カスの英雄に鉄槌を   作:百合ロボ!

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2. 誠実で清廉なヒモ

 海と山に挟まれた都市、神戸。

 

 侵略初期に壊滅した東京と大阪とは違い、神戸の被害は軽微なものだ。廃墟化しているとはいえ建造物のほとんどが姿を残しており、それらは生き残った子供たちの住居として利用されている。インフラも、人工知能の補助を受ける子供たち運営のため不安定だが、一応は稼働している。

 

 そんな神戸の海辺に建つ家屋の一つに、伊藤は住み着いていた。

 

「よし子ちゃん、お弁当持った? 水筒は? ハンカチは? 原付の鍵忘れてない?」

「持った持った。伊藤さんは心配性だなぁ」

「忘れると届けるのめんどいもん。んじゃ、行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

 

 同居人のよし子にお弁当を持たせ、送り出す。原付の軽やかな排気音が遠ざかっていく。

 

 一人になると家事の時間だ。洗濯機を回し、朝食の洗い物を済ませ、掃除に取り掛かる。古き良き縁側のある日本家屋は広く、隅から隅まできれいにするとそこそこの時間がかかった。

 

 ほうきとはたきを片付けたところで洗濯機が止まる。

 

 洗濯ものを取り出し、庭に向かいがてらラジオの電源を入れた。

 

『先の母船撃墜により、最大の脅威とされていた「天使」は全滅しました。地表にはギガントの通常個体が生存していますが、天使の統率を欠いたギガントたちなど烏合の衆でしょう。長老は実質的な人類の勝利と分析しており、文明再興の工程を検討中──』

「ふむ」

 

 新しい情報は特にない。

 

 伊藤は洗濯を終えるとラジオを切り、サンダルをつっかけて家を出る。

 

 道路を挟んで防波堤を超えると砂浜になっていて、波打ち際まで歩を進めてから、お昼の海に大きく叫ぶ。

 

「生きててごめーーーん!」

 

 伊藤は死ぬはずだった。なのに生きている。その決まりの悪さを毎日叫ばずにはいられない。

 

 地球が敵性巨大異星体、ギガントの侵略を受けて十五年。ギガントの価値基準で侵略の障害とみなされた大人たちは軒並み虐殺され、世界は子供と老人だけになった。やがて老人たちもその知恵と知識に目を付けられ、根絶やしにされた。残された子供たちは、老人たちが残した人型機動兵器──SA(スケルトンアーマー)を操縦し、ギガントと戦っている。

 

 伊藤はSAのパイロットだった。それも、最初に開発された七機のSA『七巨兵』のうち、もっとも強力で操縦難度の高い一番機『サピエンス』を駆るエースだ。

 

 その高い実力と立場に目がくらんだのか。

 

 同じ部隊のパイロットの少女たちは、全員が伊藤に惚れこみ、伊藤は全員と寝た。

 

「超気持ち良かったーーー!」

 

 最低な感想を自然と海に叫ぶくらいには、気持ち良かった。

 

 しかし欲望と勢い任せで体を重ねた後のことは何一つ考えていない。三人との蜜月を維持するのにかかる労力は尋常ではなかった。このままではギガントとの戦いで死ぬ前に三股がバレて殺される。

 

 そう危惧した伊藤は妙案を思いつく。

 

『仲間を庇う体でMIAになって人間関係リセットすればいいんじゃない?』

 

 ついでに遺言代わりのメッセージを残して、その中で三股も謝っておけばあと腐れがない。ちょうど最終決戦である敵母船撃滅の作戦が間近に迫っていたこともあり、これ幸いと利用した。

 

 とはいえ、すべてが目論見通りとはいかない。前段作戦である本州開放作戦で疲労がピークに達し、意識不明に。どうにか意識を取り戻したときには仲間たちはすでに母船に侵入しており、着替える間もなく応援に駆け付ける羽目になった。

 

 苦労のかいはあり、メッセージの録画と仲間の救出を達成。爆破され塵に変わっていく母船から際どいところで抜け出して、機体は地上へ降下中に投棄した。

 

 ここからが博打だった。落下傘で降下する先は完全に風任せだったのだ。海に身一つで投げ出されて干からびるか、ギガントの勢力下にある陸地に降りて踏みつぶされるか。

 

 運を天に任せた結果、伊藤はこの神戸の砂浜に流れ着いた。ギガントの脅威を排除し、比較的平和な暮らしができる限られた地域の一つだ。幸運は更に重なり、優しい少女に拾われて居候をさせてもらっている。

 

「まさかピンポイントで大阪湾に落ちるとは……これも人徳のなせる業か……」

 

 三股かました女に人徳もクソもない。残念ながら海にそうツッコむ能力はなく、アホな呟きは潮騒にかき消される。

 

