。爆弾の解体に向かう個体よりも怒りに任せて攻撃してくる個体の方が多く、少女たちは包囲され、とても脱出できない状況に追い込まれた。
そこへ姿を現したのが、ここにいるはずのない一機のSAだ。
全長二十メートル。飾り気のない灰色の装甲に、『1』とだけ記された武骨な装い。装備は実弾ライフルと近接ブレード、背部のグレネードキャノンのみというシンプルな構成。
戦友の愛機だ。
だが母船破壊作戦に先立つ数多の戦いにより、戦友は倒れた。原因は負傷ではなく重度の過労。ここに来られるはずがない。
ましてや、「ここは私に任せて」なんて、言える体ではないはずだ。
『ぼさっとするな!』
少女たちの戸惑いを打ち払うように、戦友が無造作にブレードを振るう。プラズマの刃が、背後から迫っていた異星体を一文字に裂いた。
少女たちの機体を背に庇い、ライフルとグレネードキャノンで周囲を薙ぎ払う。ライフルは一射一殺、あるいは貫通弾で同時に二体以上を屠り、グレネードの爆風と破片が計算されたように異星体の急所を抉って、包囲網に穴が開く。
その穴の先に、脱出ポイントがある。
『行けっ!』
母船のあちこちから、異星体の新手が現れる。戦友は計算され尽くした巧みな攻撃で新手を迎撃するが、もたもたしていればせっかく開けた退路が閉じられてしまう。
「で、でも、伊藤さんは……!?」
「伊藤っ、来て!」
「そうよ、伊藤!」
『黙れ!』
逡巡する少女たちを、戦友──伊藤が一喝する。
『全員ボロボロ、弾も推進剤も枯渇寸前でしょうが! あんたらがいたら邪魔だっつってんの! さっさと消えろ!』
少女たちが苦し気に顔を歪めた。
伊藤の言う通り、彼女らの機体は各部から火花を散らし、スラスターや武装のリソースも心もとない。伊藤と協力して撤退戦をやろうとしても、足を引っ張って共倒れするのが明白だ。
しびれを切らしたように、伊藤が再び叫ぶ。
『ここは私に任せて、逃げなさいっ!』
その声に打たれ、機体の一つが踵を返す。
「……行こう」
「エル!? あんた何を」
言い争いの時間を敵は与えてくれない。
少女たちに飛び掛かる異星体。背後から伊藤が撃ち抜き、数十トンのたんぱく質と化して少女たちの脇に倒れ伏す。
伊藤が跳弾と貫通弾を駆使して神がかり的なキルスコアをたたき出しているが、迫りくる敵の波は絶える気配がない。
伊藤の腕を信じるか。せっかく与えてくれたチャンスを、感情的に投げ捨てるのか。
三人の少女全員が、断腸の思いで同じ判断を下した。
スラスターを全開にして、脱出ポイントへ急ぐ。
「伊藤っ! 後で絶対、追いかけてきなさいよー!」
死んだら許さないんだから。
去り際にそう吐き捨てて、少女たちの姿が消える。
残された伊藤は大量の追手を前に、舌を出した。
「いいや、許してもらうね」
ーーー
爆風に背を押されて脱出し、地上へ降下していく少女たち。
そのはるか上空で、敵の母船が火に包まれる。
小さな火は瞬く間に大きく広がり、太陽がごとき大火球に変じた。次いで、その火球は無数の破片となって、地上へ降り注ぐ。破片は小さく、大気圏で燃え尽きるだろう。そうなるように爆薬の量と位置を調整したのだ。かろうじて母船から逃げ出した異星体もまた、断熱圧縮の高温で塵に変えられていく。
敵の本拠地を破壊する任務は、成功に終わった。
「伊藤! 返事しなさいよ、伊藤ってば!」
が、少女たちの声は悲痛だ。何度も何度も、残してきた仲間の名前を呼び続ける。
伊藤は誰よりも強く、優秀で勇敢なパイロットだった。あの状況からでもきっと逃げおおせているに違いない。
少女たちの希望に反し、呼びかけに返ってくるのはノイズばかりで。
