インフィニット・ストラトス: Reorigin;The World She Chose 作:笑嘲嗤
花の都にやってきた。俺はカフェでコーヒーを嗜みながら、この国の空気感を楽しんでいた。だが目的は観光ではない。まあ色々昼間は観光名所を巡ったけど。そして夜になり、俺は仕立てたスーツを着て、とあるホテルのバーにやってきた。カウンターにこの国に来た目的の人物が座っている。強い酒をひたすら浴びるように飲んでいた。
「Enchanté de faire votre connaissance, Docteur Albert Dunois, Ph.D. M’autorisez-vous à prendre place à vos côtés ? Ah… pardonnez-moi : puisque nous sommes dans la cité des fleurs, me permettez-vous de poursuivre en anglais ?」
「うん?なんだ君は?」
英語で返事が来た。俺はシャルの父アルベール・デュノアの隣に座る。明るい茶髪で品のある顔立ちをしている。
「シャルルのルームメイドですよ。そう言えばわかるでしょ?」
俺がそう言うとアルベールは目を見開いた。
「君が織斑一夏なのか?!」
「はい。あなたが望む第三世代機のパイロットですよ。マスター。ミルクください」
そしてマスターがミルクを置いてくれた。バーでミルクとか、ダサいことこの上ないんだろうけど、おれはまだ大人ではないので。
「なぜ?いや。ああ。やはりバレたか」
「やっぱり想定内ですか?」
「ああ。シャルロットはIS学園の保護下になったんだろう。それで君はなぜここに?シャルロットならアメリカか日本に亡命させればいい」
「そうすればあなたが困るでしょうに」
「そんなことは君には関係ないさ」
アルベールはテキーラショットを飲み干して、ため息をつく。
「会社がそんなに心配ですか?フランスでも有名な大企業でしょう?」
「そうだな。ああ。そうさ。調べてるんだろう。うちの経営問題を」
「ええ。もともとはデュノア社は素材系メーカーだった。医療、航空、自動車、様々な産業に品質の優れた素材や工作機械を納入する優良企業。フランスの産業の心臓ともいえる存在だった」
「そう。だっただ。IS。それが問題なんだよ。忌々しい機械だ。軍需産業などに加担などしたくなかった!くそ!」
「そうか。やはりあなたの意思じゃなかったんだ。デュノア社の問題はIS事業に手を伸ばしたことだった。IS開発部門がいたずらに他部門の金を浪費するだけのお荷物事業になっている。だけどそれは社長のあなたが決定したことじゃなかった」
「ああ。妻が望んだ。……シャルロットのこともある。子供のできない妻にとってはデュノア社は子供のようなものだ。花形のISに乗り出したのもそういう判断だった。彼女は彼女なりに会社のことを考えていたんだ」
「だけどそれでシャルが困ったことになるのはいただけないですね」
「わかっているんだよそんなことは!!」
アルベールはグラスをカウンターに叩きつけた。ガラスが割れて、いやな音がなった。
「なら。一つ俺と取引しませんか?」
「取引だと?」
「あなたが捨てたシャルを俺の保護下に置いてくださるのを認めてください」
「なに?あの子をハニトラに出した覚えはないぞ。それともあの子が君を誑し込んだか?」
「シャルはそんな子じゃない。これは俺の同情です。同時に俺にはやりたいことがある。あなた方の持っている技術力と資金力を俺に投資して欲しい」
「話が見えないな。君は今でも世界唯一の男性IS操縦者として人気者だろう?」
「俺が欲しいのは人気じゃない。まずは取引第一弾だ。俺には俺の専用機である白式の設計データを渡す用意がある」
「なに?」
「喉から手が出るほど欲しいんでしょう?あなたは本音じゃIS事業を畳みたい。だけどフランス政府も自国産ISにこだわるから引くに引けない。破滅へのチキンレース。降りたいんでしょう?成果を出してから、華々しくどこかに事業継承して、デュノア社は本業に集中する。それがベストのシナリオだ」
「ああ。確かにな。だが君の第三世代機は日本の倉持技研のものだろう。君が設計データを持ち出せるわけが……」
「だけど持ってるんですよ」
「法的リスクは負えない」
「そのリスクもないです。なぜならば倉持技研には白式の特許権がないんです」
「なに?どういうことだ?そんな馬鹿なこと」
「篠ノ之博士のせいです。白式は篠ノ之博士が倉持技研で欠陥機だった機体を独自の技術でほぼ独自に組み上げた機体です。彼女は特許権の申請さえしない。倉持技研も篠ノ之博士が作ったものを解析しているだけで、作ったわけじゃないから特許がとれないんです。白式はフリーソースなんですよ」
「そんな……あの女は……科学を舐めているのか?腹立たしい」
「で?科学者倫理はわかりますが、どうです?シャルロットと交換だ。いかがかな?」
「私に娘と引き換えに会社を守れと言うのか。君は悪魔だな」
「かまいませんよ。そう呼ばれても守れる人がいるならそれでいい」
「……わかった。取引を飲もう。だがフランス政府がなんというか。シャルロットと私を追及してくる可能性がある。私にも敵が多い」
「この取引の保証人を用意してあります。明日、エリゼに行きましょう」
「な?!君はそこまで手を回していたのか?!」
「ええ。では明日お城でお会いしましょう。ではまた」
俺はミルクを飲み干して、バーから出る。これで取引を成立させた。シャルはフランス政府が認める自由を手にする。大統領様様だな。俺はパリのフランス政府が用意してくれたホテルへと帰った。
次の日、男性のフランス大統領の前で、契約が行われた。シャルは自由。刑事事件化はなし。男装でIS学園に放り込んだのは、社会実験のためというなんとも言い難い言い訳が立てられることになった。だがシャルは自由である。学園を卒業しても、誰にも人生を邪魔されることはない。俺はデュノア社に白式の設計データを引き渡して、シャルの免責を法的に勝ち取った。取引が終わった後、俺とアルベールは二人でホテルの会議室で密談を行った。その結果、俺はデュノア社の取締役の一人になることが内定した。そして真の目的についても。
「……それは大きな混乱を呼ぶだろう」
「かまいません。だけど必要なことです」
「わかった。いいだろう。第三世代機の開発が出来れば十分ペイできる。それに……それは必要なことだろう。文明に取ってな」
アルベールと俺は共犯者となった。今の世界への反逆者。だけどそれでもいい。俺がしなきゃね。