インフィニット・ストラトス: Reorigin;The World She Chose 作:笑嘲嗤
朝は箒とほぼ同時に起きた。
「すまないけど、そっぽ向いてくれ。着替えるから」
「もう制服に着替えるのか?」
「いや。朝のトレーニングに行く」
俺はすぐにジャージに着替える。
「感心だな。自分を高め続けるその努力はあっぱれだな」
「ありがとう。じゃあ行くよ」
俺は寮を出て、学園の敷地内を走る。何キロか走ってから芝生を見つけてそこで腕立て伏せ、腹筋などをこなす。この日課はずっと続けている。俺は弱い人間でいたくなかった。だからつねに鍛える。体だけじゃない頭もだ。その成果は実を結んだはずだったんだけどなぁ。ISに乗るために鍛えてきたわけじゃないのに。
シャワーを浴びてから制服に着替えて寮の食堂にいった。メニューの充実度が半端じゃない。俺は栄養バランスが整ったものを選び、箒と同じテーブルについた。
「ここの飯うまいな」
「たしかにな。だが暖かみがない」
「まあ家庭的とは言えないかな」
いい料理人が作っているのだろう。だからこそうまいが同時に家庭的な暖かみはないわけで。
「一夏は千冬さんが働いているから自炊が多かったと聞いたが」
「あー。うん。料理は自分で作ってたよ。栄養バランスには自信がある」
「味は?」
「そこは察して欲しい」
「ふふ。そうか」
箒は機嫌が良さそうだ。
「なら今度私が……」
「おりむーとなりいい?」
のほほんとした声が聞こえた。クラスメイトの女子たちが傍に居た。
「ああ。かまわないよ」
本当は嫌だけど、断るという選択肢はない。女の機嫌を損ねることほど恐ろしいことはないんだから。
「やった!」
女子たちは喜んでいた。逆に箒がむすっとした顔をした。そして箒はすぐに飯を平らげて。
「私は先に行く」
「はいよ」
あからさまに不機嫌です。みたいなオーラを出さないでほしい。同室なんだぞ。どうして女性は自分の機嫌を自分でとれないんだろうか?理解に苦しむ。
「織斑くんって篠ノ之さんと仲いいの?」
「幼馴染なんだ。小学校の途中までは同じクラスだった。まあ彼女が転校しちゃってそれからは会えずじまいだったけど」
「へぇそうなんだ!あれとかしてない?」
「あれって?」
「結婚の約束とか」
「あー」
まあそんなことをしたような記憶はあるな。
「まあ子供だったからね。結婚の意味とかよくわかってなかったけど」
「あはは!微笑ましいね!」
おしゃべりは盛り上がった。女子たちは上機嫌で去ってくれた。俺もトレーを片付けて教室に向かった。
ISの実習がさっそく入ってきた。第二世代の打鉄がアリーナに並んでいる。
「今日からさっそく実機に乗ってもらう!まずは歩行からだ!簡単だと思って舐めるなよ!!」
姉が授業を仕切ってる。なんで身内の授業を受けにゃならんのよ。共感性羞恥で辛いんだが。
「あーん乗れない!」
女子たちは乗ることそのものに手間取っている。
「織斑。台になれ」
姉にそう言われた。だったら脚立くらい用意しろよ。そう思ったが、渋々言われたとおりにする。
「ありがとう織斑君!!」
「わたしものりたい!織斑君に!」
「あたしも!」
どいつもこいつも俺を踏み台にして、ISに乗っていく。背中がやや痛い。毎回こんなのが繰り返されるのはいやだな。まじで。そして俺も乗り込む。
「起動しなきゃいいのに」
だが打鉄はうぃーんと音を立てて俺に反応する。OSが立ち上がり、すぐにセンサー類が起動する。視界が360度になる。最初は酔いそうだったけどもうなれた。
「ではまず一歩踏み出せ!」
みんなで横一列になって一歩踏み出す。そしてそのまま歩き続ける。
「まあここで詰まることはないか。では次にジャンプだ。飛行ではないぞ」
障害物が用意される。それらの上を一機ずつジャンプして登り、さらに別の障害物の上に飛び移るをみんなで繰り返す。
「退屈ですわね」
一人だけ青いカラーの別の機体に乗っている奴がいる。オルコットだ。彼女は代表候補性という名のエリートだ。次世代機のテストパイロットであり、新型機の開発に従事している。だけどそういうのが癪に障るのだ。そしてそれは俺だけじゃない。周りの女子たちが人種民族関係なくオルコットに敵意を持っているのがわかる。嫉妬であり、どうじに怒りだ。女子同士の喧嘩なら他所でやって欲しい。本当にそう思う。
普通の授業もある。それらは簡単にこなせた。小テストの成績もいい。学力だけならついていける。というか普通に上位取れそうだ。そしてやっかな時間がやってきた。体育である。
「織斑君だけ別授業になります」
俺はアリーナのそばにある畳の柔道室に連れてこられた。山田先生と二人きりだ。
「特別扱いとか要らないんですけどね」