 伊藤はこれからの人生を、慎ましく清廉潔白に生きると決めている。悪い宇宙人との決戦はすでに終わった。命がけのパイロットを続ける意味もあるまい。海辺の町で、同居人の少女のヒモとなり、悠々自適に暮らそう。

 

「二度寝しよう」

 

 伊藤は小さなあくびをして、踵を返した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 御影(みかげ)よし子は海辺の町に暮らす少女だ。肩甲骨あたりまで伸ばした黒髪をサイドテールにして、太めの眉とぱっちりした目元が愛らしい。

 

 朝は工場でSAの弾薬を作り、昼からは防衛隊の神戸基地でSAの操縦訓練を受け、夜遅くに帰ってくる。そんな毎日を過ごしていたある日、伊藤と出会った。

 

『うぅ……痛いよう……寒いよう……』

『わあ、大丈夫!? たいへん、すぐ手当するね!』

 

 伊藤は夜の海辺で倒れ、苦し気に呻いていた。

 

 困った人がいれば助けなさい、そのうち助けてくれるから。今は亡き姉の言葉と自前の良心に従って、よし子は伊藤を引きずって家に運び、手当をして、ご飯と寝床を与えた。

 

 翌日には元気になった伊藤と改めて顔を合わせると、はっとするほどの美貌に息を呑んだ。子猫のようにくりくりした金色の瞳。もう片方は分厚い黒の眼帯で覆われている。きれいに切りそろえられた黒髪が、形のいい小顔を縁取る。血色を取り戻した唇はなまめかしい桜色で、妙によし子の目を引いた。

 

 見つめていると、思わず頬が紅潮するような美少女。その顔立ちにどこか見覚えがあり、まじまじ見つめてしまう。

 

 熱い視線に美少女が照れたようにはにかむ。

 

『助けてくれてありがとう! 私は伊藤、君は?』

『よし子だよ。御影よし子、十三歳! よろしく』

『よろしく、よし子。それでね、できればなんだけど、しばらくここに置いてくれないかな? 帰るところがないんだ』

『いいよ! その代わり家事やって!』

『お安い御用』

 

 そんなわけで、同居が始まった。

 

 訳など聞かなくても分かった。古傷だらけの体に、美少女然とした顔に張り付いた武骨な黒い眼帯と、その下にある傷ついて開かない目。悪い宇宙人との戦いで帰る場所を失ったのだろう。

 

 伊藤は家事全般をそつなくこなし、温かい料理を作ってよし子にいってらっしゃいとおかえりなさいを言ってくれる。

 

 戦争初期に親を失い、姉も亡くしたよし子にとって、家で待ってくれている人がいるのは心地よかった。多少食費が増えたことなど気にならないくらいに。

 

 そうして同居を始めて一週間経った夜。

 

 伊藤は思わぬ一面を見せた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 訓練を終えた夕暮れ時。

 

 浜辺に面する帰り道を原付で飛ばしていると、よし子は波打ち際に人影を見つける。

 

 伊藤だ。橙色の空の下、金色の瞳を西方に向けている。

 

「伊藤さん、ただいま。何見てるの?」

「おかえり、よし子」

 

 隣に立って目線を追ってみると、見慣れた風景がある。群青色の水面と湾岸の埋め立て地、その向こうに青く霞んで見える陸地は大阪なのか淡路島なのか、よし子はよく知らない。

 

 伊藤はそのよく分からない陸地を指さして、とんでもないことを言ってのける。

 

「あれ邪魔じゃない? さっさとぶっ壊したいよね」

「テロリストみたいなこと言い出した!?」

 

 戦慄するよし子に伊藤は首を傾げる。

 

「だって邪魔じゃん。白くて目立つし、どこからでも見える。うっとうしいでしょ」

「あ、ああー! 『ピラー』のことか!」

「それ以外に何壊したがるのよ」

 

 よし子がほっと胸をなでおろす。伊藤が指しているのは、西の陸地から垂直にそびえたつ白い巨塔──ピラーのことだったらしい。物心ついたときから風景の一部に溶け込んでいるので、よし子には「言われてみれば邪魔かも」程度の認識だ。

 

 伊藤は憤然として腕を組む。

 

「あれ目当てでギガントが攻めてくることもあるのに。『長老』はさっさと壊す方法考えるべきだよね」

「え、そんな危ないのあれ!?」

「危ないなんてもんじゃないよ……ていうか基地でこういうの教わらないの?」

「教わった気がするけど忘れちゃった」

 

 伊藤は呆れた顔でため息をついて、簡単にまとめてくれた。

 

 あの白いのはピラー。今は機能を停止しているものの、稼働すると地球の環境を作り変えられる。破壊したいがあまりに巨大かつ頑丈なので放置している。生き残りのギガントがピラーを稼働させようと企んでいるかもしれない、などなど。

 

「へー、淡路島にそんなやばいものが……」

「いや、淡路は逆方向でしょ。あっちは大阪よ」

「えっ」

 