結局それから何日経っても、伊藤は帰ってこなかった。
ーーー
20xx年、地球は悪い宇宙人に侵略された。
後に『ギガント』と命名された彼らは実に手際が良く、わずか半日で人類は組織立った抵抗力を奪われた。何が起きているかも分からないまま数を減らされ、やがて生き残ったのは幼い子供と老人だけだった。ギガントは戦う力のある大人たちを狙い撃ちにしていたと、そのときになってようやく分かった。
無力な生き残りを尻目に、ギガントたちは地球の環境を彼らに快適なよう作り変えていく。子供と老人だけの生き残りにそれを止める術はなく、抵抗を試みては返り討ちにされ、息を潜めて侵略を眺めているしかなかった。
そうして十年が過ぎ、ようやく反撃が始まる。
きっかけはとある兵器──
SAはギガントの骨格をベースとした人型決戦機動兵器であり、ギガントの殲滅のみを目的とする。最初に造られた七機は『七巨兵』と呼ばれ、体力のある子供たちがパイロットとなり、主要なギガントの拠点のいくつかを潰す大戦果を上げた。
こうして戦争が始まった。凄絶な戦いの中、老人たちは自らが作り上げた人工知能に後を託して全員が没し、子供たちだけが残された。
人工知能の指揮の下、子供たちが戦い続けて五年。総力をかけた大規模反攻作戦の果てに、人類はギガントの主力を低軌道上の母船まで追い詰める。
戦力の消耗が激しいものの、ようやく追い詰めたギガントに時間を与えては今までの苦労が無駄になる。七巨兵のうち生き残った三機が母船に攻め入り、撃墜を試みる最終決戦が始まった。
結果は成功。
攻め込んだ七巨兵の三機は無事帰投。敵母船は星屑に姿を変え、大半は燃え尽き、残りは海中に没した。
作戦記録に残らない、一人の少女を乗せた機体と共に。
ーーー
太平洋上、某所。
クレーンがウィンチを巻き上げ、海中から鉄の塊を引き揚げる。
その塊には、肩のようなパーツが付属している。装甲を失くし、むき出しになったカメラアイが虚空を見つめる。無数のケーブルと脊椎のような骨組みが飛び出して、失われた下半身の存在を匂わせている。
SAの胴体だ。中央のコックピットブロックはハッチが解放されているが、内部は着水の衝撃で破壊しつくされ、溜まった海水が流れ出ている。人のいた痕跡など何も残っていない。
「伊藤……」
「そんな……っ!」
引き揚げ船の甲板上で、三人の少女たちが崩れ落ちた。一人は呆然とへたり込み、一人は手すりに突っ伏して、もう一人はこらえきれない嗚咽を漏らしている。
引き揚げられた胴体は、伊藤の駆っていた愛機──七巨兵の一番機、『サピエンス』のものだった。最後に発された位置情報を元に海域を捜索し、三日目にしてようやく見つけたのが、破砕して沈んだ胴体だったのだ。
爆発に巻き込まれたのか、それとも降下時の衝撃に耐えられなかったのか。いずれにせよ生存は絶望的だ。船上に重苦しい空気が立ち込める。
「まだよ」
そんな中、パイロットの少女たちのうち一人が立ち上がった。
「あいつが簡単に死ぬはずない。ログを回収しましょう。ほら、エル、小雪、いつまで泣いてるの」
「ケイト……」
金髪に褐色の肌の少女──ケイト・リッチランドが機体の残骸を見つめている。その瞳に諦めの色は見えない。
戦友の毅然とした言葉に、へたりこんでいた二人が立ち上がった。
「伊藤は強い。誰よりも。あのくらいで死ぬはずない」
絹のようにさらりとした白髪と、銀色の虹彩が特徴的な少女──
「うん……うん! そうだよね! きっとどこかで生きてる! 手がかりを探そう!」
ふわりとした髪質と、胸を中心に肉付きのいい少女──