「むしろ男女一緒に体育なんて危なくてできません。うちの学校の体育は主にIS技能向上のための格闘技、戦闘技術が中心になります。体力差があるのは生物学的事実ですから」
まあそりゃそうだ。
「織斑君は私と様々な戦闘技術の訓練を行います。格闘技には造詣が深いと聞いています。柔道、空手、剣道、ブラジリアン柔術、なんでもかんでも黒帯取ってるのはすごいと思います」
「ありがとうございます」
「ですがそれらと違って今後は主にナイフや銃などの扱いに慣れてもらいます。これを」
模造のナイフを渡される。
「私は海上自衛隊の予備自衛官でもあります。一応一通りの戦闘技術は教えられますのでよろしくお願いしますね」
そしてナイフ戦の訓練が始まった。型からはじまり、すぐに模擬戦の繰り返し。ちょっと舐めていた。相手は女だし、倒せるだろうと。そんなこと全然なかった。俺のナイフは簡単に捌かれる。こっちのナイフはかすりもしない。それどころか、様々なテクニックで俺はすぐに畳の上を転がされる。
「くそ!!」
俺はすさまじく悔しかった。半分涙目だったと思う。
「まだ始まったばかりです。だから悔しがる前に、試行錯誤を繰り返してください」
そしてひたすら教えられては倒されるの繰り返し。そして授業は終わる。
「おつかれさまでしたー!」
「ありがとうございました」
「では次に銃に触れましょう」
「え?」
「今日の体育は連続です」
そして今度は射撃場に連れていかれた。イヤーカフをつけて、拳銃を持たされる。
「習うより慣れろです。的を撃ってください」
俺は銃を構えて的を狙い、引き金を引いた。少しかすった。反動に驚いた。
「そのまま撃ち尽くしてください」
言われるがままに銃を撃ち続ける。ホールドオープンして弾はつきた。的にばらばらに弾が当たっていた。
「まあはじめはこんなものです。でも感覚はわかりましたね?」
「はい。なんかちょっと怖いですね」
「そうです。これは簡単に人の命を奪える道具です。ですがこれから織斑くんにはこれを携帯してもらいます」
「ここ日本なんですけど?」
「ここはIS学園です。織斑君は今後色々な人たちから狙われる可能性があります。だから自分のみを守るために武装せざるを得ないのです。申し訳ありません。わたしたちが守り切れるとは限らないから」
「わかりました。そういうことなら」
そして銃の構え方を習うことになった。俺は構えてみる。すると山田先生が俺に手を伸ばしてきた。一瞬びくっとした。反射的に手を引っ込めた。
「あの構えを修正したいのですが」
「え。あはい。すみません」
一息吸ってからまた構える。そして山田先生が俺にくっついて肩から手まで全部修正した。背中に胸の柔らかいふくらみを感じた。いやな汗が背中を流れる。気づかれたくない。
「はい。どうぞ撃ってください」
言われたとおりにする。今度は的の真ん中に弾が集中し始めた。こんなに変わるとは。
「当たるんですね」
「あなたが当てたんですよ」
山田先生は微笑む。優し気で綺麗な笑顔。本当ならこの笑顔を見れるのは幸せな男なんだろう。だけど俺にはその笑顔がどうしてもなじまなかったんだ。
シャワーを浴びた後制服に着替えた。山田先生にホルスターごと銃を渡された。
「コンシールドキャリーにしてください」
山田先生は俺の上着のジャケットをめくり、お腹にホルスターを巻いた。そしてジャケットをその上にかぶせる。
「お腹に隠すのが一番いいんです。取り出しやすいし、すぐに撃てます」
「ちょっと落ち着かないんですが」
「それは慣れてもらうしかないです。でもその銃はグロックなので安全性は高いですよ。暴発はまあ普通は起きませんから安心してください」
そういうものですか。
「では教室に戻りましょう」
山田先生と教室に戻る。そして放課後のホームルームが始まった。
「クラス代表を決める。クラス対抗戦や委員会などに出席してもらう係だ。自薦他薦は問わない」
あー嫌な予感がするー。
「はい!織斑君がいいと思います!!」
「わたしもー!」
みんなが俺を押してきた。くそだるい。
「誰かほかにいないか?ならこのまま無投票で決まるが」
「納得いきませんわ!!」
ここでオルコットが口を挟んできた。いやな気配がビンビンである。クラスの空気がすごく白けてる。気づかぬはオルコットだけ。
「男がクラス代表なんて恥知らずもいいところですわ!クラス代表はわたくしのようなエリートにこそ相応しいものです!ただでさえ文化として遅れているこの国にいるのも苦痛なのに、男にクラスを引きいらせるなど屈辱でしかありませんわ」