 伊藤は物知りだった。座学が苦手なよし子が物を知らなすぎるということもないではないが、よし子が当たり前に受け入れていたピラーについて、アンチテラフォーミングだの戦略的重要拠点だの、難しそうな単語を使って解説してくれるあたり、ここに流れ着く前は先生でもしていたのかもしれない。

 

 伊藤の博識はピラーだけにとどまらず、SAにまで及んだ。

 

「それでね、教官はもっとよく狙えって言うんだけど、いくら狙っても弾がまっすぐ飛ばないの。私のSAだけ壊れてるんだよ」

「ふーん」

 

 夕食の一幕。メニューはご飯とみそ汁、魚の缶詰と漬物。ちゃぶ台を挟んで向き合う伊藤とよし子。

 

 話題はよし子のSA操縦訓練についてだ。よし子は射撃の成績が悪く、このままではパイロットの試験に落ちてしまう。

 

「よし子は戦いがしたいの?」

「ううん、別に。でもパイロットはお給料いいし、ずっと工場で働くなんて息が詰まるでしょ。訓練だけはしとこうと思って」

 

 それに、もしギガントが現れたら、戦う力がある方が安心できる。

 

 伊藤は漬物を一切れ口にしてから、言った。

 

「FCS(火器制御システム)の設定が合ってないのかもね」

「えっ?」

「武器は実弾? ビーム?」

「ビームだけど」

「じゃあやっぱりFCSが悪さしてるね。明日訓練始まってすぐに調整するといい。コンソールから設定画面に行って──」

 

 伊藤が複雑な操作手順を口頭でつらつら言うので、よし子は慌ててノートを取り出して書きつける。

 

「だまされたと思って試してみて。ごちそうさま」

「あっ、うん」

 

 どうしてそんな知識があるのか。聞こうとしたとき伊藤が席を立って洗い物を始めたので、結局聞けなかった。

 

 翌日。防衛隊神戸基地の射撃訓練場にて。二十メートル級の鉄の巨人──SA量産機、『ダイダラ』が横一列で並ぶ。流線形が美しい七巨兵とは違い、ダイダラは角ばってごつごつした金属人形といった形状だ。

 

 よし子はそのうちの一つのコックピットに収まり、ノートの手順を見返しながら、たどたどしくコンソールを操作していく。

 

『次、御影よし子! はじめ!』

 

 操作が終わって間もなく名が呼ばれ、よし子は射撃訓練を開始する。セーフティを解除。FCSが前方三百メートルの的を認識し、ロックオン。腕部パーツと連携し、ビームライフルの照準を合わせる。

 

 絶えずブレるレティクルが標的と重なったタイミングで、トリガー。いつもなら、ビームが的の数メートル横を素通りするのだが。

 

「当たった……!」

 

 閃光が的を射抜いた。続けて引き金を引く。

 

『全弾命中! 見事だ。やればできるじゃないか』

「ありがとうございます!」

 

 教官の声に答えるよし子の声は、感涙で震えていた。

 

 訓練を終えて帰宅すると、よし子はあいさつもそこそこに伊藤に詰め寄った。

 

「射撃訓練、すごくうまくいった! これなら試験も怖くないよ! なんで? なんであんなにうまくなったの?」

「おうおう、落ち着け」

 

 伊藤はどうどうとよし子をなだめ、仕組みを説明する。

 

「実弾兵器に代わってビーム兵器が出回り始めたの、つい最近でしょ? ダイダラの中には、FCSの設定が昔の実弾のままになってるやつがあんの。風と重力の影響を受けないビームを撃ってんのに、機体の頭脳は実弾のつもりで撃ってる。さあどうなる?」

「弾道の変化を修正する分、ビームがずれる!」

「正解! よく分かったね」

 

 頭を撫でられ、よし子は目を細めた。

 

 伊藤はすごい。ちょっとした愚痴からこんな的確なアドバイスができるなんて。風景の一部だったピラーのことも、あんなに詳しく知っていた。

 

「伊藤はどうしてそんなに物知りなの? FCSの設定なんて、整備科の人しか習わないはずなのに」

「ああ、どうしてかというとね」

 

 たっぷりともったいぶる伊藤。

 

 きらきらした瞳を向けるよし子に、やがていたずらっぽく微笑んだ。

 

「秘密」

「ええー!? ケチ!」

 

 伊藤はけらけら笑って奥に引っ込み、夕食冷めちゃうよと促す。

 

 少しの間むくれていたよし子だったが、あったかくて優しい味のする伊藤の手料理に、ぱっと笑顔を咲かせる。

 

 伊藤は料理が上手で、物知りで、なぜかSAの操縦に詳しい。今はそれでいい、と納得した。

 

 なお、一つ余談として。

 

「伊藤さんって爪きれいだねー。趣味?」

 

 伊藤は爪の手入れに余念がなかった。どこからか手に入れてきた数種類の爪やすりを使って、白く細い指先の爪を小さな桜貝のごとく磨き上げている。

 