クレーンが旋回し、残骸を船上甲板に接地させた。胴体だけで数トンもの質量を船が受け、喫水線が数センチ上がる。
ケイトは段差を駆け上がる猫のように機体に飛びつき、解放されたコックピットに潜り込んだ。モニターの液晶は影も形もなく、コンソールの類は残らず沈黙している。
目当ては座席の下にあった。水圧にも負けずに健在だった蓋を工具でこじあけ、手のひらサイズの黒い箱を取り出す。すべての戦闘情報を記録しておくブラックボックスだ。
機体は作業員に任せ、船内格納庫の設備にブラックボックスを接続した。
『データ復元中……』
液晶に表示された文字を、ケイトたち三人と、船上作業員が固唾を呑んで見守る。
やがて復旧に成功したのは、一件の動画ファイル。他のデータは軒並み破損してしまったようだ。
ケイトはエルと小雪に目配せを送り、二人は固い表情でうなずく。
一つ息をついて、ケイトは再生ボタンをタップする。
『この映像を見ているということは、私はこの世にいないのだと思う』
第一声に打ちのめされた。
映像が映すのはコックピット内。簡素な患者衣に身を包んだ黒髪隻眼の少女が、まっすぐカメラを見据えている。
『私は伊藤。今、仲間たちの撤退を支援するため敵母船に向かっている。生還すればこの映像を消す。誰かが見ているなら、そうする暇もなく私は死んだのだろう。お悔やみを申し上げる。……これ、自分で申し上げるものだっけ?』
「バカ……!」
初っ端に望みを断たれ、しかし伊藤らしい惚けた物言いに、ケイトたちは言葉が詰まった。
『まあいいや。とにかく、私は死んだ。そして死んだ人間の悪口を言うのはとてもいけないことだ。そんなことする悪い子はいない。いないよな。うん、絶対いない』
「ん?」
ぴたり、とケイトたちの涙が止まる。
雲行きが怪しくなってきた。
『死んだ以上、生前にやったことはノーカンだ。どんな悪いことをしても大丈夫。あっ、もちろんいいことはノーカンにしないでほしいな。私のことは仲間を助けて劇的に死んだ超すごい英雄パイロットとして語り継いでほしい。墓前にはこれでもかと花を供えて毎秒私を偲んでくれ』
「図々しいなこいつ」
「ケイト、抑えて」
死んだ割にはやけに厚かましい伊藤にケイトが頬をひくつかせ、エルが無表情でたしなめた。
『繰り返すが、死んだら悪いことはノーカンだ。だからこそ、私は謝りたいことがある。ケイト・リッチランド、上洲エルドリース、小貫小雪の三人にだ』
「私たちに……?」
小雪が丸っこい目をぱちぱちさせて、三人で顔を見合わせた。
伊藤は間違いなくエースパイロットだった。戦場では常にだれよりも多くの異星体を撃破し、日常では率先して隊員たちと仲を深め、伊藤を嫌う者は一人としていない。同じパイロットであるケイトたち三人にとってはなおさら伊藤の存在は大きく、伊藤がいたからこそここまで戦えてきたといっても過言ではない。
そんな伊藤が謝ることがあるなんて、思ってもみなかった。
『実は……実は私は……』
映像の伊藤が言いよどむ。眉間にしわを寄せ、口を開いては閉じる。
あけすけに気持ちを口にする伊藤には珍しい、苦渋の顔だ。それほど大きな悩みを抱えていたのに、気づくことができなかった。相談してもくれなかった。その事実にケイトたちの表情が曇る。
ケイトたちがじっと待っていると、伊藤は意を決して告げた。
『実は三股してました! ごめーーーーん!』
──────は?
理解不能だった。
ケイト、エル、小雪の三名だけでなく、周囲で聞いていた作業員たちも、目を点にしている。
リアクションも同じで、思いも一つ。
三股? 誰が誰に?