はーいオルコットアウトー。クラスの空気が最悪です。日本人たちは当然怒ってる。他の国の連中だって嫌そうな顔してる。同じ白人たちも一緒にされたくないのだろう。侮蔑的な視線を送っていた。そして同時に女子たちが俺に機体の目を向けていた。一発ぶちかませという空気感。自分たちでやれよ。めんどくさいことを男にやらせるような女子の悪癖にはうんざりだ。
「うるせー。大英帝国はもう滅んだだろうが、いつまで日の沈まぬ国気取ってんだ。時代遅れの帝国主義かよ。だいたい文化とか言ってるけど、お前の国で一番うまい料理がカレーだろ。インド人に感謝しろ」
くすくすと笑い声が聞こえる。さらにまだ期待感が残ってるけど。
「英国にも美味しいものはあります!!」
「うるせーよ!インド映画じゃやられ役のくせに!サルサでもないフラメンコでもない。Do you know 盆踊り?」
俺は立ち上がりインド映画の如く高速で盆踊りを踊り出す。クラスが爆笑の渦に包まれた。
「織斑君じょーずすぎ!!」
「レッツダンシング!」
「かっこいい!!」
クラスの女子たちがノリよく手を振りだす。俺の踊りはグルーブをアゲアゲしていた。
「馬鹿にしてますの?!」
「ああそうだよ!!ばーか!!」
クラスの溜飲が落ちたようだ。女子たちは満足げだ。
「決闘ですわ!!」
えーいやだー。だけど女子たちの目が輝いてる。
「わかった。織斑先生。日程組んでください」
もうめんどくさい。教師に投げよう。
「わかった。ではクラス代表は勝者が務めることとする」
「わたくしが勝ったら小間使いに、いいえ奴隷ですわ」
俺はその発言をスルー。
「よーしみんな俺に賭けてくれ!!勝ったらパーティーだ!!」
「「「「「い・ち・か!い・ち・か!」」」」」
クラスメイトは全員俺の味方である。勝っても負けても損はない。
「ではハンデはどうしますか?」
「山盛りにつけてもらうのも悪くないけど、それで俺が勝っちゃったらお前どうせ泣くだろ?なしで」
「きー!!」
ハンデはなしになった。めんどくさい。だけど平穏な生活のために道化を演じなければいけないことはある。勉学に集中したい。まじで。
クラスメイト達が俺の周りに大勢集まってきた。
「絶対に勝ってね!」「でも負けても慰めてあげる!」「勝っても負けてもパーティーだ!!」
そして女子たちは知っているオルコットとその機体の情報を全部俺に教えてくれた。俺には勝つ気はさらさらない。向こうは訓練散々つけてる。こっちはまだ素人だ。そんなの勝負にならない。試合が盛り上がって健闘したね!くらいの空気が勝ち取れればいい。
「戦うならば勝つべきだ。それが男というもの!」
箒がうざい。果てしなく。なんか放課後に剣道の稽古をつけてきた。ISに乗らにゃいかんのではないだろうか?まあ専用機とかないので、放課後の訓練は順番待ちしないとダメだけど。だが箒と剣道するのはわりと楽しかった。箒は剣だけなら男にも匹敵する。全国一位は伊達じゃない。そしてそうこうしているうちに決闘の日がやってきた。
俺は控室に連れていかれた。そこには一機のISが置かれていた。
「お前の専用機だ」
「お断りします」
俺は即座に断った。どっかの紐付きになる気はない。専用機なんて受領すれば間違いなく何かの義務が発生するに決まってる。データ取りは協力するが、それ以外の義務には乗っかりたくない。
「これは安全保障理事会の決定だ。逆らうことは許されない」
俺はあからさまに嫌な顔してると思う。山田先生がフォローを入れてくれた。
「織斑君にはとくに義務等は発生しませんからご安心ください。どこの国の正式所属になるかが決まるまでの暫定処置です」
「はぁ。わかりました。山田先生が言うなら」
俺がそういうと姉はどこか不機嫌そうな顔をした。俺の中では教師としての信頼度は山田先生>姉である。
「でも決闘は打鉄でやらせてください」
「でも織斑君、これは第三世代機です。強いですよ」
「使ったこともない機体でぶっつけ本番決闘とかごめんですよ。授業で慣れてる打鉄がいいです」
「あーそれはおっしゃる通りですね」
山田先生は納得してくれた。姉はやっぱり不機嫌そうだが知らん。
「では打鉄を用意します。頑張ってください」
そして俺はアリーナに飛び出す。そこにはオルコットがすでにいた。
「泣いて謝るなら許してあげてもよくてよ」
「いやーお前空気読めよ。オーディエンスはみんな俺の味方だぞ。勝っても負けてもお前に帰る場所マジでないよ」
「あくまで反抗しますね!男のくせに!!」
そして決闘開始のブザーが鳴る。面倒くさい。本当に嫌だ。だけど戦わないと穏やかな生活は得られない。まじで転校したい。そう思った。
本作ではISは世界各国に配備されてません。
国連常任理事国と日本くらいです。あとはNATOとか国連軍関連くらい。一部秘密で持っている国もありますが、それはまた別の話ですね。