 興味深げによし子が尋ねると、伊藤は金の瞳を意味ありげに細め、

 

「そう、ただの趣味だよ。他意は何にもないから」

 

 とうそぶいた。

 

 明らかに何か含みがあるものの、このときのよし子には見当もつかず、なんとなく伊藤のキレイに整えられた指先に目が引かれたのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 伊藤と暮らし始めて二週間が経った。

 

 伊藤はSA操縦にかけてはよし子の想像以上に詳しく、よし子が愚痴の感覚でうまくやれないことを話すたび、最適で分かりやすい助言をくれた。

 

「近接戦闘はマクロとマニュアルを組み合わせるんだよ。模擬戦でのおすすめはプリセットのマクロDを開幕やってスラスターを全開にした後、マクロA。初見だとたいてい一本とれる」

「スラスター移動後の歩行動作が遅れる? たぶん右ペダルを強く踏み込み過ぎてるんじゃないかな。意識して早めに緩めると安定するよ」

「実はプラズマブレードには隠れた裏技があって──」

 

 このように、機体の挙動から隠れた仕様まで広範な知識を世間話のごとく教えられ、よし子は律儀にすべてを実践。新人とは思えない機敏な動きで訓練用量産機を操り、一般的な訓練生から期待の大型新人へと評価を変え、訓練所では一目置かれることとなった。

 

 工場でも訓練所でも注目され、称賛を浴びる。帰れば温かいごはんと同居人の笑顔が待っている。よし子は幸せだった。

 

 その幸せをかぎつけたように、怪物が現れる。

 

『姫路方面よりギガントが接近中。数は五、いずれも小型。損傷しており、飛行能力はない。防衛隊の到着まで数時間かかる模様。付近の住民は避難を──』

 

 風の生ぬるい夜中のことだった。

 

 海辺の町に、防災無線が鳴り響く。民家に明かりがつき、荷物を抱えた子供たちが避難場所に急ぐ。

 

「ふわぁ、通常個体が五匹程度で何をしに来たんだか……」

 

 サイレンに叩き起こされた伊藤があくびを漏らす。

 

 緊張感はまるでない。経験と訓練を積んだSAパイロットであれば普通のギガント五体程度脅威ではないからだ。町は破壊されるだろうが、シェルターに隠れて防衛隊の到着を待てばいい。

 

「避難場所ってどこだっけ。案内よろしくね、よし子」

「ごめん、私は行けない」

 

 よし子の固い声に目を瞬き、ややあって内容を呑み込み、表情が強張る。

 

「どういうこと?」

「防衛隊が着く前に、ギガントがここに来る。そしたら、この家を壊されちゃう」

 

 伊藤は苛立ちをあらわに眉をひそめる。

 

「だから何。家くらい空き家がいくらでもある」

「この家はな、家族で暮らした一つだけの家やねん」

 

 戦争の初期、ギガントが大人たちを区別して虐殺していると分かる前のこと。

 

 ごく短い期間だが、よし子にはこの家で家族と暮らした思い出があった。優しい母と無口な父、頼りになる姉と四人で暮らした。やがて大人が狙われていると明らかになり、両親は二人の娘を巻き込まないように、遠くへと姿を消した。姉もまた、パイロットとして戦い死んだ。

 

 独りぼっちになったよし子にとって、この家は唯一残された家族とのつながりだ。

 

 だから戦う。そのために今まで訓練してきた。

 

「もう誰も帰って来んのは分かっとる。ほんでも私は留守番をやり遂げなあかん。お姉ちゃんも、きっとそうしたやろし……伊藤さんとの思い出だってあるもんな」

 

 照れくさそうに笑いながら、地元の言葉を紡ぐ。その訛りさえも家族が遺してくれたものだと言うように、ゆっくりと大切そうに。

 

 伊藤が黙っていると、よし子が踵を返す。

 

「避難場所は、大通りをまっすぐ北に行ったところの公民館だよ。そこがシェルターの入り口。みんな集まってるから分かると思う」

「よし子……」

「伊藤さん」

 

 振り返らずに、よし子は言い残す。

 

「短い間だったけど、ありがとう。ばいばい」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 防衛隊の数は少ない。先日の母船撃墜に先んじて、地上の主力ギガントを抑える必要があり、その作戦で消耗した戦力を回復できていないのだ。

 

 直近の防衛隊基地は鳥取にあり、神戸までどう急いでも数時間はかかる。

 

 その間の時間を稼ぐのがよし子の役割だ。

 

「みんな考えることは同じだね!」

「だなぁ」

「もうちょっと練習しときたかったけどねー」

 

 訓練生の子供たちは、みんな同じ思いだった。

 

 それぞれがこの町に思い入れがあり、好き放題荒らされるなんて許せない。戦う義務がなくとも、勝手に訓練機を持ち出して迎撃に向かっている。

 

