インフィニット・ストラトス: Reorigin;The World She Chose   作:笑嘲嗤

10 / 13
第10話 影曝す

 あのままシャルに撫でられながら俺は眠ってしまった。

 

「ありがとうシャル」

 

「いいんだ。いいんだよ」

 

 朝起きてシャルは優し気に微笑んでくれた。

 

「昨日泣いて疲れた。今日は休もう」

 

「うんそうだね」

 

 IS学園に来て初めて授業を休むことになった。シャルはどこかのびのびしている。

 

「やっぱり男の姿だときつかったんだ。今はすごく楽」

 

「そう。ならよかった」

 

 俺たちはダラダラと過ごす。映画を見たり、料理作ってみたり、昼寝したり。お互いに外の世界を何も考えずにゆっくりと過ごした。

 

「ボクはお父さんと一時間も喋ったことがないんだ」

 

「そうか。それはなかなか辛そうだな」

 

「うん。僕は女の子だからね。家の跡継ぎにはなれない。本妻さんとの間には子供がいないんだ。だから外で子供を作ったけど、それも女の子。デュノア家は家族に恵まれない。呪われてるんだね」

 

 俺たちは呪われている家の子だった。暖かみを知らない。家族に見捨てられた。シャルとの間にはそう言う共感と連帯が生まれていた。

 

「俺たちは結局何処へ行けばいいんだろうな」

 

「そうだね。うん。何処なら受け入れてもらえるんだろう?」

 

「なあシャル」

 

「なぁに?」

 

「逃げるときはお前も来るか?」

 

 俺がそう言うとシャルは柔らかく笑みを浮かべて頷いた。

 

「うん。その時は二人で逃げよう。どこにでも行くよ。ずっと一緒に」

 

「ありがとうな」

 

 不思議だ。女なんて信用することは二度とないって思ってた。けど案外俺は絆されやすいんだな。でもそれが悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラは機嫌がよかった。アリーナで四組の日本代表候補生を倒した。

 

「取るに足りないな、IS学園は。所詮はおままごとの砂場だな」

 

「そうね。あたしもそう思うわ」

 

 通路の先に鈴音がいた。ラウラは足を止める。

 

「中国の代表候補生か。ちょうどいい。私と戦え」

 

「いいけど、負けたら学園から消えてくれる?」

 

「ほぅ?なんだ?大した言い分じゃないか。度胸は認めてやろう」

 

 ラウラは不敵に笑うが、鈴音は真剣な表情を崩さなかった。

 

「お前もどうせあの種馬相手に媚びを売っているんだろう?聞いたぞ、幼馴染だそうだな。わざわざ会うためだけにこんなところへ来るんだからな」

 

「そんなつもりはなかった。私情でこんなくだらない場所に来るつもりなんてない。あなたとは違う。織斑千冬。たかがあんなののためにこんなところに来たんでしょう。あなたの方が滑稽よ」

 

「なに?今織斑教官を侮辱したのか!?」

 

「ええ。そうだけど。鬱陶しいのよ。彼女のせいで一夏は苦しんでる。あなたみたいなカルト信者につき纏われるんじゃ哀れでしょう」

 

「織斑教官は素晴らしいお方だ!彼女がいたからこそ我々は強くなれた」

 

「へぇ。強くなったの。そう?あたしにはあんたはただの軍隊オタクにしか見えないわ。イキってオラついてるだけのメスガキ。情緒不安定でなにかに縋って自分を保つのは楽でしょうね。織斑千冬という偶像を拝むのはそんなに楽しい?」

 

「貴様!」

 

 ラウラはすぐに飛び掛かって鈴音を殴ろうとする。だが鈴音はそれをあっさり躱した。

 

「な?ぐぅ!」

 

 さらにカウンターでラウラの腹を蹴り上げる。ラウラは距離をとり、ナイフを取り出して牽制する。

 

「ナイフなんて持ち歩いているの?オタクねぇ。中二病かしら?」

 

「殺す!!」

 

 ナイフで鈴音を指そうとする。ラウラはどうせISを起動させると見込んでいた。だがISを起動させず、鈴音はナイフを持つラウラの手を躱して、懐に潜り込んで胸を強く押した。

 

「ぐぅ!?」

 

「殴らなくても痛みは与えられる。苦しいでしょ?息が出来なくなるのは」

 

 そしてナイフを持っていたラウラの手を掴み、足を引っかけて床に叩きつける。

 

「がぁ!?」

 

「あなたはナイフで人を刺したことはないんでしょ?わかってないわ」

 