その疑問に答えるように、伊藤が続ける。
『ケイトとエルと小雪の三人と、こっそり何回もえっちしてました! 誰が最初かは覚えてないです! でもちゃんとみんな好きだったよ! 主に体が!』
言葉を失う面々に構わず、伊藤がカスな告白を続行する。
『三人と寝たけど、みんな違ってみんないいのよ。この際だから一人ずつ寸評言うね!』
どの際だよ。誰か突っ込んだが、伊藤は止まらない。
『ケイトは普段つんけんしてるけど、ベッドの上だとすごい素直に甘えてくるし、キスするときこっちの腰をぎゅっと掴んで離さないのがいじましくてかわいかったな。あとあと、ベッドの外でも隙を見て手を絡めてきたり、みんなに見えないところでキスをねだったりするのが、背徳感抜群で興奮したね! おっぱいのサイズだけはもうひと頑張り欲しかったとこだけど、乳首の形と色が芸術的だったからとんとんかな。総評、85点!』
『次、エルこと上洲エルドリース! もう性欲の化身だったよね! 白髪ロングで銀の瞳とかいう雪の妖精みたいな見た目なのにさ、やることサキュバスだよ。一晩で何回絞られたことか。次の日休みのときとか、ベッドに縛り付けて一日中ねっちょり愛撫されるのは地獄だったね! 全身にキスマークつけられるのも隠すのが大変だった! でもそれだけ求められてるんだなって自己肯定感上がったし、苦しいくらい気持ち良くされるのはまんざらでもなかったよ! 90点!』
エルがへたりこんだ。長い白髪が床につくのを気にする余裕はなないようだ。
『最後、小貫小雪! 小雪はねえ、とにかくふわふわもちもちって感じだね! お尻も太もももおっぱいもギガサイズで、いくら触ってても飽きない。全身敏感だから触るたび可愛い声上げてくれるのも興奮したな。みんながいる場所でお尻とか触ると、ほっぺた赤くしてこっちを睨むんだけど、流し目送りながら「後で」って囁いてくるのが破壊力あって好きだったな。むちむちふわふわ、とろとろあまあまって感じ。もちふわ大権現および肉欲の化身の異名を授与しましょう! 95点!』
死屍累々と化した船内格納庫の中に、能天気な伊藤の声が響く。
『はい、そんなわけで。私は三人とエッチしまくってたクズ女でした。隣にいてこんなに安心するの、君だけだよ。他の子には絶対内緒だよ。私以外にこんなえっちな顔見せちゃダメ。これ、三人に共通でよく言ってたなぁ。使い勝手よくてつい使い回しちゃったのよね』
倒れる三人に追撃が入った。
胸が刺されたように痛い。自分だけに見せてくれる顔、かけてくれる言葉。そんなものは初めからなかったのだ。
『あと、私の妹のこと。昔生き別れた妹を探してるって話、あれもウソだから。君と私だけの秘密、とか言ったのにごめんね。妹はもういないよ。それと──』
伊藤の告白はしばらく続いた。
ケイトたち三人が、伊藤と交わした甘い言葉、約束。その一つ一つを噓だったとネタ晴らししていく。三股と寸評の時点で瀕死だった三人はもはや完全にグロッキーだ。周囲の作業員たちはむごい光景から目を背けた。
『あとねあとね、過労で倒れたの、戦いの疲れじゃなくってえっちし過ぎが原因なのよね。三人とローテでえっちしてたのと暇さえあれば自家発電してたから。理由しょうもなくてごめーーーーーん!』
伊藤は母船撃墜を目前に過労で倒れた。最強のパイロットだからと負担を押し付けていたことを三人は深く悔やみ、伊藤がおらずとも戦えることを証明するのだと誓いを立てた。
しかし真実は残酷だ。過労は過酷な三股えっちが原因だったという。伊藤の自業自得で三人は気を病んでいたのだ。
失意のどん底に落ちる三人は同時に思う。
どうして、こんな外道なことを。
『そろそろ、どうしてこんな不誠実なことをしたのかって疑問が出る頃かな。それには深い事情があるんだ』
ケイト、エル、小雪の三人ががばりと顔を上げた。
そうだ、私たちの伊藤が理由もなく外道に落ちるはずがない。きっと何かどうしようもない事情があって三股に及んだのだ。
三人の希望に対し、伊藤は容赦なく真実を告げる。