「このやんちゃ坊主どもが。死んだら許さんからな」

 

 教官の乗る機体を先頭に、荒れた市街を西へ進む。国道には古い車両がまばらに放置されており、ホバー移動で時折蹴飛ばすものの、中にはバランスを崩して転倒しかかる機体もいる。

 

「気を付けろ! 乗用車ならともかく、バスやトラックは押し通れんぞ」

「うう、暗くて見にくい……」

「教官、空飛びましょうよ空!」

「バカ。空中機動なんかぶっつけでやったら死ぬぞ」

 

 というか俺も教えられん、と教官が心中で弱った。ダイダラは優秀な量産機であり、十分な飛行能力を備えているが、教えられる者が誰もいない。熟達したパイロットの大半は先の作戦で死んでしまった。

 

 危なっかしい道中を超えると、大きな川に差しかかる。

 

 ここが迎撃予定地点だ。等間隔で土手の上に位置取り、待ち構える。

 

 敵の接近はすぐに分かった。濃い墨のような夜闇の中に、ぼうっと浮き上がる光が五つ。

 

 その光が、ギガントの巨体を照らし出す。未知の元素で構成された外骨格が鈍く光を照り返し、頭部にあたる部位にはねじくれた角が絡み合うように生え、角の一つ一つが発光している。サイズはダイダラと同じ二十メートル程度だ。

 

 が、機敏さはSAの比ではない。スプリントの姿勢でみるみる近づいてくる。手には外骨格と同素材の槍が握られており、近づかれれば不利だ。

 

 五体のギガントは川をものともせず、川底を踏みしだいて肉迫する。

 

「狙え!」

 

 教官の指示で我に返った。初めて対峙する敵の威容に、よし子たちは呑まれていた。慌てて訓練の要領を思い出し、ビームライフルの狙いを付ける。

 

 しかし実戦は訓練とは違った。

 

 ギガントたちはランダムに左右へステップを刻む。狙いが定まらない。

 

「うわああ!」

 

 徐々に近づいてくるギガントたちに、子供たちの一人がパニックを起こした。ビームライフルの閃光が弾け、空を切る。

 

 恐怖が連鎖する。あちこちでビームがろくな狙いもつけずに放たれ、川の水面を抉り、土手を焼き焦がす。戦線が下がり、入り組んだ市街地に押し込まれていく。

 

「落ち着けお前ら! 一度距離を取って──」

 

 統率を立て直そうとする教官。

 

 最初の犠牲者は彼だった。十六歳の少年だ。

 

 ギガントの一人が大きく体をのけぞらせ、上半身をしならせる。槍が投射され、正確に教官機のコックピットを穿った。痛みさえなく即死し、損傷したエンジンが炎上、機体は爆散した。

 

「教官っ! くそ、来るな、来るなぁ!」

 

 恐怖と混乱が加速する。ビームをめくら撃ちして、プラズマブレードを癇癪を起こしたがごとく振り回す子供たち。

 

 ギガントは容赦なくその隙をついた。それぞれ手近な機体に接近し、間合いの外から槍で突く。いずれもコックピットを貫かれ、教官機と同じ末路を辿った。

 

「ぐぬ……っ!」

 

 一方、粘るのはよし子の機体だ。

 

 危なっかしい挙動で機体を傾け、スラスターで距離を取り、槍を回避しながらビームライフルを射撃する。ギガントは煩わしげにステップで間合いを調整し、隙を伺う。

 

 訓練中の身としては百点満点の動きを連発するよし子。

 

 しかし奇跡的な健闘は長くは続かなかった。

 

「わあ!?」

 

 スラスターによるホバー移動をしていたよし子機は、突如バランスを失った。転倒し、モニターが姿勢異常のエラーで覆われる。

 

 足元にカメラを向けると、凹んだ鉄塊がある。潰れた大型バスだ。乗り捨てられたそれに足を取られてしまったのだ。

 

 態勢を立て直すより、ギガントの攻撃の方が速い。

 

 大きく跳び跳ね、槍を突き立てんとギガントが迫る。

 

 鋭い切っ先が大きくなる光景を前に、よし子はたまらず目を閉じた。

 

「ごめーーーーん!」

 

 直後、通信音声。

 

 目を開けると、異常な光景があった。

 

 飛び掛かるギガントの体に、訓練機が跳び蹴りを突き刺している。ギガントは体をくの字に下り、吹き飛んだ。

 

 訓練機はそこそこの高度から難なく着地。カメラアイの光が威圧的に強まり、ギガントたちを睨みつける。

 

「最大限急いだけどこのタイミングになった! 間に合わなくてごめん!」

 

 通信は目の前の訓練機からだった。

 

 聞きなれたその声は、ここで耳にするはずがない彼女のもので、よし子は目を白黒させる。

 

「伊藤さん!? 何してるの!?」

「話は後! とりあえずこいつら片すからじっとしてて!」

 