 鈴音はいつのまにかナイフをラウラから奪っていた。そして馬乗りになり、ナイフでラウラの制服の上着のボタンを切り裂いていく。

 

「やめろ!!」

 

 だが鈴音は無視する。そして曝されたシャツを剥いで、胸が晒された。

 

「っ?!」

 

「あら?恥ずかしいの?ほんと軍隊オタクね。ナイフを使うときはね、ここを指すのがいいわ」

 

 そう言って鈴音はラウラの胸の上に刃を触れさせる。

 

「っあ……」

 

 ラウラは恐怖を覚えていた。初めての感触だった。命を握られた。その事実が彼女を打ちのめす。

 

「でも最初はうまく行かないの。あばら骨に邪魔される。だから新兵は何度も何度も刺しちゃうの。相手が血みどろになってナイフも折れてるのに何度も何度も何度も何度も何度も」

 

 鈴音と目が合う。冷たく笑っていた。その眼には光が宿っていない。本来なら暖か気に見えるだろう緑色はなにも感情を表していない。どこまでも冷たい。

 

「相手が死んでも気づかない。どうしても怖いから。もしかして蘇ってくるんじゃないかと思ってしまう」

 

「お、お前はなんだ?」

 

「あたし?ただの何処にでもいる普通の女の子だったよ」

 

 鈴音はナイフの腹でラウラの頬を撫でる。その冷たい感触にラウラは震える。

 

「あらかわいい。あなたって強がってるけど、所詮は女ね。もう泣きそうな顔してる。泣いていいのよ?っはは!」

 

 そして鈴音はナイフを捨てて、ラウラの上からどいた。らうらはすぐに制服の前を必死に抑える。

 

「ああ。いいわね。肌を惜しむなんて女の子してるわ」

 

「貴様!私は軍人だぞ!」

 

「あなたはただのオタク。兵士じゃない。中途半端なままでお綺麗に英雄になりたいだけのオタク」

 

 鈴音は冷たくラウラのすべてを否定する。だがラウラはもう反論できなかった。目の前の女が恐ろしすぎたから。

 

「一夏に近づくな。織斑千冬との因縁は自分で処理しなさい。男に甘えるな」

 

 それだけ言って鈴音はラウラの前から去っていた。ラウラは恥辱に涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わって放課後のアリーナのドックで、俺とシャルはボーデヴィッヒと四組の更識との戦闘の記録を見ていた。

 

「AICはやっぱり脅威だね」

 

「俺の機体と相性最悪なんだけど」

 

 一騎打ちならほぼ勝てない。他の機体なら何とかなると思うが。だけど相手のドイツ製の小回りはよく効きそうだ。攻守ともに手強い。

 

「まあ鈴ほどじゃないけど」

 

「そっちの対策もしないといけなんだよね」

 

「いや無駄だからいいよ。まじで対策が基礎能力の向上以外で太刀打ちできない。作戦とか小賢しいもので何とかなる相手じゃないよ」

 

「そんなに強いんだね。中国も本気なんだね。第三世代機開発競争は国家の威信をかけた代理戦争になってる」

 

 シャル的にはそれに巻き込まれて普通の生活を失ったんだ。やるせない気持ちで一杯だろう。

 

「だけどボーデヴィッヒさんは多分」

 

「こっちは何とかできる。小賢しさが通じるよ。問題は俺の機体のどピーキーさをうまくコントロールできるかだと思う」

 

「一夏の百式本当にひどいよね!意味わかんないくらい搭乗者の命なんだと思ってるんだろうね。信じらんない!」

 

 シャルがぷりぷり怒ってる。可愛い。百式はマジでゴミ。技術は高いが何がしたいのか。他にやれることあったんじゃねぇのって本気で思う。

 

「最近知ったんだが、束さんが設計に大きく手を入れたらしい。そんでもって本人はドロンした」

 

「あはは。引くなぁ……」

 

 束さんが大きく手を入れた結果の副作用として百式は事実上フリー素材らしい。何でかって言うと設計者の束さんが権利獲得に興味がなく、そのうえ会社側が開発したわけではないので特許がとれないそうだ。本当にしょうもない機体。

 

「シャル。そう言うわけだから」

 

「うん。ボクの武器の使用権を一夏にも許可しておくね」

 

「手数の確保を外部依存するのは本当にどうかと思うけどね。はあ」

 

 まったくいつも準備不足で戦わなきゃいけないのは本当どうにかならないんだろうか。世の中は本当にままならない。

 

 

 

 

 

 

 




シャルと一夏のポカポカ感が好きです。

感想とかくれると嬉しいです。お気軽にどうぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。