『三人とも美少女だったじゃん? 戦い続きで結構メンタル弱ってたじゃん? 弱ってる美少女を見たら、誰だって口説き落としてエッチしたいって思うでしょ。だからそうした。当たり前だよね』
再び三人が倒れた。
伊藤は悪びれずに「わっはっは」と上機嫌に笑っている。
『以上、伊藤さんによる一世一代の大告白でした。いやぁすっきりした! これで心置きなく戦えるってもんよ。たぶん君たちは「このクズ死ね」って思ってるだろうけど、ごめーーーんもう死んでまーす! 母船堕とした後の復興とか残党処理とか忙しいだろうし、悪い夢だったと思って忘れるのをお勧めするよ。あと──作戦目標視認。これより作戦行動を開始する。録画終了』
最後に戦士の顔をチラ見せして、伊藤の映像は終わった。この映像を撮った後、母船に突入してケイトたちを救ったのだろう。
周囲の船上作業員たちは何も言わず、痛ましいものを見る目でケイトたちを見守る。
作業員たちは全員が十代前半の少年少女だ。異星体の侵略初期に戦える大人たちは全滅し、老人たちもすでに死んだ。思春期の彼ら彼女らには、大切な人に裏切られたケイトたちパイロットの気持ちが痛いほど分かる。だからこそ下手な慰めは言えない。
重苦しい沈黙の中、船体に波が打ち付ける音だけが響く。
しばらくして最初に立ち上がったのは、ケイトだ。
「……許さない」
怒りと憎悪に震える声。青い瞳の中に殺意の炎が燃えている。
「許さない許さない許さないっ! あの女絶対に許さない! 人の純情をもてあそんで、点数なんかつけて何様のつもりっ!?」
「同感」
エルが立ち上がった。雪の庇のようなまつ毛の下、銀の瞳は絶対零度の冷気を放っている。
「あの女誑しのスコケマシの外道畜生。あれには地獄すら生ぬるい」
「その通りだよぉ~」
小雪がゆらりと立ち上がる。柔和な顔に浮かぶのは微笑みだが、牙を剥く獣のような殺気が滲んでいる。
「探し出して捕まえて、みんなでお話しないとだよねぇ~。その後は、三つに引き裂いてみんなで分けよっか」
「賛成」
「上等っ!」
拳を打ち鳴らすケイト、虚空を睨みつけるエル。
すると、ケイトがにやりと獰猛に笑った。
「やっぱり、あんたたちも考えは同じってわけね」
「もちろんだよぉ~」
「あのかわいいだけの外道が考えること、今なら手に取るように分かる」
エルは一つ間を置いて、確信をこめて言った。
「『人間関係拗れちゃったから、死んだふりしてチャラにしよう』──絶対そう考えてる」
そう、三人は伊藤の死を信じていない。
あの映像を見るまでは死を覚悟していた。発見された機体の状況からしても生存は絶望的だ。
が、乙女の純情をあそこまで辱められたとあっては、死なれていては困る。たとえどれほど望みのない状況であろうと、伊藤は生きていないといけない。そして三人の憎悪を受け止めねばならない。
だから三人は、伊藤の生存を確信した。理性や理屈ではなく、感情によって。
ケイトが手を差し出す。その上にエルが、小雪が重ね、強い視線を交わし合う。
「草の根分けてもあいつを探し出して、必ず鉄槌を下すのよっ!」
「おおー!」
気炎を上げる三人。
それを見守る作業員たちは、言いたかった。
あんたらパイロットはそんな暇じゃないだろ。地表の残敵掃討と戦力立て直しと都市の復興と、やること山ほどあるだろ。
結託した乙女たちの迫力を前には結局何も言えない。
こうして、生死不明のカスを血眼で探す、獰猛な乙女たちが誕生したのだった。
ーーー
もしも伊藤が死んでいたのなら、ケイトたちの決意は無駄になるはずだった。いなくなった人物を一生かけて探す、虚しい人生を送るはずだった。
しかしそうはならない。
「生きててごめーーーーん!」
「伊藤さん急にどうしたの!?」
とある海辺の町にて。
夕日が沈んでいく海に向かって、晴れ晴れした懺悔を叫ぶ伊藤の姿が、たしかにそこにあったのだった。
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