 言うが早いか、伊藤機が地を蹴る。

 

 向かう先はもっとも手近なギガントだ。スラスター全開で迫る伊藤機に対し、ギガントは槍を薙ぎ払う。

 

 伊藤機は突如姿勢を崩し、槍の下へ潜り込んだ。スライディングだ。

 

 通り過ぎざま、プラズマブレードを一閃。両足を切断されたギガントが倒れ、反対に伊藤機は跳ね起きると同時にプラズマの刃をギガントの胸に突き入れる。

 

 残り四体。

 

 左右から同時にギガントが迫る。もう一体は背後に回り込み、もう一体は距離を取って様子見。

 

 これに対し、伊藤機は信じられない挙動で迎え撃った。

 

 左右同時の刺突。左の穂先を半身になって躱しつつ、足元を狙った右の穂先は、叩きつけるようなストンピングで地に縫い付けた。

 

 動きの止まった二体にビームライフルを一発ずつ射撃。たたらを踏む二体。右の個体にプラズマブレードを突き入れ、すぐさま左の個体にも刺突を入れた。

 

 そして、ライフルを放棄。空いた手でギガントの槍を掴み、振り向きざま投擲する。

 

 背後から迫っていたもう一体の胸部を穿った。

 

 残るは最後の一体。

 

 この一体は賢明なことに、一対一になった瞬間に背を向け、逃走を開始していた。

 

 それを見逃す伊藤機ではない。もう一振りの槍を握り、投擲。わずかに狙いが逸れて腹部にあたり、地面に縫い付けた。

 

 先ほど捨てたライフルを悠々と拾い上げ、抜け出そうともがくギガントに近づいて、プラズマブレードを振り上げる。

 

「っと、耐久限界か」

 

 ブレードの発振部が火花を散らし、刃が掻き消える。

 

 ガラクタと化したそれを捨て、伊藤機はビームライフルの銃口を、動けないギガントの胸部に突きつける。

 

「ちょっと痛いよ」

 

 引き金を引く。閃光が瞬き、強固な外骨格が焼け焦げる。十数回引き金を引くと、ようやく外骨格が溶け落ち、内部の急所を貫いた。ギガントの体から力が抜け、動かなくなる。

 

 カメラアイをぐるりと巡らせる伊藤機。沈黙した五体のギガントと、炎上する訓練機、破壊された市街を見やり、冷たく告げる。

 

「敵影なし。戦闘終了」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 犠牲者は教官一名と訓練生四名。無人区域が破壊されるも、居住市街に損傷なし。

 

 防衛隊の到着を待たずして五体ものギガントを訓練機が討伐したことは、大きな話題となった。犠牲者が出ていなければ祝勝パレードでも行われていたかもしれない。工場や訓練施設では繰り返し、この見事な勝利をもたらした稀代の天才パイロットについて称賛と感謝が囁かれている。

 

「御影さん! この町を守ってくれてありがとう!」

「一緒に出撃した人たちは気の毒だったけれど、気にしすぎちゃダメよ。あなたは十分に頑張ったんだから」

「お前、めちゃくちゃ強いな! 戦闘ログ見たけど五対一で圧勝じゃねーか! 天才過ぎてこえーよ!」

「プラズマブレードのリミッター解除なんてよく出来たな。 しかも斬撃の瞬間だけ出力を跳ね上げるなんざ並大抵の技巧じゃねえぞ」

「全身の関節が過負荷で破断寸前だったぞ。どんな変態機動したんだよ。もう天才超えてバケモンだよお前」

「だーかーらー! 違うってばぁ!」

 

 直接の称賛(と少しのドン引き)に対し、稀代の天才パイロット──御影よし子は辟易としている。

 

 ギガントを倒したのは自分ではない。もう一機の訓練機がいた。そう主張しても、周りは取り合わない。

 

「機体のログにそんなのは写ってないぜ。素直に褒められとけよ。過ぎた謙そんはよくないぞ」

「ぐぬぬ……!」

 

 一体どんな技術によるものか、あのありえないほど有機的な動きをする訓練機に乗っていたのは御影よし子である、という風に記録が改ざんされていたのだ。その場にいたよし子でなければ改ざんされたと分からないほど巧みに。専門職である整備科まで気づかないのだから相当である。

 

 これに気付いたよし子は、愛すべき家に帰るなり下手人を問い詰めた。

 

「なんで私のお手柄になってるの! ていうか伊藤さんあんなに強いなんて聞いてないよ!」

 

 伊藤はとんとんとん、とネギを刻みながら「んー」と言葉を探している。

 

「私もパイロットだったんだよ」

 

 後半の問いに対する答えだった。

 

 半ば予想していたことだ。あれだけ凄まじい実力を見せつけられ、その上整備科も知らないFCSなどの仕様を知っているとなると、元パイロットなのは予想がつく。

 

 それよりも、どうして手柄を押し付けたのか。

 

 その問いは無視して、伊藤が続ける。

 

「しかも七巨兵の一番機、『サピエンス』に乗ってたんだぞ。SAのことなんて全部知ってるさ。すごいだろ」

「え」

 

 ぴたり、と動きを止めるよし子。言葉を失い、じっと伊藤を見上げる。

 

 七巨兵。老人たちに最初に作られた七機のSAであり、それぞれが異なる戦術に特化した調整がなされている。戦いの中で三機が失われ、残っているのは三番機、四番機、五番機──そして、最強と言われた一番機『サピエンス』は、先日の母船撃墜作戦で消息を絶った。

 

 パイロットは軌道上から日本近海のどこかに落ちたと言われており、防衛隊は有力情報に賞金を出し、懸命な捜索を続けている。

 

 よし子ははっとしてカバンに手を突っ込んだ。底の方でくしゃくしゃになっていた紙を広げ、印刷された写真と目の前の人物を見比べる。

 

 七巨兵一番機パイロット、伊藤。見かけた方は最寄りの防衛隊基地まで連絡を──。

 

 見覚えがあるはずだった。工場で配られたチラシの写真そのままだ。

 

「うわぁ有名人だ!」

「サインでもしようか?」

「いらない!」

 

 即答されて伊藤はショックを受けたようにたじろいだ。

 

 構わず、よし子がまくしたてる。

 

「そんなことより、仲間の人たちが心配してるよ? 基地に顔出した方がいいんじゃない?」

「それはできない」

 

 強い断言だった。

 

「私は仲間たちと二度と会わないし、会えない。絶対に、何があっても」

 

 声が固い。険しい表情からは、もしよし子が基地に連絡でも入れようものなら、二度と帰ってこないほどの拒絶の意志が感じられる。

 

 その意志は、手柄をよし子に押し付けた理由でもあるのだろう。下手に話題になって生きていることを広めたくないのだ。

 

 ほんの一週間程度だが、伊藤が悪人でないことは分かっている。誠実で、優しくて、家事が得意で、SAの操縦が誰よりも上手い、少し年上の女の子。

 

 そんな善良な子が、絶対に会わないとまで言っているのなら。

 

「分かったよ」

 

 よし子は心を決めた。

 

「伊藤さんはずっとここにいていい。無理しなくていいからね」

「……いいの?」

「事情を話してくれたらうれしいけど、どっちでもいいよ」

 

 伊藤は、温かいごはんを作ってくれる。

 

 いってらっしゃいとおかえりなさいを言って、おやすみとおはようを毎日言い合える。

 

 それだけで十分だ。伊藤が抱える複雑な事情を、暴きたいなんて思わない。

 

 親もなく、唯一の肉親である姉を失ったよし子の孤独を、伊藤は完璧に埋めていたのだ。温かい暮らしを知ってしまった今、誰もいない真っ暗な家に帰ってくることなんて、もう考えたくもない。伊藤がいない暮らしなんて嫌だ。

 

「一緒にいよう。ね?」

 

 伊藤をぎゅっと抱きしめる。身長差で口元が伊藤の胸に埋もれ、いい匂いに包まれる。

 

「う、うん。ありがと」

 

 伊藤は若干眉をひくつかせて、よし子を抱き返した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 同日、深夜。

 

 伊藤は自分の胸に頬をすりつけて眠るよし子に、複雑な表情を向けた。

 

 ずっとここにいていい、と言ってくれたのは実に都合が良かった。家事さえしていれば実質ヒモになっていいというのと同義だからだ。

 

 ただ、あのときの縋るような目つきと、背に回された手の感触は、三股をかけた少女たちと同質のものに思えてしまう。

 

「んぅ……伊藤さぁん……」

「むむ」

 

 寝言を漏らし、胸に顔をすりつけるよし子。頭を撫でてやると、幸せそうに顔を緩ませた。

 

 かわいい。このまま仲良くなっていけるところまで行ってしまいたい。

 

「いかんいかん……私は清廉潔白な純情乙女……四股なんてもってのほか。うむ」

 

 伊藤はドキドキする鼓動に知らんぷりを決め込んで、少女を抱いて眠りに落ちた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 一方そのころ。

 

 高知沖、平野海岸にて。三人の少女が軍用ライトを手に、波打ち際を歩き回っている。

 

「うーん何もないわね。海流と落下予想地点からして、西日本のどこかとは思うんだけど」

「なぜ夜? 何か落ちてても見つけづらい」

「仕方ないでしょ! 昼間は仕事あるんだから!」

「まあまあ二人とも、かりかりしないで~。あ、そこクラゲ落ちてるよぉ」

 

 ケイト、エルドリース、小雪の三名だ。

 

 防衛隊のエース、七巨兵のうち三機を操る少女たち。

 

 そして、カス女に三股をかけられていた哀れな子供たちである。

 

 三人は仕事の合間を縫ってはめぼしい地域に足を運び、直接手がかりを探している。漂着の見込みが高い順に回っているが、今のところ浜辺に打ち上げられているのはクラゲやワカメばかりで、一か月経っても伊藤の痕跡は見つからない。

 

 が、三人の目に諦めの色はまるでなかった。

 

 獲物を追い詰める狩人のように眼光鋭く、忌々しいあの女に執念を燃やす。

 

「待ってなさいよ、必ず見つけるから」

「見つけたら~、うふふふ」

「眠い……伊藤、おんぶ」

「私は伊藤さんじゃないよぉ~」

 

 寝落ちした白い少女をおんぶして、三人は捜索に見切りをつけ、引き揚げにかかる。

 

 車に乗り込み、高知基地へ帰る道すがら、ケイトが思い出したように言った。

 

「そういえば聞いた? 神戸の方にギガントが五体出たって」

「聞いたよぉ。物凄い天才新人パイロットちゃんが、やっつけたんだよね。すごいなぁ、私も才能ほしいなあ」

「あんたは十二分にある部類でしょ」

「その話」

 

 割り込んできたのは、寝落ちしていたエルだ。

 

 なぜか大きく目を見開いて、虚空を睨んでいる。怖い。

 

「その話、気になる。怪しい」

 

 ケイトと小雪が顔を見合わせる。

 

 エルは勘が鋭い。理屈ではなく、エルが怪しいと判断したものには必ず何かある。

 

 以前、とある特殊なギガントと接敵した。そのギガントは可視光線含むあらゆる電磁波を透過する能力を持っており、誰も存在に気が付かなかった。索敵に特化した七巨兵の七番機さえ擬態に気付かず、大破させられた。

 

 だが、エルは気づいた。怪しいと突如呟いて、何もない空間を攻撃。そのギガントの発見に至った。

 

 だから、エルの勘には全幅の信頼を置いている。

 

「神戸か。『長老』の漂着予想からは外れてるけど、エルが言うなら行ってみる価値あるわね。小雪、次の指令は?」

「んーと」

 

 助手席の小雪が携帯端末を取り出し、予定を確認する。「うぇー」と嫌そうに眉を寄せた。

 

「鹿児島基地で教導訓練を実施せよ。その次は鳥取基地で、中国地方の『天使』を捜索せよだって」

「人使いが荒いんだから、もう」

「中国地方って一口に言っても広いよねぇ。ねー、エル?」

「……」

「寝ちゃった」

 

 エースパイロットである三人の仕事は、各地の防衛隊の教導訓練と、強力なギガントの捜索および討伐だ。手分けはできないものの多くの土地を巡るのは人探しに都合がいい。

 

 しかし特定の土地に用がある場合は都合が悪い。鹿児島と中国地方では移動に時間をとられ、仕事もそこそこにハードだ。もしエルの勘通り神戸に手がかりがあったとしても、機を逸してしまうかもしれない。

 

「どうする? ぶっちしちゃう?」

「それはダメよ。長老が使えなくなると面倒だわ」

 

 長老は、老人たちが遺した高度支援AIだ。ギガント戦における兵站管理、戦術計画立案のほか、高度な知識と技能を要するあらゆる作業を支援する。大人がいないにもかかわらず侵略前と同じ生活水準を保っているのは、ひとえに長老の支援あればこそ。『サピエンス』を発見できたのも、長老が最後の位置情報と海流から水没予想地点を割り出したからだ。

 

 三人にとっては便利な道具であり司令官のような立ち位置でもある長老は、正当な理由なく無視すると一週間から一か月私的利用禁止のペナルティが科される。確証がない今、人探しにおける強力な手札を失うのは避けたい。

 

「それに、万が一『天使』が潜伏していたらシャレにならない。今まともに戦えるのは私たちだけなのよ」

 

 母船撃墜に関わる一連の戦いで、多くのパイロットが戦死した。天使と通称される特殊なギガントに対処できるのは、七巨兵の三人だけだ。

 

 小貫は「りょーかい」と頷いて、付け加える。

 

「せっかく伊藤さんが戦って守ってくれた世界、私たちが守らないとね」

 

 それに対してケイトは小さく鼻を鳴らすだけだった。

 

「さっさと仕事を済ませましょ。それから神戸でやつを狩り出すのよ」

「さんせーい。じゃ、今の仕事終わったら休暇をとれるように申請しとくね」

「ん、おねがい」

 

 ケイトは犬歯をむき出しにして、威圧的に笑う。

 

「首を洗って待ってなさいよ、伊藤ォ……!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 翌日、朝。

 

「あれ? なんか胸騒ぎが」

「伊藤さんおはよー! 朝ご飯何?」

「おはよう。フレンチトーストとサラダにしようかな」

「わーい!」

 

 そこはかとない嫌な予感を覚えた伊藤だったが、目前の美少女とのイチャイチャを優先し、気にしないことにしたのだった。

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